(39)613 『さみしんぼうのカメトナカイ』

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  『―――ねーサンタさん、わたしもプレゼントがほしいなぁ―――』



「うおおおおぉぉぉぉぉっ!?」

不思議な夢を見て思わず飛び起きてしまった。
よく知った声が頭の中に残る。
何、この夢。妙にリアル。でもあたしは確かにサンタだった。そこは夢っぽい。

そして、しゃべったトナカイ、振り返って見せた顔は、間違いなくカメだった。
っていうかさ、人間がサンタ役になることはあっても、
何で人間がトナカイ役やってんのよ! しかも着ぐるみでそり引っ張って!

それにしても、なんだか変な夢を見た。

「…さぶっ」

窓の外はまだ真っ暗。
はね除けた布団をかぶり直してベッドの中に潜る。
じわじわとぬくもりが戻ってきて、もう一度眠りへ―――


―――入れなかった。


「うーん」

精神世界の操作なんてものを能力にしちゃうと、もう職業病っていうのか、
見た夢に対して分析を始めちゃったりする自分がいる。
あたしは占い師かっつーの。

「カメがトナカイ、ねぇ…」

トナカイってほら、プレゼントが載って重たいあのそりを引っ張るし、
なんていうかこう、お互いに信頼してないとさ、成り立たない関係っぽいし…
もちろん、カメにはたーくさん頼ってるし、たぶん頼りにしてくれてるし、同い年だし、
なんかなぁ、関係性を暗示されてるのとは違うような気がするけど…

「カメ、プレゼントほしいって言ってたよね…」

サンタとトナカイといえば、クリスマス。
クリスマスパーティーの招待状なら、こないだカメの夢にもちゃーんと置いてきた。
じゃ、何だろ?
今日は、えーと、何日?
22日。あ、明日はカメの誕生日。
もちろん、いつもの通りにリゾナントで誕生日パーティーは企画されてるけど…

「うーん、…うん?」

あ、そーいえば。
小さい頃、友達と開くパーティーは、クリスマスと自分の誕生日が一緒になってたって言ってたっけ…
それはちょっと、いやかなり淋しい。
誕生日とクリスマスって、一緒にするものじゃないよね。
その日しかない、その人にとって特別な日。

たぶん、カメがねだったプレゼントってクリスマスじゃなくて、誕生日。
とびっきりの何かをプレゼントしてあげたい。
誕生日なんだから、淋しい思いなんてさせたくないじゃない。

…っていっても、いったいどんなことをすれば喜んでくれるんだろう?
誕生日パーティーをやらないってわけでもないし。

特別すぎる特別にしちゃうのは、なんかちょっと違う気もする。
ささやかなんだけど、ものすごく喜んでくれること。

「…あ」

こうしよう。
これにしよう。
あの人とあの子にちょっと力を借りてみよう。
たぶん、特にあの子はすごい文句言いながらだけど乗ってくれそうだ。

あたしは二人の夢の中へお願いをしに入り込む。
あの人は、つい先日あたしに無茶なお願いをしてきた「前科」があるから、
ちょっと渋った顔をしながらもすぐに頷いてくれた。
あの子は案の定、あーだこーだとぶつぶつ言いながら、最後は頷いてくれた。

二人とも、カメのためだからやってみせるって言ってくれて、
仲間を信じてお願いして良かったって心から感謝した。



「にーがきさん! 18歳未満は深夜の労働禁止ですよ!」
「三人での瞬間移動ってそうとうムチャやで…」

出会うなり文句を言ってきた割に、二人の表情はすごく明るい。
なによ、もー。それだったらぶーぶー言わないのー!

22日の、もうすぐ次の日に日付が変わる頃。
リゾナントに愛ちゃんと小春とで集まって、最後の作戦会議を開く。

愛ちゃんには瞬間移動で、カメのところにあたしたちを連れてってもらう。
そして、小春にはその場で、あることをやってもらう。
それがあたしの考えた、カメへのささやかなお祝い。

正直、愛ちゃんには本当に無理言って瞬間移動をしてもらおうとしている。
二人同時はあっても三人は今までにないらしい。しかも、往復だから計二回。
でも、あたしだってメンバーの夢の中に遠くから飛び込んだんだからね?
それくらいはやってもらわないと! なんてね。

小春は何本かの花を手にして、今か今かとそのタイミングを待ってるみたい。
時々鼻歌なんて歌ったりして。もう、準備万端だね。

日付が変わって、カメの誕生日。
あたしたちはそれぞれ、カメにおめでとうメールを送る。
ありがとー、なんて返事が次々に返ってきて、まだカメが起きていることを知らせる。


数時間後、あたしはカメの夢の入り口をそっとうかがう。
カメの眠りが深くなったのを確認して、あたしは愛ちゃんに合図する。

飛んでいった先、それはカメの家の中、カメがぐっすり眠るベッドの隣。


小春は手に持った花から、一瞬で部屋の中を色とりどりの花で埋め尽くした。
ハルシネーション・マジック。
それは、あたしたちは幻だってわかっていながら見ても、
想像を超えるくらいに鮮やかな光景だった。

「亀井さんのためだもん、これくらいどーってことないですよ」

そう言って笑いながら、本物の花束を枕元に置いた小春。
あたしはその横に、小さなメッセージカードを添えた。

「絵里、どんな顔して起きるんやろな」

愛ちゃんが、少しずれた布団を直してあげながらそう言って笑う。
きっと、目のあんまり良くないカメは、まずメガネを探して大騒ぎだと思う。

「『えっ? えっ? えぇっ!?』って、テンパってるだろうね」

何となく想像が付く。でも、それだけ驚いてくれた方がこっちは嬉しい。

幸せそうに眠るカメの耳元で、小さな声で届けたハッピーバースデー。
きっと小さな頃、誕生日もクリスマスも一緒だったカメが、密かに抱えていたちょっぴり切ない思い出。

でも、カメの誕生日は、あなたにとって特別で大切な一日だから。
目が覚めたとき、すてきな一日を始められるように。


あたしたちはその場から離れて、リゾナントに戻ってきた。
誰も何も言わないのに、なんだかお互い頬がゆるんでるのを見て、

「何でニヤけてんですかー!」

って小春の声で、三人とも笑いが止まらなかった。
それくらい、あたしたちはささやかな幸せを届けられたって、
きっと、カメは喜んでくれるって、そんな自信がどこかにある。

「ありがと、二人とも。
 あたしのムチャに付き合ってくれて」

そう言うと、愛ちゃんと小春はまた笑い出したから、あたしもつられて笑っちゃった。

「あーしらも楽しかったし、絵里の反応楽しみやし、
 こっちこそありがとうや、なぁ、小春」

小春は微笑みながら何度も何度もうなずく。
でもね、お礼を何度でも言いたいときってあるんだよ。だから、ありがとう。


 『あわてんぼうのサンタクロース
  クリスマス前にまたやってきて
  あなたの誕生日をお祝いに来ました』

目が覚めたら、どれだけ驚いてくれるかな?

この続きは、また夜に。
クリスマスパーティーとは全く別の、特別なパーティーを。

今日はカメが主役。
21歳の誕生日、お祝いの本番は喫茶リゾナントで!