(30)616 『戦場の天使』

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今よりも少し昔のこと、戦場には確かに天使がいた。
愛らしいその容姿だけがそう呼ばせたのではない。戦い方すら、美しかった。

彼女は常に微笑みを浮かべながら、流れるように舞った。
華麗に彼女が腕を振りかざしたそのあとに残るものは、戦意を失った敵兵たち。
その実力は、圧倒的すぎた。並び立つものなどなかった。
それでいて、絶対に相手を殺すことはなかった。血は流さないことが、彼女の信条だった。

「―――平和のためには、戦う。でも、そこに殺戮はいらないでしょ?」

彼女は、やはり微笑んでそう言っていた。

天使は絶対の技を持っていた。すべてを消し去る、誰にも止められない技を。
けれど決して、その力を解放することはなかった。

時は過ぎ、荒れ果てた戦場で、天使はその身体をひどく傷付けていた。

「なぜ、力を使わない? なぜ、弱く醜い己を晒し続ける?
 お前には、世界の主となり得る力があるのはわかっているだろう? …なぁ、戦場の天使、『a723』よ」
「…そんな呼び方、やめてくれないかな」

天使は相手を鋭く見据え、震える足で大地を踏みしめた。

「…なっちは、天使でも、『a723』でもない、一人の人間だっ…!」

けれど、振りかざした腕が相手を倒すことはなかった。
怒り狂う黒い竜巻に襲われて、天使は羽をもがれ、その力を失った。

その直後、辺り一面を真っ青な光が通りすぎ、彼女と、彼女を慕う少女だけを残して、すべてを消し去った。

『天使』と呼ばれた戦士はその光を見て少しだけ涙を流し、そしてまた、微かに笑ったようだった。