(28)334 『03.声も聞こえない豪雨の中で』

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傘の中に入ったら、愛ちゃんは何かを考えるようにじっと水溜まりを見つめていた。
これからどうする気なんだろう。
瞬間移動を使えばすぐだけど、私を家まで送ってくれるつもりなんだろうか。

「愛ちゃ…」
「今日はうちに泊まって行きなよ」
「え?」

予想外の言葉に、私はただ愛ちゃんの横顔を見ることしか出来なかった。

「雨強くなるだろうしさ、ガキさんちよりうちのが近いやろ」

「傘も一本しかないし」と言って笑う愛ちゃんは、さっきから一度も私と目を合わそうとしない。

能力を使いたくないんだね。
疲れるからとかじゃない。
愛ちゃんが私の為に能力を使うことに何の抵抗もないことは
過去の経験で十分分かっているつもりだ。
それなのに能力を使わない理由は一つしかない。

「うん、じゃあ…お邪魔しようかな」

リゾナントに帰るまでに、私と話をするつもりなんだよね。
そうでもしないと、私がまた一人で悩みを抱え込むって、そう思ったんでしょ?


「本当にええの?」
「愛ちゃんが誘ったんでしょーが」
「いや、まぁ、そうなんやけど…」

あっさり私が返事をしたことにびっくりしているのか、
今度は愛ちゃんが何も言えなくなっていた。

いいんだよ。
それなら私も気付いてないフリをするから。

こうでもしないと、私も真実を話せそうにないし。
珍しい愛ちゃんからのお誘いだ。
何としてでもリゾナントに着くまでに話さなきゃ。

「ほら、行こ?」
「あ、うん」

口を開いたり閉じたりしながら、私の顔を見たり水溜まりを見たりキョロキョロしている
愛ちゃんの手を引いて、私は今歩いてきた道へと回れ右をした。

「あ、れーなからメールや」
「何だって?」
「今みんなで帰ってきたみたい。今日は二人も泊まるんやって」
「そりゃこの雨だしねぇ」

私は努めて普通に接した。
愛ちゃんといつもみたいに話がしたかったから。


「ちょっと持って」
「ん」

愛ちゃんから傘を受け取り、少し考えてから傘を愛ちゃんの方に傾けた。
私は傘を差すのが得意ではない。
だからせめて、愛ちゃんだけでも濡れないように。

そのままの姿勢で、愛ちゃんが田中っちに返信するのを待った。
こんな日常も、もうすぐ終わってしまうのか。

「ありがとう」

メールを打ち終わった愛ちゃんが傘を持とうと手を伸ばしてきたけど、
私は傘を渡そうとしなかった。

「ガキさん?」
「え、あ、ああー…わた、私に持たせてくれないかなぁ?」
「…別にええけど…傘差すの嫌いじゃなかった?」
「今日はほら、迎えに来てもらったし」
「そんなんいいのに」

困ったように愛ちゃんは笑った。
我ながらわけのわからない理由だと思う。
本当はもう少し傘を差してあげていたいと思っただけ。
だけど、そんなことは言えないから。

「じゃあ行こっか」
「うん」


今度は愛ちゃんの号令で私たちは歩き出した。
しばらく黙ったまま歩いていたけど、
さっきから愛ちゃんが落ち着きなくこっちを見てくる。

「何?」
「あ、いや、ちゃんとガキさんも傘の中入っとるんかなと思って」
「大丈夫だよ」
「ならええんやけど…」

言葉を発しながら、今日は嘘をついてばかりだなと思った。
この調子で本当に真実なんて話せるのかな。
心配してくれる愛ちゃんにも申し訳ない。
今日の自分の言動を思い出すと、自然と口からため息が零れた。

「ガキさんが泊まりに来るの、久しぶりやね」
「そうだっけ?」
「うん、なんか最近忙しそうだったからさ」
「…ごめんね」

ほとんど無意識に呟いた謝罪の言葉は、何に対するものなのかもわからなかった。
謝らなきゃいけないことなんて、たぶん、きっと、たくさんあるけれど。

「ねぇ、愛ちゃん」
「ん?」

その中でも、やっぱりこれだけはちゃんと謝りたいから。

「私、話さなきゃいけないことがあるんだ」

意を決して、私は真実を話すべく口火を切った。