(29)523 『絶対解ける問題 X=Y+T(1)』

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20090304 18:38 S区地下、『組織』のラボ

 >警報発令、警報発令、ウィルス実験棟より被験体が一体逃走
 >警備部隊はただちに配置につき捕獲、もしくは処分されたし

「隊長、警報です!出動願います」
「ちっ、んだよ!うっせーなぁ」

S区地下ラボ警備隊詰所の中にあるトレーニングルーム
『隊長』と呼ばれた金髪の女性はもろに不快な顔をしてトレーニングマシンから腰を上げ、
雪のように白い肌に不似合いな鍛え上げられた身体に滴る汗を隊員から渡されたタオルで拭う

「やっほー、よっちゃん。今の聞いたでしょ?捕まえてくれる?」


トレーニングルームの壁にあるモニターが点灯し、白衣の女・・・Dr.マルシェが
気の抜けたような声で『隊長』と呼ばれた女にモニターの中から語りかける

「捕まえてくれる?じゃねーよ!一体何やってんだこのボケが!」
「いやぁ~ゴメンね~、回収されてきた『A』の処置で目を離してたら逃げちゃってさ」

モニターに向かって怒鳴り散らす『隊長』をいなすように淡々と説明を続けるマルシェ

「逃げたのは獣化レトロウィルスの被験体。元は大したことない末端構成員だから獣化してもよっちゃんなら余裕で倒せる
 と思う。」
「あったりーめだ!俺を誰だと思ってる?『ガッタス』の隊長、吉澤ひとみ様を舐めんじゃねー!」

再びモニターに向かって怒鳴った後、S区ラボ特殊警備部隊『ガッタス』の隊長、吉澤ひとみは
ふぅ、と息を整えて言葉を続ける

「でもまぁいいや、丁度退屈してたところだ。久々に一丁暴れっとすっか!いくぞお前ら!」

モニターのマルシェに向かってニヤリと微笑みかけた後、吉澤ひとみは指をボキボキ鳴らしながら
部下を率いてトレーニングルームを後にした


「隊長!」
戦闘服に着替えた吉澤ひとみに隊員の一人が早足で駆け寄る
「おう、状況は?」
「ゲートを固めていたセンゴク隊が被験体の迎撃に失敗しました!」
「なぁにぃ~!・・・ってことは・・・おい!」
「はい、被験体は市街に逃亡、センゴク隊、ノト隊、サワ隊で区内の捜索を始めています!」
「あんのバカども、勝手な真似を・・・俺も行く!コレナガ!ラボ警備の指揮は頼む。マルシェにも言っといてくれ」
「はっ、お気をつけて・・・アウトブレイク警報!マノ隊はセンゴク隊の穴埋めでゲート守備、他の部隊は通常警戒!」

『コレナガ』と呼ばれた副官は慣れた様子でキビキビと働く

「隊長、私も行かせて下さい!」
ゲートから出撃しようとする吉澤ひとみに駆け寄る黒髪の少女
「マノ・・・コレナガの指示を聞いただろ?お前はゲート守備の指揮だ」
「でも私!」
「口応えすんな!」
吉澤の平手がバシッ!と黒髪の少女、マノの頬を叩く


「いいかマノ、このラボの守備はすんげぇ重要な仕事なんだぞ。
 ここを守る意味ってのは組織の秘密を守るってことだけじゃないんだ」

マノの両肩をガシッと掴みながら吉澤は語り続ける

「もしラボの中のバケモノやウィルスが街に溢れ出したらどうなると思う?罪も無い人達が
 危険に晒されるんだぞ」
「でもそれを作っているのは組織です!そんなの・・・」
「闇にも闇のルールってもんがあんだろうが!組織の他の連中はどうか知らねぇが俺はそう思ってる」
「隊長・・・」
「頼んだぞマノ、組織の為にも、みんなの為にもここを守ってくれ」
「・・・はいっ!私、頑張ります!」

シュッと手を振って走り出す吉澤
敬礼で見送るマノ
そして・・・

「一番外に出したくないバケモノを警備隊に入れとくって我ながらいいアイデアよね~」

紅茶をすすりながらモニターからその様子を見るDr.マルシェ


「探せ探せ!足を止めるな!何としてでもウチの隊が捕まえるんだ!」

『被験体』を取り逃がしたセンゴクミナミは焦っていた。
この失態は自分達の手で始末を付けなくては吉澤隊長に顔向けできない

結果、可能な限り秘密裏に動いているノト隊、サワ隊に比べ、この必死なセンゴク隊は
一般人に「獣を見ていないか?」などと半ば脅すような口調で聞いて回り、いささか街中では
目立ってしまっていた

血相を変えて何かを探している目立つ一団
そして反対側の通りから駆け出してくる、これまた血相を変えて何かを探している目立つ少女

擦れ違おうとする両者

隊員の一人がその少女の肩を掴み、巻くし立てる

「大型の獣を見ませんでしたか?もしくは破れた服を着た怪しい男を!」
「何ねアンタ達は!あ、パンダみたいな獣を見なかったと?もしくはこの写真の子達を見かけた人はおらんと?」

「パンダ・・・?この写真は・・・」
「ん?何ね?獣?・・・」

「アンタら、まさか!?」
「センゴク隊長!リ、リゾナンターですっ!」


「もしもし?あ?・・・何ぃいいいい!?」

街中で突然、携帯片手に大声をあげた金髪の女性に驚く人々

「センゴク隊が壊滅状態だぁ?、被験体の獣人ってのはそんなに強いのか?
 聞いてねーよマルシェぇえ!えっ?やったのは被験体じゃないって?」

そこから少し離れたところでざわつく若者の一団

「あっちで女のヤンキーと自衛隊みたいのが喧嘩してたぞ!」
「何かヤンキー強ぇって!1人で10人ぐらい次々に・・・」
「マウントポジションでフルボッコとか・・・」

「おい!お前ら!そのヤンキーと自衛隊ってのはどこだ!」
「ヒッ!またヤンキー!」

突然金髪の女性に襟首を締めあげられる若者


「ジュンジュンとリンリンはどこね!」
「知らん!離せ!今はそれどころじゃない!」

戦闘服の女:センゴクミナミに馬乗りで問い詰める
ヤンキー:田中れいな

「こっちもそれどころじゃなかとよ!さゆにもえりにもずっと電話は
 通じんし・・・まさかそれもアンタらの仕業か!」

ポコポコと上からセンゴクを殴りながら捲くし立てるれいな

「うわっ、ぶっ、いいからこっちの、イテっ、話を聞け!保菌者が逃げ出して・・・」

キャーッ!

遠くの方から聞こえた悲鳴に一瞬硬直する両者
暫くして、通りの向こうから大勢の人々が何かから逃げだすように
一斉に走ってくる

「怪物だぁ!」
「何か熊みたいのが、熊みたいのが人を!」
「警察!誰か警察!」

「な、何ね一体・・・」
「だからぁ!バケモノが逃げたんだよっ!」

一瞬油断したれいなを撥ね退けて起き上がり、ヘッドセットのレシーバーで連絡するセンゴク

「本部、銃器の使用許可を!のっち、さわちゃん、ウチの隊、壊滅状態だから応援ヨロシ・・・」


バシャッ!

れいなの顔に生暖かい何かがかかる

「何ね!もう!」

手で拭った「それ」を見るれいな

「って・・・!!!」

れいなは直ぐに前を見る、本能的に

目にしたのは、日常の中に挿入された惨劇
それまで「センゴク」だったものの首から噴水のように噴き出す血
横を見れば、潰れてビルの壁に張り付いたセンゴクミナミの頭

そして血の噴水の向こうに直立する、巨大な獣