(41)093 『六花』

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一体どれくらい前のことだろうか。
学校の授業で雪の結晶の写真を見せられたのは。
プロジェクターで拡大されたそれは、透き通っていてとても幻想的だった。

「どうだい、綺麗な六角形の形をしているだろう。 雪のことを六花と呼ぶこともあるんだよ」

名前を忘れた担任教師の言葉だけが何故か記憶の中に残っている。
扇形・角板・樹枝・角柱・針・砲弾。
形のパターンで分類された雪の結晶の中でも、樹枝状のものが気に入っていた。
中心部から伸びる六本の枝にギザギザの葉が付いたような形。
その刃物のような鋭さに魅せられて……こんなどうでもいいことを思い出すなんてどうかしてる。


94 名無し募集中。。。 2010/02/06(土) 15:53:03.16 0
「ちょっとばかしはしたない所を見られちゃったね」
視界が閉ざされ、激しい痛みに苛まれる俺に話しかけているのは、“氷の魔女”の異名で恐れられている女だった。
未成年者誘拐と人身売買という組織の稼ぎどころに首を突っ込んできた魔女への刺客に俺は選ばれた。
荒事の経験に乏しい俺が暗殺部隊に名を連ねたのは、魔女の能力を無効化する“能力殺し”の体質が買われたからだった。
そして仕事は上手く運んでいるように思えたのだったが…

「あんた一瞬だけど気を抜いたよね。 そうじゃなくても結果は同じだったろうけど」

…気を抜いたつもりは無い。 だが女に対する殺意が一瞬薄らいだのは事実だ、そしてその一瞬の隙を女は見逃さなかった。
魔女の異名からは程遠い狂戦士振りを発揮した女の蹴りで俺は致命傷を負わされた。
そして他の仲間は…
「もしかして、一目惚れ?」
確かに女は儚げで美しかった。
数え切れないぐらいの人間をその能力で凍死させ、人身売買にまで手を染めているという情報が嘘に思えるほどに。
だが俺が女への攻撃を躊躇ったのは…


「ゆ・・ゆ・き・・」
女の姿に雪を思い起こしたからだろう。
冷酷で残忍な魔女を見てそう思うなんてお笑い草だが。
純白の雪原を自分の足跡で汚すことを嫌うかのように、女を自分達の暴力で蹂躙することに二の足を踏んでしまった。

ちらり。

雪が降ってきた。
あるいは女が俺を哀れんでそのチカラで降らせたものなのか。
次から次と、その勢いを増しながら降ってくる。それは、死に瀕している俺の目にもはっきりと見えるほど大きな結晶となって。
そう、まだ悪に染まっていない無垢な少年だった遠いあの日、樹枝状の六花を見た俺は夢想していた。
鋭いナイフのような六つの花弁に、身体を切り刻まれながら息絶えることを。

仲間の悲鳴を遠くに聞きながら、俺はゆっくり目を閉じた。