(39)704 『サンタさんへの贈り物』

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



雪の積もった道を歩くのは、楽しいけど寒い。
足がかじかんでおかしくなりそうだった。
それでもみんなに会いたかったから、絵里は家を出る決心をした。
寒いけど、迷うことなくリゾナントへ行こうと決めた。

なのにもう夕方なのは、起きたのがちょーっとお昼を過ぎてたからで、
布団から出るのにちょーっと時間がかかっちゃったから。
うん、まぁ、これも計算通りだし。
だって、絵里のお腹がさっきから鳴ってるから。

うへへ。
今日は何を食べようかな。
あの角を曲がればもうすぐリゾナントが見える。
絵里の頭の中はリゾナントのメニューでいっぱいだった。

「まだ出来てないもん!」
「もうご飯の時間だから後にしなさい」
「ご飯食べてたら暗くなっちゃうよ!」

角を曲がった時、男の子と女の人の声が聞こえた。
リゾナントのそばで男の子がお母さんにごねているようだった。

「いつもおいしいご飯作ってくれるお姉ちゃんにプレゼントあげるんだもん!」

その言葉に、絵里の頭にパッと愛ちゃんの顔が浮かんだ。
男の子のそばには、小さくも大きくもない雪玉が転がっていた。

「もう明日にしなさい」
「クリスマスが終わったらサンタさんじゃなくなっちゃうよ!」
「困ったわねぇ…」


気付いたら絵里は立ち止まっていて、頭の中は愛ちゃんやみんなでいっぱいだった。

「あ…あの!」

男の子とお母さんが同時に絵里の方を見る。
心臓はすごくドキドキしていた。

「ここのお姉ちゃんに、プレゼント…あげたいんだよね?」

咄嗟に作った笑顔で男の子を見ると、男の子は大きく頷いた。

「雪ダルマを作ってあげようと思ってたんだけど…」

そう言った男の子の手は真っ赤で、長い時間雪を触っていたことがわかる。

「お姉ちゃんはサンタさんなんだよ。サンタさんはプレゼントもらえなくてかわいそうだから、ぼくが作ってあげるんだ」
「サンタさんなの?」
「いつもご飯作ってくれるから、サンタさんみたいだねって言ったら、クリスマスまではサンタさんだよって」

愛ちゃん、そんなこと言ってたんだ。
そう言ってる愛ちゃんや、サンタさんの格好をした愛ちゃんを想像すると、なんだかおかしかった。

でも、そうだなぁ。
絵里にとっても、愛ちゃんはサンタさんかもしれない。
去年れーなが「れーなのサンタさんは愛ちゃんやけん!」と言っていて羨ましく思ったことを思い出した。

「雪ダルマ、絵里…私が作ってもいい?」
「作ってくれるの?」
「うん。私にとっても、ここのお姉ちゃんはサンタさんだから」


愛ちゃんだけじゃない。
他のみんなも、絵里にたくさんのものをくれるサンタさんだ。
そんなみんなが大好きなリゾナントに、雪ダルマをプレゼント。
なかなか良いじゃん。
良い考えじゃん。
この子は将来有望だなと思いながら、男の子の頭を撫でた。

「いいんですか?」

絵里が顔を上げると、申し訳なさそうな顔をしているお母さんと目が合った。

「はい!任せて下さい!」

笑顔で答えると、お母さんも少し笑ってくれた。
変な人だって思われてないかな。
変な人だと思われても仕方ないけど。
絵里がこのお母さんの立場だったら、変な人だと思うだろう。
物好きな人がいるもんだって、さゆに話してるかもしれない。

「じゃあご飯食べたら見に来るから、ちゃんと作ってね!」
「オッケー!任せといて!」

キミの気持ちは確かに引き継いだ!
心の中でそう言ってから、男の子と指切りをした。

「じゃあねー」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ。じゃあねー」

二人を見送ってから、転がっている雪玉に目を向けた。
雪ダルマを作るなんて、いつ振りだろう。
もしかしたら、初めてかもしれない。


ブーツの中の足は今にも凍り付きそうなぐらい痛くて、雪を触っている手はほとんど感覚が無くなっていた。
それでも身体は暖かくて、無意識の内に腕まくりまでしていた。

「ふぅ…」

雪玉が大きくなる頃には、もうすっかり辺りは暗くなっていた。
冬は暗くなるのが早いから嫌だ。
何時になったのか気になったけど、かじかむ手で携帯を取り出す気にはなれなかった。
吐く息は白く、少し鼻水も出てきた気がする。

「あともう少しだけ…」

もうちょっとで完成だ。
絵里はリゾナントから漏れる光を頼りに、ひたすら雪玉を転がした。

「よっ…こら、せっ!」

ふぬぬぬぬぬ!
あとは乗せるだけなのに、あとちょっとのところで乗せられない。
雪って結構重いんだなぁ…。
どうしよう。
れーなを呼び出して手伝ってもらうとか?
いや、これは絵里がやらなきゃ意味がない。
リゾナンターのみんなに助けてもらうわけにはいかない。

冷えてじんじんしている手を、吐く息で暖めた。
足のつま先の感覚はもうほとんどなくなっている。
正直、くじけそうだった。
ただの雪玉に顔を作ってやろうか。
そんなことを考えている時、足音が聞こえてきた。


「お姉ちゃん!」
「あ!もうご飯食べてきたの?」
「うん!急いで食べてきた!」

足音の正体はさっきの男の子だった。
そうだ。
絵里にはこの子がいるじゃないか。

「じゃあ後は雪玉乗せるだけだから、手伝ってくれる?」
「うん!」

二人で雪玉を持ち上げて、ようやく雪ダルマを作ることが出来た。
その後も二人で協力して顔や手を作り、最後に男の子が持ってきていたバケツを頭に乗せた。

「出来たぁぁぁ!!」
「やったね!ありがとう、お姉ちゃん!」
「へへ、どういたしましてー」

二人でハイタッチして、大きく息を吐いた。
なかなか可愛く出来たんじゃない?
手の冷たさも、足の痛さも、全部忘れて、ただただみんなに早く見せたいと思った。

「よし!じゃあ、お姉ちゃんに見せよっか!」
「うん!」

―カランカラン

ワクワクしながらリゾナントの扉を開くと、いつものように愛ちゃんがカウンターに居るのが見えた。

「いらっしゃいませー!…おぉ、絵里じゃん」
「こんばんはぁー!」


リゾナントの暖かさに、身体中が冷え切っていたことに気付く。

「お姉ちゃん!ちょっと来て!」
「へ?あれ?絵里、その子と知り合いなん?」
「へへ、友達です」

絵里の言葉に、男の子は嬉しそうに笑った。
愛ちゃんはキョトンとして、絵里と男の子を交互に見ている。
あ、そういえば絵里、お腹空いてたんだった。
久しぶりに鳴ったお腹に気付いて、空腹感を思い出す。

「ほら!お姉ちゃん早く早く!」
「おぉ、どしたどした」

男の子に引っ張られて、愛ちゃんがカウンターの外に出て来た。

「愛ちゃん」
「なんやぁ?」
「メリークリスマス!」
「お?いきなりどうし…」
「お姉ちゃん早くー!」
「わかったわかった!」

愛ちゃんが絵里に返事をする間もなく、男の子は愛ちゃんを引っ張って行った。
どんな反応をするだろう。
涙もろい愛ちゃんのことだから、もしかしたら泣いちゃうかもしれないな。
2人の後ろ姿を見ながらニヤニヤしていたら、さっきから何も言わずに絵里達を見ていたれーなが、そっと絵里の元に近付いて来た。


「何があったと?」
「んー…サンタさんにお返し?」
「はぁ?」

れーなはわけがわからんとでも言いたそうな顔をして、二人が消えて行った扉を見ている。

「後でれーなも見てよね」
「やけん何をって」
「それはほら、見てのお楽しみってやつだよ」
「はぁ?」
「それは後でいいからさ、何か暖かい飲み物入れてよ!もう絵里寒くて死んじゃうよぉ」

れーなにくっつきながら言ったら「絵里冷たい!くっつかんで!」と言いながらカウンターの中に逃げられてしまった。
れーなは寒がりだなぁ。
絵里を見習いなさい、絵里を。
雪の中、雪を触るとか、すごすぎでしょ。
鼻水もズルズルなんだけど。
あーこれはちょっと風邪ひいちゃったかもなぁ。
やっぱり慣れないことはするもんじゃないよね。
鼻水をすすりながら、カウンター席に座った。

あっちはどうなってるかな。
あの雪ダルマ、後で絶対写メ撮ろう。
でも外は寒いからなぁ。
そうだ。暖かくなったら撮るっていうのはどうだろう。

「カフェオレでいいよね?」
「うん、ありがとぉ」

れーなからカップを受け取って、両手でしっかりと包み込んだ。
さて、何を食べようか。
リゾナントの暖かさに包まれながら、絵里はじっとメニューを眺めた。