(32)499 『Have a good day!4~童心にかえろう~』

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



――――AM 10:04 アクティブステージ


やばい。むっちゃ楽しい。

「愛佳、ジュンジュン!次あれ!あれ乗ろっ!」
「パン!パンおいしソー!食べたーい」

ゴーカート乗ったり
チュロス食べたり
ショー観たり
付け耳買ったり。
愛佳と田中さんとジュンジュンは、遊園地を満喫していた。


余計なことは考えない。
これが遊園地を楽しむ上で一番必要なことなんだと思う。
心配事や考え事なんか抱えてたら、この時間を楽しめないから。

てなわけで、愛佳たちは動物園組の心配はしないことにした。
どーせ午前中だけやし、まーなんとかなるやろって思って。
たとえなんとかならなくても、どうせ私たちの責任じゃないし。
あ、今のは田中さんの発言ですよ、念のため。


「そういえば、愛佳は動物園行かんでよかったと?ライオンとかトラとか気にしとったやん」

鉄道っぽいものに乗って辺りを一周しちゃうよ的なアトラクションの列に並んでると、
田中さんが思い出したように話をふってきた。
その後ろのジュンジュンは、ハンバーガー売ってるお店を物欲しそうに見てる。

「ああ、ええんですあれは。どうしても見たかったらまた来ますし。そしたら田中さん一緒に来ましょ?」
「来る!れいなヒョウ見たい!」

そう言って瞳を輝かせる田中さんの顔は本当にキラキラしてて、まるで子供みたいだった。

子供みたい、なんて本人に直接言ったら怒られるだろうか。
それとも、愛佳もおんなじ顔しとるやん、って笑われるんだろうか。

そこまで考えると、ジュンジュンの顔も気になって後ろに振り返った。
目に映るのは、いまだ物欲しそうにハンバーガーを見てる横顔。

―――うん、子供の顔や。

ミョーに納得して、愛佳は視線を前に戻した。



鉄道っぽいものに乗って辺りを(ry が終わった後、今度はジェットコースターに
乗ろうっていう話になった。
絶叫系が苦手な田中さんの「二人で行ってよかよ」の言葉に甘えて、
愛佳はジュンジュンと二人でジェットコースターの列に並ぶ。

「ねーねー光井サン」
「ん?」

これまた子供みたいな顔したジュンジュンに、袖口を引っ張られた。
子供は子供でも、さっきの田中さんみたいな無邪気に楽しんでる顔とはまた違う。
これは・・・そう!
修学旅行の時に枕元で「好きな人教え合おっか☆」とか言い出す女の子の顔!
しかもそういう子に限って「好きな人いないってウソでしょ。教えてくれるまで寝かせないから」
ってしつこく絡んでくるんや!

ジュンジュンもそういうタイプなんだろうか。
愛佳は、不安でいっぱいになりながら次の言葉を待った。

「この前インターネットで遊園地のこと調べタラね、順番待ってる時間は
 ぶっちゃけトークしろーて書いてあた。だから、私タちもぶっちゃけトークしよっ!」

      • は?ぶっちゃけトーク?
ってあれですか?私、実は××なんです、みたいな?
うわ、ムリ。愛佳にそんなおもしろエピソードないわ。
そもそも、なんでそれさっき言わんねん。そんなん二人きりでせんでもええやん。


「あんなあ、ジュンジュン」
「ジャ、まず光井サン言って」

しかも私からかいっ!こーゆーのは言い出しっぺからするもんやろが!
ズビシ、と掌を繰り出そうとすると、ジュンジュンが口を開いた。


「光井サン、ジュンジュンのこと好き?」


ジュンジュンが少し甘えたように笑う。
そんでもって答えを促すように小首をかしげるその仕草が、あまりにも“女の子”で。
愛佳は、それについ見惚れてしまって。
不覚にも「なにゆうてんねん」と笑い飛ばすことを忘れた。
つまりそれは、ときめいてしまった、というわけで。

やられた。
ぶっちゃけトークってこういうことか。
まさかこんな変化球(いや、むしろ直球?)で来るとは思わなかった。
二人きりの時を選んだのはこのためかぁ。
仲間が他にいたら、まじめに答えてくれないと思って。
修学旅行の女の子の顔っていう愛佳の読みは、当たらずとも遠からずってやつなのかな。


さて。このぶっちゃけトーク、どう返したもんか。


明るく笑って「もちろん」?
真面目な顔して「好きやで」?
それとも照れ隠しに話題をそらす?

もし私が小さい子供だったら、何も考えないで「好き」とだけ伝えるんだろうな。
小細工も気の利いた返しも考えずに、自分の思ったままを素直に相手に伝えようとして。

私がそんな風にいられたのは、いつまでだったろう。

私は大人になるのが他の子よりも早かった。
それが能力を持って生まれたせいなのか、本来の性格によるものなのかはわからない。
確かなのは、私には無邪気に過ごした子供時代の思い出があまりないということだ。
あの日以来、いつでもどこでも何をしてても自分は普通じゃないんだって意識させられて、
無邪気に笑うことや、考え無しの直感的な行動はできなくなってしまったから。

子供ながらに大人の考え方ができること。
それは決して悪いことじゃない。辛いと感じたこともない。

ただちょっと、寂しさが残るだけ。


「光井サン・・・?」

何も言わずに考え込んでしまった私に、ジュンジュンが不安そうな瞳を向ける。
かと思ったら、今度は拗ねたように頬を膨らませた。

「・・・光井サン答えてくれない。もおいいもん!ジュンジュン田中サンとこ行く!」

田中さん。
ジュンジュンのその一言で、さっきのどこまでも瞳を輝かせて子供みたいに
無邪気に笑ってる田中さんの顔を思い出す。
そして目の前にあるのは、どこまでも子供みたいなことを言い出すジュンジュンの顔。

そうか。ここは、遊園地なんだ。
ここは誰もが子供になれる夢の国。
この場所でなら、私も子供に戻っていいのかもしれない。
子供みたいに、素直に気持ちを伝えてもいいのかもしれない。

私は、今にも走り出してしまいそうなジュンジュンの腕をつかまえて、言った。

「ごめんなージュンジュン。ほんっまにごめん!あのな、愛佳はな―――」



ジェットコースターを降りた私たちは、ベンチに座ってる田中さんのところに走り寄る。

「田中サン、おまたセ~」
「田中さーん、ありがとうございました~!ジェットコースターむっちゃ楽しんできました~!」
「くじ・・・いや、毒?いやいや、それはなしっちゃろ。でも毒・・・」

もしもーし。聞いてはりますかー?

田中さんは考え事をしてるらしく、愛佳たちが帰ってきたことに気づかないみたいだった。
それにしても、なにやら物騒な単語が聞こえた気がしたんだけど・・・

「田中さーん。帰ってきましたよー!」
「・・・えっ?あ、おかえり。おつかれいな~」
「今、なにブツブツ言うてはったんです?」
「ん?聞いとった?なら仕方ないっちゃね。実はれいな」
「ア、あれ」

田中さんの声を遮って、ジュンジュンがあさっての方角を指さした。
思わず愛佳も田中さんもそっちに目を向ける。
そしたら。



「ヒバシラ」
「しかも若干、緑がかって見えると」
「あっちって、動物園の方角ですよね・・・?」

動物園の方角から火柱があがってた。
しかもどっかで見たことあるような色の。

――今日の花火の予行じゃん? ――え~マジー?ちょー期待しちゃうんですけどー
――曲芸の練習かな ――火の輪くぐりってレベルじゃねーぞ
――ばくがしゅばくはちゅ、あれ? ――バス、ガス、爆発、が言いたいんですか?

あちらこちらで賑やかな火柱の正体予想が飛び交っている。
なんとなく正体はわかっているものの、それらの予想をいちいち訂正する気にはなれずに
私たちは呆然とその場に突っ立っていた。

そうして、何分が過ぎただろう。

「・・・そろそろ移動します?集合時間、近なってきたし」
「あっ・・・ああそう、やね、うん。12時半に正面ゲート前やったっけ」

いろいろあったけど、もうすぐ午前の部が終わる。
どうか、午後はもう少し平穏でありますように。

待ち合わせ場所に向かって歩きながら、愛佳は子供のように何度も何度もそれだけを願った。