(29)073 『光の抗争-3-』



        ◇◇


 森の中を走り抜ける少女。その少女を必死に追う村人たち。

 村にある一軒の家屋が火事に遭った。
 村人たちはいきなりのことに戸惑い、その家屋にいた住民を助ける。
 そして消火活動をし、村人たちは終わった後に広場に集まった。

 何故だ。いきなり火事が。どうして。どうやって。誰が…?
 あいつだ。あいつがやったんだ。変な力を使いやがって。気味が悪い。

 少女は村人たちの声を聴いた。殺されると思った少女は森のほうへと走っていった。
 行先はあの崖。白い十字架のある場所。

 しかし村人が追いかけてくる。鬼のような形相で、鎌やナイフを持って追いかけてくる。
 少女は必死に逃げていると、前のほうから光が漏れてくるのが見えた。
 もうすぐだ。もうすぐで、あの十字架がある場所に辿り着く。

 けれど村人たちは分かっていた。少女がいつもどこにいるのか。
 あの崖だ。あの十字架がある場所だ。


 白い十字架。
 それは少女の母が、ひっそりと眠る場所。


        ◆◆


街中に佇む小さな教会。
教会に近づき、扉に手をかける。


ステンドグラスから降り注ぐ、月明かりに照らされた色とりどりの光。
暗く、異様な不気味さを保ちながら、なぜか血の匂いがした。

一歩ずつ踏みしめながら、大きな十字架がある場所へと近付いていく。
血の匂いは濃くなっていくばかり。

ふと、十字架の真下で倒れている人を発見する。
顔がよく見える位置まで移動した。


「っな……」



そこには、”天使”という異名で呼ばれていた彼女の、血に染まる姿があった。


        **


その手に握るは闇を斬ってきた刀。
高橋は、刀を再度握りしめ、後藤の前に立ち塞ぐ。


 「…ねえ、高橋は知ってるっけ?この白い十字架の、本当の意味を…」


先ほどまで戦っていた二人は距離を開けた。
後藤は血に染まった右手で十字架を指差し、高橋に問いかける。


 「…“共鳴の監獄”」


“共鳴の監獄”
共鳴者しか収容することができず、共鳴者専用の処刑台が設置されている監獄。
その処刑台は十字架の形をしていて、意味は光を掲げる神を葬る場。
それはさながら、かつてのイエス・キリストのように処刑させる為…
悲しみを和らげ、光を宿す共鳴者。闇にとってそれは単なる悪でしかない者たちを処刑させる場所。


 「よく覚えてるねー。でも、満点じゃないね。もっと簡単に言えるのにさ」
 「…なんや」
 「おー、こわっ。しかも一応先輩なのにさー、ごとー悲しいなー」
 「もったいぶっとらんで言えばええやろっ」

 「……共鳴者は、本当は世界の敵だってことさ」

 「なんやって…?」
 「ただの人間から見れば、共鳴者だって能力者だし、闇の住人だって同じ能力者。
  能力者同士の中で光と闇に別れていても、所詮人間からしてみれば同じ能力者なんだよ。
  人間は自分と違うものを見つければ、すぐに異端だって言うからね。昔の魔女裁判とかそうでしょ?火あぶりの刑とか、あれエグイよねー」
 「っだからなんや!」
 「だーかーらー、…所詮、人々を助けてあげる共鳴者は異端の存在なんだよ。
  人間に見つかったら、すぐに排除されるような存在。闇があるから、光は正義という名の偽善を掲げることができるんだよ。
  悲しい運命だよねー、光は闇がいないと、異端にされちゃうような存在なんだからさー」

 「かわいそうに。そんな世界を救おうとしてる高橋たちに、同情するしかごとーはできないけどね」

 「そんな中でよく、人間を助けようと思うよ」


一瞬、心が傾いだのは、気のせいだ。
よく見ろ。前をしっかりと見すえろっ。倒すべき相手は、目の前にいる奴だけだ…!


 「愛だの、仲間だの…よく言うよ。
  どれもすべてが、夢の中。思い込んでるのは、共鳴者と呼ばれるキミたちだけだ。
  現実を見たら?周りをよく見てみなよ。作ろうとしているキッカケすら、無駄な努力だよ」


刀を握り締める手が緩んだ瞬間、後藤はいつのまにか目の前まで距離を縮めていた。
そして血に濡れた後藤の拳が、高橋の腹に一撃を入れる。

力の赴くままに、そのまま高橋は後方へと吹っ飛ぶ。床に激突した瞬間、口から吐かれる赤い液体。
視点が定まらない。手が動かない。足も、身体全体が動かない。

手から離れた愛刀は遠くにあった。


近づいてくる気配と聴こえてくる足音を頭では分かっているのに、身体が動こうとしない。
声を出そうとして、さらに血を吐く。


 「……異端の存在、偽善の共鳴者。…高橋、キミの掲げていた正義は、世界を救えないなー…」



暗転する直前に視界に映っていたのは、かつて、尊敬していた先輩の面影などまったく無い、別人だった――――



最終更新:2014年01月17日 16:41