214 :夜間ランニング [sage] :2008/11/24(月) 22:34:20 ID:C528miR+ 
当時俺は高校二年生だった 
一年生の頃は面倒くさいという理由で、6歳の頃からやってきた水泳とおさらばして文化部に入部した 
その文化部も毎日毎日ただパソコンをいじくるだけという根暗な部活でなんの面白みもなく 
どうせならもっと華やかな茶道部に入ればよかったと後悔した 
部活は登校2週間目でいくのを止め、その後は何をするでもなく定刻通りに家に帰るという味気のない学校生活を送っていた 
部活をまともにこなせないやつに勉強ができるわけもなく 
当然考査での成績は悪く、酷い時は平均点数が赤点すれすれということもあった 
なんとか単位は落とさず進級をしたものの、このままではいかんと思い 
せめて体力だけはつけておこうと二年生になってからは毎日2キロのランニングをしようと決めた 
決めたといっても、一年間まともな運動をしていたなかった俺に2キロの壁は厚く 
最初は800m走っただけで膝が笑いはじめその場にへたり込む始末 
それでも根気よく走り続け、何とか2キロのランニングをこなせるようになった 
俺が始めてあの女の子と会ったのも、丁度毎日のランニングコースが決まり始めたころだった 
その日も日が暮れてから昔着ていたトレーニングウェアに身を包み 
皮の手袋に、白いタオルを頭に巻いたといったいでたちで夜のランニングに出発した 
月が出ているものの、俺の住んでいる町は田舎なのでこの時間になると夜道はかなり暗い 
400mおきに電柱があるものの、その間は暗く一歩踏み外せば水を張ったばかりの田んぼに頭から落ちてしまうだろう 
それでも体力つづりのためと思い、俺は毎晩暗く人通りのない道を走っていた 
始めは不規則だった呼吸もしだいに落ち着き始め、自分のペースで走れるようになったいた 
ランニングも中盤に差し掛かり、脚の方もだいぶ疲れてきたので俺は近くの神社で休むことにした 
215 :夜間ランニング [sage] :2008/11/24(月) 22:35:23 ID:C528miR+ 
頭に巻いたタオルを解き、顔に浮きでた汗を拭う 
乳酸の溜まった体を伸ばし、膝や腕を押したり伸ばしたりして乳酸を散らす 
お次は腰だとラジオ体操のように大きく腰をひねる 
ぐるんと腰を回し俺の体が90度に回転した時に、 
俺は後方になにか人影があることに気づいた 
距離にして約10メートルその人影は俺の方を向き、ひたと俺を見据えてるではないか 
俺は瞬時に悟る 
この俺の一連の動作はあの人影に見られていたのだと 
確証はない、今さっきこの神社を訪れた人がたまたま俺と居合わせただけとも考えられる 
だがこの時間帯に、 
この場所で人に出会ったのだからお約束な展開になるのは目に見えている 
それに小さな町だ、おまけに家も近い 
夜中に俺がこんなことをしていたという事が地元のトモダチに知れたら赤っ恥だ 
瞬時にその情報は知れ渡り、 
俺は友人やら知らない女子にやらの笑いものにされるだろう 
それだけは阻止せねばなるまい 
俺は意を決して人影に声をかける 
「すみませんが、見てましたか?」 
少しの間のあと短い返答が帰ってきた 
「何をだい?」 
その返答に少しの安堵を覚えるが、 
先方の声からしてみると突然俺から声をかけられたことによって若干動揺しているようだ 
216 :夜間ランニング [sage] :2008/11/24(月) 22:37:40 ID:C528miR+ 
「失礼ですがいつからソコに?」 
見ていなければこれ幸いと思い、わざと内容をぼかして再度質問をする 
すると先方は若干言葉に笑うような含みを持たせた声で 
「君が此処にきてからタオルを外してオジサンのような声を上げて顔を拭いて、これまたオジサンのような声を上げてストレッチをし始めたあたりかな?」 
と返してきた 
あんさんソレは始めからというんですよ 
思わず喉の奥がきゅうと音をたてる、口からは渇いた笑い漏れる 
終わった、声の調子からすると年のころは大体俺と同じくらい 
男とも女ともとれる声色と口調で性別は判断しかねるが、 
どちらにしろこれは不味い 
「君は○○さんの家の息子だよね?それでもって××高の生徒でしょ?ここまでいえば僕が何を言いたいのか分るよね?」 
先方さんはどうやら我が家の内部事情に詳しいらしく 
(といっても町が町なのでこの程度の情報知ろうと思えば簡単に調べられるのだが) 
俺が何を望んでいるのか、そして俺がどういう立場なのか分っているらしい 
「この件はどうか御内密に、君のお願い聞いてあげるからさ」 
俺がそういうが早いか、先方は忍び笑いをしながらコチラへ歩いてくる 
「さすがだ、理解が早くて助かるよ こっちとしてもことがスムーズに運んでくれるのは嬉しい事だしね」 
そういった俺の目の前に来ると先方は俺の顔を覗き込む 
身長は俺と同じか少し高いくらい、 
体のシルエットからすると女か華奢な男といった感じか 
髪はアゴに脇の髪が届くくらいで、男なら長すぎ、女ならショートカットといった具合 
正直髪をだらしなく伸ばすいった行為を俺は好まず、いつも髪型は坊主、 
もしくは髪が少し寝るくらいときめていた 
そういった趣向なので女性の髪形もこのくらいが丁度いいかなと思うくらいで 
トモダチとは女性の髪の長さの好みで毎回対立する 
まあこの状況で俺の髪の長さの好みなぞなんの意味も持たず、 
ぶっちゃけどうでもいいので先方の話は続く 
217 :夜間ランニング [sage] :2008/11/24(月) 22:39:38 ID:C528miR+ 
「僕は君の事をよぉく知ってるよ、君が最近になってランニングを始めたって事とか、始めはこのコースじゃなく◇◇小学校の周りをランニングしてたとか 
他には好きな食べ物、君の身長体重、最近読んでる本、好きな異性のタイプ、他にも言い出したらきりが無いよ」 
先方の話を聞いていると話の内容がおかしな方向に進んでいるがありありと感じられる 
むしろ俺のことを此処まで知っているってどういうことよ?と聞き返したくなった 
これが噂に聞くストーカーというものなのだろうか、 
俺にもストーカーが付く時代か、世も末だなと思っているとまだ先方の話は続いていた 
「体を鍛えるのは良い事だけど、むやみやたらに外を出歩くのは感心しないな、僕の目が届かないとこで怪我でもしたらどうすんだい? 
君が怪我をしても悲しむ人は少ないだろうけど、その少数の人の気持ちも考えなきゃ駄目じゃないか?大体ただでさえ君はおひt」 
「それで俺はどんな願いを聞けばいいのでしょうか?」 
このまま続けばこの話に終りは無いだろうと思った俺は先方の話を遮り、先の願いについて質問をした 
ああ、そうだったねと思い出したように先方は話を中断し顔を元の位置に戻す 
というよりずっと覗き込む体制で俺に話しかけていたのか 
先方はさっきとは一変したように恥らうような仕草と共に少し上ずった声で最初の注文を継げた 
「そ、それじゃあまず、僕の名前を覚えて貰おうかな 僕の名前は新谷涼 君は涼と呼んでくれ」 
「はあ、涼さんですか」 
「駄目じゃないか、『さん』なんていらないよ、『涼』と呼んでくれたまえ」 
「というより願いって普通一つなんじゃないんですかね?」 
もっともな疑問を先方に、もとい涼にぶつけると涼は意地の悪い笑みを浮かべ 
「いいのかな?君が毎日部活もせず、せっせせっせと体力増強に励んでいるとことが君の周囲に露呈しても? 
僕は一向に構わないが君はそれでは困るだろう?」 
218 :夜間ランニング [sage] :2008/11/24(月) 22:41:10 ID:C528miR+ 
お約束な展開はお約束な展開を呼び、俺の今後の命運はこの涼たる人物に握られることとなった 
ふき取ったはずの汗がまた額に滲み始める 
「どうか、それだけはご勘弁を」 
急いで俺は涼に媚を売り始める 
まったくさっき会ったばかりの見ず知らずの人物に俺の弱みを握られるとは、自分の情けなさに思わずため息がでる 
それを耳ざとく聞き取った涼が俺に話しかける 
「どうしたんだい、ため息なんて付いて?大丈夫安心しなよ、悪いようにはしないって それに君もなれれば気に入るだろうよこの関係がさ 
きっと僕も君も幸せになるよ いや幸せにしてみせる」 
全然ありがたくも無い涼の言葉が俺の耳を通り抜けていく 
ん?こいつ今なんていった?この関係?幸せ? 
まるで俺がコイツとこれからも付き合っていくような台詞じゃないか? 
であったばかり、絶対的なこの力関係、これで互いが幸せになるだって?随分無理なこというじゃないか 
先ほどの汗が自然と引いていった 
俺の中の裸の紳士がネクタイを解き「GO!」とサインをだしたので俺はそれに身をゆだねることにした 
「おいおい、幸せだって?どちらかが力において勝っている状況で互いが幸せになれるわけないじゃないか 
それに俺は男だか女だかわからんような野郎とつるむつもりは無い、くだらないねいいさ喋ればいい所詮一時の恥 
それくらい耐えてみせるさ」 
紳士が言いたかったことを素直に口に出してみると、俺の心にできた靄はすっかり晴れ、おまけに虹がかかっていた 
言いたいことをいったのでもう此処には用はないとそそくさと退散しようとすると 
後方から涼にタックルをお見舞いされた 
219 :夜間ランニング [sage] :2008/11/24(月) 22:43:05 ID:C528miR+ 
「な、なんでそんなこというの?初めて話したんだよ?初めて顔を見ながら話をしたんだよ?なんで僕のことを見ないの? 
僕はこんなに君を見ているのに、こんなに君を思っているのに、僕から抱きしめるんじゃなくて、どうして君から僕を抱きしめてくれないの?どうして?どうして!」 
いきなりわけの分らないことを口走り始め、俺の背中にしがみつきながら泣きじゃくる涼 
初対面であんな横暴な対応されりゃあそりゃ誰だって文句の一つでも言いたくなると思うんだが 
それで俺に非があるのか言えば無いのでは?と思う まああるとすればこの涼たる人物を泣かせたことか 
それにイマイチ決定打に欠いていた涼の性別は恐らく女であろうことが分った 
タックルをかましたあとに、俺の背中を這うようにして抱きついてきて、わずかながらに胸のふくらみがあることに気づいた 
長年水泳で野郎の胸板を観察(一応いっておくけど俺はノンケだ)してきたので人の体つきを見ることに関しては割りと自身があった 
最初の方は暗かったし、ここまで男だか女だか微妙な体型な奴は珍しかったから実際こうして見なければ分らなかっただろう 
そうこう考えている間にも涼は俺の背中に顔をぐりんぐりん擦りつけながらワケの分らないことを言い続けている 
「ああ、もう!かからしい!離れんかい!」 
「許さないもん、君が僕を見ないからいけないんだ しかも男か女かも見分けが付かないだなんて、許さない 
絶対に許さない 僕に大してもっと誠意と愛情のこもった謝罪を要求する」 
なんで俺が謝らなきゃいけないのか、そんでもって俺のトレーニングウェアに鼻水やらなにやらをこすりつけるのか 
言いたいことは山ほどあるがこのままの状態では人が来たときに怪しまれること間違いなしなのでとりあえず謝ることにした 
「俺が悪かった御免なさい、申し訳ありませんでした、もうしません これでいいだろ!」 
なかばやけくそな俺のこの対応で涼が満足するわけなく、次の瞬間涼は俺の背中に噛み付いていた 
甘噛みとかそんな生易しいものではなく、人の肉をウェアごともっていこうとするほどの力だった 
当然俺はあまり激痛に叫び声を上げた 
「くぁw背drftgy富士子lp;@:「」!!!!!!!11111」 
その俺の声にあわせたように遠くから犬の遠吠えが聞こえる 
220 :夜間ランニング [sage] :2008/11/24(月) 22:43:57 ID:C528miR+ 
「なにすんだてめえ!肉が美味しく頂かれるだろうが!」 
「君の肉ならさぞ美味しいだろうね、でも僕はてめえじゃなく涼だってさっきいっただろう、それにあんな謝罪で僕の気持ちがおさまるとおもうかい?」 
鼻水たらしながらの真顔で言われてもその誠意がどういったものだか分らず 
むしろ逆に謝って欲しいくらいだと思いながらもこの場を収めるのには致し方の無いことかと思い不本意ながらも誠意をこめて謝る 
「悪かった、ごめん」 
それに満足したのか俺の背中の上ではんふふと気味の悪い笑い声を上げる涼 
「ほれさっさと降りろ、俺は帰る」 
今度こそ俺は帰るというと、また涼が背中の上でぐずりだす、なんなんだ俺はコイツの父親か? 
「駄目だよお、このまま帰ったら君はもう此処には来ないじゃないか そうしたら僕のことなんて忘れちゃうだろう? 
それだけは駄目だよ、そっちの方が許せないよ」 
またもぐりんぐりんと俺の背中に摩擦を加える涼、流石にうんざりしてきた 
このまま引っぺがして帰ってもいいが、それだと俺の家まで付いてきかねない 
そうなれば我が家の父上殿の張り手を食らうのは目に見えている 
仕方なく俺は背中にいる涼に向かって条件を出す 
「なら最後に一つだけ願いを聞いてやる、それで俺の背中から降りろ」 
そういうと涼はなにやら考え事でもするような唸り声をあげ、しばらくして 
「わかったと」 
若干不満気な声でこたえた 
「ほんで何がお望みだ?涼」 
「それじゃあ今度からも毎晩ここにくること、これは絶対の約束だからちゃんと守ってくれたまえ」 
そういうとよいしょと名残惜しげに俺の背中から涼は降り、ずびーと鼻をすすった 
これはチャンスと見た俺は一目散に立ち上がり、さながら陸上のクラウチングスタートのような体制で走り出す 
ここまでくりゃ俺のもの、とにかく俺はこの場から立ち去りたかった 
後ろから「あっ」という驚きと悲しみが混ざった声が聞こえたがそれに構わず俺は全力疾走でその場から逃げ出した 
221 :夜間ランニング [sage] :2008/11/24(月) 22:44:35 ID:C528miR+ 
「まったく、せっかちだな そこまで逃げるようにしなくたって良いじゃないか」 
後に残された涼は若干切なそうな顔をしつつも、どこか満足気な表情をしていた 
「それに今日は不本意ながらもたっぷり君を感じられたからね、それだけでも良しとするよ」 
そういい、先程まで抱きついていた彼の背中の感触を思い出しながら涼は顔に手を当てる 
「君のにおいも手に入れることが出来たしね、んふふ」 
そういった涼の手にはさきほどまで彼の首に巻かれていたタオルが握られていた 
「され、また君を想う夜が続くよ それでもいいさ今宵は大きな収穫があったからね」 
気味の悪い笑いを残し涼は神社を後にした 
最終更新:2008年11月26日 12:54