(28)541 『04.寒さに身を寄せて』



「話?」
「うん…」

思い切って言ったものの言葉が続かない。
私、実はダークネスなんだ。
この一言が、言えない。

私が話し出すのを愛ちゃんは黙って待っていた。
さっきより雨が強くなっている。
この静寂が、雨音だけの世界が、私を焦らせる。

「あの、ね…」

早く言わなきゃ。
愛ちゃんが待ってる。

本当に言うの?
だって、言ったらもう…私たちは…。

「え、ちょ…ガキさん!?」
「え…?」

愛ちゃんに指で目元を拭われた。
私…泣いてる…?

「どうした?大丈夫?」

離れたくないよ…。
ずっと、みんなと居たいよ。


「ガキさん」
「ごめん、ね…」

話を聞く為に、探しに来てくれたのに。
ずっと待ってくれてるのに。

「そんなんいいから。…ゆっくりで、ええから」

愛ちゃんの言葉に、私は静かに頭を振った。
ゆっくりじゃいけないんだよ。
朝になったら私は行かなきゃいけないんだから。
なのに、言おうとすればするほど、涙が溢れてくる。

「今、話さなきゃ駄目なの?」
「うん」
「でも話せないの?」
「うん」

上手く声が出せない分、私は大きく頷いた。

「私に話したいこと?」
「そう、だよ…」

もっと顔が見たいのに、涙でぼやけて見えない。
もっと声が聞きたいのに、雨音がうるさくて聞こえない。

今のうちにその温もりを感じておこうと、私は愛ちゃんにくっついた。
言ってしまったら、もう二度とこんな近くにはいられないから。


「じゃあ、私が聞いたるよ」
「え?」
「ちょっとだけ、私に聞かせて?」

愛ちゃんはそう言うと、傘を持つ私の手に左手を重ねた。

「愛ちゃん?」
「ちゃんと、それだけ聞くから」

私の気持ちを読み取るってこと?
私の目を見て一度だけ頷くと、愛ちゃんはそっと目を瞑った。

どうしよう。
愛ちゃんが待ってるから早くしないと…。
ってこれも愛ちゃんに伝わってるのかな。

「ん、もういいよ」

私が一人でドキドキしていると、愛ちゃんが手を離した。
え、もういいの?

「ずっとそのことばっかり考えとったやろ」

私がぽかんとしていると、愛ちゃんは困ったように笑った。


「読み取ろうとせんくても、すぐに飛び込んできたで」
「え…本当に?」
「うん」

なんだか恥ずかしくなって、私は何も言わずに俯いた。
それを見て、愛ちゃんは楽しそうに笑っている。
なんで愛ちゃんはそんなに普通にしていられるの?
私が言いたかったこと、わかったんでしょ?

「ありがとう」

愛ちゃんの言葉に、私は思わず顔を上げた。

「本当のこと話してくれて、ありがとぉ」
「愛、ちゃん…」

愛ちゃんは私の顔を見なかった。
言葉の最後が揺れていた。

「ごめん…」

愛ちゃんが静かに泣いているのを見て、私はぎゅっと唇を噛み締めた。



最終更新:2014年01月17日 16:32