(25)733 『Peace & Acting』

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【問題編】


「道重さん、治癒しても無駄です。新垣さんは・・・もう死んでる」


いつもと変わらぬ喫茶リゾナントの昼下がり。
そこに顔を揃えているのもいつもの9人。

きれいに清掃された落ち着きのある店内。
窓から差し込む午後の柔らかな陽の光。
店主の高橋愛が花瓶に活けた笹の葉。
テーブルの上に食べ散らかされたバナナの皮・・・

そこにあるのはいつもとほとんど変わらない光景。
そう、たった一つを除いては。

それは、朱に染まり喫茶リゾナントの床に倒れ臥す新垣里沙。

そして・・・


「新垣さんを殺した犯人は・・・この中にいる」


    *   *   *


「この中に犯人が!?」「嘘デス!」「何でそんなことが言えると?」

騒然とする皆の視線は、自然とその衝撃的な台詞を口にした久住小春に集まる。
小春は皆の視線を受け止めながら里沙の方を指差し、静かに言った。

「新垣さんの最後のメッセージ。そこに犯人が示されています」

小春の人差し指が指し示す先へ、皆の視線が移動する。
そこにあったのは・・・

「れい・・・・・・な?まさか・・・」


全員の視線がれいなに集中する。

「え?ちが・・・違うと!れいなは何も知らんと!」

どこか過剰なリアクションで上ずった声を出すれいなに、亀井絵里が冷たい視線を向けながら言う。

「じゃあそれは何なの?」

絵里が指したのは、倒れ臥した里沙の左手だった。
正確に言えば、里沙の手に握られた一葉の写真だった。

Ⅴサインを決めるれいなの満面の笑顔。
とても人を・・・仲間を殺すようには思えない、明るいれいなの笑顔がそこにあった。


「この写真の人物が犯人・・・ってガキさんは言いたかったんじゃないの?」
「ち、違うけん!れいな何も知らんと!」
「トいうか、この写真リンリンも写ってマ・・・」
「れいな・・・嘘だよね?嘘って言ってよ!」
「やけんさっきから違うって言うとるやん!」
「アノ・・・この写真田中さんダケでなくリンリンも・・・」
「オイ田中!何デコンナコトシタ!」
「やっとらんって言うとろーが!」
「皆さん・・・聞いテ下サイ・・・この写真にはリンリンもバッチリいマスデスよ・・・」


淋しげなリンリンの視線を受け、小春は微かにうなずくと皆の顔を見渡して再度宣言した。


「新垣さんを殺した犯人は・・・この中にいる」



    *   *   *


【挑戦状】


はーい、リゾスレの皆さ~ん!久住小春でぇーす!
いつもあたたかい応援あっりがとうございまーす!

そんなわけで新垣さんが殺されちゃいましたー。エーン。
そして犯人は残りの8人の中にいまっす。ドヒェー!
しかし残念ながらこれは悲しい事実なのです。シクシク。

そこで!ジャジャーン!
ミラクル美少女名探偵・久住小春からリゾスレの皆さんへの挑戦状でぇーっす!バーン!

ズバリ、新垣さんを殺した犯人は誰でしょー?
ヒントは“写真”、店内のある物、そして・・・“能力”。



久住小春でしたー!イェイイェイ!


    *   *   *


《※作者注:前回([Other](22)359 『2人目の裏切者』)に輪をかけて真面目に読まないでください》



【解答編】


「そもそも新垣さんはこの写真で何を表そうとしていたんだと思いますか?」

再度里沙の手の中の写真を指差した後、皆の顔を見渡しながら小春は静かにそう問いかけた。

「皆さんが仰るように田中さんを名指ししようとしてたんでしょうか。・・・小春は違うと思う」
「なんで?」
「だってリンリンも写ってるもん。これじゃどっちを指してるか分かんない」
「あー、ほんとだー!」
「ほんとだリンリンもいるじゃん」
「気付カナカッタナ!」
「なあ、ひどすぎん?こんなんでれいな疑っ――」
「リンリン写ってるずっと言ってマシタ!皆聞かないヒドイ!謝ってくだサイ!今スグ!」
「ご、ごめん」「ごめんなの」「スマン」「わ、悪かったっちゃ・・・って何でれいなまで・・・」

ようやく気が済んだらしいリンリンの顔を見届け、小春はゆっくりと口を開いた。

「にーがきさんはこの2人が写ってる写真が必要だったんだよ」
「2人が写ってる写真?れいなとリンリンが?なんで?」
「共犯・・・ってことじゃーないですよ。だってそんなの反則だし」
「じゃあ何?もったいぶらずに早く言えばいいの」

一瞬ムッとした顔を道重さゆみに向け、小春は続ける。


「ではリンリンと田中さんのそれぞれの能力は何でしょう?」
「発火能力ト共鳴増幅能力ダ」
「そう、それを英語で言うと・・・パイロン・・・パイラ・・・パイル・・・」
「・・・パイロキネシスです久住さん」
「あ、そうだった。そして田中さんのがアンパンファイター?・・・ん?えっと・・・」
「・・・・・・アンプリファイアです」
「そう、それ。つまり・・・どういうことか分かる?」
「全然分かんない」「たどたどしすぎだし」「れいなアンパンマンみたいになっとるし」
「むぅー・・・だからぁ、それぞれ英語で書いたら頭文字が『P』と『A』ってことなの!」
「はあ?意味分からんっちゃけど。それがなん?」
「じゃあリンリン、『PとA』を英語で言うと?」
「ハイ!『P アンド A』デス!・・・・・・オー!そういうことデシタか!」
「え?どういうことどういうこと?」「何がそういうことなの?」「意味分からんっちゃ」
「こういうことでぇーす」

そう言いながら、小春は念写能力で空中にいくつかの文字を描き出した。

『P AND A』

「そしてこれをこーすると・・・」

そう言いながら、文字の間隔をくっつけてゆく。

『PANDA』

「あっ!パンダ!」「ほんとなの!」「ってことは・・・」

当然、自然に全員の視線は一人の人物に集まっていた。

「そう。『パンダ』―つまり新垣さんを殺した犯人はジュンジュンってこと」

皆の視線の先には、眉をしかめるジュンジュンの姿があった。


「ソンナノ推理言ワナイ。証拠ハアルノカ?ドウセ当テズッポダロ」

そう噛み付くように言うジュンジュンに、小春はちょっと前から飽き始めていた名探偵キャラをかなぐり捨てて言い返す。

「あるもん!証拠くらい他にもあるよ!ほら!」

そう言って小春は床に倒れる里沙を指差す。

「めっちゃパンダの爪痕ついてるじゃん!だからジュンジュンが犯人だよ!」
「久住サン・・・念写で証拠捏造スルはずるいデス」
「っていうかそれだったら写真のくだりまったくいらないし」
「もー!他の人は黙っててよ!」
「見ロ。ソンナ推理デジュンジュンガ『ヤリマシタ』言ウトデモ思タカ」
「正義は勝つの!悪は滅びるの!小春が正義なの!」
「ジュンジュンガ悪ダト言ウカ!」
「自分で犯人役やりたいって言ったんじゃん!」
「ダッテカッコヨクナイ!ジュンジュンハモットカッコイイ犯人ガイイ!」
「そんなの台本書いたみっつぃーに言ってよ!」
「大体バナナヲ食ベラレタカラ殺シタナンテオカシイダロ!」
「だから小春に言わないでよ!っていうかジュンジュンだったらやるね絶対」
「シナイ!ジュンジュンソンナ食イシンボジャナイ!」
「いーやするね。絶対するよ」
「シナイ!」
「するよ!」
「シナイ!」
「する・・・」
「いいかげんに――」

ケチャップをポタポタと滴らせながら起き上がった新垣里沙が、たまりかねてそう叫びかけたとき・・・


「ええかげんにせーよコラァァァ!!!」

喫茶リゾナントの店内は、その怒声によって静まり返った。
恐る恐る皆が向けた視線の先には、かつて見たこともないような形相の光井愛佳が立っていた。

「愛佳ねえ・・・明日から試験なんですよ。そやからほんまはこんなことしてる暇ないってそう言いましたよね?」

直後、急に穏やかな表情と口調になり、愛佳は小春に訊ねかける。

「う・・・うん、言ってました」

思わず敬語になる小春に、愛佳はにこりと微笑んだ。

「そやから本当に適当なものしか書けへんよって・・・言うたやんな?文句言わんといてなって」

その愛佳の視線は、次いでジュンジュンに向かう。

「イ、言ッテイマシタ」

目が笑っていないというのはこういうことを言うのかと思いながら、ジュンジュンは肯いた。

「今回は台本通りにやるって皆さん約束しましたよね?ちゃんと覚えてくるって」

そう言いながら笑顔で皆を見回す愛佳に、残りのメンバーも慌てて首をカクカクとさせた。

「ほんなら・・・ちゃんとやりましょうよ。ほんでさっさと終わらせましょ?・・・ね?」

かつて見たこともないほどの穏やかな愛佳の笑顔に、かつてないほどに喫茶リゾナントの空気は張り詰めた。


しばしの沈黙の後、愛佳の視線が自分に向かっていることに気付いた里沙は、慌てて再び床に倒れ伏す。


「ニ、ニーガキガジュンジュンノバナナ食ベタノガヨクナインダ。信ジテイタノニ裏切ラレタ」
「そんな理由で仲間を殺したっていうの?」
「ジュンジュンハコノ国デ仲間ガデキタト思ッテ喜ンデイタ。ダケド結局一人ボッチダッタ」
「独りじゃないよ。ジュンジュンは独りじゃない。だって小春がいるじゃん」
「久住」
「ジュンジュン。小春はジュンジュンが罪を償って帰ってくるのをずっと待ってるから」
「アリガトウ久住」

かつて見たこともないほどの大根芝居が繰り広げられる中、里沙はかつてないほどの恐怖に慄いていた。


―メンバー1人につき1つ、どんな要求も聞かなければならない―


その罰ゲームもようやく大多数の要求を消化したが、まだ残っているうちの一人が愛佳であるという事実に―――



―今日も世界は・・・そして喫茶リゾナントは平和やよ。


高橋愛は何かから逃避するようにそう自分に言い聞かせた。