(26)207 『The Day Before』

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最近組織が騒がしい

理由は明らかで、リゾナンターとか言う対抗組織が力を付けてきて、何かにつけて
障害になるようになったからだ。

───リゾナンター。
アタシが前にいた組織の、生き残りを中心に新しく生まれた能力者部隊。
率いているのはあの高橋愛──i914。


組織が騒がしかろうがなんだろうが指令も出てない以上アタシには関係ないことで、
i914の他にどんなやつがいるのかよく知らないし、まぁお呼びが掛かったらちょっと
ご面相を拝みに行ってみるかね。

そんな事を考えながらアジト内をぶらぶらしてたら何か結界が張ってある。
それはほんとに微かな結界で、アタシじゃなかったらまず気付かなかったろう。
でもそんな結界だから破るのも簡単で、知らずに通ったら破ったことにも気が付かない。
とすると、これは侵入者を防ぐとかそういうのじゃなくて、知らないうちに誰かが入って
きたりしないようにするための警報みたいなもん。

それにしてもこんなめんどくさいことをしてるのは、、、ああ紺ちゃん、じゃない
Dr.マルシェの部屋か。またなんか怪しげな研究してるのかね。
結界張ってるってことは他人に見られたくないってこと。
まぁアタシなら警報鳴らさずに入るのも楽勝だ。ちょっと脅かしてやれ。


結界を破らないようにして中に入るとマルシェはなんかのレポート作成中だった。
お題は何?ふむふむ。「田中博士の研究およびその遺児について」か。
「ひょあ!?」
なんかずいぶん間抜けな声出してマルシェが飛び上がった。
ごめんつい口に出して読んじゃってたらしい。
「なんだ後藤さんかぁ。脅かさないでくださいよ。」
「ごめんごめん。脅かすつもりはなかった、いやあったか。はは」
「ていうかよく入れましたね。」
「結界のこと?こんなんチョロいチョロい。」
「あー、やっぱり後藤さんには利かないかぁ。まだ改良が必要だなぁ。」
そう言いながらマルシェは傍らの小さな機械を手にとって眺め回している。
どうやらその怪しげな機械が結界発生装置とみた。
「んで何してんのさ。ていうかあんた相変わらず『後藤さん』て呼んでるね。
一応コードネームあるんだけど。」
「つい昔の癖で。まぁ細かい事は気にしない。それともGさんて呼ばれたいですか?」
「あーそれは確かに響きがやだねぇ。アタシはじじぃにはちょっとなれない体質だし。」
「体質ですか。」
「んで結局何のレポートよ。ていうか田中博士って誰?」
「そうですね、後藤さんには知っててもらってもいいか。他言無用ですよ?」
「ああ、わかった。」

マルシェが話してくれたところによると、田中博士というのはあのi914の作成に重要な
役割を果たした人らしい。もちろんアタシの時にも係わっていて、そして最期は──。
「その博士が遺した一人娘が彼女です。どういう偶然か今はリゾナンターとして──」
モニターに映し出された少女の写真を見てアタシは息を呑んだ。
この目、顔立ち、あの子によく似てる。そして、そこに記された名前、田中、、

「──れいな──」

「そう、田中れいな。能力はリゾナント・アンプリファイアのみ。
ただし身体能力は飛び抜けていて、下級の戦闘員程度なら生身で倒せます。」
アタシの一瞬の動揺には気付かなかったようでマルシェはそのまま説明を続ける。
でも、その戦闘員とのバトルを映した動画を見てアタシは確信した。
あれは、あの戦い方は、アタシが教えたそのままだ。

「後藤さんに似てると思いません?」
不意にマルシェがそう尋ねた。まさか、何か知ってる?
「後藤さん──g923の研究データを自分の娘にフィードバックしてたらしいんですよ。」
「何?どういうこと?」
「博士が研究記録のほとんどを消去してしまったのではっきりとはわからないんですが、
どうやら他の能力者の力を非能力者にコピーする研究をやってたみたいなんですよ。
それに、どういう経緯か自分の娘を実験台に使った。i914を逃がしたことで自分は組織の
手にかかって亡くなることになったのもその事がきっかけだったようです。」
「──それで、その子にアタシの能力が?」
「残った記録の断片を必死に解析したんですがどうやらそうらしいですね。ただ、博士が
最後に能力を封印してしまったので、今はアンプリファイアの能力しか使えないみたい。」

「ほんとに、妹だったんだ──。」
「はい?まぁ妹みたいなものと言えるかもしれませんが、でもクローンとかじゃないから
血は繋がってませんよ?」
「あー、いやまぁ、はは。で、この子ほんとのところはどれくらいの力なのさ。その、
封印とやらがなかったら。」
「理論上は後藤さんと同じ力の筈です。まぁ今仮に封印が解けたとしても、力の使い方が
わからないだろうからしばらくは大した脅威にはならないでしょうけど。」
「──でも多分あの子なら、、」「え?」
「いや、アタシと同じタイプなら、勘がいい筈だからすぐに使いこなすだろうなって。」
「そうなんですかねぇ。」
「マルシェがさぁ、あっち側だった時にはもうこの子いたの?」
「いましたよー。あそこが崩壊して、まぁ犯人は後藤さんでけど、それから新たに集めた
中では一番古い方のメンバーじゃないかな。」
「どんな子だった?」
「そうですねぇ。まぁ最初から戦闘能力は高かったですねぇ。なんか100人だか200人だか
不良相手にケンカして全滅させたとか。メンバーになった時も最初はいつもピリピリして
触るとケガするぞみたいなオーラ出してましたけど、実は結構小心者なのを気付かれない
ように虚勢を張ってた感じですね、あれは。」
───ああ、そういえばそんな子だった。そういうとこは変わってないんだ。
「そうやって改めてみると、確かに後藤さん、雰囲気もれいなと似たとこあるような。」
「うん、実はさ、、、」「あ、ちょうどいいところに。あの人の方がよく知ってますよ。」
言いかけたアタシをさえぎってマルシェは入口の外にいる人影を指して言った。


マルシェが指した先にはいかにも戦ってきました、ていうかやられて来ましたってくらい
ボロボロになったミティ。

「あたしがどうかしたって?」
「なんだミティか。なに、またやられたの?」
「また、じゃねーよ。ったくあいつら加減てものをしらねーから9人で寄ってたかって。
こっちは一人だってのに。」
「いや普通は加減とかしないから。つうかアンタもよくやるねぇ毎度毎度正面から。
少しは悪の組織らしくなんかすればいいのにさ。」
「性に合わねーんだよ。ていうか作戦立てるのめんどい。」
「相変わらずですねぇ魔女さんは。」
「そんな訳だからマルシェ、ちゃっちゃっとケガと衣装治しとくれよ。魔女がボロ布着て
歩いてるんじゃ格好つかねぇ。」
「はいはい。まったく、こっちもあんまりヒマじゃないんですからねぇ。」
言いながらマルシェはミティを怪しげな機械に掛ける。前に持ってた治癒能力はどうやら
なくなったらしいけど、その代わりにこの機械を作り上げたらしい。
アタシは今んとこお世話になったことはないからよく知らないけど。
なんたってここ数年アタシに傷を付けるような相手と戦ったことがないからねぇ。

それにしてもミティだって別に弱くはない筈なのにここまで毎回こてんぱんにされるのは
向こうが大勢だからてのはあるだろうけど、向こうもそれだけ強くなったって事かな。
愛ちゃんはもちろん───
そろそろアタシが出てっても楽しめるかな。


「んで何の話してたのよ。」
治療中は暇なのか、機械から首だけ出した間抜けな姿でミティが話しかける。
「ぷっ」「ぁんだよ。」
思わず吹き出したら睨まれた。おーこわ。

「いやちょっと昔話をね。」
「はぁ?昔話ぃ?ああそういやおふたりさんは元は同じ部隊だったっけ。」
「なーにを他人事みたいに。ミティだって一緒じゃん。まあ独立部隊だったからうちらと
所属は違うけど。ていうかアレだよね。あの頃は藤本美貴っていったらそりゃ一匹狼って
感じで寄らば斬るぞみたいな雰囲気出しまくってたから、まさかアンタがよっすぃー達と
一緒になって戦ってたとは思わなかったさ。」
「あんたが本部ぶっこわすからじゃん。いくらあたしだってなんの援護もなしに一人じゃ
やってらんねぇよ。さてこれからどうしようかと思ってたところに一緒にやらないかって
よっちゃんに声掛けられたから。」
「ふーん。でも結局抜けてこっち来る時によっすぃー倒してきたんでしょ。ひどいねぇ。」
「っるさいな。だいたいあんたが」「まぁまぁまぁまぁまぁお二人ともここでバトルは
やめて下さいね。やるんなら外でお願いします。ていうかミティはまだ治療中なんだから
大人しくしてて。」「へーい。」
ちょっと雰囲気が怪しくなったところでマルシェが割って入った。
今は氷の魔女と異名をとるあのミティがマルシェには結構従順なのが面白いけど、2人が
あっちにいた時もこんな感じだったのかな。

「後藤さんが知りたいらしいですよ、れいなの事。」
マルシェが話を振って思い出した。そうそうあの子のこと。
「私より長くいましたし、当時一番懐いてたのはミティですから。」あーなるほどねー。
「れいなの事ぉ?なんでまたいきなり。」「それはですねぇ──」説明を加えようとした
マルシェをさえぎって言った。「──妹らしいんだよね。血は繋がってないけど。」
「はぁー?」素っ頓狂な声を上げるミティ。そりゃそうだよね。
「れいなのご両親が後藤さん」「いやそれもあるけど」もっかいマルシェをさえぎる。
「同じ施設にさ、いたみたいなんだよねどうも。」
「「はぁーー??」」今度は二重唱。まあそりゃそうだろうさ。


「──という訳なのよ。」とりあえず一通り説明した。
組織から逃げ出して拾われた養護施設のこと、そこで会った弟や妹。
中でも可愛がってた4つ年下のあの子。
マルシェはなんか頷きながら聞いてたけど、ミティはなんか複雑そうな顔してるね。
「や、まぁ特にあたしから話すことはないよ。話聞いたら今も大して変わんないし、
そしたらあんたの方がよく知ってるじゃん。」その微妙に不機嫌な顔は、、。
「ヤキモチですか?ミティ。」「バっ!」
マルシェの指摘にバカな!って言おうとしたんだろうけど顔が真っ赤だ。へへー。
「結構可愛がってたんだー。今じゃ冷酷な魔女の振りしてんのに、意外だねー。」
「るせぇ。ていうか、どうすんだよ。今はモロに敵同士じゃんか。」
「どうするって──」
どうしたいんだろうアタシは。
れいなの消息がわかって、そして────。

出来ればもう一度会いたいと思ってた。父さん母さんに引き取られた後も、M。で正義の
味方として戦ってる時も。
そして、再びダークネスの一人となった今も。
会って、またあの花火の時みたいに色んな事話したいと思う。

けど。


答えは考えるまでもなく決まってる。
今のアタシはダークネスの「G」、GenociderのGだ。
かつて妹だったとしても、リゾナンターに居場所を見つけたらしいあの子は今のアタシを
決して許さないだろう。そうでなくちゃ困る。
それに、実はそんな力を持ってるんなら、それはぜひどうにかして封印を解いてやりたい。
解いて、全力で向かってくるあの子と、そしてもう一人。アタシの人生を2度も変えた、
言わばライバルって奴?まあ彼女のせいじゃないのは勿論わかってるさ。

「戦うよ、アタシは。」

マルシェの顔が曇るのがわかった。アンタもなんだかんだ言ってあの子らが心配なんだね。
ミティはといえば、これは割と普通の顔で。
「あんたならそう言うだろうと思ったよ。」
「あらそう。ていうか、いいの?殺しちゃうかもしれないよ?」
「ダメって言ってどうなるよ。それに、あの子捨てて敵に寝返ったあたしがとやかく言う
ことじゃねーし。」
「あー。そっかー。」
「そっかじゃねーよ。ったく。」
呆れたように言う。まぁそれだけ馴染んだ相手と何度も戦ってるのが彼女だ。
本気でぶつかり合う者として思うところはあるんだろう。
「ちょうどいいよ。愛ちゃ、タカハシがどれくらいの力になってるかも知りたかったし。」


マルシェの部屋を後にしてアジトの外に出たらすっかり夜も更けていた。

とりあえず明日宣戦布告に行ってこよう。ついでにちょっと遊んでくるか。
れいなの力が封印されてるんじゃ2人と本気のバトルは出来ないかもしれないけど、でも
そこそこは楽しませてくれるよね?

満月に1日足りない月が既に空のてっぺん過ぎたのを見上げてアタシは呟く。

「待ってな。2人とも。」

さ、明日は感動の再会だ。なんかワクワクしてきたぞ。





                  (11)085『Air on G - 3. moments-』に続く