220 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/10/29(土) 21:56:27 ID:MPaMNP4Q
俺の朝は早い。
6時には起床して、朝食と弁当の準備をする。当然だが、仕込みは全部、昨夜済ませている。
ただでさえ早い朝が変態二号ことキサラギの加入で、なおさら早くなりそうだ。

全く、忌々しい。

ふと思う。

「ウチのこと、飼ってくれますかぁ…」

キサラギの変態発言だ。

俺は、未夢を飼っているつもりは一切ない。
だが…こうして食事の準備をして、日常の世話を焼き、健康管理までしている自分がいる。

キサラギの言う通りではないか…。

これはいかん。これは非常によろしくない。

自覚が無いのが特にいかん。
調子に乗っていたのかもしれない。未夢を慣らしているつもりが、実際は俺の方が慣らされていたのかもしれない。

もっと厳しく行くべきか?
…いや、いかん。
それをやったら、未夢の場合、命に関わる。キサラギの場合は検討もつかん。

いやいや、そもそもこんな考えをする時点で――

「お、おはようございます…」

背後から遠慮がちな声。キサラギだ。

キサラギはバスタオル一枚での登場だ。

「先輩…ウチ、服が…」

そう、キサラギのゲロ塗れの服は洗濯したんだった。
キサラギは鳥肌を立てている。

「お前、昨夜はどこで寝た?」
「トイレ、です…」

予想と寸分違わぬ答えに、俺は頭を抱える。

俺の朝は忙しい。キサラギに構う時間は微塵もない。

馬鹿なキサラギを風呂に放り込み、断腸の思いで服を貸す。

「ウチ、ウチ…!ここに来て、本当に良かった…!」

感涙にむせぶキサラギ。

「変態!!」
「はい!……はい!!」

く…コイツ、レベルが上がりやがった。
キサラギは闇雲に経験値を取得しているようだ。

そうこうしているうちに、未夢がやって来た。

「おう、未夢。体の具合は?」
「…しんどい」

やはり病院に連れて行った方がよさそうだ。

男は女の子の事情に疎い。こんな時、どうしていいかわからない。せめて気を使うくらいで。

朝食時、未夢は一切口を開かなかった。
キサラギのことはチラリとも見ない。全身でその存在を否定しているように見える。

一方のキサラギは対照的に敵意を剥き出しにして唸る。

「リスカ女……ウチが来たからには…」
「キサラギ、食わないのなら、下げ――」
「たっ、食べます!食べますからぁ!」

サンドイッチの皿を抱えるようにして隠すキサラギ。

「はむっ…はむっ…おいしい…おいしい…こんな、おいしいものが…」


221 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/10/29(土) 22:01:44 ID:MPaMNP4Q

大袈裟な。
敵意を剥き出しにするキサラギと、無視を決め込む未夢。
一体、どちらの方を大きい問題と捉えるべきだろう。

だいたい、俺とこの二人の関係は何なのだ。

…未夢とはキスだってしていない。だがそれ以上のことをした自覚はある。そして、婚約している。

……なんだこのカオスは。
頭が痛くなってきた。

キサラギはただの後輩だ。しかし、コイツのほぼ全てを俺は見た。そして何を隠そう、俺はコイツを飼うことを承諾している。

い、いかん。カオス過ぎる。


…婚約者とペット…

人として激しく間違っているような気がする。


是が非でも二人を更生させねば。
それ以外に関係収拾の道はない。

そして気になるのが何故か笑うキサラギだ。

「キサラギ、何がおかしい」
「はぁい」

キサラギは嬉しそうに言った。

「ウチぃ…今日、学校辞めて来るんでぇ…」
「あ?」

モジモジしながら、上目遣いにこっちを見るキサラギ。

目眩がした。

「ウチぃ、これからはずっと、ず~っと、先輩のことだけしていられるようになるんですぅ」
「キサラギ…」
「はぁい」

コイツとは、じっくり話し合う必要がある。
「今晩にでも、ゆっくり話そう」
「はぁい、ウチは、先輩だったら、何でもいいですよ?」

くねくねと身をよじるキサラギ

「あのぉ…準備しといた方が、いいですかぁ?」
「何の?」
「ゴム、です…」

かっ、と顔を赤くするキサラギ。
頭の中、ピンク一色に違いない

俺は、深く長い息を吐き出した。

「キサラギ。学校辞めたら、捨てるからな」
「ぇ…?」
「学校行って、しっかり勉強して、キチンと部活動でも結果を出せ。それができないペットはいらん」

顔色を変えるキサラギ。

「え?ちょっ、待って…え?…え?」
「これは命令だ。反論は許さん」

「そんな、そんな……ウチぃ…」

キサラギは納得できないようで何度も首を振った。

「そんなこと、言われたら、ウチぃ…証明できないじゃないですかぁ…」

…ヤバい。

「リスカ女は良くて…ウチは、ダメで…」

ヤバい…なんか、踏んだ…。

その時、未夢がキサラギを見て、嘲笑った。

「リューヤは、未夢のだよ。もう、ずっと前から」


静寂。


「残念だったね」

何でもない朝の一コマを過ごすように、未夢が呟く。


キサラギは俯いて、拳を握り締め、ずっと肩を震わせている。

今日は、長い一日になりそうだ。
最終更新:2011年11月02日 10:48