(41)145 『超能力戦隊(サイコフォース)リゾナンター・伝播』

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満月の夜。繁華街から離れた路地裏。
夜の喧騒や、人の灯りから離れていた、暗い通りだった。
ごく普通のOLである女性が、ほろ酔い気分で歩いている。
ある三流会社で事務を務めている彼女は、今日は何故か気分が優れなかった。

いつもの日々。いつもの日常ではあったが、苦手な酒が良く入った。
二桁まで飲み干し、閉店だと店員に起されなければあのまま深い眠りについていただろう。
一人で飲んでいたため、隣には身体を支えてくれる同僚すら居ない。
その内、女性は体勢を崩し、路上にも関わらず倒れこみそうになった。

そんな姿でさえも、辺りから見る者は誰も居ない。微かに酒の匂いを漂わせながら思う。
普段は仲良くやっているつもりでも、同じ人間でも断絶というのは必ずある。
寂しく思っていても、誰にも相手にされない事に胸が痛んだ。

溢れそうになる両眼のものを強引に拭い、立ち上がる。
早く家に帰って素直に眠ろう。
明日になればいつもの日常だが、何か良い事がある事を信じて忘れる為に。

女性の右足が前に踏み出されたその時。
自らの足の先、アスファルトに落ちる影があった。酩酊しながらも、女性は視線を上げていく。
アルコールで揺れる視線は、黒い長靴に包まれた足、曲線の腰を捉えて行き、平行になる。

其処には、漆黒の闇を切り取ったような衣装を纏う小さな人影が立っていた。
人影は腰まで届く長い髪、丸みを帯びた体の線をしていた。少女の姿なのだが、はっきりとは断言できない。

 何故なら"その影が無数に蠢いていたからだ"。

女性はその影の瞳に気付く。
瞳孔が猫のように細く、まるで燐が燃え上がるような黄色の瞳。
少女の真紅の唇が歪み、軟体動物のような舌が踊る。


 「な、なんなの……、っ」

女性の酔いが急速に醒めて行った。
脳裏に過ぎるのは、繁華街の近くにある住宅街で起こっている奇妙な連続誘拐事件。
偶然見ていたニュース番組に映し出された少女の顔。
それが今、女性の目の前に居た。
だがあの映像のあどけない笑顔の欠片も無い。まるで捕食する獣のようなその姿。

其処まで考え、女性は酒に酔って思い通りに動かない頭と身体を駆使し、逃げようと後退する。
同時に不可視の衝撃。女性の叫び声はその衝撃によって強引に抑えられる。
ビルの壁に叩きつけられた身体の骨は軋み、意識が途絶えた。

少女の華奢な腕は高い身体能力の反動からだろう。
所々から血液を吹き、まるで鬼のような筋肉を発達させ、血管を浮かせている。
血のような唇からは、残酷な湯気が上がっていた。
動かなくなってしまった"獲物"を前に、少女は口を大きく開ける。

月夜の輝きに、其処から生え出した大きな牙が、女性の首筋を食い破ろうとした時だった。

 「そこまでや。アンタは、こんな血生臭いことしたらあかん」

耳に聞こえた声は悲哀が含まれていたが、振り返った先の表情は怒りを表している。
少女は女性の身体から手を離し、現われた奇妙な人影を見つめた。
女性は腰、背中と落下し、冷たいアスファルトの上へと倒れ伏す。

 「これは、さすがに御伽噺みたいにはいかないだろうね」
 「作り話ならどんなに良かったか…」

愛の言葉は続かず、その代わりに夜空に浮かぶ光が其の意味を示した。
月は下弦に向かって痩せていき、少女の足元から伸びる影は、絶望のように黒く、拡大する。


―――吸血鬼が伝播するように、その影響を受けた人間も徐々に伝染していく。
 "吸血鬼"の伝承の中で最もポピュラーなのは、"吸血鬼"は人の血液を摂取する事だ。

 その時、中には肉体、霊的資質に優れていた事で吸血種へと成り果てるものが出現する。
 "食屍鬼"(グール)とも呼ばれるそれは、稀に何年も掛けずとも短期間で"吸血鬼"(ヴァンパイア)になれる事もあった。
 だが肉体は頑強になり、生きている限りは損傷部位も元に戻るが、その劣化は止まらず崩壊していく。
 その特徴を考慮し、その「親」である吸血鬼は思った。

 より多くの吸血種を生み出せば、自身の中にある吸血衝動を止められるのでは、と。
 不老不死である己の血を分けた器達は、崩壊の為に血液を摂取して肉体を固定する。
 その血液をもう一度自身の中に取り込めれば、簡単な延命療法にもなる。
 これが、この一連の事件の奥にあった真実。

たった一人の存在の為に、かけがえの無い少女達の存在が犠牲にされていた。
その動かぬ現実に、愛は唇を噛み締める。
この真実に至るまで、最後の行方不明者が出てから既に2週間が経過していた。犠牲者は9人。

そして、此処で断たなければこれからももっと増える。
知性の欠片も見当たらない容貌。子供の純粋であるが故の狂気を孕む瞳。
被害者である筈の加害者達。人間であった筈の吸血鬼達。

其の呪縛から解放する手立ては唯一つ―――せめてこの場で葬るが手向けだった。
これ以上、人間への悪害を拡大させる事は出来ない。少女達が死してなお、罪を重ねない為にも。

 「あの子らを倒せば、大本がやってくるはず…皆、覚悟はええな?」

9人の手には伝承に乗っ取り、「吸血鬼を倒す武器」が在った。
白銀によって形作られたソレ等は、"人間を守る為に"使用される。
そう、"普通ではない人間"から、この世を救う為の兇器。

 「――――――!!!」


最早この世の言葉ではない叫喚を発する吸血鬼の影が、9つへと分裂する。
蠢いていた影の正体は、被害者全員の影だったのだ。
肉食獣じみた敏捷さで襲い掛かる二体の吸血鬼を、愛は軽くステップを踏み
つかみかかって来た手を避けて二体の間に入った。
下から上へ。
腕を斬り飛ばし弧を描きつつ、そのまま袈裟懸けに斬り付ける。
煌く白銀の刃を逆手に持ち替えると、そのまま腕を自分の頭上に迂回。
黄色い燐光を包んでもう片方の少女のこめかみを穿つ。

何も直接標的を見る必要はない。
月明かりで浮き彫りになる影、その位置を確認するには十分なのだから。
少女だったものは血さえ流す間もなく、その姿は灰へと変化した。
他の8人に視線を向けると、どうやら終えたらしい。

―――パチパチ、と明らかに惰性じみた拍手が聞こえてくる。
 月明かりで周囲の建物の影が密集したところ。そこから足音を響かせて近付いてくる。

 『さすがは"サイコフォース"、この国での我が敵ではあるようだ』 
 「…あんたが、親玉?」
 『食事の時間が過ぎていてね、もしやと思って来てみれば』
 「あんたは、あんただけは許さんっ!」
 『動物を食べて生きる人間とどんな差があるというんだね?その食物連鎖が君達とは少し違うだけではないか』
 「私達にそんな常識は無い。アナタが私達の常識が通用しないようにね」
 『ふむ。確かにその通りだな。やれやれ。同じ"逸脱した存在"はこうも相容れないとは、残念だよ』
 ―――こうなっては我輩も本気で"生存"を懸けるしかない様だ』

「吸血鬼」がそう言った瞬間、愛達は底知れない恐怖を感じた。
視線の先、水路と道路の橋の上に蟠る黒い影。その下には黒々とした液体が流れていた。
夜の為にタールのように見えたが、鼻先には血臭が届く。


 『蓄えなど、我が一族にとっては基本だよ。さて、君達"サイコフォース"の死の味を堪能させて頂こうか』

大気に殺意と敵意が膨れ上がる。
愛の叫びよりも早く、蟠る黒い影がジュンジュンへと襲い掛かった。
恐怖によって動けないジュンジュンへと地を蹴って突進する赤い閃光。
銀色の刃を抜刀し、小春は黒い影へと斬撃を試みる。だが。

 『こやつ等に人間の武器など不要』

「吸血鬼」の声が、残酷な答えを指し示す。
小春の腕に達した黒い影は人間の姿を形取り、口から飛び出た牙を腕に突き立てた。

 「小春!!」
 「久住さん!!」

小春は一端影から後退すると、腕から流れる出血を手で止めようとする。
だが奇妙な事に、止まる所か溢れ続けるばかり。影は愉快そうに喉を鳴らし、蠢いている。

 『ハハハ。これは良い余興が見られそうだ』

吸血鬼によって血液を摂取された人間は、其の支配下に置かれる。
小春は身体の中で流れる血液に混入された異物に苦しみだす。
呼吸が乱れ、左膝を地面について何とか体勢を保つ。其処へジュンジュンが飛び掛るように近寄った。

 「く、久住サン、シッカリ…!」
 「…っ、ジュンジュン、大丈夫、だった?」
 「ワタシのせいで…ワタシのせいで久住サンが…」
 「そんな、こと…っ、言う前に、ジュンジュンは、やる事が、あるでしょ…」
 「?…」


小春はジュンジュンの腰のホルスターから拳銃を引き抜き、突きつけた。
何が何だか分からないジュンジュンは、驚愕した表情で小春を見つめる。両眼が赤く血走っていた。
吸血鬼による影響が、すぐそこまで来ていたのだ。
意識でさえも朦朧な小春は、拳銃を一回転させてジュンジュンへ差し出す。

 「アタシが吸血鬼に"変化"したら…。ジュンジュン、あんたがあたしを殺して」
 「!!?」
 「そうしないとアタシはきっと、皆を殺しちゃうから。だから、お願いだよジュンジュン」

小春の言葉に、ジュンジュンは震える手を必死に持ち上げる。
安心したように小春は微笑み、最後の時まで戦う事を誓った。



人間社会に甚だしく悪影響を及ぼす存在やその芽を人知れず取り除くこと。
それが"リゾナンター"と称された9人の責務であり、使命だった。

"超能力"を持つ人間。
"普通ではない"人間。"逸脱した"人間。

対象者と同じチカラを持ち、"化け物"と称される存在と戦ってきた。
そしてその"化け物"によって仲間が"化け物"となる。仲間は言った。

 「アタシが吸血鬼に"変化"したら…。ジュンジュン、あんたがあたしを殺して」

仲間は仲間に懇願する。"化け物"の唯一の弱点とされる武器を差し出して。
"仲間"は「死」を望んでいた。

其の役目に選ばれたのが、何故自分だったのか。
"仲間"を殺す為に、自分は"リゾナンター"になった訳ではないのに。
その定義は限りなく広かったが、ジュンジュンは彼女の事を何処かで好ましく思っていた。
そんな"仲間"が、久住小春が苦しんでいる。楽になりたいと望んでいる。
"仲間"を殺したくないと心の中で涙している。

其れを止められるのは。其れを救えるのは。其れを癒せるのは。
他でもない、"仲間"の中でその望みを託された、自分自身だった。
―――拳銃を掴み、ジュンジュンは決意した。


 『其の者が吸血種となるまであと6分弱。さて、どうする?』
 「決まっとぅとよ」
 「その前にオマエを殺す!!」


轟っ!
膨大な殺気が物質的圧力となり、夜風となった。
気弱な人間なら、心臓が停止するほどの殺気だっただろう。
れいなの持つ大剣の下からの一閃を、「吸血鬼」は素手で刃を払い、横薙ぎの一撃を返す。
巨大な刃を盾にして受けるが、刃ごと後方に吹き飛ばされた。
その影からリンリンが銀槍で急降下攻撃を放つが、黒い影によって阻まれてしまう。

 『ハハハ。あと5分だぞ』

視界全面に広がる黒い髪と外套のはためき。靴の裏。
れいなが寸前まで転がっていた大地を「吸血鬼」の左足が穿孔。
足首まで埋まった右足を軸に、右の踵が下ろされる。
破砕音。
アスファルトの破片を浴びながら、愛は"瞬間移動"でれいなを救出した。

 『ほう、それが超能力というヤツか…ん?』

「吸血鬼」が居る地面が波打ち、轟音と共に一瞬にして圧壊した。
全身を駆け巡るかのような雷撃の放射に「吸血鬼」もその事態に気付いたのだろう。
ついには高熱の塊によって紅蓮の炎に多い尽くされる。

 「小春、アンタ…」
 「最後まで戦いますよ…っ…このまま、黙って化け物になってやりませんから。
 小春も―――リゾナンターだから!」

ジュンジュンに腕を支えてもらってやっと立てる小春の姿に、8人は決意する。
もう、白煙の中からの人影に屈する者は居なかった。

 『不老不死である我輩にこの程度の力で勝とうなどと…』
 「いや、これで十分やよ」
 『何…?』


「吸血鬼」は見上げた。満月の夜。
夜空に煌く星達の淡い光と遠い街灯りだけの世界。
だが、確かに其れは存在した。
滑空していく一つの影の姿は夜の闇に滲み、一つの亀裂を形成する。
亀裂はやがて円形へ、黄色い燐光はまるで―――太陽。

 「私達は"リゾナンター"。"共鳴する者"。
 人の世で人の悪害と成す者。これを私達の"敵"と見なす」

"光使い"それは"リゾナンター"のリーダーである高橋愛が得意とするチカラ。
生体エネルギーの集合体と呼べるその代物は、"共鳴率"の高い人物達からの
収集によって発動する事が出来る。

 『ガ…、っ!!コ、レハ…ッ!?』

黄色い燐光に包まれて撃ち出されていたのは、小春の持っていた刀だった。
銀の刃が「吸血鬼」の心臓を的確に貫いている。先程の雷撃によって身体に綻びが出来ていたのだ。

 「これで…最後だぁぁ!!!」

止めの一撃とばかりに、小春の怒号と共に射出された雷撃が刃に落ちた。
喉へ、気管へ、額へ、眼窩へとその痺れが行き届き、口からは叫喚と共に火花が吐き出される。
黒々とした血液を大量に撒き散らし、「吸血鬼」は灰へと還っていった。
絵里とリンリンによって細切れにされていた黒い影も同時にそのカタチを失くして行く。

 「終わ、…った…」
 「小春!」

ジュンジュンの肩から崩れ落ちる小春へと、8人が近寄る。
壁にへと持たれかけるその姿に、全員が苦痛の色を隠せない。


 「久住サン!シッカリ!」
 「あー…んと…ごめんね…ジュンジュン…いろいろと、悪口、言って」
 「そんなコト…っ!」
 「さゆみん、何とかならないのっ!?」
 「傷は治ってるんです、でも、吸血鬼化まではどうしようも…っ」

さゆみと里沙が慌てふためく中、小春はジュンジュンを真っ直ぐ見つめていた。
小春が最後まで戦ったのは、約束だったのだ。
あの「吸血鬼」を倒した後に、殺してやると―――ジュンジュンと、"仲間"との。

 「久住サン…」
 「約束、破らないで、よね…ほら…もう、身体も言う事がきかなくなってきた…」

 だから、早く。

ジュンジュンは腰のホルスターから拳銃を取り出す。
里沙やさゆみは何をするのか気付き、止めようとする―――愛は其れを制し、無言で首を振った。

小春は目を閉じ、来るであろう痛みを受け止める態勢に入る。
これで良いのだと自分で言い聞かせて。



 「―――吸血鬼になったって、くっすみサンは仲間ダ!!」

だが、来たのは痛みではなかった。
暖かく、優しい抱擁。
遠くの方で拳銃が落ちる音が聞こえ、近くでジュンジュンが泣き出す声で一杯になる。
小春は素っ頓狂な表情をし、愛達の方へと視線を泳がす。


愛は意識を集中させ、自身と小春を"移動させる"イメージを描く。
エネルギーが、力場が、引力が。部品を、破片を、断片を、微塵を。結集し、集結し、収集する。
回復させ、再生させ、再構成させ、復活させる。
呼吸と、全身の痛み。
そして―――眩しい光が広がった。






連続誘拐事件は幕を閉じた。
犯人は見つかっておらず、テレビでの報道では何度か被害者のワイドショーが組み込まれたが
それすらもある連続殺人事件の逮捕によって世間からは二の次になってしまった。
だが家族が我が子を忘れなければ、いつか、報われる事があると信じたい。
あの日に襲われた女性の記憶は里沙のチカラで改竄され、今は普段どおりの日常を過ごしている。

どちらにしても、"化け物"という存在はこの世に居ても邪魔なだけ。
だがそれを退治できるのも、同じ"化け物"なのだと思い知らされる。

それでも違いがあるとするなら、彼らは"守るべきもの"が無い。
己の生命を第一に考え、己の願望のみを優先する。
それでは何も変わらない、変わらない事をただ続ける事に、何の意味があるのだろう。

変わらない日々の中でも、何かを変える為に動く。今日もまた、"彼女達"は戦っていた。

 「ジュンジュン!今念力で小春を潰そうとしたでしょ!?」
 「久住サンなら簡単に避けると思っただけダ。だってサルだもん」
 「だれがサルや!」
 「愛ちゃんの事じゃないから!目の前に集中してよもー!」



依頼主である中澤裕子のバックアップがあった事で、小春は一命を取り留めた。
「親」である吸血鬼が消滅した今、吸血衝動も十分押さえ込める。
それでも、吸血種という事実に変わりは無く、身体的能力も以前より向上したらしい。

 「にしても、何でこうも動物が多いんでしょうね、胸が痛いですわ」
 「私達ってアニメに出てくるトンデモ戦隊ですよね」
 「じゃあ絵里はピンクー」
 「ピンクは例え絵里でも譲らないの」
 「や、色とか関係ないからね。それと光井、今のはいろんな意味で傷つくから」
 「……とりあえず、話はこの人らを倒してからって事で」

愛の言葉に8人が頷く。
眼前には無数の"普通ではない"人間が取り囲んでいる。
以前、討伐を行った"狼男"の残党がまだ残っていたのだ。
しかもこの男達を裏で操っている人物が居るという。

 「行こう!」

そして、次の舞台へと進んでいく―――。


To be continued.