(33)240 『赤く染まる一輪の花』

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  どこにも行かないで

  お願いだから


  どこにも行かないで――――



        ◇◆


赤い太陽が街を照らす頃、帰り道の途中で一輪の花を見つけた。
それはとても可愛らしくて、道路にできたヒビから咲いていた。

私はそれを少しの間だけ見つめていた。
傍らにしゃがみ、あまり人や車が通らないその道はぼーっとするにはちょうど良かった。

 「がんばって咲くねー」

誰もいないことをいいことに、一言だけぽつりと呟いた。
それは風と共にすぐに消えて無くなったが、その言葉につられて花が少し動いた気がした。

本当はたぶん風が吹いて揺れただけなのだろうと思うけれど、夢を見たくてそうは思わないことにした。



        **


しばらくぼーっと花を見つめていたのを終えて、もう一回花に語りかける。
それはそれは優しく、温かい気持ちを込めて。

 「また来るね。それまで元気にしてるんだよ?」

そしてその場で立ち上がり、私は歩き始めた。
もうすでに赤い太陽は沈みかけており、暗闇が周囲を支配し始めていた。

と、一瞬微かな声が聴こえた気がした。
立ち止まり周囲を見渡すが、何も感じられなかった。

 「気のせい、かな?」


特に何も感じられず、闇が周辺で蠢いているような気も無かったので、また歩き始めた。
そして、鼻歌を歌いながら。沈みかける太陽を背に、前に伸びる黒い影を視界に収めながら。


先ほど聴こえた声が、あの一輪の花から発せられていたとは知らずに。

赤く染まる帰り道を、私は気分良く歩いて帰った。