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54 名前:17:00時の女の子 結[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 15:27:07 ID:KrQclMBs [2/13]
17時の女の子は、その日から来なくなった
代わりにくるようになったのは、17時に鳴り響く電話のコール音
「もしもし」
『おにいちゃん、わたしだよ』
「はいはい、ミユだね。いつものことだから言わなくても分かってるよー」
そうして、その日にあったことを嬉しそうに俺に報告する
友達とおしゃべりしたこと。俺たちがプレゼントしたゲームの進行状況。それを新しくできた友達とやった、とかその他色々
京都に行って、ミユは社交的になれたみたいだなと、なんだか俺まで嬉しい気分になってくる
でも、これは電話だ。いつまでもおしゃべりしているというわけにはいかない
今ミユは恵理子さんの実家に住んでいるらしいし、そうすれば恵理子さんの両親もいることだろう
いつまでも俺がでしゃばっていていいはずも無いな
「そろそろ切るよ。兄ちゃんもご飯作ったり、風呂入ったりしなきゃいけないしね」
『えっ!? まだいちじかんしかはなしてないよ、もっとおしゃべりしようよ!』
「でも、ミユのお爺ちゃんやお婆ちゃんもいるでしょ? ずっと兄ちゃんと話してたら怒られちゃうよ」
『………うん』
「じゃあね。あと、兄ちゃん来週までずっとお仕事だから、水曜まではちょっとお話できないよ」
『………おにいちゃん、いつあいにきてくれるの?』
「う~ん。まだちょっと分からないな。でも、そのうちにきっと京都に行くよ」
『はやくあいたいよ。また、おひざにのってあそびたい』
「いつか行ける日が決まったらまたミユに教えるよ。だから、今日はもうバイバイな」
『じゃあね、おにいちゃん』
俺は、だんだんとミユと疎遠になっていった
ミユのことが嫌いになったとか、忘れてしまったと言うわけじゃない
ただ日々の忙しさに追われ、以前のように直接会っているわけではないミユと接する機会が減ったというだけの話だ
休みの日はこうして電話もする、でもそれも何時間も話しているということは無い
ミユはいつももっと話したがるけれど、俺はこれでいいと思っている
京都の中学ではミユも何人か仲のいい友達ができたと何度か聞いている
だから俺のことは仲の良かった兄ちゃんだと思って忘れてほしい………はやっぱり寂しいから、思い出にしてほしい
それがミユのためにもなるし、あちらのご家族にも心配をかけないことになるだろう
それからしばらくして、俺はもっとミユと疎遠になるようなことが起きた
55 名前:17:00時の女の子 結[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 15:27:43 ID:KrQclMBs [3/13]
「その冷蔵庫は三階売り場の面点にして! それから42番の照明器具売り場は電球切れてたから誰か補充に行って!
……大変お待たせいたしました、わたくしが店長の―――あっ、し、失礼します。もう少々お待ちください
ちょっと何やってんの!? なんか割った音が売り場まで聞こえたけど……あーあーあー、替えの電球割っちゃったのか
それじゃ清沢さんと三井さん売り場出て。俺はちょっと電球買ってくるよ。ああ、逸れは店長じゃなきゃ駄目なんだ
お金の管理もあるしね。あとごめん、お客様待たせてるから速く出てね。それじゃ行ってくるよー」
もう、うちの電気店は毎日がてんてこ舞いの忙しさ
前店長が人事移動でいなくなった代わりに、新たに正社員に雇用された俺が店長に就任することになった
………んだけど、バイトなんかじゃ考えられないほど毎日が忙しく、朝早く出勤して帰るのは夜中
面倒くさくなってスタッフルームに泊り込むことも珍しくない
休みは一週間に一回、なんだけど休日に呼び出されることもザラで、あまり休んでいるとは言い難い
それでも明日はお休み。しかも本社から明日だけは俺への取次ぎを社に回すようとの命令が出た
たぶん過労死するんじゃないかと思われたんだろうなぁ
「店長、お疲れー」
「うい、お疲れー。俺明日休みだからしっかり店見ててくれよ」
「へいへい。で、店長は今日どうです? 久々の休みを祝って飲みに行きません?」
「いやぁ。俺は模範的店長だから、仲間の誘いを断ることはできないなぁ」
そうして3件を仕事仲間と梯子して、六日ぶりの自宅に帰ったのは日付もとっくに変わった午前二時
そんなこんなで家にはロクに帰っていないし、携帯の番号は教えていないからミユとはもう一ヶ月くらい話していない
お別れ会の時に教えようと思ったんだけど恵理子さんにこっそり頼まれて教えるのは止めた
何で教えないほうがいいのかとは思ったが………今日、眠気をこらえながら留守番電話をかけてみて、ようやく思い知った
[コレマデニ オアズカリシテイル メッセージハ 73ケンデス
1ケンメ サイセイヲカイシシマス
どうしていつもいないの? おはなししようよ。おにいちゃん、ねえ、いないの? でんわでてよ
わたしはいつでもいいよ。あさでもよなかでもいつでもいいよ。おにいちゃんのこえがききたいよ
おにいちゃん、おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおに
ピーーーーーッ 2ケンメノ メッセージヲ サイセイシマス
おにいちゃん、さみしいよ。わたしのことみすてないでよ。だいすきなんだよ
おにいちゃんがきてくれるのをまってるんだよ。でんわをかけてくれるのをまってるんだよ
はやくしてよ。おにいちゃんがいなきゃ、わたしもうだめなんだよ。わたしはおにいちゃんがだいす
ピーーーーーッ 3ケンメノ メッセージヲ サイセイシマス]
留守電からとうとうと流れてくるメッセージ
それを聞いていると、なんだか仕事疲れと酒と相まって胃が痛くなってきた
56 名前:17:00時の女の子 結[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 15:28:19 ID:KrQclMBs [4/13]
この留守電もう止めたほうがいいんだろうか
そうは思っても、ミユが一生懸命吹き込んだメッセージを無碍にするのも気が引けて、ついつい聞いてしまう
それでももう71件は聞いたし、最後まで聞いてみよう。そんで、明日はちゃんと電話に出てあげよう
そのときは、俺はまだそう思っていた
[ピーーーーーッ 72ケンメノ メッセージヲ サイセイシマス
…………………………………………………………]
ん? なんだ? 故障か?
ああ、これはミユじゃなくて他の人が電話番号間違えてかけてきたってやつかな?
[………おにいちゃん、わたしのこと、きらいになったの?
わたしはおにいちゃんのことがだいすきなのに。あいしてるのに。
おにいちゃんがきてくれないなら、わたしがおにいちゃんのところにいくね
もう、ぜったいにはなれな]
え………なにこれ
声のトーンが全然違う。舌っ足らずな口調はそのままだけど、沈んだトーンがミユとは思えない声になってる
それに、行くってどういうことだ? 恵理子さんが連れてきてくれるってこと?
[ピーーーーーッ 73ケンメノ メッセージヲ サイセイシマス
菊池恵理子です。突然申し訳ありません。じつは昨日から美幸がいなくなってしまったんです
警察には通報したのですが、とても心配です。美幸と仲良くしていただいていたあなたなら
どこか美幸の行きそうな場所を知ってるのではないかとお電話させていただきました
もしも行きそうな場所に心当たりがあるなら、ご連絡いただきたく思います
それでは失礼します
ピーーーーーッ メッセージ サイセイヲ シュウリョウシマス]
日付を見るとこの連絡が来たのは三日前
そんで、もしもミユが見つかっているなら絶対に連絡が来ているはず
そこは間違いない。恵理子さんはそういうところはすごくマメな人だ。連絡漏れは十中八九考えられない
心当たりという問題じゃない。どうやってかはわからないけれど、ミユはここに来ようとしている
それを早く恵理子さんに伝えなきゃ。そう思って受話器を取るが、どうやら俺自身の限界が来たらしい
酒が頭にもすっかり回って、さっきから世界がぐるぐる回って見える
ちくしょう、こんなに飲むんじゃなかった
俺が意識を手放して床に伸びる前に、無意識にそんなことを呟いたような気がした
57 名前:17:00時の女の子 結[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 15:28:35 ID:KrQclMBs [5/13]
ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン
二日酔いの頭に、連続して鳴るチャイムが響く
なんなのよもう。新聞はいらないよ、洗剤も野球のチケットつけても無駄だかんなぁ……
だいたい今何時よ。日がまだあんま出てねーぞ。常識の無い新聞屋だ
えっと……んだよもう、まだ5:00じゃねーか。せっかくの休みなんだから10:00まではグッスリとだなぁ
………5時?
あっ、と声が掠れた喉から出る
ちょっと前まで、[午後5時]に鳴ってたチャイム。それが同じように[午前5時]に鳴っている
どうして来れたのか。どうやって来たのか。そんなことを考える前に、俺は反射的にドアを開いていた
「おにいちゃん、あそぼ」
髪はぼさぼさ。デザインが変わったブレザーも中のシャツも土や埃まみれ
それでも嬉しそうに微笑む、よく見知った女の子が、玄関先で待っていた
「み、ミユ……お前、どうやってここに………?」
「おこづかいあつめて、でんしゃにのったの。でも、とちゅうでおかねなくなっちゃったから、あるいてきたんだ」
「歩いてって……三日間もか?」
「うん。おなかすいちゃったけど、おにいちゃんにあいたかったから、がんばったんだよ」
「…………」
明らかにミユの行動は常軌を逸している。俺はただミユが寂しかった頃にいっしょに遊んでいただけの友達
それをこんなに思いつめるなんて、絶対におかしい
でもそんな理屈はどこかに吹き飛んでしまい、ドアに飛びついた時と同じように、俺は反射的にミユを抱きしめていた
「………ごめんな……俺、駄目な兄ちゃんだな……」
「そうだよ。わたしをほっといたら、ぜったいにだめなんだよ」
「……ごめん。今から朝ごはん作ってやるから、もう少し待ってくれな……」
「わたしおなかぺこぺこだから、いっぱいたべるよ」
「ああ」
ミユをシャワーを浴びさせてやり、その間に俺は米を研ぎながら考える
俺の、言うなればほんの一時の気まぐれのせいでミユはこんなに思いつめてしまったんだ
だったら、俺は今回の件の責任を取る必要があるんだろう
恵美子さんやあちらのご家族には何と言われるだろうか。許してもらえないかもしれない
職場はあるんだろうか。せっかく正社員になれた慣れ親しんだ職場を離れることにも抵抗がある
それでも、俺はもうミユを放ってはおけない。俺もなるだけ早く京都に引っ越そうと思う
なによりも、ミユの足でも数分か数十分で到着できるアパートを借りなくちゃな