(30)938 『一弾で倒せ』

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傷つき倒れた野良猫一匹、身体は泥と血で汚れても瞳の光は失われていない。

「何故抗うの?」
「お前らが! お前らみたいな奴らが人の暮らしを平気で踏みつけようからや!!」
「勝てないことが判ってるのに戦うつもり?」
「そんなん、やってみんとわからんちゃ」

野良猫の前には女が一人。 取り立てて目立つところがないのが女の特長だというのは失礼か。

「いいこと、田中れいな。 あなたは高橋愛に利用されてる、新垣里沙に騙されているのよ。
 i914という生体兵器として、この世に生を受けた高橋愛。
 任務を忘れて組織を裏切った新垣里沙。
 この二人に巻き添えにされているだけ。
 あの二人に関わらなければ、
 あなたやあなたの友人の亀井絵里、道重さゆみは戦いに巻き込まることも、傷つくことも無かった。
 あなたたち三人があの二人の運命に付き合うことはない。 
 今からでも遅くはないわわ、私たちの軍門に下りなさい。
 私たちのリーダーは寛大な人よ。 
 あなたが過ちを認めて私たちの組織に忠誠を誓うなら、
 あなたのことを幹部として迎え入れる用意がある。 これは破格の待遇よ。」

野良猫が首をもたげた。

「 幹部かぁ。 ヒーローの出てくるドラマの悪の組織の女幹部みたいのに憧れとった。
 なってみたいとずっと思ってた。
 やれるもんならやってみたい…
 でも幹部なんかよりも、もっとなりたいと思うものがある。  それは、リゾナンターのリーダー」


女の貌に冷たい笑みが走る。

「お笑い草ね。
 無様に地面を這いつくばっている人間の言う台詞じゃない。
 本来なら私にすがりついて命乞いをしてもおかしくない状況だというのに。
 ひょっとして高橋や新垣のマインドコントロールの影響下にあるのかしら」

立ち上がろうとした野良猫が崩折れた。

「そんなんやない。
 愛ちゃんもガキさんも関係ない。
 れいなが愛ちゃんやガキさんと一緒に戦っとるんは、
 巻き込まれたんでも、  利用されとるんでもない、
 ましてや騙されたんでもない。  自分で選んだっちゃ。」

野良猫を見下ろす女の口が言葉を紡ぎ出す。

「聞き分けの無い子ね。
あなたの意気込みだけは認めてあげるわ。
根拠のない自信には何の意味もないってことを、
あなたの身体に思い知らせてあげたつもりだけど、全然足りなかったようね。
私の力の前には、あなたの共鳴増幅の力なんて何の役にも立たなかった」


「ふん、あんたの力はさっきので大体判った 」

口の中の赤いものを吐き出すと、野良猫はうそぶいた。

「一つ、あんたの力が時間を止めれるってこと」

「そうよ、時間操作が私の能力。 時の流れが止まった空間の中では誰もが無力。
まして、あなたのように私を直接攻撃できる能力を持たない者にとっては・・・ 」

「二つ、でもあんたはれいなの腕一本とアバラを二、三本折るぐらいの時間しか、止めれんかった」

「あなたを生きて連れてこいという指令があったから、それだけの傷で済ませてあげたのよ」

「三つ、あんたの拳はそれほど強くない。」

「だから、それはあなたを・・」

「わかる、れいなには わかるよ。 れいなは伊達にケンカばっかりしてたわけやない。
この身体に受けた傷で、感じる痛みであんたの拳がどれぐらい強いんか強くないんかがわかる」

「…だったらどうだというの?
確かに私とあなたが拳の力だけで雌雄を決したならば、私に勝ち目はない。
だが私はそんな愚かな真似はしない。
あなたの自慢の拳も、時間操作の能力を発動した私の前には無力だった。
身体能力をフルに発揮しても、あなたの拳は私に届かなかった。
その結果としてあなたはそこに無様に這っている。
腕を折られ、口から血を吐くぐらいのダメージを負って。
悪いことは言わないわ、降伏しなさい」


「この服を見てみぃ。
皆で話し合って決めたリゾナンターの制服。
血と泥で汚れてしまっとるけど、この白いブラウス。
最初は愛ちゃんのだけが白かった。
愛ちゃんは皆を守るために、自分に敵の攻撃を引き付ける為にわざと目立つようにしたっちゃ。
愛ちゃんはおしゃべりは上手やないから、そんなことは絶対口にはせん。
でもれいなにはすぐわかった。
だかられいなのんも白いのにしてもらった。
愛ちゃんを一人にはさせん。
れいなは何があろうとも愛ちゃんの横で戦うと決めた。
この白い服はれいなの誓い。
この服に誓って、愛ちゃんのことは裏切らん。 」

「それがあなたの根拠というわけね。
 でもそんな思いこみだけでは、乗り越えられない壁があることを思い知らせてあげる」
「壁を乗り越えるつもりなんてない。 ・・・ぶっ潰す。」

野良猫が立ち上がる、陽炎のようにゆらりと。
その瞳は…輝いていた、蒼く。
その輝きは野良猫の全身を覆い、その体から更なる蒼き輝きが発せられていた。


「共鳴増幅で自分の身体能力を増進させて、一撃に賭けるつもりね。
 確かに今のあなたにはそれしか無いわね。
 どうやらあなたを生かして連れて来いっていう指令は果せそうに無いわね。
 いいわ、来なさい。
 さっきみたいな手加減は無しで相手してあげる。
 あなたの屍は此処に討ち捨てておくことにするわ。
 それがあなたみたいな野良猫の最期に相応しいわね」

そう言う女の体から闇色の光が放たれていた。

「あんたの名は?」 

野良猫が吼える。

「そんなことを訊いてどうするの」
「あんたの墓石に彫っちゃる」

女は愉快気に笑った、そして言った。

「…K、アルファベットのK一文字でいいわ」

蒼色の光と闇色の光が交錯し、臨界点に達した。
時は止まり、やがて動き出した、蒼い輝きと共に。