(25)767 『BLUE PROMISES 番外編 -"Blank" of COLOR-』

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何でリゾナントのマグカップに黄緑色がないんやろ。
それがメンバーのパーソナルカラーを表してるっていっても、
普通、その中に黄緑くらいあってもいいような気がする。

なぜかリゾナンターのメンバーカラーには、黄緑色がなかった。
メンバーカラーなんてどうして決まったのか知らない。どうやって決まったのかも知らない。
でも自分にとっては大切な色やし、愛佳やったら自分のパワーが紫色に見えることだってある。

リゾナントでメンバーが使うマグカップは、それぞれの色が目印やった。
8個のマグカップを並べると、キレイな虹みたいに見えた。
だけどやっぱり、黄緑色がなくて、黄色のすぐ次に緑が来るのが何か納得いかない。
10色入りの色鉛筆にやってきっと、黄緑は入ってるはず。

それともう一つ、気になることがあった。
マグカップは、棚の中に3列で高橋さんからリンリンまで順番にしまってある。
1列目は、なぜか高橋さんのと亀井さんのとの間にスペースを空けて2個だけ。
しかも、真ん中に。両端とか奥とかが空いてるんじゃなくて。
道重さんのも1列目にすればええって思うのに、どうしてかそうならない。
高橋さんがそうやってしまってはったから、今も同じようにしてしまってある。


愛佳は、そんな些細なことがどうしても気になっていた。

でも、誰に聞いてみてもその理由を知らなかった。
知らなかったというよりも、誰も気になんてしとらんかった。
黄緑がないのなんて偶然かもしれないし、真ん中が空いてるのは高橋さんのこだわりかもしれない。

高橋さんが失踪して、もうすぐ1ヶ月。
愛佳にとっては高橋さんがいなくなった理由もやけど、このマグカップのことも重大なナゾ。


「何でやろなぁ」
「なにがー?」

8個のマグカップを眺めながら思わず呟いた声は、別の食器を棚に戻してた久住さんに聞こえたらしい。

「いや、なんで黄緑がなくて真ん中空いてるんやろって」
「またー? またその話ー?」

久住さんは心底呆れたように言う。
それもそのはず。たぶん、久住さんにはもう7回くらい同じ話をしてる。

今日は愛佳と久住さんとで閉店後のリゾナントの手伝いに来ていた。
田中さんにはもう、部屋で休んでもらってる。
毎日一人で頑張ってくれる田中さんへの、ささやかなお手伝い。


愛佳はマグカップをテーブルに出して、赤から順に紫まで並べてみた。
赤、ピンク、オレンジ、黄色、緑、青、紺、紫。
やっぱり気に入らなくて、黄色と緑の間に隙間を作って、
冷蔵庫にくっついていた大きめのキャベツ型のマグネットを間に置いてみた。

「ほらー。こうしてみると色合いキレイやないですかぁ」

片付けの終わった久住さんはどれどれと言いながら覗いてくる。
たぶん久住さんもそんな愛佳に遊び半分で乗ってきただけだったんだろう。
右手をマグネットにかざして、ある映像をその場所に念写した。

現れたのは、黄緑色のマグカップ。
そして9個並んだ色とりどりのマグカップ。

なぜか、愛佳も久住さんも、それを見て何も言えないでいた。


「…久住さん、愛佳、めっちゃビックリしたんですけど」
「うん、小春もビックリした」

馴染むはずのない黄緑色。9個という数。

「何でこんなに違和感ないんですかね…?」

そう。
記憶のどこかに、確かにこのイメージがある。
懐かしいとさえ思う。同時に、なぜか切なくもなる。

愛佳と久住さんは、8個とひとつのイメージを棚の中に戻してみた。
黄色とオレンジの間の空白に置かれた、黄緑。
驚くほどそれは自然に見えて、でもそれは自分の知るはずのない風景。

「…なんやろ、これ、めっちゃ知ってる気がするのに、全然心当たりがない…」

そう思うのは愛佳だけやない。久住さんも同じことを考えている。
胸の辺りがざわざわして、思わずシャツの裾をつかんだ。

「みっつぃ、今までバカにしてたけど」

久住さんは念写を解いて、マグネットを拾い上げた。
さっきまで以上に違和感を主張する空白。

「みっつぃの言うこと、正しいかもしれない。
 小春たちって、どこかに何か大切な物を置いてきてる気がする…」

もう、この空白は偶然とは思えなくなってきた。
だけど、何の手がかりもない。
愛佳も、久住さんも、そしてみんなも、何かを知らないでいる。



その日、愛佳はなんだか考え事して眠れないような気がして、
真っ暗な部屋で何度も寝返りをうちながら、ときどき天井を眺めていた。

「黄緑色って…いったい何なんやろ…」

古い昔のリゾナンターが使っていた色なんやろか?
それとも、未来のリゾナンターのために用意されとる色なんやろか?

「わからん…」

そのまま目を閉じると、意外なほどすぐに睡魔に引きずり込まれた。


浅い眠りの中で見た夢には、眩しいくらいの黄色い光。
あぁ、高橋さんやと、愛佳は一瞬で気づいた。
高橋さん、めっちゃ笑ってはる。すっごいいい笑顔。

リゾナントの玄関でみんなで並んで、その帰りを待っていた。
だんだん近づいてくる、愛佳たちを照らす光のパワー。

そして、その黄色に、そっと寄り添うように輝く黄緑色の光。
少しだけ遠慮しがちに顔を覗かせるその光に向かって、みんなで一斉に名前を呼んだ。


 『おかえりなさい、―――!』




「ああぁぁぁ!!!!!!」

布団をはねのけて飛び起きると、心臓がうるさいくらいにバクバク鳴っていた。
二、三度深呼吸して息を整えながら目を閉じる。

「……思い出した……」

黄緑色の光を纏って。
長い髪を風になびかせて。
いつだって笑顔でメンバーを包んでくれていた。

「…むしろ、なんで忘れとったんやろ…」

きっと、全ての真相はもうすぐわかる。
愛佳には、視えた。今の夢が、そう遠くない未来に現実になることを。


愛佳はケータイを握りしめ、久住さんに電話をかけた。

「愛佳、全部思い出しました。やっぱ大事な大事なこと忘れとったんです。
 皆さんにも説明しておきたいから、リゾナントに全員を集めてくれませんか?」

久住さんは電話の向こうでキョトンとしていた。
そう、今はこの名前を聞かされたところで、誰も何も気づけないはずなんや。

さっきの夢を、久住さんにビジョンとして創り出してもらうために。
そのビジョンから、みんなが大切なあの人のことを思い出してもらうために。


―――新垣さん。
あなたが戻ってくるその時は、全員で笑顔で迎えてみせます!