(35)771 『未来を切り拓く電撃使い-open up the future-前編』

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いつか再び出会うために。
あたしはこの手で、未来を切り拓いてみせる。


『未来を切り拓く電撃使い-open up the future-』


長い一日がやっと終わった。
奥で作業をしている店長に一声かけて、あたしはタイムカードを押す。
時刻は午後の10時過ぎ、18歳以下の“子供”はもう働いてはいけない時間帯になっていた。

薄手のコートを羽織り、裏口をすり抜けるように出た先は暗い路地。
この路地から表の通りに出る瞬間がたまらない。
仕事を終えた開放感、みたいな、そんなモノに包まれるような気がする。
当日欠勤しちゃった子のおかげで、今日は特にそう思った。

当欠でたから今日は少しでいいから残業してくれないか。
そう聞かされた、その時。
…男か、それとも行くのめんどくさくなっての仮病か、なんてことを真っ先に思った自分って終わってるなと思う。


「こんばんわー、あの」

「あはは、どもー」


顔なじみになってしまった、キャバクラの勧誘を笑顔で交わしながら駅へと向かう。
化粧をしてれば18以上には見えるみたいで、この手の勧誘が後を絶たない。
キャバ、ねぇ…お金にはなるんだろうけど、別にあたし、お金とかどうでもいいし。
今やってるコンビニのバイトだって、ただの暇つぶしなんだから。


改札を抜けホームに行けば、酔っぱらいが駅員に絡んでて。
ウルサイなぁなんて思いながら、さっさと電車に乗り込んで空いてる席に座る。
イヤフォンを耳に突っ込んで、携帯をいじっていれば20分くらいあっという間だし。


(…お節介な人だなぁ、本当)


メールが5通、着信が3件…心配してのことなのは分かるけど、正直ちょっと鬱陶しい。
悪い人じゃないし、別に嫌いじゃないんだけれど。
ケータイ番号とか交換したのは失敗だったような気がする、今更そんなことを思った。

メールを返信したら、1分もしないうちに絵文字たっぷりのメールが届く。
同じ生き物なのかなと思ってしまうくらい彼女はメールを打つのが早い。両手打ちとか信じらんないし。

その内容を確認した途端、思わずウザッって呟いてしまった。
思ったよりあたしの声は大きかったようで、周りの視線が一斉に突き刺さる。
すごく居心地が悪い。
携帯を閉じて即行で寝たふりしながら、あたしは心の中でため息をつく。

それもこれも全部彼女のせいだ、迎えに来るとか訳の分かんないメール、あたしが貰って喜ぶと思ってるのかな。
別にこのくらいの時間なら一人で歩いていても平気なんだけど、ちゃんと人通りの多いルート使うし。

―――それに、何かされる前に自分でどうにか出来ちゃうしね。


     *    *    *


ホームを降りて、改札を抜けたあたしの視界に移る、小柄な立ち姿。
あたしの姿を見た途端にこっちに向かって駆けだしてくるから、逃げようがない。
いや、逃げようと思えば出来るけど…逃げたら余計にめんどくさいことになるのは分かってる。


「おかえり、小春。
…もー本当、心配したんだからね、何の連絡もないんだから」

「…しょうがないじゃないですか、急に当欠出ちゃったんですから」

「それでも、一言メールくらいしなさいよ。
帰りが遅くなるってメール、1分もかかんないでしょう?」

「そんなのにーがきさんくらいです、小春そんな早くメール打てないし」


さっきの電車みたいに周りの注目を集める前に、あたしはさっさと歩き出す。
後ろから慌てて追いかけてくるヒールの音と、話しかけるタイミングを伺っている気配。
その、妙な気遣いが突き放しきれない原因なのかもしれない。

彼女の名前は新垣里沙。
アパレル系の会社に勤めている会社員で…あたしの住む部屋の隣に住んでいる人だ。
顔を合わせた時に会釈するくらいの間柄だったはず、なんだけど。
彼女が部屋の鍵を無くしたとうちを訪ねてきたことがきっかけとなって、今となっては隣人以上家族未満な付き合いをしている。

多分、部屋に泊めた時に家族は旅行中だって“嘘”を吐いていれば、ここまで深い付き合いをすることもなかったと思う。
あたしが馬鹿正直に交通事故で家族を亡くし、身寄りもいないことを教えてしまったから。
お節介で馬鹿みたいに優しい彼女は、それを知ったその日から家族のようにあたしに接するようになった。

晩ご飯作ったから早く帰っておいで、とか、今度一緒に遊園地にでも行こうか、とか。
本当は忙しいくせに、あたしのために一生懸命時間作ってくれてること、バレてないと思ってるのかな。

その優しさは、あたしにはちょっと重い。
素直に喜ぶことも、突き放すことも出来ないままの宙ぶらりんの日々が始まってから、もう半年も経っていた。


時間の流れってすごいなぁと他人事みたいに思う。
最初はあたしのことをちゃん付けで呼んでいた彼女が、いつの間にか呼び捨てへと変わって。
あたしとの距離の取り方を覚えた彼女とあたしが喧嘩することもなくなった。

この半年で変わってないものなんて、あたしの“にーがきさん”っていう呼び方くらいなものだ。

信号待ちで止まったあたしの手を、さりげなく掴んでくる手。
振り払うことも握り返すことも出来ないあたしに、彼女は努めて明るく話しかけてくる。


「今日はササミにチーズと紫蘇挟んで揚げたやつと、タケノコの煮物作ったんだー。
あ、後、デザートにプリン買ってあるからね」

「…いつも思うんですけど、小春が外で食べてきたらとか、そういう可能性は考えないんですか?」

「あー、そうだよねぇ。
ま、でもその時はその時だし、冷蔵庫入れといて次の日食べたっていいしね」


断ったら、傷つくんだろうなぁ。
作った料理にラップをかけて冷蔵庫に仕舞う、落胆した後ろ姿。
自分でも驚くくらいにはっきりとイメージ出来たことに、思わず笑ってしまいそうになる。

たわいもないことを話しながら、彼女の部屋へとお邪魔して。
明日も朝から仕事がある彼女から、料理ののったお盆を受け取って部屋へと帰宅した。

部屋に漂う、何とも言えない雰囲気。
物寂しいって言えばいいのかな、何かスッと胸の奥に風が吹くような、そんな気分になる。

まずは部屋着に着替えて、ご飯はそれからでも遅くはない、っていうか、もう十分遅い時間だけど。
あたしはそっとテーブルにお盆を置いて、寝室に向かう。


ダボッとしたシルエットのTシャツにジャージ、外に出る時とは大違いのだらしない格好になったあたし。
作ってもらったおかずをレンジで温めている間にやったことといえば、カップ味噌汁にお湯を注いで、
レンジで温められるパックのご飯を棚から取り出したくらいだった。


「…おいしい」


お腹がすきまくってるってことを抜きにしても、ササミのフライもタケノコの煮物もおいしかった。
お母さんの味付けとは違うけど、でも、温かくて優しい感じがする。

もう寝てるといけないから、明日にでもメールしておこう。
料理のお礼と、後は食器をいつ返しに行けばいいのか聞いておかないとね。
…本当に忙しい時は、家に帰れないことだってある人だから。

彼女の向けてくれる温かさは厄介だと、しみじみと思う。
拒みきれないその温かさ。

今まで気にしないようにしてきたのに、ようやく意識しなくてもそれを感じなくなっていたのに。
その温かさは、暗闇の中に隠した“見たくない部分”も浮き上がらせてしまう。

―――あたしはひとりぼっちなんだと、孤独なんだと。


ぼーっとしていたら、料理はすっかり冷めてしまっていた。
もう一度レンジに料理を入れ、ぬるくなった味噌汁を飲みながら窓の外に視線を向ける。

分厚い雲に覆われた、暗い夜空。
どんよりと重くて、すっきりしない感じ…まるで、あたしみたいじゃん、白黒はっきり出来ない曖昧グレー。

でも、この曖昧さをいいかも、なんて思う自分がいる。
そんなこと、本当は思ってちゃいけないんだけど。


窓の外に向けていた視線を、右手へと移す。

何の変哲もない、ただの手。
それはあくまでも、何の力も持たない人にはそう見えるってだけで。

あたしの体から放たれる紅い光。
ほんの少しでも“能力”を持っている人間なら間違いなく見えるだろう、右の手のひらに集まる光が。
ふっと息をついて、あたしは“力”を押さえ込む。


「…その気になったら人を感電死させることも出来る、なーんて。
そんなこと知られたら生きてけないし」


大切な家族を亡くしたその日にあたしが目覚めたこの力は“電撃使い-エレクトロマスター”と、
“その手の界隈”では言われているらしい。
電気を発生させ、それを意のままに操る…スタンガン程度から雷まで、その力の強さは本人次第だ。

あたしは、雷とまではいかないけれどスタンガンよりは強い電流を生み出すことが出来る、けど…普通の生活を送る上では何の役にも立たない。
暴漢に襲われた時の自衛手段にはなるだろうけど、それくらいしか使い道のない力。

欲しいなんて、望んだことなんてない、普通の人間が持つことのない“超能力”。
それこそ、使わなければ自分が死んでしまうかもしれない、みたいな状況にでもならない限り決してこの力を人に向けることはないだろう。
あたしが何よりも怖いと思っていることは、たった一つ。
それは、ひた隠しにしているこの力が誰かに知られてしまうこと。


―――“能力者”はこの世界では人間じゃなくて、ただの“化け物”でしかないんだから。