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410 :ホワイトD-A ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/03/14(水) 23:52:19 ID:KXW/9q8H  アパートを見上げていたツインテールが振り向く。やけにゆっくりと見える動き。 鎖が少しだけカチャリと音を立てる。その目が俺を捕らえて一瞬遅れて認識した 光が宿る。振り返った時揺れた髪が静止する。  そして首輪をした少女は深い笑みを浮かべると口を開いた。 「お久しぶりです」  続いて傍らの少年が振り向く。俺を一瞥して少女に何か囁く。と、少女は 安堵したような笑みを浮かべてありがとうと小さく呟き、少年の首もとに軽くキスした。 「お姉ちゃんが……いえ、姉が今夜伺うと思います」  ツインテールは笑顔で言った。 「ちゃんと待っててあげて下さいね」  それだけ告げると2人は去っていった。  2人が見えなくなると俺ははじかれたように走り出した。  階段を一気に登って部屋に入って鍵をかける。  なんて言った。今あいつはなんて言ったんだ。  「姉が今夜伺うと思います」  姫野亜弓が……来る?  来て……何をするんだ?  とりあえず自分がすべきことが逃走だということは混乱した頭でも理解できた。 411 :ホワイトD-A ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/03/14(水) 23:54:02 ID:KXW/9q8H  ピンポーン  チャイムの音に俺は固まる。今夜って言ったよな?今夜ってことは夜で今はまだ 午後3時でお世辞にも夜じゃないな??  大きく深呼吸をして落ち着いてから応答するために鍵を開けようと手をかけ  カチャリ  鍵が独りでに回った。 「やめろ!!」  反射的にノブを掴んで開かないように精一杯引く。祐人、私の力じゃ開かない という声がしてドアを開けようとする力が消えた。  と、一瞬すごい力で引かれてドアが開け放たれる。 「疑う訳じゃないですけど一応念の為逃げられ無いように祐人おいていきますね」  立ちつくす俺の横をすり抜けて真弓と祐人が入って行く。逃げられ無い。動けない。 「鍵……どこで」 「鍵ですか?姉に借りました。じゃあ私はこれで失礼します。  祐人に手を出したら許しませんからね」  背後で金属音がしたあと俺を軽く睨むと真弓は帰っていった。 ■■■■■■ 412 :ホワイトD-A ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/03/14(水) 23:55:33 ID:KXW/9q8H ■■■■■■ 「祐人っていうのか」 「はい。身分は真弓の恋人です」  することが無い、というよりは何をしたら良いかわからなかったので 首輪をした少年に話しかけた。今は彼の首輪から伸びる鎖はどこにも繋がっていない。 「俺はどうなる」 「多分殺されると思います。亜弓さんはあなたを永遠に手に入れる  みたいなこと言ってたんで」 「絶対か」 「まあ、多分」 「逃がしてくれないか?頼む。同じ男だろ。  いくら美人だってストーカーに殺されるのは嫌だ」 「気持ちは良くわかるんですがそうすると俺の身が危ないので。  こんなになってまで生きてるんで死にたくは無いです」 「お前、ひょっとしてまともなのか?」  首輪を示しながら言った祐人を見て尋ねて見た。 そういえばこいつ単体からは異質な空気は感じない。 413 :ホワイトD-A ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/03/14(水) 23:57:13 ID:KXW/9q8H 「まともかまともで無いかって言えばまともじゃない側ですよ。  まだ生きてるんですから。聖祐人って名前に聞き覚えはありませんか?」 「いや、全く」 「そうですか。だいぶ前の話ですからね」  少年は少し自嘲気味な笑みを浮かべていた。 「お前、逃げたく無いか?一緒に逃げないか?」 「逃げ切れる見込みがあるんですか?俺が逃げれば亜弓さんだけじゃなくて  真弓も追ってきますよ」 「たかだか女2人だぞ?」 「本気で言ってるんですか?亜弓さんも怖いですけど真弓の行動力は異常ですよ。  敵に回さない方がいいです。それに俺は自分でこの状態を選びましたから」 「……なんで」 「死にたく無かったから」 「俺だって死にたく無い」 「俺だって死にたく無い!なんか方法は無いのか!?俺は何もしてないだろう?  死ななきゃいけないようなことしたか!?俺のせいか!?違うだろ」 「落ち着いて下さい」 「落ち着いてられるか!!何が多分死にますだふざけんじゃねえ!  たかが恋したぐらいで殺しに来るな!!!失恋なんざその辺に死ぬほど転がっ」  ドスッ 「落ち着いて下さい」  鳩尾を殴られて静かにせざるを得なくなった。 414 :ホワイトD-A ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/03/14(水) 23:58:28 ID:KXW/9q8H 「落ち着いて下さい。生きたいですか?」  呼吸はまだ戻らなかったが上からのぞき込んで来る祐人の目を睨みつけるように 見返して頷く。死にたくなんか無い。殺されてたまるか。生きる意味がはっきり あるような大層な人生は送っていないがこんな訳のわからない幕切れは嫌だ。 「だったら受け入れて下さい」 「それは、お前みたいになれってことか」 「真弓と亜弓さんでは少し異なるので一概には言えませんが受け入れて下さい。  彼女達は彼女達なりの常識かあります。それを見極めて下さい。  そんなにかけ離れたものではありません」 「首輪してる奴が言っても説得力が無い」 「でも俺は生きてます。俺は彼女達が違うことに気付くのが遅すぎてこれしか  選べませんでした。相手が真弓だったせいもありますが」 「……ヒントは」 「受け入れて下さい。慣れればこちらの生活も楽ですよ」  祐人はそれしか言ってくれなかった。

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