190 :177の続き [sage] :2006/06/25(日) 22:39:19 ID:OwitErRI
――そして、半年後。
街へと消えていったはずの幹也は、今、喫茶店「
グリム」地下の図書室にいる。
机の上でぐったりと放心している少女――グリムに覆いかぶさるようにして。
そこにいるのは、ヤマネではない。
机の反対側にはマッド・ハンター。胸の中にはグリム。
かつて幹也の傍にいたヤマネは、此処にはいなかった。
「ふむ、ふむ、ふぅむ! それにしても君は本当にどうしてここにいるのかな?」
行為が終わったのを見計らって、マッド・ハンターが口を挟んだ。
その声は、いつもと変わらない嬉々としたものだ。ヤマネがいたころから。あるいはその前から。
そして、これから先も変わらないであろう笑顔に向かって、幹也は答える。
「退屈になったから。それだけだよ」
簡潔な答えに、マッド・ハンターはあは、あはは、あはははと笑い、
「君はいつもそれだよね。退屈、退屈、退屈!
――その退屈を紛らせてくれたヤマネはどうしたのかな?」
確信的な、あるいは核心的な言葉を聞いて、幹也は微笑んで答える。
「君が知らないわけないだろ。ニュース見たよ。
『少年少女謎の失踪』。『殺人カップル』『少年死亡説』、他には何があったっけ」
「『悲惨な事件の生き残り・
須藤冬華の賢明なリハビリ』。
ニュースに出たおかげで、三月ウサギ君の正体を知ったのよね」
「ここで名前を呼ばないのは嬉しいけどね。で、どういうことなんだよ」
なにがかな? とマッド・ハンターはとぼける。
とぼけた顔は笑っている。解っていて、彼女は笑っているのだ。
そのことを悟っている幹也は、ため息と共に言う。
「どうして――死んだはずのヤマネが、失踪扱いになってるんだよ」
その言葉に、マッド・ハンターはこの上ない笑みを浮かべた。
最終更新:2011年05月20日 14:59