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118 :ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/15(水) 18:54:46 ID:IvAU8Buc 第九話『獣のアギト・解放』 果てしないデュースの攻防が続く。 ナギがポイントを取り、イロリが取り返す。イロリがポイントを取ったと思えば、ナギが追いつく。 アドバンテージからの追い上げが互いに強い。 「スーパースライスサーブ!」 イロリのサービスは威力重視型から、バリエーションを増やしている。 このスーパースライスサーブは非常にゆっくりとナギのコートに入った。 甘い球。 「ランバック!」 と――突如進行方向とは逆にバウンドした。 「――っ」 反応したナギが前にでる。 妙に浅い球だったが、イロリのねらいは逆バウンドによってイロリの側のコートに戻すこと。 ひとたびネットを越えてしまえば、ナギがいくら手を出そうがオーバーネットとなりイロリのポイントとなる。 しかし、ねらいどおりにはいかない。ナギがギリギリで追いついてラケットでボールを拾った。 拾うだけ。振りはしない。 ナギは器用にもネットに沿って極限まで浅く低い球を繰り出した。 現在、イロリはサーブした位置とそう変わらない場所にいる。普通は取れない。 が、取れるのはもうナギにも予測できた。 オホーツク海ステップ――縮地法により、一気にネット前まで出る。 同じくネット前に張り付いたナギ、これを振り切る方法は、ギリギリのロブをあげること。 そう、ギリギリだ。 ナギの頭上を飛び越さなければ縮地法でボレーを取られるのは分かっていた。だから高さで取らせないようにしなければならない。 が、通常のロブならボールを追い越してナギが取ってしまう。これでは意味がない。 「ギリギリ限界・過剰ドライブボール!」 119 :ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/15(水) 18:55:30 ID:IvAU8Buc 安直なネーミングを叫びながらイロリが繰り出した球は、ドライブ回転のロブ。通常のドライブ回転ではない、おそらくプロレベルの二倍の速度の回転。 自由落下に頼るのではナギのスピードを振り切ることはできない、ならば、ドライブ回転による強制落下でスタンピードをかける。 「技名も作戦も安直だ!」 後ろに走っても間に合わない。仮に追いついたとしても、このドライブ回転だとバウンド後のボールの加速に対応できないと予測したナギ。 そんな時取った行動は。 「(ムーンサルト!?)」 斜め後ろに向かって全く前振り無しにジャンプしたナギ。6メートルはあるだろうか、空中で頭をしたに、脚を上に向けて浮いていた。驚くべき身体能力だ。 だが、それだけではない。 「(……まさか、逆光!?)」 ナギの真の狙いは、そのジャンプによって太陽と重なること。 ネット際にまで出てきたイロリから今のナギを見ると、距離が近いために見上げる角度が高い。 この状態だと、ナギが太陽の光を背負ってどう動いているか分からない。 ――イロリの後ろでボールがバウンドする音がした。 「(ナギちゃんは最初からこれをねらって……)」 「私の、勝ちだな」 互いに決め手がないことを悟ったナギの『懸け』は成功した。そして、イロリは敗北した。 「やっぱり、かなわないな」 ゲームは3-2で、ナギの勝利となった。 歓声。 誰もが両者をたたえる。全力で戦った二人を比較してどちらかだけを賞賛することなど、できなかった。 イロリは、嬉しいと思った。 こんなに暖かい仲間に囲まれて、ライバルがいて……。 そして、愛する人が……。 「いない……?」 「どうした、イロリ」 「ちーちゃんが、いない」 120 :ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/15(水) 18:56:03 ID:IvAU8Buc 「ここなら、誰も見てませんね」 「委員長、お前は……!」 「しっ。お静かにお願いします。見えてないとはいえ、大声を出すと見つかります」 千歳はミクに連れられ、グラウンドの隅の草むらにある大きな木の反対側にきていた。 木陰で日射病を避けるという名目でだが、誰にもそこに行くとは伝えていないので実質サボりである。 「それと、二人きりのときはミクと呼んで下さい。命令です」 「……」 「いやですか?」 木にもたれかかり座る千歳の膝に、ミクがなまめかしく座る。千歳はそれに若干反応してしまう自分の男の本能に怒りを覚えた。 「……ミク」 「うん、上出来です」 ミクがにっこりと微笑みかけた。顔が妙に近い。 良く見ると、ミクの顔は整っていて、美女といっても差し支えない。地味な印象が今まで勝っていただけに、そのギャップは強い。 おそらく、その事実に気付いたのは、不本意ながらも急速に距離を縮めた千歳のみだろう。 「どうしました?」 首をかしげる。その動作も、整った顔とあいまって可愛らしいものだ。体格や美人度は百歌と同じくらいかと思われたが、性質は違う。 百歌のような無意識の色気と違い、こちらはおそらく意識的だ。千歳の精神に働きかけるための動作に過ぎない。 しかし、それが、それこそがミクの魅力なのだろう。作られた美しさ、生きていないものの魅力を持っている。過去の映像のような輝きというべきか。 甚だ不本意だが、千歳は理解してしまった。ミクは過去の情報のかたまりのような人間なのだろうと。 「また、だんまりですか。まあいいでしょう」 そんな千歳の思考など歯牙にもかけず、ミクはおもむろに上着をめくり上げた。 「その手のビデオとかマンガを見ていると、こういう体操服を着たタイプのものでは脱がないでめくりあげるのが主流みたいです」 下着が千歳の目のまん前にあった。昨日のように地味なものではない、大人っぽい、黒いブラジャーだった。 「当たり前ですよね、コスプレものなんですから、脱がしちゃったらただのポルノじゃないですか」 くっくっと笑い、黒の下着もめくりあげる。 121 :ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/15(水) 18:56:47 ID:IvAU8Buc 白い胸が千歳の視界にいやでも飛び込む。脳を覆いつくし、無理に刻み込んでくる。 乳首は、昨日言っていたように、自分でもいじったことがないのだろう。綺麗なピンク色だった。絵や人形のようだ。 「こういうのは、シチュエーションが大切です。そうですね、まずは千歳君、私の胸、吸ってください」 目を背ける千歳の顔を両手で無理に前にむけさせ、胸を押し付ける。ミクは着痩せするタイプのようで、脱ぐと案外大きかった。 無論、イロリほどではなかったが、身長と比較すればそれなりにあるほうだと思われた。 「うっ……」 「どうしました? 汗の匂いがいやなんですか?」 言われてやっと気付く、ミクの汗の匂い。しかし、それは不快なものではない。 前回感じたミクの秘所の香りもそうだったが、ミクの体液や体臭は、何らかのテンプテーションの作用を持っているように思われた。 甘く、性的な匂い。千歳の鼻腔をくすぐり、徐々に判断力を奪っていく。 「んっ……千歳君、急に……あぁ……」 ミクが顔を赤らめて小さく喘いだ。千歳が乳首に急に歯を立てて軽く噛み付いたのだ。 千歳はまだミクを打開する策を見つけてはいない。それは前もって準備しなければおそらく得られないし、この段階では不可能だろう。 だから、この直接対面する時間は早く終わらせようと心に決めていた。動きが徐々に積極的になる。 ミクは感度が異様に高い。攻め立てれば、前回のようにすぐに終わるだろう。そう予測してのことだ。 「そんな……乳首ばっかり……はぁ、ん……」 こりこりと、わざと乳首だけを攻め立てる。わざとらしく舌で弄りまわし、歯で甘く噛む。それを繰り返す。 ミクの身体が徐々に熱を帯びてゆき、ぴくぴくと痙攣しはじめる。 「ふぁ……いいです……そこ……おっぱい、いい……」 しばらくしていると、ミクの目には涙が浮いていた。口もいつもと違い、頭が悪くなったかのようにぽかりとあいており、唾液が零れ落ちていた。 そんな乱れかたをしているというのに、ミクは演技かと見まがうほどに整って見えた。人としての根本にぶれがないように見える。 ミクは、おそらく完成された生物の性質を持っている。 人間とは違う、もっと洗練された理性とともに生きている。それは、獣の持つ合理的な狩りの本能。 欲しいものを手に入れる。子孫を残す。快楽を得る。そんなあらゆる欲求のために、利用するものを利用し、狡猾に実行する。 人間の主張する理性は、利益を否定するもの。ミクにはそんなものはない。本当の理性とは、欲求の実現にある。 そういう考えを形にしたのが、今の井上深紅という人間。 手段を選ばずに千歳を手に入れる、冷酷で知的な顔。千歳の与えた快楽に獣のように喘ぐ、性的で無知な顔。 一見相反する性質を統合する存在こそが、ミクなのだ。 122 :ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/15(水) 19:00:41 ID:IvAU8Buc 千歳は、かわいそうだな、と思う。ミクには、本当は悪気がないのかもしれない。 ミクはどうしようもない犯罪者だが、ナギの写真を持って千歳に対し要求するのは普通の恋人達がする行為にすぎない。 他人の心を踏みにじるこの行動はゆるせるものではないが、本当は、ミクは……。 「ふぁ……あぁあん……はぁ……ぁ……はぁ……千歳、くん……」 「なんだ」 千歳はその呼びかけに乳首攻めを止め、ミクの顔に向き直った。 さっきまでとは違う意味の汗をかいていて、それがまた魅力的だった。誠に不本意だが、そう思ってしまう。 「余計なこと、考えてます」 「……そんなこと」 「あります。私に同情しようとしていたでしょう?」 「……悪いかよ」 千歳は考えを読まれ、顔を赤くする。何故か、ミクに対する嫌悪が少し減っていた。 もしかしたら、目的を果たせばナギのことを見逃してくれる人種ではないかと思ったからだ。 「悪いですよ。千歳君はなにもわかってないんですね」 「何をだ」 「私のことですよ。……まあ、これからわかってくることですけど」 ミクはそう言うと、千歳の唇に自らの唇を重ねた。 舌を強引にねじ込む。千歳は噛んだり、拒んだりしない。そんな確信があるからだ。 「ふ……ぁ」 吐息が漏れる。下をねっとりと絡み合わせ、ミクは唾液を千歳に流し込む。 びちゃびちゃといやらしい水音をたてながら、ミクは執拗に千歳の口内をむさぼった。 「ぅ……ふぅ……ぁ……ん……」 甘い声を漏らしながら、ミクは何度も、何度も、千歳を求めた。身体も接近する。腕を背中に回し、剥き出しの胸を千歳の胸に押し付ける。 脚も動き、千歳に絡ませ始めた。やはり見た目異常に肉感的なその身体を擦り付けられ、千歳の興奮も高められる。 ミクの体液は、媚薬だ。千歳はここで完全に確信した。甘い匂い、味、ねっとりといやらしい心地。 矮小な男という虫を引きつけるための、蜜。 そうか、ミクをあらわす言葉がもうひとつ見つかった。 食虫植物。甘い蜜で得物を引き寄せ、食らう。 獣というよりむしろ、生物としての『静の性質』と『合理性』の意味では、こちらが正しいかもしれない。 見た目は美しい花だというのに、完成された生き物だというのに。その生き方は、おぞましいのだ。 そして、花はその檻をひとたび閉じると、もう得物を逃がしはしない。 どろどろに溶けてしまうまで、その味を楽しむのだ。 123 :ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/15(水) 19:01:18 ID:IvAU8Buc 「はぁ……ぅん……」 長い、長い、口付け。二人の口の間から、唾液が流れ出る。どろどろに溶け合った二人分の唾液が、ミクの胸に落ち、身体を伝って流れ落ちる。 こんな光景、絵にだって書けはしない。キスだけだというのに、ミクは限界まで性的興奮を刺激する。 これが、ミクの持つ力。『過去』と『完成』の力。 「ふぅ……千歳君も、舌、使ってください……」 「……命令か?」 「お願いです」 悪戯っぽくわらった。わざとらしいと思う。しかし、それゆえに美しかった。 仕方がない、と千歳は再び唇を重ねた。 今度は、互いに舌を動かす。ミクが一方的に攻めていたさっきまでとは違う。 「ぁ……ぃぃ……」 ぽそっとミクが声を漏らした。目の涙は既に溢れて流れていた。興奮がかなりきわまってきたのだろう。 千歳はミクにさっきまでされていた舌遣いを真似し、ミクの口内に舌を差し込んだ。 甘い世界。ミクの蜜を生み出す場所のひとつに、触れた。 脳が沸騰しそうになる。どんなものよりも、甘い。甘い。甘い。舌が溶けてなくなってしまいそうだ。 ――耐えられない、かもしれない。 急に、そんな諦めが千歳の頭をよぎった。20回など少ないと当初は踏んでいた。 だが、このミクの『拘束力』は、予測を大幅に超えている。常人が耐えられるものではない。 例えば、近所でも有名な愛妻家がいたとしよう。彼はとても地位も高く有能で、良い男だとする。 当然、雌猫達はよってくる。不倫を持ちかけ、誘惑する。しかし彼はそれを拒み、いつも愛する妻の待つ家に帰っていくのだ。 そんな男が仮にいたとしても、ミクの誘惑を受けたら三日持てばよいほうだろう。いや、三十分で倫理観を壊されることもありうる。 そのレベルの力。愛などという人間の作った聞こえの良い言葉を簡単にぶち壊せる力がミクには備わっていた。 「ぷはぁ……。はぁ……はぁ……。千歳君、良かったです……♪」 千歳の身体にはもう力が残っていない。返事をすることすらままならない。 「では、お礼に昨日の続きをしてあげますね」 するすると千歳のズボンを脱がし、陰茎を露出させた。もうとっくの昔にそそり立っていた。 「約束どおり、自分で慰めてきてなんて、いませんよねぇ……?」 くんくんと顔を近づけて匂いをかぐ。 千歳は昨日なにもしていないという自信があったため、少し安心した。 124 :ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/15(水) 19:01:48 ID:IvAU8Buc 「……あれー? なんだかイカ臭いですよ、千歳君?」 にやりと笑って、ミクが千歳の頬を撫でた。 「もしかして、我慢できなくなりました?」 「……!? そんなはずは……」 「別に隠さなくてもいいんですよ。怒ってませんから」 「いや、本当に俺は……」 「千歳君、昨日の私のおまんこ舐めていたことを思い出して、自分でしちゃったんでしょう? 私におしっこ飲まされたことを思い出して、興奮しちゃったんでしょう?」 「……違う」 「本当ですか……?」 ミクは千歳の顔をじっとみつめた。 あいも変わらず,何を考えているのかわからない。複雑すぎる感情を秘めた瞳だ。眼鏡で阻害されているのか。 千歳はその目でみつめられ、どうしようもなく不安になる。何らかの魔力があるようだった。 「……まあ、いいでしょう。しばらく続けていれば、本当に私でしかオナニーできなくなります」 そのことを全く疑わない口調で言った。 ミクは、自分の武器を自覚している。自分の魅力の源とその運用法を最大限に理解している。 千歳を手に入れるために行った脅迫と強姦。これは一見強引で早計な手段に見えたが、ミクだけは、違う。 ミクには、そのまま相手の心すら手に入れてしまう力がある。 恐ろしい力だ。人の意思まで捻じ曲げて、『自分の懐で止めてしまう』。 即ちそれは、過去が未来を縛ってしまうということ。過去の集合体そのものであり、『未来』を持たないミクという存在と、同じになる。 千歳には、それは何をも超える恐怖であるように思われた。 そして――同時に、何よりも甘く、魅力的なことであるようにも思えた。 千歳は未来を信じている。しかし、信じているが故に、その辛い『覚悟』を捨てたくなるのだ。 「許してあげます。でも、今日は気分が乗ってきたので、計画を早めようと思います」 ミクはにんまりと笑って千歳の唇をぺろぺろと舐めた。 「なにをする気だ……」 「簡単なお話です。もっとあとであげようと思っていたプレゼントを、今ここで千歳君にあげます」 「プレゼント……?」 「私の、処女です」 ミクの瞳が鈍く、しかし鋭く光った。 125 :ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/15(水) 19:02:19 ID:IvAU8Buc 「――っ!?」 金髪の少女は、そのただならぬ気配に歩いていた人気のない道を振り返り、周囲の安全確認をした。 「……なんだ、今のは……」 西又イロリのワイヤード反応を追って歩き続け、少しずつ近づいてきたが、今感じた気配は、それとは全く別のものだった。 ねっとりとしていて、それでいて魅力的で。意識をもっていかれそうだった。 獣のアギト。 そんなイメージが金髪の少女の脳裏を過ぎる。噛みついたらもう話さない、狡猾で獰猛な獣の牙。 いや―― 「――もっと甘い、蜜だ……花、か?」 これほどに強力な気配だというのに、その性質は『静』。動的ね表面上の性質と相反しているが、その根本には動くことのない、完成された世界がある。 金髪の少女は、生まれて初めての気持ちを抱いた。 恐怖と一体になった、憧れ。 いや、もともと愛と憎しみは同一の感情なのだ。恐怖と憧れも、表裏一体であろう。 しかし、これほどまでにはっきりとそれらが共存した気配は、感じたことはなかった。 「まさか、西又イロリの他に、この土地にワイヤードが……?」 それも、今までに感じたことがないほどに強力で、美しい力を感じる。 この気配を発したのは西又イロリではないだろう。西又イロリのワイヤード能力はほとんどが純化された『愛』に基づいている。 それは不完全で、不安定で、成長性に富んだ『可能性』と『未来』の力。 これは、違う。もはや完成されていて、強大な力。あらゆる欲望と本能をかなえるための合理性を生み出す、『理』のワイヤード能力。 それは完璧で、安定していて、もう成長しない『確定』と『過去』の力。 「……間違いない。ここに『コントラクター』がいる」 金髪の少女は確信した。 そして、確固たる決意とをもって歩き始める。 その背中には、ワイヤード達の力にもまったく負けていないほどに大きな、『殺気』の鎧をまとって。

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