1 名前:慎 ◆lPjs68q5PU [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 00:49:58 ID:S4t41Ekl
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。


○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。

■ヤンデレとは?
・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
→(別名:黒化、黒姫化など)
・ヒロインは、ライバルがいてもいなくても主人公を思っていくうちに少しずつだが確実に病んでいく。
・トラウマ・精神の不安定さから覚醒することもある。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫
http://yandere.web.fc2.com/
■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part3
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1171290223/

■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。


2 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/25(日) 00:58:03 ID:0X29IBbE
1乙。そして2ゲット。

3 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/25(日) 01:00:33 ID:y9F5nFc4
>>1乙。

関連スレ

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ この29●●!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1171699507/l50


4 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/25(日) 01:16:29 ID:1GScpdDl
>>1


5 名前: ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 01:42:13 ID:MlyMp9a6
>>1
慎氏、乙です。

後、前スレに上書きの7話投下しましたんで。

6 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/25(日) 02:16:37 ID:QkuHneqi
>>1乙

7 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/25(日) 12:35:02 ID:270zdDsb
これはヤンデレでおk?
ttp://www.youtube.com/watch?v=qFA19tfP75A

8 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/25(日) 16:33:01 ID:mBPeoP3h
これは微妙だな。途中経過がないから只のき○がいにも見える。

9 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 17:34:47 ID:h1BEVMqk
遅まきながらこちらに投下させていただきます。

10 名前:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 17:36:16 ID:h1BEVMqk
学校から1キロほど離れたところにある木造アパート。通称『まるわハイツ』
築13年で二階建て部屋数は六つ。トイレ共同、風呂は一応あり、六畳一間で日当たりは若干悪い。俺はそんなアパートの二階の奥部屋に住んでいた。
錆びた鉄製の階段を一歩一歩昇ると、ぎしぎしと鳴る木の廊下を歩く。外に剥き出した廊下は外側にすこしだけ傾いてて、バランスを崩すと柵を乗り越えて下へ落ちそうだ。
母親が一人暮らしになる俺に当ててくれた部屋だが、もうすこしいい部屋にしてくれよと思う。いつ崩れるかと思うと、怖くて眠れん。家賃を払ってもらっている手前、贅沢もいえないがね。
部屋の前までやってくると、ドアノブにビニール袋が引っかかっていた。中を見ると、俺のチェック柄の服とエドウィンのジーパンが入っていた。あれ、なんでこんなところに俺の服が……。
って思い出した。たしかお隣の藤枝さんに「ちょっと、和人くん! き、君、地肌が見えてるじゃないですか! 貸しなさいっ」と、着ていたところを強引に脱がされた服だ。
部屋の前で脱がされたから良かったものの、外で脱がされてたら俺はパンツ一丁になるところだった。おいはぎにあった人間か、俺は。
ビニール袋から取り出して確認してみると、ほつれていた脇の部分が破れた後も見えない程丁寧に塞がっていた。やっぱり藤枝さんの腕はすごい。手芸の先生だというだけある。
ジーパンも取り出す。確かこれは右ひざの部分が摺れて穴が開いてんだったっけ……。俺は畳まれていたジーパンを開く。紺が強いジーパンの右ひざには可愛いミッフィーのアップリケが縫われていた。
「………」
藤枝さんのミッフィーブームはまだ終わっていないらしい。俺は通算三枚目となったミッフィージーパンを畳むと、ビニール袋に押し込んだ。それを掴むと。学生ズボンの後ポケットから鍵を取り出す。
それを自分の部屋の木造ドアのノブの鍵穴につっこんだ。鍵がちょっと曲がっているため、途中まで入ったところでつっかえる。
「くそっ」
いつものことだが、毎度毎度イラつく。俺は力任せに押し込むと、鍵をねじりこんだ。
がきこんっと金属音がして全て飲み込まれた。かっちりとはめ込むと音を立てながら戸が開く。
「ふぅ。ただいまー」
入り口脇に合ったサボテンにそう言うと、靴を脱いで部屋に上がる。
俺の部屋は狭い上にボロっちいので、ほとんどモノがない。実家に居た頃はそれこそゲームや雑誌の束かなんかがいっぱい積み上げられた部屋で過ごしてたが、ここに引っ越してくるときにほとんど置いてきてしまった。
この部屋に実家並みのモノを置くとなるとスペースがいくらあっても足りないし、あんまり重いものを置きすぎると床が抜ける可能性もある。
そんなこんなで俺の部屋にあるものといえば備え付けの水道と流し台とコンロを除くと、ちっちゃい冷蔵庫と14インチの古いテレビ(リモコン無しの奴。地デジにはもちろん非対応)、それに本棚とクローゼットと勉強兼食卓用のちゃぶ台だけだ。
さらに部屋が小さいため、掃除も楽だから必然的に俺の部屋は綺麗だった。
本当にモノがねぇな。だがこの生活初めて二年になるが、あんまり不便だとは感じていなかった。
俺は藤枝さんに縫ってもらった服をクローゼットの箪笥にしまう。ミッフィーブランドになっていないジーパンはあと二枚。そろそろ買いに行かないとな。
俺は部屋の真ん中に置いてあったちゃぶ台を端に寄せると、学生服のまま畳の上にごろりと寝っころがった。ふうと一息つく。夕方過ぎて外は暗くなり始めていたが、部屋の中はもっと暗く見上げた天井は黒く見えた。
俺は腕を伸ばして蛍光灯の電気コード(糸をつないで延長したヤツ)を掴むと、軽く引っ張った。ぱちんと音を立てて蛍光灯が二・三度点滅するとグレー色の蛍光灯が白くなり俺の部屋を明るく照らした。
白くて丸い光の束を俺はしばらくぼぅっと眺めていた。
「しっかしなぁ……」
気分は憂鬱だった。原因はもちろん、過去最高なファーストコンタクトとなった二十八歳の元引きこもり高校生こと、榛原よづりのことだ。
「俺、あいつといい関係築いていく自信が無いぞ……」
今日の榛原よづりの行動が脳の奥につらつらと再生される。
いきなり、尋ねてきた俺を家に招きいれた彼女。コーヒーをつくって俺の横にぴっとりと寄り添うように座った彼女。
「まさか、あのコーヒーも何か入ってないだろうなっ!?」
俺は起き上がって体をまさぐってみるが、今のところ異常はない。まぁ、唾液ぐらいならまだ生死の危機はないが。
俺は半信半疑ながら、もう一度寝転がる。あのあとあの女は……。俺にヘッドロックをかましてきたな。胸の感触はよだれものだったが、あのヘッドロックの意味はなんなのだろうか。


11 名前:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 17:37:16 ID:h1BEVMqk
ただ抱きしめていただけか? それともマジで息の根を止めるつもりだったのか。
で、彼女は俺のために料理を作ると言い出して……自分の前髪を切り落とした。ばっさりと、一遍の躊躇も無く。
「アレには突然すぎてビビッたなぁ……」
彼女はまるで当然というような顔で切り落としたのだ。いや、確かに料理をするときに前髪は不要だがあんなに長く伸びた髪を女の子はすぐに躊躇無く斬ってしまうものなのか? 普通バンダナつけるとかするだろ? 髪を切るほうが面倒くさいだろ?
そして極めつけは。

べとべとべとべとべとべとべと。

「……」
いいのか。アレは。
あいつ自分の唾液を混ぜながら笑っていたぞ?
俺はどうやらあいつに気に入られたようだが……、いくら副委員長とはいえあんな女の相手はまっぴらごめんだ。
だいいち、無理があるんだよ! カウンセラーでも保健の先生でも無い俺が元引きこもり高校生二十八歳という攻略高難易度キャラを相手にするなんて!
あんなのが隣にいたら俺の心休まる日が無い。さすがに無理だ。
「……しゃあねぇ。今回も委員長頼みか」
俺はズボンから携帯電話を取り出すと、いつものように短縮フォンを押す。見慣れた番号と名前がディスプレイに表示される。スピーカーを耳を近づけると、りぃん……ではなくとぅるるるといつもの発信音が鳴る。
しかし何度も鳴らせるが一向に出ない。三十秒ほど鳴らしてようやく委員長が出た。
『なに? 森本くん』
「おう、委員長」
『珍しいわね、あなたから電話してくるなんて』
そういえば、委員長から俺に学校連絡として電話してくることはあっても俺が電話したことは無かったな。面倒くさくて摺る必要も無かったんだが。
「んだな」
『で、どうしたの?』
「ちょっと話があってな」
『ごめん、後にしてくれないかしら? 今お風呂はいってたところなのよ』
え、ちゅーことは今は風呂上り?
「委員長。もしかして今バスタオル一枚か?」
『それが話? 切るわよ』
ああっ! 待て待て。ちょっと気になっただけなんだって。だってバスタオル一枚で電話に出るなんて、90年代のドラマでは屈指の名シーンじゃないか! 90年代ドラマ好きの俺としては萌え萌えなわけで……とととそんなこと言えねぇか。
「違う違う。すぐすむから」
『なぁに?』
さすが委員長。バスタオル一枚(たぶん)でもちゃんと話は聞いてくれるようだ。
俺は手短に今日のことの詳細を語ろうとしたが……、風呂上りでバスタオル一枚(たぶん)の委員長のことを考えると一分でも長いくらいだ。ここは結論から先に言うべきと判断する。すなわち。
「ごめん、俺明日無理だわ」
『どういうこと?』
「だから、明日急用ができて、榛原さんを迎えに行くのは無理になったんだ。悪いけど委員長が行ってくれないか?」
俺がそう言うと委員長ははぁ? と聞き返す。あまり聞きたくないイラついた声だ。
『またサボり? いい加減にしてよっ。毎回毎回あたしに押し付けてばかりじゃない』
「違うって、本当に急用ができたんだって」
『なによ。急用って』
え、えっと。俺はなにかいい言い訳を考えようとして、思いついたことを出任せに言った。
「明日な妹を幼稚園に連れて行かなきゃならなくなったんだよ。いつもは親が送ってるんだけど、明日はたまたま朝から仕事でさっ!」
俺は一人暮らしだし実家にも妹なんて居ないが、居ることにした。
『あなた一人暮らしだし、一人っ子だって言ってたじゃない』
あ、やべぇ。知ってたか。そういやいろいろサボる口実に「一人暮らしで忙しい」とか言った気がする。俺は冷や汗を流してなんとか言い訳を考える。
「ちげぇよ! 俺の妹じゃねぇよ。 藤枝さんだよ!」
とっさに俺は藤枝さんに妹が居るという設定を作った。もちろん藤枝さんからそんな話は聞いていない。
『藤枝さんの?』
「俺のお隣の藤枝さん。あのひとには幼稚園の妹さんがいてさ、ほら、いつもお世話になってるし、その、な?」
藤枝さんのことは委員長は多少なりとも知っている。何度か俺が話したこともあるし、たまに道で会ったりもしていた。
『藤枝さんに妹さんがいたんだ?』
「あ、うん。藤枝さんは一人暮らしだけど、実家に居るんだって。で、水・金は藤枝さんが送り迎えするんだけどさ。ちょうど明日は藤枝さんも用ができちゃったらしくて……で、俺が負かされたってわけ」
嘘を重ねぬりするのはなかなか心苦しい。

12 名前:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 17:37:57 ID:h1BEVMqk
『ふぅーん……』
委員長はあまり納得して無いようだった。
「だから明日は無理! お願いだよ、代わりに行ってくれよ」
『……へっくしっ』
「大丈夫か? やっぱりバスタオル一枚なんだろ。無理するなよ」
『うっさいわ! ……わかったわよ、じゃあ明日はあたしが迎えに行くわ。あなたも藤枝さんの妹さんの送り迎え頑張りなさいよ。じゃあねまた明日っ!』
どうやら、委員長はバスタオル一枚だったようだ。寒くて早く電話を終わりたかったらしく、最後のほうは早口でいいまとめるとこちらの返事も聞かずに切った。
つーつーつーと耳から流れる音を聞きながら、俺は初めて委員長の関西弁が聞けたことに感動していた。
うっさいわ! うっさいわ! うっさいわ……(エコー)。ああー、もうちょっと長く関西弁を喋って欲しかったなぁ。できれば『うっさいわ!』より『なんでやねん!』の方がいいな。
なんつーか、ああいう普段は方言を使わない子がある特定のときに方言丸出しになるってなんかいいよなぁ。普段から方言だとうざいことこの上ないけど、たまに喋ったりするとなぁ……。
いやいや、それはともかく。
なんとか、明日は榛原よづりを迎えに行くことはならなさそうだ。
俺は安堵の息を吐いた。やっぱりややこしいことは委員長に任せるに限るなと、本人が聞いたら激怒しそうな独り言を呟いて、俺は目をつぶった。
まだ夕方だというのに俺は暗い部屋のせいで眠気に襲われていった。落ちてゆく意識の中で、一瞬だけ俺のまぶたの裏に髪の毛を切って俺に笑った榛原よづりの顔が浮かんだが、俺は特に何も思わず学生服のまま眠りについた。

翌日。
「おいっす」
俺はいつもの登校時間に普通に教室に入った。
「おはよっ!」
「おー、おはようっ」
ちょうど通りかかったロリ姉が挨拶を返してくれたので、俺はロリ姉のポニーテールをぐりぐりと撫でてやった。ロリ姉は憮然とした顔で「もう~」といいながら教室を出て行った。かわゆいやつ。
教室を見渡すと、委員長はまた来てないようだ。委員長の席は空席でカバンも何も置いていない。
ちゃんと俺のお願いを聞いて迎えに言ってくれたんだな。結構結構、でも少し罪悪感が湧く。今度メロンパンでも奢ってやろう。
そういえば無理矢理理由くっつけて委員長に行ってもらったが、あの後藤枝さんから「私にあることないこと付けて理由にするなです」としこたま怒られたんだよなぁ。壁が薄いから全部きこえてたようだ。あの人も美人なくせに怒ると怖いんだよ。
そのくせ面倒見がいいから将来いいお母さんになれるよな。うんうん。ダンナは苦労しそうだが。
俺は一人で納得しながら席に着いた。俺の席は窓側の中間ぐらい。冬場は日当たりが良くて古文の時間とかには昼寝のいいポジションだ。俺の籤運は素晴らしいな。
教室は寒かったが、俺の席は暖かかった。朝の太陽の光を浴びながら俺は大きくあくびをする。こりゃ一時間目から寝てしまうなぁと考えながら。
「んっ」
ぶるりとポケットが揺れる感覚。うぃーんうぃーんと振動音。マナーモードにしていた俺の携帯電話だ。
出してみるとメール受信ではなく、音声着信。LEDライトが赤く点滅していた。光るサブウィンドウを見るとそこには榛原よづりを迎えに行った委員長の文字が躍っていた。
どうしたんだ?
まだ朝のHRまで10分ある。基本的に校内での携帯電話の利用は禁止だが、授業時間以外の使用は一応は黙認されている。まぁ、隣のクラスでは携帯電話で株取引やってるヤツもいるし、こんなに携帯電話が普及している時代、すべてを禁止するのは無理あるしな。
しかし委員長がこの時間に電話してくるのは珍しいな。あいつも携帯電話は持っているが、校内や登下校の時は完全に電源を切っていてほとんど使うことは無かったのに……。
俺は二つ折りの携帯を開くと緑色のボタンをおした。
「おっす。なんだ委員長」
『あ! 森本くん!? いまどこ!?』
かけてきた委員長は声を荒げていて、切羽詰っていた。まるで俺を責めるときのような荒げ方。俺は一瞬、無視すればよかったかもと思った。
「ど、どうした? 今どこって……学校だよ」
『学校!? あなた藤枝さんの妹さんの迎えは?』
「え、ええっと。早く終わったから、学校にはいつもより早く着いたんだよ。妹さん意外と早起きで……」
『そんなことはどうでもいいわっ! ちょ、やめいっ! こら! やめんかワレ!!』
電話越しの委員長は誰かと揉めているようだ。委員長の切羽詰った声となにかごとりごとりというワケのわからない擬音。ついには委員長が関西弁になっていた。
俺は急激に嫌な予感が体の中に駆け上がる。

13 名前:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 17:38:53 ID:h1BEVMqk
「お、オイ! オマエ今どこだ!? おい!!」
今度はこっちが声を荒げて質問を返した。俺の様子に俺の前の席で談笑していた鞠田早百合と兼森良樹が何事かと振り返る。
『榛原さん家や! 迎えに行ったらいきなり暴れだし……きゃぁっ な、なに持ってんねや! ちょっ!』
サーと俺の頭から血の気が引いていく。修羅場中の修羅場。俺の頭の中に榛原よづりの姿が思い出された。
あの依存的な瞳、壊れそうな体躯、そして、俺に対する歪んだ……

べとべとべとべと。

なにか。
まてまてまてまて! やべぇ、やべぇよ! もしかして、俺はとんでもないことをしてしまったんじゃないか!? とんでもないところに委員長を送り込んでしまったんじゃないか!?
「お、おい! 逃げろ! どこでもいいから逃げろ!!」
俺は慌てて電話越しの委員長に叫ぶ。俺の怒号に教室に居た全員が俺に注目していた。だが、俺は溢れる冷や汗にまみれながら携帯の向こうに居る委員長の状態が気がかりで、まったく気にしていなかった。
『に、逃げるゆーたって……どこに……』
刹那。

ガシャーンッッ!!

電話越しからきこえる、大きな音。皿が割れたような、ガラス瓶が割れたような、鈍器が割れたような。
『キャァァ!』
ぶちっ。
つーつーつー。
悲鳴とともに突然電話が切れた。
「……ホ、ホラー映画かよ……」
カミングスーンってか?
俺は額から冷や汗が止まらなかった。
「どうしたんだ、森本?」
俺の前に居た兼森良樹が怪訝そうな顔で聞く。あんだけ電話越しに大声を出していたのだ。そりゃ聞いてくる。横に居た鞠田早百合も眼光鋭くこちらを見ていた。
「……今日の一時間目ってなんだったっけな……」
目の前の二人に絞り出すような声で聞く。
「はぁ、古文だけど」
よっしゃっ。俺は右手でガッツポーズを作った。古文ならいてもいなくても大した勉強にならんっ。ちょうどいい!
「わりぃ、俺サボるわ! 兼森、俺の名前が呼ばれたら返事しといて!」
「え、ちょっとそんな無茶なっ」
俺は席から立ち上がり、カバンを置いたまま教室を飛び出す。俺の突然の行動にクラスメイトの何人かがぽかんとした顔で見ていたのが見えた。
委員長を、助けに行かなければ。
考えれば分かることじゃないか! あんな精神が不安定な元引きこもりがたまたま俺に懐いたからって、委員長に懐くわけねぇ。だいいち、料理がしづらいから自分の髪の毛を躊躇無く切り落とすヤツだぞ? 普通ではない!
廊下へ飛び出ると教室に入ろうとした京太にぶつかる。京太は尻餅をついて倒れた。俺は「すまん」と一言だけ言うと、わき目も降らず昇降口に向かって走り出した。
委員長を自分の怠惰で危険な目に合わせた自分に対する罪悪感と情けなさで俺は泣きそうだった。
俺は溢れそうな涙をこらえ、その感情全ての力を両足に込めて走った。廊下を走り抜け、上靴のまま昇降口から外に飛び出し疾走する。
「おい、上靴のまま外に出るな」
昇降口に飛び出した途端、教師としてはめちゃくちゃ遅めに登校してきた遅刻常習犯の養護教授の時ノ瀬が顔をしかめて注意してくる。
うるせぇ、今は緊急事態なんだ。冬でもTシャツ白衣に裸足にサンダルで登校してくるお前に言われたくねぇ! 俺は無視して走り続けた。
たぶん、体育祭の徒競走でもこんなに全速力で走ったこと無いだろう。委員長の最後の悲鳴が頭から離れない。
「頼むっ。無事で居てくれっ!」


14 名前:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 17:39:57 ID:h1BEVMqk
ぜぇぜぇと俺は荒げる息をついて、榛原よづりの家の前までやってきた。
門はきっちりと閉じられている。まるで魔王の城へ攻略する勇者になった気分だった。いや、勇者でも一度逃げたヘタレ勇者か。
きぃと俺は門を開けて敷地内へと入った。植えられたパンジーの毒々しい色が俺の恐怖をいっそうに煽っている……気がする。
玄関ドアの前までやってきた俺は、耳をドアに付けて中の様子を確認してみる。まだどかんどかんと音がしてたら何か鎮圧するための武器が必要になるかもしれない。
「……無音だな」
恐ろしいくらいなにも聞こえない。休憩か? まぁ榛原よづりはスタミナ無さそうだしなぁ。
俺はドアノブを掴むとゆっくりと回す。がちゃりと音を立ててドアが開いた。おそるおそる俺は中を覗く。
そこには……。
「な、なんだこりゃ……」
俺は玄関で立ち尽くしてしまった。
様子は酷いものだった。昨日お邪魔したときにはあんなに清潔に保たれていた玄関や廊下。見るも無残な状態だ。
玄関で飾られていたはずの花瓶や飾り皿はそこになく、床に叩きつけられたのか無残にも砕け散って散乱している。花瓶の中身なのか、足元にはばらばらと多種多様な花が散らばり、中の水があたりに飛び散っている。
醤油指しやソース、砂糖、塩のケースもひっくり返って、辺りに転がっている。辺りに散乱している見るも無残な料理に一部が溶け出して、不気味な色をかもし出していた。
電気ポットはコードごと引きちぎられ、ふたがへし折られて転がっている。沸騰したお湯があたりに広がり座り込むよづりの足元まで届いていた。
倒れたこけしの首がもげてひびが入った水槽に沈んでいてまるで死体のようだ。
高級そうな壁紙の一部は、何か硬い物がぶつかったのか見事に剥げ落ちていて、あちこちに赤い液体が飛び散っている。……まさか、血か? しかし、ちかづいてよく見るとただのケチャップだった。下にチューブが落ちている。
うわぁ、ビビった。ここらへんがライトなのか?
俺は恐る恐る廊下を歩く。委員長の安否が心配だ。靴を脱いで破片をよけて廊下を渡っていった。
委員長はどこに居るんだ? ちゃんと逃げたのだろうか。門が閉まっていたから外には出てないかもしれない。どこかに隠れているのかも……。
何故か自分で音を立てないように歩く。廊下を抜けて、台所を覗こうとした瞬間。
「しくしくしく……」
硬直した。女のすすり泣くような声。俺はサーっと血の気が引く。
すすり泣く声。この声は確実に……。榛原よづり。なんでお前が泣いてんだよ。
俺は台所をゆっくりと顔だけ出して覗く。すだれの間から女の後姿が見えた。
「しくしくしく……」
黒いセーターに長い髪の毛。そして右手には『秋穂』と筆文字でかかれた日本酒のビン。
「しくしく……ぐびりっ」
後姿の榛原よづりはすすり泣きながら、時折持っていた日本酒ビンの注ぎ口を口元にあてると、顔を上にあげてラッパ呑みをしていた。ごきゅりごきゅりと液体が喉を通っていく音がここまで聞こえる。
明らかにやけ酒だ。あんな度の強そうな日本酒を一気飲みすると急性アルコール中毒になってしまう。
「ぐびりぅぐびりっ。ぷはぁ………ううう、かずくぅん……」
うわぁ! 明らかに俺が原因かよ!
「お、おい! 榛原っ」
「んふうぇ?」
俺は慌てて台所に入った。後姿の榛原よづりの肩を掴んで、日本酒を取り上げる。奪い取った日本酒は一本カラだった。全部飲んだのかコイツは。
突然肩を掴まれた榛原よづりはびくりと体を震わせた。ぐるりとマネキン人形のように顔の向きだけぎこちなく振り向く。
目が死んでいた。
長い髪の毛はくしゃくしゃに汚れていて、前髪の下に浮かんだ瞳は暗色の水彩絵の具を水で溶かしたように淀んだ色をしている。同じく、俺は台所の惨状にも驚いた。
台所の床にはぐちゃぐちゃになった料理が無残に散らばっていた。豚の角煮、牛ステーキ、アジの開き、焼いたホタテ……その盛り付けられていたはずの、どれもよだれもののうまそうな料理が、テーブルではなく床に散乱し、
砕け散った皿と区別が柄なった醤油指しやソース、砂糖、塩のケースもひっくり返って、辺りに転がっている。辺りに散乱している見るも無残な料理に一部が溶け出して、不気味な色をかもし出していた。
電気ポットはコードごと引きちぎられ、ふたがへし折られて転がっている。
沸騰したお湯があたりに広がりそのお湯と湯気、そして料理の臭いが台所に充満し、吐き気を覚えるにおいが立ち込めていた。幸いなのは、ガスコンロのガス栓が抜けていなかったことだろう。もしそうなら、それこそ大惨事になりかねない。

15 名前:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 17:40:59 ID:h1BEVMqk
コップの取っ手は中ほどでへし折れ、見事に真っ二つに割れていた。ナイフは真ん中でへし曲がったり、フォークは一体同やたらこうなるのか、刃があらぬ方向にねじれていた。
そのあちこちには、盛り付けて合ったはずの新鮮なトマトが中身をぶちまけてへしゃげ、散らばっている。みようによってはそれは、えぐられた人肉にも見えて、こみ上げ来るものを何とかこらえた。
冷蔵庫は半開きになり、薄明かりを漏らしている。あとで出そうとしていたのか、そこにはケーキらしきものやら、プリンらしきもの、どれもうまそうだったはずのデザートが、奥のほうでつぶれていた。
もとは、テーブルに並んでいたのだろう。全てが台無しになってしまっている。
榛原よづりの目が俺の顔に定まる。しばらくの間固まっていた。しかし数刻、肩を掴んだのが俺だとわかると。
「か、か、か、か………」
淀んでいた瞳に急に生気が蘇ってきた。アルコールで赤くなった顔もさらに赤みを増して、口元もわなわなと喜びに震える。そして、
「かずくぅぅんっっ!!」
まるで飛びつくように抱きつかれた。俺は食い物が散乱した床に背中から押し倒される。
「かずくんかずくんかずくんかずきゅぅぅぅんっ!」
まるで甘えん盛りの猫のようにぐりぐりと俺の胸に頭を押し付ける榛原よづり。ソプラノ調の高い泣き声で何度も俺の名前を叫び続けていた。
セーターで押し上げられた二十八歳の豊満な巨乳が臍あたりにぐりぐりと押し付けられた俺は思わず反応しそうになるが、さすがに状況が状況なのでなんとか自分を押し留める。
「おいおい、落ち着け!」
「なんで、なんで来てくれなかったのよぅ! なんでよぅ!!」
榛原よづりは頭を押し付けながら俺を責めたてる言葉を吐いた。
「なんでよぅ! やっとわたしに会いに来てくれる人が居たと思ったのに! やっと、わたしを支えてくれる人だと思ったのにぃ!
どうして、どうして、裏切ったのよう!! 裏切りものぉ! かずきゅぅん!」
支離滅裂だ。俺はワケがわからないがなんとか落ち着かそうと開いた手で榛原よづりの頭を撫でていた。
「よろしくねって言ったじゃない。迎えにくるって行ったじゃない! だぁかぁらぁ、わたしかずくんの好きなもの考えていっぱい用意して待っていたのに……。
そうしたら、そうしたら、なんか変な女の子がきてぇ、かずくんは来ないってうそついてぇ、嘘、嘘、嘘、嘘ついたの! あの女の子があ」
委員長のことだ。そういえば委員長はどこ行ったんだ? 俺は榛原よづりの頭を撫でながらそちらも気になっていた。
「あの女の子が嘘ついてるとおもってぇ、あの女の子、あの女、私とかずくんの間を邪魔してるのよぉ! 邪魔してるのぉ! だぁかぁら、あたし言ったのぉ、かずくんは来るって、絶対来るって! だけど、あの女は来ないって言い張ってて……だからぁ……」
やめてくれ、それから先は言わないでくれ。頼むから。お前が何か言うたびに俺は委員長を危険な目にあわせたという罪悪感が湧いて来るんだよ!
俺は押し倒されたまま榛原よづりの頭を両手で抱きしめた。
「落ち着けっ。榛原! 榛原! よづり! よづりっ!」
俺は、初めてこの女を名前で呼んだ。俺の声に反応したのか、よづりが言葉を止めた。押し付けられる頭を抱きしめて、さとすように俺はゆっくりとよづりに語りかける。
「この料理は俺のために作ってくれたのか?」
「う、うぅん。好きなもの知らないからぁ。冷蔵庫にあるもの使って、全部ぜぇんぶ……。でもぉ、あの女の子のせいで、あたぁしムカッとなって……」
「全部おシャカにしちゃったのか」
「うん……、気がついたらテェブルの全てを投げてた……」
「……そうか」
俺は抱きしめながら、手のひらでよづりの頭を撫で続ける。
そのたびに、よづりは気持ちよさそうに体を震わして吐き続ける嗚咽をなんとか収めていった。
「ありがとうな」
「ふえぇ?」
「料理だよ、料理。作ってくれてさ」
「う、うん……」

16 名前:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 17:42:05 ID:h1BEVMqk
もぞりもぞりと抱きしめていたよづりが動き出す。俺が腕を放すと彼女は右手で体を支え起き上がった。
ざんばらとなった髪の毛が顔の前まで垂れかかって、まるで昨日の前髪を切る前の姿のようだった。髪の毛の間から覗く顔つきはお酒のせいか、ほほが赤くとてつもなく緩んでいた。しかし、受け答えはなんとかはっきりしている。酒には強いのか。
俺はそんなよづりを見上げながら、あることを心に決めた。
「台所がぐちゃぐちゃ……ごめんなさい……暴れちゃった……」
「オイオイ、俺に謝るなよ」
「だってぇ、来ないって聞いてぇ……。私、私……」
大の大人がぽろぽろ泣く姿はとてもじゃないが正視できない。俺はよづりの寂しさがいたいほど伝わってくる。
「俺は来たじゃないか。だからもう自分を責めるなよ」
俺は、ぽんぽんとよづりの頭を撫でるように叩くと、上半身を起き上がらせた。見上げていたよづりの顔が目の前までやってくる。
さぁ、ここから俺の舞台だ。こんなことになってしまったのは俺の責任だ。さすがに、ここまでのことをして、ただ反省しただけではすまない。
副委員長として、男として、けじめをつけないとならない。
「暴れなくてもお前のためなら俺はいつでも駆けつけるよ」
恥ずかしいセリフだ。しかし、俺は真剣だった。
「ふぇ……?」
「これから、お前のために俺がついてってやる。だからさ、もう暴れんな。もう泣くな。もう……自分を責めるな」
そう言って、俺はもう一度。今度は正面から、よづりの華奢で弱弱しい体躯を抱きしめた。ふにゅりと俺の胸で形を変えて圧縮される彼女の胸。しかし、それはもう気にならなかった。
「ふぅえ……」
よづりはまるで何が分からないといったように体を硬くする。が、自分が俺に抱きしめられていると分かると、
「えへ、えへへへへへへへ……」
よづりはいつもの笑い声をあげて、俺にもたれかかる様に背中に腕を回して、体を押し付けた。
「えへへへ、えへへへへへへ………だぁいすきぃ……かずくん」
散乱した台所、床には脂や陶器の皿の破片、そんな異空間で抱き合う二人。なんじゃこりゃ。
肩に乗せられたよづりの顔から呟かれる言葉を聞きながら俺はこう思っていた。

こいつを、かならず、普通の女に戻してやる。

これまでなにもしてこなかった俺。副委員長という仕事を与えられながら何一つ満足にやろうとしなかった自分。この散乱した台所と泣きながら自暴自棄へ陥るよづり。これらはそんな自分が起こした悲劇の結果。
俺は自分の怠惰やその場しのぎの感情で他人を傷つけることを今始めて実感したのだ。だからこそ、俺はこのすべてをリカバリーしたかったのだ。
そうして生まれた決意。それがこのよづりを真人間に戻してやること。
しかし、それはただの責任感や罪悪感から出てきた偽善じゃないのか? スカした自分が俺の脳内へ語りかける。
いや、偽善でもいい。 俺はスカしたいままでの自分、いままで何でも斜めに見ているだけで何もしようとしなかった自分を一喝した。偽善でもいい!
それで、こいつを救うことができるなら。俺は偽善でも何でもやってやるさ!

抱きしめたよづりの体は温かかった。
そうだ、こいつは人間だ。ちゃんと血の通った人間なんだ!
俺は自分にそう言いきかせるともういちど強くよづりを抱きしめた。強く、強く。
(続く)

17 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 17:43:12 ID:h1BEVMqk
4スレに間に合いませんでした。真夜中のよづり第4話でした。
これで一応は第一章の終わりとなります。ここで一区切りです。なんだか28歳という年齢が議論になるようですが、まぁ新たな萌え要素としてお願いします。
これ、痛女か? とか不安な部分ありますがまだまだよろしくお願いします。次回はまたいつになるか分かりませんが、絶対続けますので。

保管庫BBSにて素晴らしくやらしいイラストを描いて下さった屍氏さんには感謝の嵐です。

(訂正)
藤枝さんを仮名のまま出してしまいました。
藤枝→鈴森に脳内変更してください。

18 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:04:50 ID:AMJCUY6P
>>1乙!

よづりキタ━━(゚∀゚)━━ヨ! これからの展開にwktk
いやいや28歳は全然おkですよー よづり可愛いよよづり(*´Д`)
…ところで委員長は?

19 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 19:53:26 ID:h1BEVMqk
>18
委員長の安否は次回参照です。

20 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/25(日) 20:50:58 ID:tDVc7h/F
鈴森さんがFAってことでおk?


21 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/02/25(日) 21:20:30 ID:n7hWN+Wo
よづりタソめっさ楽しみにしてます
(*´Д`)

22 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/02/26(月) 00:12:09 ID:BHLj2vtS
委員長フォーエバー

23 名前: ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 00:49:09 ID:7vA5fpNJ
>>17
赤いパパ氏、GJです!
よづりの可愛さに嫉妬ww

では上書き本ルート8話投下します。

24 名前: ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 00:49:51 ID:7vA5fpNJ
「だから、加奈とは小二の頃から付き合い始めたんだよ!」
「”加奈”だって!名前で呼んじゃって、いやらしいんだ!」
「今までだってそう呼んでただろ…」
クラスの生徒のほとんどが一ヶ所に集まり円形に取り囲んだ中心の席に座りながら俺は皆から視線をそらそうとした。
勿論360度包囲されているから嫌でも誰かとは視線が合ってしまう。
上を向くのは格好的に間抜けだし、下を向いていると落ち込んでいるように思われそうだから必然的に正面を向かなければならない。
加奈と体育館裏に行く前「後で」と言ってしまった手前、この質問攻めには応じる他ない。
軽はずみな言動は避けようと肝に命じながら、腕時計の時間を目線だけで確認する、早く授業が始まって欲しいと思ったのは初めてかもしれない。

加奈とのやり取りの後、去って行こうとした加奈と俺は放送で校長室に呼ばれた。
当然”あの紙”について知っている事を少しでも聞く為だ。
事実は知っているが口が裂けても言えないし、加奈が不利な状況に陥るような事を言う気もなかったので終始口篭っていただけだった。
加奈はと言うと笑顔で”はっきりと”「知りません」と言ってのけた、罪悪感なんて欠片も感じてない様子だった。
その事に意識が集中してしまいほとんど話を聞いていない俺の態度に気付いたのか、校長は”校内での異性交遊”について口を酸っぱくしてきた。
何で学校に個人的な恋愛沙汰に首を突っ込まれなきゃならないのかと腹が立ったが反論をする気はなかった。
校長の言い分、”恋にうつつをぬかしているだけでは将来後悔する”、というのは俺の意見と一致しているからだ。
この事を言われた時だけ加奈がかなり険しい表情になっていたのを今でも覚えている。
破れる直前の風船のような殺気漂わす加奈に背筋にミミズが這うような寒気を感じた俺は、ペコペコ頭を下げ早急に加奈と校長室を出た。
緊迫感に押し潰されそうな空間からの解放に喜んでいる俺は勿論、加奈も元通りの笑顔になったので一安心して教室に戻った。
そこからだ、今のように質問の嵐に巻き込まれるようになったのは。
待ち構えていたようにドア付近に固まっいたクラスメイトたちは、俺が教室に入ると一斉に俺の前に群がってきた。
クラスメイトの間をくぐり何とか席に着かせてもらえた俺は、その後皆からの好奇的な視線と似たような質問を浴びているという訳だ。
その質問の内容に”あの紙”に関連する事はほとんどなく、俺と加奈の関係についてひたすら聞かれた。
他人の恋愛話程聞いて面白いものはそうないし、俺は加奈との関係については黙秘していたから、当然といえば当然な事だ。
俺はそれが煩わしかった、プライベートな話題は加奈とだけしたいし、加奈以外の人間にそういう事を言うのは面倒というか正直嫌だった。
何だか俺と加奈とだけの間の”秘密の共有空間”に土足で踏み入れられた感じがするのだ。
加奈に学校内で極力付き合いをしないように促すのは勿論加奈の将来を思ってというのが第一だが、それと同じ位俺が加奈を独占したいというのもあるんだと今更思う。
加奈は俺を独占したくて皆に俺たちの関係を知らせた、俺も加奈を独占したいが皆に俺たちの関係を知らせたくはない、同じ目的のはずなのにその二つが交わる事はない、今日何度目か分からないがこれも”おかしな事”だなと思った。

『キーン・コーン・カーン・コーン』
きっと…俺がこうして苦悩している事なんて”運命”の壮大な輪廻に比べれば他愛ない事なんだろうなと柄にもない事を考えていると、学生生活11年目でもうお馴染の始業の鐘が鳴った。
俺の視界を塞いでいた生徒の壁が名残惜しそうに崩れていく。
とりあえずこれで助かった、安堵する暇もなくHRが始まった。


25 名前:上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 00:50:30 ID:7vA5fpNJ
「まだかなぁ…」
腕時計の時間を見て思わず呟いてしまった声は周りのざわめきにかき消される。
いつものように数分の連絡事項だけで幕を閉じたHRの後は自習時間…という名目の自由時間になる。
担任も終業時間になるまでは職員室に戻ってしまうから、喋り場と大して変わらない。
当然勉強している奴なんかほぼ皆無で、皆周りの人間との会話に忙しそうだ。
さっきの質問攻めで今日一日分喋ってしまったような気がして、そして何より考え事をしたくなかったので俺は腕枕を作り机に突っ伏した。
疲れているが寝つけない、幾ら目を閉じても全然眠気は襲ってこない。
こういう時だけ都合の良いものだと観念した俺は寝る事を諦め肘をついた。
そして加奈の事を考える…加奈についての事はあり過ぎて頭が爆発しそうだ。
その無駄に多過ぎる事柄に共通する一つのキーワード…”何故加奈がそこまでするのか?”ていう疑問にぶち当たりすぐにそれは壊れさる。
奢りでも何でもなくその理由はただ一つ、”加奈が俺を好きだから”だ。
そんな事は分かっている、加奈と俺が相思相愛な事も、加奈が俺を好き過ぎる故に”今日のような事”をしたのだって分かっている。
分かっているから心配なのだ、加奈が確実に昔の純粋な面影をなくしていき、やがて更に純粋に”なり過ぎる”のが心配なんだ。
今の加奈を見る限り、明らかに加奈は冷静でない、いや冷静過ぎる気がする。
物事を深く考え過ぎて目の前の簡単な事を取り溢すのではないかと思う。
もしそうなれば…具体的な想像は出来ないが、”ヤバイ事になる”のは間違いないと思う。
そうなる前に加奈を正気にしないと………
『キーン・コーン・カーン・コーン』
そんな俺の決意を後押しするように終業のチャイムが鳴った。
担任が適当に教室に戻ってきて適当に挨拶を済ませ適当に教室を出て行く。
いつもの日常のリズムに微妙な満足感を覚えながら俺はトイレに行こうとして廊下を見た…そして驚いた。
「誠人くんっ、ヤッホー!」
本来なら別に驚くべき場面じゃない。
しかし普段学校内では極力会わないようにと言っているはずだから驚いてしまった、そこにいたのは加奈だ。
廊下から手を振りながら教室にあたかもそこの住人のように当たり前に入って来た。
突然の来訪者に俺だけでなく他のクラスメイトも加奈に注目する、その中にはニヤニヤしながら俺を見てくる奴もいた。
その存在を気にしないで椅子から立ち上がり、歩いてくる加奈に歩み寄る。
「どうしたの、怖い顔して?」
頭を45度傾ける加奈の眼前に立つ。
少々険しい顔を作り、本当に心苦しいが結構キツ目に問い掛ける。
「どうしてここに来てんだよ?」
「え?”彼氏と彼女”が一緒にいるのは当然じゃない?」
俺からの強めの口調での問いにあくまで淡々と答える加奈。
いつもならすぐに謝ってくるのに、全く動揺した様子のない”静かな返答”が俺の背筋を冷たく貫いた。
「学校内では極力会わないって決めてたはずだろ?」
「誠人くん、そんなのおかしいと思う。過ごした時間だけ仲も深まっていくものでしょ?」
「それは…」
何とか言い返したかったが、今の加奈には何を言っても勝てない気がする。
加奈の言っている事は間違っていない、寧ろ俺がしている事の方が間違っているのではないか?
誰がおかしいのか分からなくなり混乱する俺をよそに、周りは急に賑やかになっていくのを感じる。
「沢崎、加奈ちゃんの言っている事は間違ってないぞ」、「お熱いねぇ!」、俺たちに野次が飛ぶ。
こういう時だけは本当にお節介だなと言いかけたところを何とか堪える。
他のクラスメイトが加奈を姫を扱うように丁寧に俺の席に座らせても、文句は言わなかった、言えなかった。
「加奈ちゃん、あたしたち応援してるからね!あんな”姑息な事”する奴なんかに負けないでね」
女生徒の一人が試合前のボクシング選手に喝を入れるセコンドのように拳を力一杯握り締めている。
それに笑顔で応える加奈。
その女生徒が言った”姑息な事”とは今朝の”あの紙”の事を言っているのだろう…その事が分かった時俺は加奈の顔を反射的に見てしまった。
周りからの冷やかしに困ったような笑顔を浮かべる加奈…この顔を見て限りなく確信に近い推測をした。
加奈が”あの紙”の文面を他者がやったように見せたのには、周りからの同情や応援を受けるという付加目的もあったという推測を。
果たして俺の目の前にいるのは、”本当に”加奈なのか…?
教室内のざわめきに反し、俺は一人沈黙を守っていた。


26 名前:上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 00:51:04 ID:7vA5fpNJ
「ふぅ…終わったか…」
終業の鐘の音を聞き俺は溜め息をついた。
結局あの後加奈は休み時間毎に俺の下へ訪れた。
昼飯まで周りから冷やかしを受けながら一緒に食べた。
生徒がどんどん俺と加奈をセットのように認識していく…俺にとっては悪い流れだ。
このままではプライベートと学校生活が同化してしまう、最も避けたかった状況へと事態は進んでいっている。
しかし、止める術は俺には見付けられない。
加奈が笑顔だからそれでいいじゃないかと甘い考えにも逃げようとしたがそれは断じて認められない。
今幸せなだけでは駄目なのだ、加奈には”ずっと”幸せでいて欲しい。
だからこそここで俺が諦める訳にはいかない、決心だけは一人前の俺、その背中を誰かに叩かれる。
振り向くとそこには島村がいた。
相変わらずの大きな眼鏡の位置を慣れた手付きで直している。
「何だよ、島村?」
「不機嫌なのは分かりますが、私にやつ当たりというのは酷いと思いますよ」
この女はやはり侮れない…。
島村と昨日”あんな所”で会いさえしなければ…そんな筋違いな苛立ちをさりげなくぶつけたのを完璧に見抜かれてしまった。
何も言えなくなる俺をよそに、島村は鞄を持ったまま腕を組み、俺の耳に向かって小声で話し掛けてくる。
「”昨日の場所”に一緒に来て下さい」
「”昨日”の場所?」
俺が若干大きめの声で言うと、島村は顔を軽く赤くしながら口元に指を立てた、”昨日の命令”の時のように。
しかしあの時と違って今の島村の指は震えている、実に女の子らしい反応だなと親父くさい事を考えてしまう。
周りを心配そうに見渡す仕草から推測するに、どうやらクラスの他の奴には”本性”を見せたくないようだ。
やけに可愛らしいところもあるじゃないかと思いながら重い腰を上げる。
それを了承のサインと受け取ったのか、島村は踵を返し教室から出て行った、まぁ今は島村に服従している立場だから無理矢理にでも行かされていたんだろうけど。
少々情けなく思いながら島村の後ろ姿を眺めていると、髪から僅かに覗く耳がまだ真っ赤になっていた。
笑いそうになるのを堪えながら、俺は島村の後を追って行った。

”ここ”、体育館裏に女の子と来るのはこれで三度目だ。
何も変わっていない、昨日島村の本性を垣間見た時と何も変わらない。
「ここは静かで落ち着きますね」
「そうだな」
音はないが殺風景という訳ではないこの広々とした空間に浸っている島村。
時折吹く風でなびく短髪を押さえる仕草はやはり”女の子らしい”。
これで性格さえ治せばきっと彼氏の一人や二人幾らでも出来るんだろうな…って俺島村に彼氏がいるかなんて知らないな。
興味はあるが聞く程の事じゃないし、万が一聞いて機嫌を損ねられたらまた面倒な事になるんで押し黙る。
「短刀直入に言います、”あの紙”の犯人は城井さんなんじゃないでしょうか?」
「なっ!?」
しまった、そう思った。
島村の不意打ちに反応してしまった自分が憎らしい。
今笑ってとぼければ全てが丸く収まっただろうに、こんな露骨な反応をしてしまっては肯定しているようなものだ。
「そうなんですね?」
「あっ…その…」
「やっぱりそうでしたか、沢崎くんと違って城井さんが大して驚いていなかったんでもしやと思ったんですが…」
どこで俺たちを見てたんだというどうでもいい疑問を頭の奥底に封じ込める。
俺の様子を一瞬見た島村が納得したような表情を浮かべる。
島村に…他人に、加奈が”やってしまった事”がバレてしまった。
もしバラされたら…いつもならもっと考えて行動するのに、俺はひどく慌てていてすぐに島村の両肩を掴んだ。
「頼むっ!島村、この事は誰にも言わないでくれ!」
「え?」

27 名前:上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 00:52:16 ID:7vA5fpNJ
島村を何とか言いくるめなければ、そうしないと加奈が…。
俺は必死に島村を説得した。
「加奈に悪気はなかったんだ、ちょっと俺との仲を自慢したかっただけなんだよ!ずっと奴隷でいいからこの事は誰にも…」
「”あの事”と引き替えに…と言ったら?」
「”あの事”って…!」
島村が俺より低い位置から俺を見下ろす視線で問い掛けてきた。
”あの事”とは、俺が女子トイレから出てきた事を言っているんだと瞬時に理解する。
いきなりの問いに戸惑う、だってもし”あの事”がバラされれば俺の高校生活が終わる。
俺の青春に有終の美を飾れなくなる…。
「構わない、”あの事”をバラしていいから”この事”だけは言わないでくれ!」
でも加奈の人生に比べれば自分の人生を捨てるなんて簡単だ。
加奈が幸せじゃないなら俺はどんなに充実した日々を送れたとしても幸せにはなれない。
加奈が幸せならそれでいいんだ、その一心を視線に乗せて島村に送る。
視線が交錯する、お互いに相手の考えを読み取ろうとするように。
しばらくして俺の顔を凝視していた島村が突然ニヤけた、無垢な少々のように。
「何真剣になっているんですか、私がそんな事するような人間に見えます?」
思わず「見える」と言いそうになるのを何とか堪えた。
そして考える、島村はどういうつもりなのかと。
「安心して下さい、どちらの事も始めから言う気なんてありませんよ」
意外な言葉だった。
まさか”あの”島村が…俺を縛っている”縄”の存在を切り捨てるような発言をするから。
始めから言う気がないなんて言ってしまったら俺を”あの事”で縛る事はもう出来なくなるじゃないか…頭が混乱している俺に更に島村が追い討ちをかけてくる。
「いい機会ですし、もう”奴隷”から解放しますよ!」
「え、何でだよ!?」
「そちらこそ何ですか、まだ奴隷になっていたかったんですか?」
「そんな訳ないだろ!」
思わずムキになってしまう俺を楽しそうに笑う島村。
本当にこの女の考えは読めない、そのくせこちらの考えは全て見透かされている気がしてならない。
島村の心中は分からないが、とりあえず半永久奴隷からの解放は素直に嬉しい。
昨日は正直絶望したが、まさか一日で終わるとは。
嬉しさついでに俺は何も考えずに素朴な質問をぶつける。
「なぁ、なんで加奈がやったって事を確認しようとしたんだ?言う気がないなら知ったところで意味がないだろ?」
「何言っているんですか、ライバルの性格を把握するのは略奪愛の基本ですよ」
………ん?
今なんか明らかに変な事を言ったような気がした。
気のせいかと思い聞き流そうとした俺、しかしそれを残酷に島村は拒んだ。
「まぁ”あんな事”して誠人くんを困らせているような女に負ける気なんてありませんがね」
「は?何を言ってんだお前は?」
思った事がそのまま口から漏れた。
だって本当に意味が分からない、突然俺の事名前で呼ぶし、”負ける気がしない”って誰に対して言っているんだ?
次の瞬間、様々な俺の疑問を”一言で”島村は片付けてくれた。
「私あなたの事好きなんですよ?まさか気付いてなかったなんて事はないですよね?」

28 名前:上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 00:52:47 ID:7vA5fpNJ
今島村は何と言った…”好き”?俺を?
”島村が俺の事を好き”?
呆然とする俺に呆れ顔で島村は眼鏡の奥に隠した鋭い視線を向けてきた。
俺を切り裂くように見つめてくる。
「本当に気付いていなかったんですか?好きな人でもないと相手を奴隷にしようだなんと思いませんよ」
言われて何となく納得した。
確かにその通りだ。
指を舐めさせるなんて普通の人間にやらせる訳がない…。
首元へのキスマークを含めて、今までの行動は全て俺への好意からだったのか?
そう仮定した途端全てが噛み合った。
まさかこんな意外なところに解答があったなんて…俺は愕然としながら改めて島村の顔を眺めた。
その顔は言いたい事を吐き出せたからか、爽快感に満ち溢れていた。
「ま、という事で」
そう言うと島村が俺に近付いてきた。
俺は島村と真っ正面に向き合いながら硬直しているので距離差はどんどん縮まっていく。
やがて靴一個分までに接近してきた島村、何の躊躇いもなく右手をするりと首元に回し、艶っぽい声で囁く。
「これから”よろしくね”、誠人くん?」
あまりにも近過ぎる俺たちの顔、思わず紅潮させてしまうと島村が子供のようにクスクス笑った。
「本当に可愛いんだから…」
そう言うと、島村の言葉の魔力に縛られた俺の口と島村の口が触れそうになる…”触れそうになった”。
「ハハ、誠人くん見ぃっつけた!あは」
そして一気に魔法はとけ現実に引き戻された、目の色を失っている少女の小刻みに震えた声によって。
「か、加奈ッ!?」
俺は一体どれだけ神に翻弄されればいいんだ…?
目の前の最悪な状況を前にして、俺は運命を呪った。

29 名前: ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 00:54:43 ID:7vA5fpNJ
投下終了です。ちょっと短かったような気もしますがお許しを。
今回は修羅場スレ向けな気もしますが次からはしっかりヤンデレにしますんで。

30 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:06:21 ID:DXwhBY6F
上書きキタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
GJ! 島村さんも本格参戦でしょうか
しかし誠人は無意識に地雷踏みすぎだw

31 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:06:28 ID:Jt4vtuqM
とりあえず、長くなりそう&序章ですが投下します。

32 名前:しまっちゃうメイドさん[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:10:29 ID:Jt4vtuqM
10月12日 19時 竹宮邸 来栖凛(くるす りん)

私の体の中に無数の蟲が注入されていた。それは醜悪なる肉塊を通じて、何度も何度も私
に注がれ、その蟲どもはただ己の下種な本能に従って私の身体の「ある一部分」を目指す

その蟲どもの息吹に、かつて私はある種の歓楽を感じていた。無数の蟲どものただ一つの
欲望を叶えてやりたいとさえ願っていた。
しかし、今では私はこの私の体内で蠢く蟲に嫌悪しか抱かない。そう、私の中に注がれた
蟲はただ一匹を残して全てが息絶えたが、生き残った一匹はこうして今も私の身体の奥深
くで目覚めの時を待っているのだ。私はそのおぞましい感触に耐えられず、それを想像す
る度に込上げてくる嘔吐物を撒き散らした。
我慢出来ない程の屈辱だった。耐え難い陵辱だった。そして私の文字通りの「栄辱」の始
まりであった。
私にこの忌まわしい蟲を植え付けた秋月否命(あきつき いなめ)は、私の身体の事を知
ると、発情した雌犬の如き下卑た眼で私の蟲が宿った身体を舐め回し、物狂いのように甲
高く意味の無い声で唾を吐き散らした。もっとも、その時の私も恐らく否命と同様か、そ
れ以下の醜い喜悦の表情を浮かべていただろう。
蟲の轟きは日増しに強くなる。恐らく今日がその日なのだろう。
私の体の中で唯一生き残った蟲がこの世界に顕現する日だ。この日のために蟲は、私の五
臓六腑を飽く事無く、果てる事無く、貪り喰らい、そのことごとくを自身の血肉としてい
た。全ては今日、私の身体から這い出るためだけに。
その兆候は既に表れていた。
最初の兆候は私が部屋で物思いに耽っている時であった。その蟲がタイナイを駆け巡る痛
みに私は悲鳴を上げそうになった。悲鳴とは、自身の周りの人に自分の状況を伝え、助け
を求めるための信号とされているが、この事実は他に知られてはいけない。自分の状況を
他人に知られてはならないのだ。私の現在の状況が知られたら、すぐさま私は病院に移さ
れてしまうだろう。それを拒否する事も出来るが「何故か?」と問われたら、私は言葉に
詰まってしまうだろう。
私がしようとしている事は病院にいては不可能なことなのだ。しかしながら、その理由を
人様に説明する事がどうして出来よう?
詰まる所、今から私がしようとしている事はそういうことなのだ。

33 名前:しまっちゃうメイドさん[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:12:15 ID:Jt4vtuqM
幸いな事に、今まで私は自身の身体のことを否命を除けば誰にも知られずにいられた。そ
の否命だって、こんなに早く「その日」が来る事を予期してはいまい。
だが、竹宮源之助(たけみや げんのすけ)は何か気付いていることだろう。
ちなみに、源之助はこんな厳つい名でありながら女である。そして私の居候先の唯一の住
人にして、私の同級生だ。
彼女には感謝してもし尽くせぬものがある。
源之助は最初の兆候の日、私の腕に深い噛み傷を発見した。私は身体の奥底から湧き上が
ってくる悲鳴を殺すため、咄嗟に私の腕を口に入れたことにより出来た傷である。源之助
は何も言わず、ただ黙って私の傷の治療をしたが、何か感づいたとみて間違いはないだろ
う。
あの時は、私は気が動転していたのでそこまで配慮が回らなかったが、二回目以降はその
兆候の意味と周期を理解し、幾分かは冷静に兆候に対応することが出来た。
それでも、源之助は何か気付いているようだった。
だが、所詮はその程度だろう。源之助は私の現在の状況を今も尚、知らないままだ。故に
、源之助は今から私がしようとしていることは想像もつかないだろう。
そう、今、この時より始まるのだ。
これより否命の栄辱が幕を開けるのだ。
最後の兆候が始まった。

34 名前:しまっちゃうメイドさん[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:13:32 ID:Jt4vtuqM
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
次の日の明朝、朝食の支度を終えた源之助は通常どおり、凛を起こしに凛の部屋を開けた

瞬間、源之助は言葉を失った。
源之助の顔を見ると凛は、
「おはよう。フフン、どう、驚いた?私だってたまには早起きするのよ」
とニッコリと微笑みかけた。勿論、源之助が驚いているのは凛が早起きしたからではない
。そして凛のこの言葉は、それを分かっているからこそであった。
凛は待っているのだ、源之助がこの部屋の惨状を問いかけるのを…。
「どうしたの?固まっちゃって。早く、学校に行かないと遅刻するわよ」
説明するのが楽しみで仕方の無い、といった風情である。あまりの事に源之助は返す言葉
を失い、無言で凛の部屋の様子を見ていた。
床に溜まる血の跡、凛の血が付着しているパジャマ、乾いた血がこびり付いている凛の拳
、そして部屋に立ち込める獣臭。そして源之助の目はある一点に…凛の足元に転がってい
る物体に注がれた。
源之助の頭よりも先に身体が反応する。
源之助は凛の足元にゴミ屑みたいに転がるものの正体を理解した時には、既に怒りで凛を
殴り飛ばしていた。
「凛!貴方が!」
少し遅れて言葉が飛び出す。源之助は分かっていた、分かっていたが、叫ばずには言られ
なかった。これはお前のやったことかと。
「そう、私がやったの」
殴られた事も意に介さず、凛が笑って言う。
「殺してやったわ。あの色キチガイの…、否命の子よ」
そうして、凛は可、可、可と笑い声を上げた。

投下終わりです

35 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:27:31 ID:JmkqAhOQ
>>34 最初よくわかんなかったが2回読んでわかったぜ!
これからの展開に期待なんだぜ!

36 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:45:13 ID:wFDH2Yl3
>>34
タイトルを見て「しまっちゃうおじさん」を思い出したのはおれだけではないはず

37 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 10:20:26 ID:q39byBT/
>>29キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!GJ!
加奈タンがさらに病んだらどうなってしまうのかとガクブル&wktk
>>34いきなり惨劇((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
この先の展開に期待!

38 名前: ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 17:36:11 ID:OmIerb7I
投下します。
第三話目になります。

39 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 17:37:19 ID:OmIerb7I

眠り過ぎたせいか、頭に靄がかかっているようだった。

学校… 行きたくない…
午前7時。時計を見て最初に思ったのは、それだった。

行きたくない、というより、会いたくない。
昨日の視線を思い出しただけで、身体が震え頭がぐらぐらする。

今日は学校を休もう。
単なる逃げでしかないのは解っていたが、そう思うと少しは気が楽になった。
兄さんを起して、まだ具合が悪いって言おう。そう思った矢先、ノックの音が響いた。

「夏月、起きてる?」
朝が弱い兄さんがこの時間に起きているという事に驚いて、直に返事が出来なかった。
「…兄さん?」
「入るよ?」
わたしの小さな声に起きている事を確認した兄さんが、そっと部屋に入ってきた。

「どうしたの、兄さん? こんな朝早くに…」
「夏月の具合が悪いのに、ぐーぐー寝てられる訳ないだろ?
それより、具合はどう?」
朝が弱い兄さんがわたしを心配してわたしの為だけに、無理して早起きしてくれた。
ぎゅうと胸が締め付けられるような喜びに、緩む頬を見られない様に俯いて小さく返事をする。
「ん… まだちょっと……」
兄さんに嘘を吐かなければならない事に、罪悪感で一杯になりながらも、
それでも今日は学校には行きたくなかった。

おでこに手を当ててきた兄さんは、熱はないみたいだね、と優しく言うと、
俯くわたしの頭を軽く撫で、横になるように促がす。
「昨日の今日だし、今日は学校休もっか」
にこりと微笑む兄さんに緩く頷く。
「ごめんね、兄さん」
迷惑かけて、ごめんなさい。心配かけて、ごめんなさい。嘘吐いて、ごめんなさい。

「夏月はそんな事、気にしなくていいから。朝ご飯作ってくるから、寝てな」
「あ、大丈夫、自分で出来るから。兄さんは自分の用意して? 学校遅れちゃう」
そこまで迷惑かけられないよ。
「だから、気にしなくていいって。どうせ金曜だし、僕も学校休むから」
「え?」
兄さんが学校を休む? わたしのために?

「夏月は何も心配しなくていいから、お兄ちゃんの言う事ちゃんと聞く事。解った?」
「…うん」
わざと怒ったような顔をしていた兄さんは、わたしが頷くとにっこりと笑って、
ご飯作ってくるからと部屋を後にした。

冷え切っていたわたしの心が、兄さんの笑顔に気遣いに幸せで温かくなった。


40 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 17:38:03 ID:OmIerb7I

学校を休んで兄さんと二人きりで家にいられるという事が、わたしを落ち着かせ、
昨晩あれだけ寝たというのに、午前中はずっと微睡んでいた。

どこもかしこも兄さんとわたしの気配しかしないこの家は、わたしにとって最後の砦だ。
ここに居れば大丈夫。何も怖い事なんて、ない。

余り物で作った雑炊で簡単にお昼を済ませると、枕元に座った兄さんに甘えて、
膝枕をねだった。兄さんは嫌な顔一つせず、あんまり寝心地いいとは思えないけど、
と言うと優しく笑って膝を貸してくれた。

兄さんの膝に甘え微睡みながら、ふと思い出す。
「ねぇ、兄さん。兄さんは憶えてる?」
「何を?」
どこまでも優しくわたしの髪を撫でる兄さんの手に、うっとりと目を閉じる。
「わたしが兄さんを、兄さんと呼ぶ事になった出来事を」



双子であるわたし達にも、勿論兄と妹という概念はある。
しかし歳が違う兄妹とは違い、双子にはその感覚は希薄であった。
兄さんとわたしも当初は兄妹という感覚は希薄で、名前で呼び合っていた程だ。

それは兄さんとわたしが5歳の頃だった。
初めて母方の本家の集まりに、一家で参加した時の事だった。

そこにいた同い年くらいの女の子に、わたしは目を奪われた。
艶やかな長い黒髪は流れる様に真っ直ぐで、長い睫毛に色彩られた大きな瞳は
宝石の様に黒く輝き、小さな唇は薔薇色にすっきりとした頬は桜色に染まっていた。
誰もが見蕩れてしまうような、神様が創ったようなお人形のような女の子。
わたしは、ただただ見蕩れてしまった。

するとその女の子は軽やかに、まるで羽根でも生えているかのようにふんわりと、
12・3歳くらいの少年の元に駆けていった。
「お兄ちゃま!」
その女の子が少年に呼びかけた事で、二人が兄妹だという事が解った。
その後、二人がどんな会話をしていたのか記憶にない。
しかし二人がとても仲睦まじく、兄の少年が妹であるあの女の子をとても大事そうに
していた事が、強烈に記憶に残った。

本家の集まりから家に帰る車の中、わたしは父さんと母さんにお兄ちゃんが欲しいと
泣いて駄々を捏ねた。
わたしはあの女の子に、憧れていたんだと思う。
あの女の子が羨ましくて、あの女の子になりたくて駄々を捏ねた。

泣きくれるわたしに、父さんと母さんはお手上げだったらしい。
家に着く頃にはわたしも大分泣き止んでいて、夜も遅い事から兄さんとわたしは
早く寝なさいと子供部屋に押し込められた。
しゃくりあげながらも寝ようとしたわたしを、兄さんの小さな掌が止め、
促がされるまま二人して兄さんのベッドに座った。


41 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 17:38:51 ID:OmIerb7I

「夏月は、お兄ちゃんが欲しいの?」
「うん。夏月、お兄ちゃんが欲しいの…」
兄さんに聞かれ、わたしはまた悲しくなった。
父さんも母さんも、お兄ちゃんはあげられないと言っていたのを思い出したからだ。

「ぼくじゃ、ダメ?」
「え?」

「ぼく、夏月のお兄ちゃんなんだよ?」
その時のわたしは、兄さんが言った事がよく解らなかった。

「ぼくと夏月は双子だけど、ぼくの方が先に生まれたから、
ぼくは夏月のお兄ちゃんで、夏月はぼくの妹なんだよ」
「陽太が夏月のお兄ちゃん?」
「そうだよ。だから新しくお兄ちゃんなんて、いらないよ」
「陽太のこと、お兄ちゃんて呼んでいいの?」
「うん! 夏月のお兄ちゃんは、ぼくだけだよ?
ぼくの妹も夏月だけだからね」
「うん! 夏月のお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけだね!」

こうしてわたしは、兄さんを兄さんと呼ぶようになり、それ以来わたしの中で、
兄さんはもっともっと特別で唯一の存在になった。



「憶えてるよ」
わたしが記憶をなぞり終わると、兄さんもまた思い出していたのか、その分遅れた
返事が優しく降ってきた。
「夏月があんまり泣くから、困ってさ… それで、悔しくなった」
「え? 悔しい?」
意外な兄さんの言葉に、閉じていた目を開いて兄さんを見上げる。

「夏月には僕っていうお兄ちゃんがいるのに、欲しい欲しいって泣いてるから、
夏月が欲しがってる居もしないお兄ちゃんに、嫉妬した」
「…わたしの兄さんは、兄さんだけよ」
兄さんの言葉に呆然としてしまったけれど、咄嗟に口から出た言葉は、
偽らざるわたしの本音だ。

「僕の妹も夏月だけだよ」
あの時の再現のような、言葉遊び。
悪戯っぽく笑う兄さんのその言葉は、揶揄いが含まれているとしても、
わたしを甘く、どこまでも陶酔させる。

「兄さんがいてくれれば、それだけでいい…
兄さん以外、いらない…」
火照る身体の熱を逃がすように、吐いた息と共にそっと呟く。


42 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 17:39:40 ID:OmIerb7I

「珍しいね、夏月がこんなに甘えるなんて」
「ダメ? 兄さんはこういうの嫌?」
兄さんが嫌だったら、もうしない。甘えない。
「ダメじゃない、夏月だったらいいよ。だからそんな顔するなって」
そんな顔ってどんな顔だろう? と思いながらも、起き上がってしまったわたしを、
横になるように促がす兄さんに従って、膝枕に戻った。

「普段こんな風に甘えてくれないから驚いたけど、こういうのもいいね」
「ホント?」
「ホントにホント。夏月はさ、小さい頃からあんまり我侭とか言わないじゃないか。
まあ、父さんも母さんも忙しいからって事もあるんだろうけどさ。
いつも頑張ってるし、僕にだったら、もっと我侭言ってもいいんだよ?」
「兄さん… ありがとう…」

どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう…!
兄さんが好き、兄さんが好き、兄さんが好き!
誰よりも、兄さんが好き!


ピンポ―――ン……

「あれ? 誰か来たみたいだ。夏月、ちょっと待ってて」
「うん」
来客を告げるチャイムの音に、名残惜しく兄さんの膝の上からどくと、
兄さんは慰める様に、わたしの頭にぽんと手を置きひと撫ですると玄関に向かった。

東尉君かな? あ、でもそれにしては時間が早いか…
勧誘か何かかな? 平日のこんな時間に居た事が、あまりないから解らないなあ…

あれ? 兄さん、誰かと話してる?
二人分の足音が、この部屋に向かって来ている。
やっぱり、東尉君だったんだ。今日は学校早く終ったのかなあ?

がちゃりとドアが開いて、わたしの愛おしい兄さんが入って来る。
そして…

「夏月、お友達がお見舞いに来てくれたよ。
どうぞ、伊藤さん」


どうして? どうして?
ここは安全じゃなかったの?

どうして? どうして?


「夏月、具合どお? 心配したんだよぉ」


怖いよ、怖いよ、怖いよ!
昨日の視線よりも、今目の前で笑ってる、好乃の笑顔が、怖い、よ…


-続-

43 名前: ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/02/26(月) 17:40:57 ID:OmIerb7I

以上、続きます。

>>1 乙です。
保管庫管理人さん、いつもありがとうございます。お疲れ様です。
数々のレス、ありがとうございました。

44 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 18:19:25 ID:q39byBT/
>>43
GJ! 夏月のデレっぷりと好乃さんの忍び寄る病みが(・∀・)イイ!

45 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 21:57:04 ID:zyiHHZzN
新スレが立ってるから来てみれば素晴らしい作品が投下されている…。
GJ!

46 名前:慎 ◆lPjs68q5PU [sage] 投稿日:2007/02/27(火) 00:01:54 ID:TMZLf/lG
おうっいっぱい投下されてる・・・職人さんがたGJです。
前スレ埋めました・・・今回のはさすがに反省・・・
でもちょっとまってほしい。病院編は頑張る気なんです。
「みんな病んでる」
「病んでるけどドジッ子」
の二つを主眼に書いていきます。保管庫の方、前スレ291を「淳、昼休みにて」
として、淳シリーズとしてまとめてください。前スレ>>291のときに名前をつけず申し訳ない。
後もう一つネタだけはあるんですがさすがに追いつかない・・・
とりあえず受難書き上げます。

47 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 12:49:20 ID:AIeNLagm
新スレでの連続投下、全ての神々にGJを

>>46wktkして待ってます

48 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 13:34:03 ID:7lrNAGRh
>>「夏月、具合どお? 心配したんだよぉ」
思わず勃起しますた!

しかしキモウトはいいねぇ
まだ病んでないかわいい状態だけど泥棒猫の攻撃でだんだん病んでくるのかwktk

49 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 15:17:31 ID:aBx8Gk3h
ここに投稿しようと思うけど、結局ヤンデレSSと嫉妬SSの違いは何ですか

流血沙汰は必須なのかな・・

50 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 15:27:00 ID:TflrmxA/
>>49
簡単に言えば、嫉妬SSスレは女性同士(単独もか?)のやきもちや嫉妬、
もしくはそれによって起こる修羅場を描く。

ヤンデレSSスレはヒロイン単独でも複数でも成り立つ。
ヒロインが病みつつ、狂うほどに主人公を愛しているのならば。

流血は行動によって起こる結果であって、目的ではない。
よって、必須とは言えない。

51 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 15:38:35 ID:TflrmxA/
ごめん。追加。

嫉妬SSスレ=嫉妬が必須。嫉妬・修羅場に重点が置かれる。
ヤンデレSSスレ=嫉妬が無くてもいい。ヒロインの狂愛に重点が置かれる。

52 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 16:13:51 ID:LfItP5lF
難しいなぁ・・
狂愛と来たか・・

難題を抱えて作品を書くのはちょっと困難だぁ

53 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 16:38:22 ID:TiFDd3k+
深く考えるな>>55
『やっちゃいけないこと』をヒロインにさせればいいんだ。

54 名前:53[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 16:39:40 ID:TiFDd3k+
>>52だ、スマソ

55 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 16:45:16 ID:ciBdQby7
俺!?     


ってやりたかっただけ。今は後悔してる。

56 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 17:16:56 ID:QKGh0bEG
八百屋お七みたいのもヤンデレかね?

57 名前: ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/27(火) 18:20:17 ID:Quf4Ljbq
>>43
夏月の今後にwktk
勿論好乃さんも好きですよw

では上書き投下します。

58 名前:上書き第9話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/27(火) 18:21:19 ID:Quf4Ljbq
昨日のように、あるいは条件反射のように、加奈の視線を感じた瞬間俺は島村との距離を置いた。
その一瞬の動作だけで俺の息は荒くなる、心臓の鼓動音が聞こえてくる、胸が破裂しそうになる。
加奈の存在が、”いい意味”でも”悪い意味”でも俺の心をかき乱している。
そんな俺の精神状態を覗き込むように加奈は笑顔を崩さないまま、相変わらずの光沢を失い黒々とした目を細めてくる。
「誠人くんのクラスの人に聞いたら”他の人と”どっかに行ったって言ってたから探したんだよ?勝手に行っちゃうなんて意地悪だなぁ」
「悪い加奈…」
「素直でよろしい!」
表面上は何の変哲もないやり取り、いつもと違うところと言えば加奈の目が俺を凝視したまま笑っていないのと、加奈の笑顔が明らかに”貼り付けた”ものだという事だ。
無理に笑顔を取り繕っているのが口元の僅かな痙攣から読み取れる、その動揺した様子が俺の中で一つの確信を生む。
”加奈が俺と島村の『距離』を見ていた”という確信を。
そう、加奈はいつからかは分からないが少なくとも俺と島村が危うく”行為”に及びそうになったところは見ているはずだ、なのに…妙だ。
加奈は昨日とは違って、偽りの笑顔を通したまま”その事”について一切言及してこないのだ。
何事もなかったかのように、まるで、”自分が見た事”を全否定しその事実を直視しないかの如く。
”直視しない”と言えばもう一つ加奈には大きな異変があった事にようやく気付いた…加奈の奴、先程俺に話し掛けてきてからずっと島村の事を見てない。
チラ見すらしない、視線は動かず真っ直ぐ俺の事だけを見つめてくる…恰も今この場にいるのは俺と自分だけで、”島村なんていない”と言い聞かせているように。
そんな風に明らかに常軌を逸している加奈が足取り軽そうに、しかし地面をしっかり踏みしめるようにゆっくりと俺の下へと歩み寄ってくる。
「さっ、一緒に帰ろ!今日は誠人くんのお母さんいないからあたしの家に泊まっていかない?」
「ッ!な、何で加奈が俺の母さんの事を知ってるんだよ!?」
「さて何故でしょう?強いて言うなら、”恋人同士だから”かな?フフフ…」
俺は露骨に動揺を示してしまった、それが加奈の怪しい含み笑いを引き起こす原因になってしまうと分かっていながら反応せずにはいられなかった。
加奈の言う通り、母さんは今日何かの会のイベントで一泊の旅行に行っている。
問題はその事を俺は一切口外していないのに何故加奈が知っているのかという事だ…まさか盗撮…って少し冷静になれ。
俺が言わなくたって母さんは加奈の母さんである君代さんに言っているかもしれない、そこを通して加奈に伝わったと考えれば自然じゃないか。
確かではないがそんな事は君代さんに尋ねればすぐ確認出来る、問題はそこじゃない。
こんな単純な事を理解するのにこれ程の時間を有する今の”俺の精神状態こそが”問題なのだ。
ただでさえ叫んで逃げ出したい状況なのに、加奈の巧みな言葉遣いに俺の思考は混乱させられている、正常な判断を下せずにいる。
加奈を”元に戻す”と意気込んでおきながら、ミイラ捕りがミイラになってしまいましたじゃ話にならない。
とにかく今は波を立てない、石橋は渡らない、それを肝に銘じなければ。
加奈が”島村の存在”を直視していないという現状はかなりマズイが、幸い今はそれが非常に望ましい。
加奈が島村への敵意を忘れているのならば”最悪の事態”には発展しない。
このままこの場は潔く去って加奈を落ち着かせてからゆっくり心の緩和を進めて行けば良い。
「あたし、お母さんと最近お菓子作りを始めたから食べさせてあげるよ!」
「是非ともご馳走させて貰うよ」
俺と視線を外さないまま俺との距離を詰め、さしのべてくる加奈の手を掴もうとする。
「人の事無視するなんて、結構な態度ですね」
「はい?」
その手は空を切る、代わりに島村の言葉に踵を返した加奈の背中に触れる。
その背中は少女のものとは思えない程俺には邪悪なまでに巨大に見えた。
島村が…加奈に火を点けてしまった。


59 名前:上書き第9話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/27(火) 18:22:21 ID:Quf4Ljbq
先程まで俺だけを見つめていた加奈の目が島村へと向けられる、俺の時と違いメラメラと苛立ちが溢れているのが揺れる眼球から見て取れる。
加奈にとって”島村の存在を認める事”と”俺と島村の『行為』を認める事”は同意義だから、動揺するのも頷ける。
何て風に冷静に場を解説している場合じゃない。
「あっ…島村さん、いたんですか?」
「えぇ、あなたがここに来るより前から”ずっと”誠人くんといますよ」
はっきりと加奈は今下唇を噛んだ、その証拠に加奈の下唇から血が滲み出ているのが確認出来る。
滲む血は加奈の島村に対する憎しみを顕著に示している。
それを島村も分かっているからか、分かっていないからかは分からないが、いつものように腕を組み余裕そうに加奈を見下ろしている。
こんな具体的に口で出さず相手の腹を探り心を絞ろうとする女同士の緊迫した状況に、俺は立ち尽くすしかなかった。
自分の無力さの程を思い知らされ欠片程のプライドが切り捨てられてしまう。
「それともう一つ、盗み聞きは人としてどうかと思いますよ?」
「なっ…」
「盗み聞き!?」
思わず叫んでしまった。
加奈の方を向いて更に叫びそうになるのを何とか堪える、加奈が島村の言葉に動揺している。
動揺しているという事は………
「その様子から見て図星ですね」
その問いの答えを一足先に答える島村。
「そこの壁からあなたの長髪が風になびいているのが見えましたよ?」
島村は加奈が出てきた方向を指差しながら嘲るようにクスクス笑う。
俺は全く気付かなかった、逆の方向を向いていたからな…ってちょっと待てよ。
という事は島村は、加奈が見ている事を”知っていた”上で見せ付けてやるようにしたという事か…。
とんでもない女だ。
島村の理不尽な一方的な攻撃に防戦一方の加奈、目と目の間に皺をつくり渾身の力で島村を睨みつけている。
加奈がここまで怒っているのは初めて…いや、最早”怒っている”とかいう次元の話じゃない。
こんなにいがみ合っている人間同士を俺は昼ドラのドロドロ恋愛劇でしか見た事がない。
「あたしの駄目出しばかりしていますが、島村さんこそどうなんですか?」
「何がですか?」
「あなただって”今朝の騒ぎ”は知っていますよね?”あたしと誠人くんが付き合っている事”知っているんですよね?」
「その発言は盗み聞きしていた事の自白と捉えてよろしいんですね?」
「黙れっ!!!」
長い沈黙がはしった。
今まで一度だって聞いた事のない、こんなに大声を張り上げる加奈を。
既に断崖絶壁に追い詰められたように息苦しくしている、事実今の状況はその通りなのだと思う。
島村が「やれやれ」と呆れた感じで呟きながら手慣れたように眼鏡の位置を直した。
「あたしたちの仲を知っておきながら”邪魔”するなんて、酷過ぎるっ!」
加奈の言葉に余裕さは欠片も感じられない、焦りと緊張で喋り方も思った事をそのまま言っているような感じだ。
「何をそんなにムキになっているんです?別にあなたと誠人くんの関係が強国なものであるなら私の事なんて気にする必要はないはずですよ」
対する島村は俄然冷静な態度を崩さない。
相手の言葉全てに反論出来ると言いたげな自信たっぷりの目が眼鏡越しに光っている。
「あたしたちの仲は絶対にこわれないわよ!ねっ?誠人くん!」
「あぁ!」
突然話を振られた俺は反射的にそう答えてしまった。
まぁそう言うつもりだったから別に問題はないが、自分がここまで緊迫していたという事を再確認し改めて驚いた。
頭の中で必死に二人の一挙一動を整理する俺をよそに、即答した事を満足に思ったのか、加奈は”俺にだけ”純粋に微笑みかけた。
そしてすぐに島村へと視線を戻す。
「ほら!あんたなんかじゃあたしたちの仲は壊せないのよ!」
俺からの援護に心から喜び、束の間の勝機に打ち震える加奈。
しかし、やはり”俺たち”は島村を侮っていた。
「確認を要しなければならない関係なんて、”ない”に等しいですね」


60 名前:上書き第9話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/27(火) 18:23:11 ID:Quf4Ljbq
多分”俺たち”は同時にキレた。
島村に、”部外者”に自分たちの関係を否定された事にかつてない程に怒りが込み上げた。
本来なら、俺は女である島村であろうと容赦なくその胸倉を掴み叫んでいただろう。
しかし、加奈の素早く且つ不自然な動きに俺は見とれた。
慣れたように胸ポケットから”何か”を取り出そうとしている加奈、そして、それの招待が分かった瞬間…
「誠人くん離してっ!」
俺は加奈の腕を力一杯握り締めた。
痛がっている加奈の様子に心を痛めながらも、俺は改めて加奈の手に握られている”物”が何かを確認し戦慄した。
それは、何の変哲もない”カッター”、刃が出ていない為”今のところ”は殺傷能力ゼロだ。
しかし、親指を数センチ上げるだけでそれは簡単に人を殺める凶器と化す。
無我夢中で俺の腕を振りほどこうとする加奈を何とか押さえ付ける、もし今この手を離したら加奈は一体何をするというのだろうか…考えただけで背筋が凍る。
「こんな奴ッ!あたしたちの邪魔をするこんな人間をかばわないでっ!!!」
「落ち着け加奈!」
俺が加奈を見るとその視線は別の方向、島村の方向を憎々しく見つめていた。
俺もその方向に首を傾げると、俺たちのこんな様子をまるで楽しむように、滑稽に思うように島村はニヤついていた。
その表情を見て理性を失いそうになるのを必死に抑える、今は加奈を何とかしなければならない。
「加奈、このカッターを離すんだ!」
「あたしは誠人くんがいればそれでいいのにっ!なのにこの女はっ!」
「やめろォ!!!」
俺の声が響いた瞬間、加奈が視点が定まらない目をキョロキョロさせながら体だけ俺に向けてきた。
「え?」という間の抜けた声と共にカッターが加奈の手から滑り落ちる。
俺の発した大声によってより一層静けさが強調された体育館裏にカッターの落ちる音が響く。
俺も、島村も、そして、加奈も、呆然とする中最初にこの沈黙を切り裂いたのは、
「あ…あ………あ…」
加奈のうめき声だった。
加奈が吐き気を催したように口に両手を当て、そこから加奈のうめき声が漏れる。
俺だけを見ながらよろよろと後退りする加奈。
「加奈、どこ行く気だ?」
俺への返答は依然変わらないうめき声だけだった。
俺と徐々に距離を置いていく加奈、小刻みに全身を震わせながら、目に涙を溜め何か言いたげな様子だ。
そんな加奈が発した言葉は、思わず意外と思ってしまうものだった。
「………ごめ…んなさ………い…」
絞り出した言葉はかすれていた。
その言葉を言い残すと、加奈は俺に背を向け走り出していった。
「加奈ッ!」
呼び止めたがそんな俺の声を無視して加奈はどんどん先に行ってしまう。
しばらく呆然とした後追い掛けてみたが、加奈が出てきた壁の分かれ道の左右どちらにも加奈の姿は確認出来なかった。
「加奈…」
何度も呟く、そうすれば戻ってきてくれる気がして…。
「誠人くんはあの人のどこが好きなんですかね?」
そんな俺の期待虚しく、背後から聞こえたのは島村の声だった。
その透き通るような声で先程俺たちに”何を”言ったのか思い出して無性に腹が立った。
島村の言葉を無視し、加奈が放置した加奈の鞄を拾い上げると、島村に俺自ら近寄る。
ちょっと勢いをつければすぐに接触してしまう程近寄った、それ程の距離で行ってやらないと気が済まない。 「何か?」と言いたげなとぼけた表情の島村に俺は思い切りその想いをぶつけてやった。

「今度加奈を侮辱するような事言ったら殺すぞ」
自分でも驚いた、まさか俺の口から”殺す”なんて言葉が出るとは。
しかし、俺は軽はずみでそんな事は絶対言わない、だからこれは本心なんだろう。
吐き捨ててやった後はさっさと島村に背を向ける、この女の顔を一秒でも見ているのはご免だった。

「加奈さんを侮辱してやった時のあなたの顔、格好良かったですよ」



61 名前:上書き第9話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/27(火) 18:24:10 ID:Quf4Ljbq
昨日加奈と抱き合った時のように陽が僅かに覗く、そんな夕方の道を俺は一人で歩いている。
周りには誰もいなく、小鳥のさえずりが聞こえてくる程静かだ。
あましにも静か過ぎて自分の存在が一人浮き、より一層”孤独”である事を思い知らされる。
今までは加奈と一緒にいたから、加奈と一緒に歩いたから、加奈と一緒に笑い合ったから、寂しさなんて感じなかった。
しかし、こうして初めて加奈のいない帰路を踏みしめて俺は孤独感を痛感している。
加奈の存在がこんなにも大切だと分かり切っていた事を再確認する、そして先程自分が加奈にしてしまった事を思い出し拳を握り締めた。
”あの状況”ではああするしかなかったとはいえ、加奈の気持ちも考慮したもっと上手い対応が出来なかったのかと反省と自問を同時に行う。
加奈は俺が好きなだけだ、ただそれがいき過ぎているだけ…いや行き過ぎるなんてある訳ないかと一人で笑った。
加奈からの愛情なら腹を壊してでも全て頂く、どんなに歪んでいても”加奈からのだから”構わない。
こんなにも好きなのに、何が噛み合わないのだろう…?
まぁその答え探しは今度に回そう、今は加奈に謝りたい思いで一杯だった。
きっと家に寄っていったら喜ぶに違いない…俺は”この事態”を楽観視し過ぎていた。

陽はとっくに沈み、街灯が灯り始めた頃、俺はようやく家に着きそうになった。
自分の家と加奈の家と先にどっちに行くか迷いながら向かい合っている二軒を見渡すと、遠くからではっきりしないが人影を発見した。
特に気にはしないつもりだったが、明らかにその人影がこちらの存在に気付くと手を降ってきたのを確認して気が変わった。
少々足早に歩を進めていくと、次第に何か言っている声も聞こえてきた。
その声と、その内容を理解した瞬間、同時にその人影の招待も分かった。
「誠人くーん!」
「君代さん!」
まだ顔ははっきりとしないが、この声で俺を名前で呼ぶのは加奈の母さんである君代さんだけだ。
君代さんとの遭遇で寂しさが紛れたなと安堵していると、君代さんが突然催促し出す。
「誠人くん、早く来てーっ!」
あの穏やかな君代さんが俺を急かすというのは中々ない事だ。
不思議に思い、近付いてみて驚いた、君代さんの顔が困惑と焦りに満ちていたからだ。
「君代さん、どうしたんですか?」
「誠人くん、それが加奈が!加奈がっ!」
鬼気迫る君代さんの表情、それがこの周りで起こっている事態の深刻さを示している。
普段の君代さんからは考えられない程の慌て様に俺にも緊張がはしり、冷や汗が頬につたわった。
「落ち着いて下せず!一体何があったんですか!?」
そう言いながら君代さんの両肩を掴む、自分が思った以上に早口だったのは、俺自信も焦りを隠せないからだ。
さっき君代さんが呼んだ名前…加奈に何が起こったのか、気にならない訳がない。
ただでさえさっきまでなし崩し的に半ば喧嘩別れのようになって加奈を見失ってしまったのだ、責任を感じる。
「加奈が部屋に閉じ篭ったまま出てこないのよ!」
「!」
俺は一瞬にして現実の残酷さを思い知らされた。
俺は考えるよりも先に走り出した、多分本能的な行動だったと思う。
鞄を放り投げて、君代さんが何か言っているのも全て無視して加奈の下へと急いだ。
走りながら後悔や責任や使命感といった様々な感情が俺の中を渦巻く。
どうして”こうなる事”を予期出来なかったのか、思慮の浅い自分をこれでもかという位呪った。


62 名前:上書き第9話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/27(火) 18:25:07 ID:Quf4Ljbq
今日は朝から”異変”だらけだった、それこそ数え切れない位、日常がねじ曲がる位狂っていた。
そんな限りなく非日常に近い日常に身を置いていたから、感覚が麻痺してしまっていたんだろう。
それが、加奈がさっき小声でうめきながら去っていき”俺と一緒に帰ろうとしない”というのが”おかしい”事だという事に気付かせなくした原因なんだと理解した。
しかし、”感覚が麻痺していた”事だけが今の事態への引き金になった訳ではない、それ以上にもう一つ最大の要因がある。
あの時、加奈がうめきながら俺に何かを絶望したような視線を浴びせてきた時、その目には間違いなく”正気”が宿っていた。
行き過ぎる事のない…まぁ繰り返し言うが”行き過ぎの愛”なんて存在しないが、そんな純粋に人を、俺を愛している時の目だった。
俺に対して”上書き”しようとする時の目じゃない、鮮やかな色で彩られた美しい目をしていた、”だから”だ。
そこだけが俺が微かに記憶の底にある”日常”の風景だったから気付けなかったのだ。
つまり、俺が戻そうとしたのは”狂気に満ちた加奈”であって”正気の加奈”ではない、だからあの時の”正気の加奈”に対して危機感を感じなかったのだ。
そして、ここまでに探り当てたピースを合わせて一つの結論が出た…”加奈は正気と狂気の間にいる”。
正気と狂気が混合しているのだ、この状態の時は非常に危ない。
正気だけなら純粋、狂気だけならそれもまた純粋、しかし”二つ”が混ざったらどうなる?
単純にプラスにマイナスを乗法して”マイナス”という訳にはいかないだろう。
”相反する二つの明確な目的”が衝突した後の結末………これはあくまで推測でしかないが、”本来の目的”を見失う事になりかねないと思う。
具体的に何が起こるのかは想像すら出来ないが、少なくとも”加奈の幸せ”が実現するとは思えない。
それだけは防がなければ、加奈が誤った判断で自ら”幸せの可能性”を潰してしまったら何もかもが水泡にきしてしまう。

何が起こるか分からないのに、目処さえつかない未来の未然防止の為だけに俺は加奈の下へと急ぐ。
恐ろしい程思考が働く事に僅かに自分も”おかしく”なったなと失笑しながらひたすら走った。
許可もなく加奈の家のドアを乱暴に開け、靴を乱雑に玄関に放り出した。
昨日来たのにまるで別世界かのように暗い家屋内を徘徊し、加奈の部屋へと通じる階段を駆け上がる。
焦れば焦る程息が絶え絶えになり、十数段上の二階が遥か彼方に感じる。
焦れったくなる中二階へと到達し、すぐ横にある加奈の部屋のドアを躊躇なく開けようとする。
しかし当然のようにそこには俺の侵入を拒む鍵がかかっている
「加奈っ、俺だ!」
焦りが募り乱暴に部屋のドアを叩く、しかし返事は返ってこない。
その事が俺の心を引き裂く、”加奈が俺を拒んでいる”ような気がして。
しかし今の俺はかなり行動的になっていて、傷付いている暇なんてないと割り切りすぐさまドアに体ごとぶち当たる。
さすがに一回じゃ開かないが高校男子の力だ、徐々に感触を掴みかけたと思った瞬間固く閉ざされたドアがとうとう開いた…そして、”その先”の光景を見て、初めて自分の加奈だけの為の躊躇ない行動に自画自賛したくなった。
「加奈ァー!」
俺は幽閉されたように黙りこくって”ある事”をしようとしていた加奈の腕を掴んだ。
その衝撃で、一糸纏わない加奈の腕から鋭く輝くカッターが”あの時”のように床に落ちた。
落ちたカッターを瞬時に拾い上げ、刃をしまうと自らの懐にしまう。
一時的な危機回避に一瞬の安息を得る、そしてその部屋の有り様を見て動悸が激しくなるのを感じた。
昨日見た部屋とは比べようもない、本当に同じ場所なのか疑いたくなる。


63 名前:上書き第9話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/27(火) 18:25:51 ID:Quf4Ljbq
規則正しく並べられた書物は殆どが本棚から投げ出され床に散乱している、水玉の布団は無惨に引き裂かれ、机の棚は何かを漁られたかのように全開になっていた。
そして最も驚くべき事は加奈の制服を俺が踏んでいるという事…そう、加奈は服を一枚も着ていないのだ。
もしこんな荒れ果てた場でなければ、小さな膨らみの先にある更に小さな山を思わず見てしまうところだった。
まだまだ幼い体に目を取られそうになるところで何とか煩悩を吹き払い、加奈の目を見る。
加奈も俺を見つめている、いきなりの来訪者に驚いている様子だ。
という事は俺が部屋に入ってきたところで俺の存在に気付いた、つまり俺が部屋を破ろうとしていた時には”加奈にはその音が聞こえていなかった”、それ程なまでに”一つの事”に熱中していたという事に恐怖を覚えながら加奈に問い掛ける。
「加奈、今何しようとしていた?」
「何って、”いらない物”を捨てようとしていたんだよ」
加奈は微笑みながら自分の左腕を指差した。
そう、俺が部屋に入った時見た光景とは…加奈が自らの左腕にカッターを添えているというシーンだった。
今思い出すと身震いがした。
俺を見上げ微笑む加奈の笑顔が、”俺の為に”必死に頑張って作っているものだという事に何となく気付き胸が苦しくなる。
「ごめんね…誠人くん」
「何で謝るんだよ?」
「だって、あたしが”欲張り”だから」
加奈の笑顔がみるみる内に崩れていく、その事に罪悪感を感じつつ、加奈の言っている意味の解読に俺は必死になっていた。
加奈が謝っているのは島村にカッターをつきつけた事か?
しかしそれは俺に謝るべき事じゃない…考える俺をよそに、加奈は俺を見つめ続けている、その目は”正気”、しかししようとしていた事は”狂気”、俺の恐れた事態にやはりなっていた。
「あたし…”あの時”…誠人くんがあたしに怒鳴ってきた時分からなかったんだ…」
「分からないって、一体何がだよ?」
「島村さんには怒らないのに”あたしにだけ”怒った理由…」
その言葉が深く、深く俺の心に突き刺さる。
加奈に言われて思い出した、俺は”加奈にしか”怒らなかった、いや正確には加奈はそう思っている。
島村の侮辱的な発言に俺はキレかけた、でも加奈も同時にキレたからそれを防ぐ為に俺は加奈に”自分が島村に怒っている”事を見せられなかった。
加奈に”あんな顔”をさせたのは俺のせいじゃないかと理解し、この場から消えたくなった。
何も言えない俺をよそに、加奈は続ける。
「でも部屋で考えて分かったんだ、あたしが”欲張り”だからいけなかったんだって。”誠人くんがいてくれれば”他に何もいらないとか言っておきながら、”誠人くんを独占する権利”まで欲していたあたしが悪かったんだよ…」
加奈が言っているのはきっと今朝の”あの紙”の事だと思った。
あれは加奈が俺を独占しようとした心の象徴だから。
「あたし”誠人くん以外のものは何もいらない”、本も服も友達も何もいらない!だから色々と”捨てた”けどまだ足りない気がして…」
ここまできてようやくこの部屋の有り様と加奈の姿の理由を理解した。
「だから”あたし自身”も切り捨てようと思ったの…誠人くんがいればあたしは…誠人くんがいないと………”生きていけないよ”!何を捨てても構わない、だから誠人くんだけにはどうしてもいて欲しいの!好きなの!好きなんだよ!」
目の前で必死に涙を堪えている加奈を前に、俺は抱き締めたい衝撃を抑えきれなかった。
裸の加奈の小さな体を力一杯抱き締める、その体は柔らかくて、良い匂いがして、愛しくて………ここまで自分を愛している少女を危うく自滅させてしまうところだった自分自身への怒りで頭が爆発しそうになった。
それを堪え、加奈に優しく囁きかける。
「ごめん…こんなになるまで………俺が…」
俺の謝罪に、俺の胸に顔を埋めていた加奈が瞬時に顔を上げる。
その顔は嬉しそうな悲しそうな…”人間味溢れる”ものだった。
「謝らないで!あたしが…」
「もう…思い詰めないでくれ…!」
更に加奈を抱く力を強くし、加奈の言葉を封じる。
驚きながらも加奈は、かつてない程安らいでいる表情をしていた。
そんな加奈に俺は言い放った。
「加奈、”今日母さんいないから”、俺ん家来ないか?」
俺はどういうつもりで言っているのだろうか…分からない。
しかし少なくとも…
「うん…」
一瞬驚きながらも加奈の面した小顔でこくんと頷いた様子を、俺は”了承”と受け取った。


64 名前: ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/02/27(火) 18:27:58 ID:Quf4Ljbq
投下終了です。
とりあえず次回で最後になると思います。
最後なんでもう一度だけ選択肢つける予定です、では。

65 名前: ◆dkVeUrgrhA [sage] 投稿日:2007/02/27(火) 18:58:47 ID:TiFDd3k+
GJ!…って、えー!?
最後で選択肢ですか!?
つまりは三択で、
1:世間一般でいうハッピーエンド
2:このスレ的ハッピーエンド(心中)
3:ほのぼの純愛エンド(島村さんの復讐)
か!?

66 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 19:31:49 ID:LYIjrxYL
>>64
GJ!とうとう自分さえも壊し始めた加奈可愛いよ加奈
二人がどんな結末を迎えるのか……
しかし島村さんの反撃も期待している俺ガイルw

67 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 20:55:45 ID:YYAdv7RY
こんなにワクワクするなんて何年ぶりだろ・・・・それはそうとGJ!

68 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 21:10:50 ID:C2CowERc
GJ!もう終りか…って選択肢アル━━(゚∀゚)━━ヨ!

69 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 22:02:33 ID:PKuCcyJr
GJ!!って微妙に誠人も狂ってきてね?

70 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/02/27(火) 23:59:55 ID:ZCsRHVK/
加奈と誠人には幸せになってほしいです。島村はどーでもいい。

71 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 00:34:34 ID:xK/FxZZe
以前描いた絵を使ってちょっと実験
http://p.pita.st/?m=rprso3ha
VGA画像を携帯でうpして貼り付け。携帯では見れないサイズになってるんだが、PCだとどうなって見えるか教えてくれまいか。

72 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 00:35:10 ID:JAnAE6a4
ぐっじょぶ(*´ρ`*)
個人的には、島村さんの恐ろしさをじっくりと堪能したいです。

73 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 00:36:32 ID:JAnAE6a4
>>71
>作成者様がPCからの観覧を拒否しております。
>お手数ですがお手持ちの携帯端末でアクセスしてください。

こうなっちゃってて見れませんOTL

74 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 00:45:49 ID:ZQkXrt0l
>>71
そういうロダに貼るとだいたい小さいサイズに変換される

75 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:06:06 ID:xK/FxZZe
重ね重ねすまない
こっちだとどうだろう?
http://imepita.jp/20070228/033710

76 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:08:07 ID:QyMZTwWI
殺人だとかそういう血生臭いのもいいけど、別の方向に女の子が壊れていくのもよいかな
精神崩壊とか幼児化とか自傷とか

77 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:08:27 ID:GBft8iOs
>>75
PCからだと大きく見える

78 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:11:35 ID:xK/FxZZe
>>77
おk。分かったありがとう。どうやら今まで使ってたので良かったらしい。
んじゃ次以降はVGAで画像うPします。

79 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:48:29 ID:GBft8iOs
短編投下します

80 名前:倫敦に雨は降る ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:49:30 ID:GBft8iOs


1851年現在、ユーリ・ハルフォードについて詳しく知る人物は、実のところただの三人しか
いなかった。
即ち――
彼の父、モーフィン・ハルフォード。
彼の母、アリシア・ハルフォード。
そして家事使用人のキャロルの三人だ。
ハルフォード家は大きくもなく小さくもなかった。土地と、金と、権力と。必要なものは必
要なだけ持っていた。徐々に没落するものが目立ち始めた時期において、むしろ淡々と続くハ
ルフォード家は安定していたといってもいいのかもしれない。モーフィンは偏屈な人間で、偏
屈がゆえに古きも新しきも嫌っていた。そんな彼だからこそ、時代の流れについていけたとい
うのは皮肉としかいいようがないのだろう。
モーフィンはメイドたちから陰口を叩かれようが、執事たちから疎まれようが一切気にしな
かった。それどころか、自身の妻が不義を働いていることを知りながら、放任している節さえ
あった。彼が何を思っていたのかは、彼自身しか知りえないし――ひょっとしたら、彼すらも
自身のことをよく分かっていなかったのかもしれない。
が、それらは全て詮索に過ぎない。この物語の主人公は、彼のたった一人の子ども――ユー
リなのだから。
ユーリ・ハルフォードについて知るのは、たったの、三人だけだ。
なぜならば――妻にも使用人にも何一つ命令しなかったモーフィンが、ただ一人だけ命令に
よって縛ったのがユーリなのだから。自身の子供に対して、モーフィンは硬く命じた。
部屋から出るな、と。
彼が家族に対して望んだのは、それだけだった。
望んだのはそれだけで――それが故に、広い部屋から一歩たりとも出ることなくユーリは育
ったのだった。部屋を訪れるのは、父と、母と、専属メイドのキャロルのみ。育つにつれてま
ず父が寄り付かなくなり、それから母が遠退いた。九つを迎えるころには、ユーリの元に訪れ
るのはキャロルだけになった。

閉ざされたユーリの世界にいるのは――キャロルだけだった。



81 名前:倫敦に雨は降る ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:50:02 ID:GBft8iOs

「ユーリ様、失礼します」
いつもと寸分変わらぬ時間に、ノックと共に木製の配膳台を押したキャロルがやってくる。
窓の外は昼間だというのに薄暗い。やむことのない雨が、雨樋にぶつかっては垂れていった。
分厚い灰色雲に切れ目はなく、どんよりと暗い空はどこまでも続いていた。
晴れる気配のない、陰鬱な天気だった。
「…………」
天蓋つきのベッドに横たわったまま、ユーリはその空を見ていた。雨の降り落ちる灰色の
空。見ても面白いものは何もないだろうに、それ以外に見るものはないかのように、ただ空
だけを見ている。部屋へと入ってきたキャロルを見向きもしない。
視線の先にあるのは、雨の空。
九年間そうしてきたように――じっと、窓の外だけを見ている。
鳥の飛ばない、雨の空を。
「お食事をお持ちしました」
配膳台を部屋の中にいれ、キャロルはきちんと振り返って扉を閉めた。丁寧に丁寧に閉め
られた扉が、それでもぎぃ、と幽かに音を立てた。雨で木が軋んでいるのかもしれない。部
屋よりも廊下の方が壁が薄いのか、雨の音が強く聞こえた。
扉が閉まりきると同時に、雨音が僅かに薄まった。
部屋の中にはユーリとキャロルしかいない。二人が何も喋らない以上、そこにはただ沈黙
があるのみだ。その沈黙を蝕むように、雨音が忍び寄ってくる。部屋の中に雨が降っている
かのように錯覚してしまう。
それでも、ユーリは雨が好きだった。雨の音が好きだった。
『外』の音を、全て洗い流してくれるから。
世界にはこの部屋しかないように思えるから――ユーリは、雨音が好きだった。
「…………、」
音のないため息を吐く。何かに疲れているわけでも何かに呆れているわけでもない。ごく
自然に、癖のように吐息は漏れた。
しいて言うのならば――生きるのに疲れているのかもしれない。
音もなく絨毯の上を配膳台が進む。ユーリはようやく気だるそうな仕草で振り返った。ネ
グリジェのような薄く布を重ねた黒服が、ベッドの上でかすかに衣擦れの音を立てる。生ま
れてから一度もきったことのない黄金の髪が、白い毛布の上を滑る。
振り返った先にいるのは、配膳台を運ぶキャロルだ。まだ若い、ぎりぎり少女と呼んでも
差し支えない顔立ち。短く切った黒髪は両脇に撥ね、ヘッドレスでまとめてある。フリルの
少なく裾の長い、観賞よりは実用を主としたメイド服。絹の手袋を嵌めた手で、配膳台をベ
ッドの脇まで運ぶ。


82 名前:倫敦に雨は降る ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:51:00 ID:GBft8iOs

「どうぞ」
無表情のままに、キャロルは台の上に食事の用意を済ませる。その様を、ユーリはあくま
でもベッドに横になったまま、気垂い眼差しで見つめている。鎖骨がはっきりと見えるほど
に痩せているのは、満足に食事を取らしてもらえないからではなく――満足に食事を取る気
がないからだ。
ゆっくりと朽ちていくことを選ぶように、ユーリは、積極的に生きようとはしない。
「……おなか、すいてない」
いつものように、ユーリは食事を拒否した。身体を起こすことさえしない。冷めた目で、
冷めた料理を見遣るだけだ。
「困ります」
いつものように、キャロルは率直に答えた。眉一つ動かすことはない。下腹の前で両手を
揃え、礼儀よく立ち尽くしている。
どこまでも――いつもと変わらないやり取りだ。
「…………」
ユーリは長い睫を伏せる。頭に浮かぶのは、『誰が困るのだろう』という問いだ。父が困
るのか。母が困るのか。それとも、キャロルが困るのだろうか。幾度となく疑問に思っても、
その問いが実際に口から出ることはなかった。
そう、とだけ端的に答えて、ユーリはようやく身を起こす。ベッドの上をもぞもぞと動き、
膝から下だけをベッドから下ろした。身を起こしているにも関わらず、毛布の上に髪が届く。
服の乱れを直そうともせずに、ユーリはキャロルを見上げた。
「食べさせて」
「――はい、ユーリ様」
彫像のように立ち尽くしていたキャロルは、ユーリの一言で動き出した。配膳台の二段目
から銀器を取り出す。ナイフ、フォーク、スプーン、それぞれが数種類ずつ。それらを全て
決められた手順通りに並べ、外側から使用していく。決して手を使おうとはしない。パンす
らもナイフで切り、ユーリの口元へと運ぶ。
「ん」
食べる方であるユーリもまた、一切動こうとしなかった。口を開けて、閉じるだけ。身を
乗り出そうともしない。餌を待つ雛鳥のように口を開け――開いた口にキャロルが銀器をそ
っと差し込み、口を閉じる。その際にも会話は一切ない。無言のまま食事はつつがなく進み、
時折かちゃ、と銀器と皿が触れ合う音だけが響く。
半分ほど食べた所で、
「もう、いい」
とユーリが言い捨てた。初めからそれを知っていたかのように、滞ることなくキャロルは
銀器を片付ける。もう食べないんですか、とも、もう少し食べないんですか、とも言わない。
無表情のままに、ユーリの言うことをきくだけだ。
拒否も、承諾もない。
それが――全てだと、キャロルの態度が物語る。


83 名前:倫敦に雨は降る ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:51:33 ID:GBft8iOs

「歯、みがいて」
「はい」
頷き、キャロルは配膳台の横をすり抜け、ユーリの前に膝立ちになる。ベッドに座るユーリ
と、床に膝立ちになるキャロルの目の高さが同一になる。ユーリの両脚の間を割って入るよう
に、キャロルは身体を寄せた。近寄る身体を、ユーリは手を伸ばして受け止める。キャロルの
脇の下に手を回し、細い腕で抱き寄せる。
倒れないようにベッドに手を置き、キャロルはユーリへと身を寄せて――そのまま唇を重ね
た。粘液の触れ合う音が雨音に混じる。紅もひいていないのに、薄紅色に染まる唇が、キャロ
ルのそれに覆われる。
ユーリは引かない。目を閉じることもすらしない。睫の触れそうなほどに間近にあるキャロ
ルの目を、じっと、じっと見つめている。
目を逸らすように――視線から逃げるように――キャロルが瞼を閉じた。舌先で唇を押し分
け、ユーリの口内へと舌を侵入る。唾液を帯びた舌が、小さなユーリの口内を蛇のようにのた
うつ。
舌先が求めるのはユーリの舌ではない。並びのいい、白く耀くユーリの歯だ。歯茎の奥から
なぞるようにして舐め上げる。食事でついた汚れを、キャロルは丹念に拭っていく。愛撫です
らない、ただの日常行為。
ユーリは冷めた目で、感慨なくその行為を見つめている。自身の口内を蹂躙されても眉一つ
動かさない。ずっと続けてきた行為を、ただあるがままに受け止めている。
退屈交じりに、ユーリは舌を動かした。歯を舐めるキャロルの舌を、自身の舌先で軽くつつ
く。
「、んん……」
微かな、けれど確かな反応があった。抱きしめていたキャロルの身体がわずかに震える。無
表情であることに変わりはない。けれど、かすかに頬が紅潮しはじめていた。
これからの行為を、楽しみに待つかのように。
「――――」
その様を、瞼を閉じることなく見つめながら、ユーリはさらに舌を動かした。『歯を磨く』
という仕事をこなそうとするキャロルをからかうように、ユーリの舌先がつん、つん、とつつ
いていく。舌を絡めては仕事にならないと思っているのか、キャロルはそれに抗うこともでき
ず、なすがままに受け入れる。
「う……、ん、ぁ……」
唇の端から押し切れない声が漏れる。キャロルは舌を絡ませまいとしているのに、ユーリの
舌はなおも大胆に絡んでくる。それから逃れ歯をなぞろうとするものの、その逃げる動きのせ
いで舌同士がこすれあい、雨のような水音をたてる。ぺちゃり、ぴちゃりと口から唾液が泡立
つ音が耳に響く。一筋の唾液が、糸を引いてベッドの上へと落ちた。


84 名前:倫敦に雨は降る ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:52:58 ID:GBft8iOs

「ユ、ユーリさま……」
口を離したとき、キャロルの瞳はこれ以上なく潤んでいた。毎日毎日、一日三回これが行わ
れているのだ。パブロフの犬のように、条件反射を仕込まれてもおかしくはない。それでも無
表情たらんとするのは、彼女が、自身はメイドであると心がけているからなのだろう。
そのことに対して、ユーリはいつも何も思わなかった。
手を伸ばせばキャロルがそこにいる。呼べばいつでもくる。それで十分だった。
けれど――この日は、違った。
常ならばすぐに離す手を、ユーリは離さなかった。抱きしめたまま、キャロルの身体を離そ
うとしなかった。
「……ユーリ様?」
そのことを怪訝に思ったのか――表情には出さないままに――キャロルが首を傾げる。それ
でもユーリはキャロルを話さない。
手を伸ばせば届く。
呼べば来る。
それだけでは嫌だと、この日、初めてユーリは思ったのだ。手を伸ばさなくても触れ合って
いたいし、呼ばなくてもずっといてほしいと、そう思ったのだ。
いや。
ずっと――思っていたのだ。この日、初めてそれを実行しただけで。
「ねぇ、キャロル?」
抱きしめたまま、間近で瞳をのぞき込みながら、ユーリは言う。教会の鈴のように高い声。
雨音に満ちた部屋の中に、その声は静かに響き通る。
いつもと違う声色に、キャロルの顔がこわばった。
数年間、ずっと『いつも』を続けてきた。それが今、ゆっくりと、音を立てて崩れようとし
ていた。
「キャロルは――」
キャロルと自身の唾液に塗れて光る唇で、ユーリは言う。
「――ボクのものだよね」
言って。
「あ、――」
ユーリは、抱きしめていたキャロルの身体を引き寄せるようにして身体を後ろに倒した。捕
まれたままのキャロルの口から声が漏れ、そのままベッドになだれ込む。
気付けば。
薄布一枚を着る主人を――メイドが押し倒すような、図になっていた。
実質は逆だった。下に組み伏せられているユーリが、組み伏せているキャロルを支配してい
る。下から覗き上げる瞳に見竦められて、キャロルは何もいえない。
ユーリはそっと、キャロルの片手を上から握る。そのままそっと、スカートの中へと誘導さ
せる。スカートの下に、何もはいていないユーリの股間に、キャロルの手が添えられる。
そこにある、幼くしてそそり立ったものを、キャロルに握らせて。

「ボクだけのものに、なってくれる?」

微笑みと共に、そういった。


85 名前:倫敦に雨は降る ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:53:38 ID:GBft8iOs

「…………」
キャロルは答えない。沈黙するキャロルの手は、それでもユーリからは離れない。それを確
認して、キャロルの手を誘導したユーリの手が、ゆっくりと上へとあがっていく。キャロルの
手を伝うようにして上へ昇り――メイド服のスカートの中へと侵入りこむ。丈の長いドロワー
ズは、布の上からでも分かるくらいにぐっしょりと濡れていた。
汗――ではない。
雨、でもないだろう。
濡れていることを確認して、ユーリは少女のように微笑んだ。ゴムを押し分けてドロワーズ
の中へと手を入れ、濡れた秘所をユーリは指先でなぞる。組み伏せている側の身体が頼りなげ
に震える。
満足げに笑って、ユーリは言う。
「嫌なら、やめる?」
笑みの混じる問いかけに、キャロルは誰からも虚勢と分かる無表情を意地したままに――首
を、横に振った。
「そう」
答えて。
ユーリは、中指を――思い切り、差し込んだ。
「――――――ぅあ!!」
無表情を割るようにして声が出た。嬌声よりも、悲鳴に近い声。九つの細く短い指とはいえ、
何の前触れもなく、勢いに任せて差し込まれたのだ。十分に濡れていたから痛みはないとはい
え――衝撃だけはあますことなく伝わっていた。
身体を支えていた手から、力が抜ける。
がくがくと震えながら、キャロルの身体がユーリに折り重なる。それでもユーリは指をひき
引き抜かない。第二間接まで差しこみ、先でぐりぐりと肉を押し分けながら、ユーリは言う。
「ね、キャロル。ボクだけのものに、なってくれる? 答えてよ」
「こ、こたえ、答えます、から――」
「早く」
ぐい、と一際強く指が動かされる。ひぁ、とキャロルの口から吐息が漏れ、腰ががくがくと
震えた。まるで押し倒して腰を突き入れているように見えて、ユーリはくすりと笑ってしまう。
のしかかるキャロルの体温を感じる。
「答えて、ね?」
指を止めて、ユーリは問う。
キャロルは、露に濡れる瞳で、ユーリの瞳を覗き込んで。

「はい――ご主人様」

そう、頷いた。
この日、初めて――ユーリはキャロルを抱いた。


十歳の、誕生日だった。




86 名前:倫敦に雨は降る ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:54:39 ID:GBft8iOs


夜になっても雨はやむことはなく、むしろ一層その強さを増していた。遠くで時折雷が落ち、部屋の中を轟音と共に白く染めた。
だから、気付かなかった。
ノックの音にも、扉が開く音にも――ユーリは気付かなかった。
気付いたのは、「ご主人様」とキャロルが声をかけてからだった。
「キャロル――」
微かに喜びに染まる声と共に、ユーリは振り返る。
そこに、キャロルはいた。
開いた扉の向こうに、キャロルは、いた。薄明かりの中、キャロルは、立っていた。
その姿を見て――ユーリは、言葉を失う。
言葉を失うユーリの元へと、キャロルは一歩、また一歩と近寄る。ベッドの脇まで辿りつき、ようやくその脚が止まった。
ユーリは、言葉もなくキャロルを見上げる。
キャロルは、言葉もなくユーリを見つめる。
見つめて、キャロルは言う。


「これで、貴方『だけ』の、キャロルです。貴方『だけ』が――私の主人です」


近くに雷が落ちる。轟音と共に、白光が部屋の中を満ちる。
雷に照らし出されたキャロルのメイド服は――返り血で真っ赤に染まっていて。
この日、初めて――キャロルは、その無表情を崩して、ユーリに微笑みかけていた。


幸せそうな、笑みだった。



(了)



87 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 01:56:07 ID:GBft8iOs
メイドを書きたいと思って短編を書きなぐったら長編の一部みたいになってしまった
精進しないとなあ……

>>56
八百屋お七や「弔問客を待つ未亡人」もヤンデレだと思う

88 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 02:26:00 ID:xK/FxZZe
早速一枚
神無佐奈/虐げられるモノ
http://imepita.jp/20070228/084180
ぶっちゃけると佐奈さんが一番好き。

>>86
GJ!読み終わってからお茶会の人だと気付きました。

89 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 02:57:33 ID:6f+bLbU7
>>86
>>88
お二方ともGJ!
つか確かに佐奈さん顔は幼いわw

90 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 08:48:46 ID:EiPoDCFh
>>86GJ! 短篇もいいですね。でも二人のその後も読みたくなってしまう
>>88ママン可愛いよママン(*´Д`)ハァハァ

91 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 13:32:20 ID:sT/DhgTR
非常に読みやすかった

92 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 18:29:22 ID:Gep1iBdr
>>88
こらまたプリチーなママン。そしておっぱいおっぱい。

ぶっちゃけ自分がヤンデレ化して旦那さん取り戻してほしいが、
そんなキャラには見えないよなぁ・・・w

93 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 22:11:17 ID:9Dpto7j5
>>88
ママン可愛いよ(*´д`*)

94 名前:トライデント ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 23:33:58 ID:4cDItwUT
では投下致します

95 名前:黒の領域 ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 23:37:22 ID:4cDItwUT

目が覚めると古ぼけた屋内の中に僕はいた。
中古のアパートで建物の老朽化があちこちに目立ち、自分が住んでいる家とは全然違う。
田舎に帰った頃に感じられる懐かしいの樹木の匂いがする。余程、このアパートが建築されてから随分の歳月が経っているのであろう。 
それはともかく、僕は両足両腕をしっかりと縄で縛られていた。
いかにも、僕は一体どこの誰かわからない人間に拉致か誘拐をされてしまったのだろうか? 
恐らく、後者だろう。こんな高校生になったばかりのガキを拉致する変態よりも、誘拐して多額の金を両親に請求する誘拐犯の方が
この不景気の世の中では当たり前だと思ったのだ。
狭い家に閉じこめられているが、犯人らしき姿はどこにも見当らない。両親に多額の身の代金を請求している最中だろうか。
見張りも置いていないし、単独犯による犯行なのだろうか? 僕は冷静に物事を考えていた。
今の状況に不安や怯えなど感じないと言えば嘘になるが、誘拐されたことを僕にとってはいい機会だと思っていた。
両親同士は不仲であり、父と母は互いに口を合わせず、顔を合わせない日々が長い間ずっと続いていたからだ。
そんな間に生まれた息子は可愛いはずもなくて、愛情を注ぐどころか、名前さえ呼んでもらった記憶もなかった。
常に放任されて、自分はただ家族の中で孤独を背負って生きていたのだ。
もし、誘拐されたことによって僕の事を想っていてくれるなら。助けだそうと身の代金を払うか、
それなりの行動を表に出してくれるはずであった。だから、今だけは誘拐犯に礼を述べよう。ありがとうと。

意識を取り戻してから、しばらくすると。玄関のドアが開く音が確かに聞こえてきた。
僕を誘拐した犯人が襖で塞がれた間を躊躇なく開けた。
「ただいま……」
「あっ……」

僕は自分が予想していた事が裏切れて茫然としていた。誘拐犯だと思っていた犯人は、若い女性であった。
黒い髪を長く伸ばしすぎて、陰気な印象を感じさせる。その白い肌は陽に焼けたこともなく、容貌は端正に整っていて美人だと言ってもいい。
ただ、彼女を包み込む暗い何かが全てを台無しにして、近寄りがたいオーラーを全身に発していた。
その彼女はスーパーの袋を片手に持って、僕の方を嬉しそうに見つめていた。

「えへへ……今日から私は一人じゃあないんだね」

その女はスーパーの袋をその場に置くと縄で縛られている僕の体を抱き締めた。
腕に強い力を込めながら、彼女の体は震えていた。温もりを求めるように、僕の体が望むように。
彼女は僕に何かを求めていたが、そんなことは知ったことじゃなかった。
誘拐犯だと思っていたが、実は全然違うようだ。これは誘拐ではなくて、拉致だったのだ。

「き、君の名前はなんていうの?」

僕の顔を頬で擦り合いながら、首に腕を回した彼女が優しく微笑んで聞いてきた。
教えてやる義理もなかったが、今の自分に陥っている状況を理解していると彼女を邪険するしかなかった。

「僕は河野京介(こうの きょうすけ)って言います」

礼儀正しく僕は拉致した彼女に挑むように刺々しく言ってやった。
気を悪くした様子が見えない彼女は僕の頭を撫でながら……可愛らしく媚びるように言った。

「お姉ちゃんの名前はね……。須藤 英津子(すどう えつこ)って言うんだよ。京介君。これから、ずっと私と一緒に暮らすんだよ。よろしくね!!」

僕は全身に悪寒が走って行く。余りにも居心地の悪さに抱き締められているだけでこの場所から逃げ出したくなった。
年上の女性が舌足らずの口調で甘えてくる光景は年下の僕にとっては悪夢に近い。
まだ、これが同世代の女の子なら頬を赤面させて照れているだけで済むのだが。彼女はちょっとだけ痛い。

96 名前:黒の領域 ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 23:40:31 ID:4cDItwUT
「お姉ちゃんねぇ……ずっと一人で寂しかった。私は孤児院で育ったからお父さんもお母さんもいなくて……孤独だったの。
こんな暗い性格だったから親友と呼べる人もいなかった。孤児院を出てから社会人になっても、私は一人だった。
でもね、会社の仕事の帰りに一人で歩いている寂しそうな男の子を見つけたの。私と同じ、温もりに餓えている京介君を」
「だから、僕を拉致してきたというのか?」

だんだんと意識を失う前の記憶が戻ってきた。そう、僕は拉致される当日はいつものように友人の家で陽が沈むまで遊びまくっていた。
それは僕にとっては日常茶飯事であり、あの家に戻りたくないという意志の表れであった。
その帰り道に僕の背後を歩く足音をはっきりと聞こえていた。そして、僕は……誰かに頭を何かで殴られた。

「うん。そうだよ」
焦点の合わない虚ろな瞳で英津子さんは僕に微笑する。
「夕食のおかずにしようとした大根で京介君の頭をぽかんと殴ったんだよ。
幸い、私の家から近かったことだったし。私の家で監禁して調教すれば私のモノになってくれるはずだから。
だから、こうやって縄で両手両足を縛っているんだよ」

殴った凶器は大根だったんですか……と僕は口から空気の読めない言葉を溢れだしそうになったのを必死に留めた。
ただ、拉致を躊躇なく実行した英津子さんは狂ってる。
更に僕を監禁して調教するという言葉にさっきとは違う恐怖を覚えた。
自分の心の隙間を埋めるために同じ空気を持っている僕を利用する。僕の都合を考えずにだ……。

「う、嘘でしょう……本当の誘拐犯なんでしょう?」
「どうして、京介君を誘拐しなきゃいけないのかな。身の代金を要求する金額を貰ったとしても、
私の暗闇と底無しの絶望から解放されるはずがない。
独りぼっちの恐怖に打ち勝つことができないよ。でも、京介君が傍に居てくれるなら。私は救われるんだよ」
「僕は……帰りたい。昨日まであった僕の居場所に」

確かに両親の仲は不仲で僕の居場所なんて存在していないかもしれない。
でも、僕の家以外の居場所はあったんだ。学校に通えば、心を許せる友人たちが居る。
笑い合ったり、喧嘩したりといろいろ友情を深め合った仲間たちがいる。
英津子さんとは異なるのは僕にはまだ救われるモノがあるからだ。
それと反対の位置にいる英津子さんが居る場所は、完全なる破滅。
独りぼっちの恐怖に負けて、孤独の辛さに我慢できずに手を出しては行けない禁断の果実を手にしてしまった。
それは、犯罪という甘い誘惑だ。
一時の温もりが欲しかったために英津子さんは犯罪に手を染めてしまったのだ。

「だ、ダメっっ!! 京介君はお姉ちゃんとずっと一緒にいるんだよ。もし、京介君がここを出て行くと言うなら……私は死ぬんだからっっ!!」
抱き締めていた僕の体から離れると台所から鋭利な刃物を取り出した。
それを英津子さんは自分の首に当てていた。少し力を入れているのか、血の雫が首筋を伝ってぽつりと零れ落ちて行く。
「あっつははっは……京介君京介君京介君っっっ!!」
僕は弱かった。こんな電波女を突き放す言葉を言えば、勝手に自滅して死ぬかもしれない。
そうすれば、僕は助かって元の居場所に帰れるはずだった。
でも、一人の女性の追い詰めようとするのは間接的に僕は殺人を犯したことになる。
僕のせいで誰かが死ぬのは到底耐え切れるものじゃなかった。
抗うこともできずに、僕は全面降伏するしかなかった。
「ご、ごめんなさい。僕が悪かったです。だ、だ、だから、死ぬなんて言わないでください」
「き、京介君っっっ!!」
凶器を力なく落として、泣きながら英津子さんは再び僕の体にしがみつく。身動きできない僕は彼女の温もりを感じていた……。
抜け出すことができない狂気に絶望することしかできなかった。



これが、僕を拉致した電波女と全てを失った僕との奇妙な共同生活の始まりであった。


97 名前:トライデント ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/02/28(水) 23:43:39 ID:4cDItwUT
ヤンデレスレには初めて投稿致します。どうか、よろしくお願いしますね。

短編で全3話の予定です。


98 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 23:46:06 ID:5rP1JExH
>>97
トライデント神キタ━━(゚∀゚)⌒Y⌒(。A。)⌒Y⌒(゚∀゚)⌒Y⌒(。A。)⌒Y⌒(゚∀゚)━━!!!
いきなりの監禁スタートテラGJ!


99 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 23:57:39 ID:EiPoDCFh
GJ!
てか大根で拉致かよ!w
これからにwktk!

100 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/02/28(水) 23:59:47 ID:IVbMFwF6
一応、有名人なのか?
俺は新たな新人がやってきたぐらいにしか思ってないが

作品の内容は
監禁から始まるヤンデレ・・イイw

101 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 00:22:57 ID:3tDAV0ge
おお、このスレの趣旨をまさに具現化している内容!
続きが激しく気になりますな。

102 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 01:18:41 ID:pNN+HnOF
大根はヒロインが美味しくいただきました^^

103 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 01:29:53 ID:LXdXh0b5
京介の大根が使われることはあるのか
続きが気になる

104 名前:しまっちゃうメイドさん[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 01:42:09 ID:UY0YWck8
投下します ヤンがありませんが、後ほど出します

5月15日
「おはよう、沙紀さん。今日はいい天気だね」
秋月否命(あきつき いなめ)のこの何気ない一言に、浅原沙紀(あさはら さき)は何
か別の世界に引き込まれて、この世では無い物語を聞かされているような気になった。
時刻はまだ六時、沙紀は起きたばかりの胡乱な頭で自分の身に起きた事を必死に整理して
いた。とりあえず、沙紀は周りを見回した結果、ここが自分の部屋であることを確認した
。それでも、まだ沙紀の頭はこんがらがっている。
もっとも否命も沙紀のこの反応を予測していたのか、ニッコリと沙紀のベッドの傍らで得
意げな様子で微笑んでいた。否命は待っているのだ、沙紀がこの状況につっこみを入れる
のを。
「お嬢様…私は長らくお嬢様の使用人としてこの家、秋月家に仕えて参りましたが、未来
過去においてこのような事…お嬢様が早起きし、尚且つ私を起こして下さるなんてことは
ありませんでした。はい。未来過去に渡ってです!しかしながら、現在においてお嬢様が
私を起こして下さっているのはどうしたことでしょう?」
「どういうことだと思うの?」
「ありえません。はい。ですからこれは夢に違いないかと」
そう結論付けた沙紀は、もう一度ベッドに潜り込み寝ようとした。
「違うの、私だってたまには早起きすることだってあるんだもん!ほら沙紀さん起きて」
「バレバレの嘘ですよぉ、ゲンカクさん、あの鈍くて、ドジで、何処か抜けていて、それ
が魅力のお嬢様が…」
「だから、これは現実なんだってば!って沙紀さん、言っている傍からベッドで丸くなら
ないでよぅ。ねぇ、起きてったら」
否命は丸まっている沙紀の肩に手を添えると、それをユサユサと揺さぶった。
「うーん、なんだか夢にしてはこの振動は妙に生々しいですね、それにお嬢様の声が良く
耳に響いています」
「じゃあ、沙紀さんはこの状況をなんて説明するの?」
「はい。最近の夢は随分生々しくなったなぁ…と」
「違うの、私が早起きして沙紀さんを起こしているの。これは現実なんだってば」
否命は真っ赤になりながら腕をブンブンと振り回しながら熱弁する。
「沙紀さん…、お願いだから寝ぼけないでよぅ」
「寝ぼけている…、私がですか?」
「沙紀さんがッ!」
「そうですね、私としたことが寝ぼけている場合ではありませんでした」
やっと分かって貰えた…と否命は溜息をついた。
「色々考えましたけど…やはり、お嬢様がこんな朝早くに起きるはずはありません。はい
。とするならば、これは間違いなく夢。はい。そして夢の中なら何をやってもいいわけで
す。あぁ、お嬢様!」
そういって、沙紀がベッドから跳ね起きた瞬間、沙紀はシーツに足を引っ掛けて
ゴチンッ
っと、盛大に頭から転んでしまった。
「沙紀さん、大丈夫?」
「なんとか大丈夫です。うぅ、なんだ、本物のお嬢様ですか…、ガッカリです」
「当たり前だよ!もう、さっきからそう言っているのにぃ」
「すみません、私ったら最近よくお嬢様の夢を見ますので…てっきりその発展系かと」
「ところで、沙紀さん、もし私が夢だったらどうする気だったの?」
「知りたいですか?」
沙紀の目が妖しく光る。
「いや、遠慮しておきます」
「ガッカリです」
肩をわざと大げさにすくめてみせると、沙紀は時計を確認した。
時刻は六時十分。
沙紀はこれが現実だと理解しても尚、狐につままれたような顔をしていた。

105 名前:しまっちゃうメイドさん[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 01:42:59 ID:UY0YWck8
浅原沙紀は四歳の頃から、十七歳の現在に至るまで秋月家の奉公をしている。と、いって
も実際には秋月の家には否命しかいないから、沙紀は事実上、否命の専属の使用人である

元々、秋月家には否命とその姉「梓」が住んでいたが、梓は既に死んでいた。
その後、保護者のいなくなった否命は、親戚に引き取られる事となったが、親戚は否命の
身体の「ある一部分」とそれに伴う「奇行」を疎み、否命が元いた家に別居という形で住
まわせたのである。生計はその親戚の援助と梓の残した遺産で立てている。
「幼く、黄花女にして既に色狂いの気配。我が子に悪影響を与えるものと覚えたり」…、
否命が親戚に疎まれた理由であった。
沙紀は、一人暮らしをしている否命の補佐をするようにと、否命の親戚が雇った使用人の
娘であった。そして親に習って子である沙紀も、それが当然のように否命に奉公した。ち
なみに沙紀と否命は同い年である。学校も小中と一緒に通い、現在は否命と高校に通って
いる。使用人はこの二人を暖かく見守っていた。そうして、この日常がずっと続いていく
のだと否命は思っていた。
しかし、使用人・・・沙紀のお母さんはある日、突然失踪した。だが、その頃には既に一人
で家事を切り盛りするには十分な年齢になった沙紀がいたので、別段それに困る事は無か
った。それからは、こうして沙紀と否命は二人だけで暮らすようになったのである。
それにしても…と沙紀は思う。
自分はお嬢様を起こすために普段は六時五分に起きている。中途半端な時間のほうが、意
識しやすいからだ。そして、飯の支度を終えて、お嬢様を起こす時刻は七時半過ぎ。その
七時半過ぎでさえ、お嬢様が起きていた事もないのに、今日は普段より一時間半も早く起
きて私を起こしてくれた。
その事実が沙紀には未だに信じられなかった。

106 名前:しまっちゃうメイドさん[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 01:43:53 ID:UY0YWck8
「本当にどうなさったのですか?こんなに早く、ご起床なされて」
「なんだか、今日は新しい事が起こりそうな気がして」
「ワクワクして眠れなかったですか…」
「うん!」
「まるで小学生ですね」
「うぅ~」
「いえいえ、まるで小学生のように可愛らしい…という意味ですよ」
「それって、褒められているのかなぁ?」
「はい。幼い=可愛い事だと猿渡哲也さんも申しておりました」
「へぇー、そうなんだ。沙紀さん、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
ころころ表情を変える否命を見て、沙紀は一日が動き出したのを感じていた。
「おはようございます。お嬢様」
「おはよう、沙紀さん」
そういって、二人は挨拶を交しリビングへと降りていった。
しかし、新しい事が起こりそうでワクワクしている否命とは対象的に、沙紀の心境は複雑
だった。沙紀はこの日常が好きだった。この日常が変わる事なく、ずっと続いていけばい
いと思っていた。その沙紀にとって「新しい事」が起こりそうと、喜ぶ否命の姿は何処か
沙紀に寂しさを感じさせたのである。
「新しい事が起こりませんように」
沙紀は、リブングへ向う否命の姿を見ながら心の中でそう呟いた。

投下終わります

107 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 02:11:37 ID:m8ReScE/
レズもの?

108 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 10:00:12 ID:6WodSekU
英語版wikiのヤンデレの項、楓が載っててワラタw
ttp://en.wikipedia.org/wiki/Yandere

109 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 14:41:03 ID:UZcf3gJl
ひぐらしが記されてるのは相変わらずだな。
奴のどこにデレがあるのかプレイしてない俺にはわからん。
もしかしたらどこかにキッツいデレ描写があるのか?教えてくれ。

あと、レズもの書くなら注意書きあった方がええよ。

110 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 14:45:39 ID:VXD84EcP
レズは苦手ずら・・・・・

111 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 14:57:11 ID:bb9d9jAJ
SS保管庫の管理人さんが実は「無口な女の子」のSSも保管されてることに気づいた。
http://yandere.web.fc2.com/mukuchi/index.html

112 名前:前スレ523[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 15:08:46 ID:XJ16OTtm
http://bbs11.fc2.com/bbs/img/_219000/218976/full/218976_1172727777.jpg

「上書き」壁紙作ってきました。
振り回されてる誠人はなんだかんだ言って幸せそうだなー。
ってことでゲージ3本使った加奈。

伊南屋氏のように素早くかわいく描けるようになりたい。

113 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 18:55:15 ID:jPMoDmc3
>>112
これはイイ殺意の波動に目覚めたカナタンですね。

114 名前:しまっちゃうメイドさん[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 19:27:34 ID:rk5Un/gm
>>109
確かに苦手な人がいそうですね。予め、注意書きを入れておくべきでした。
次回から、冒頭に注意書きを入れておきます。


115 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 19:33:16 ID:/G5772A5
>>>104-106
>猿渡哲也さんも申しておりました
コブラソード吹いたw このメイドさん何を読んでるんだw

>>112
何このツキノヨル オロチノチニ クルフ カナwww

116 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 19:56:57 ID:UZcf3gJl
>>114
病んでるのは愛情だけでいい、性的倒錯までいらんって人は多いからね。


逆に、そこがいいって人もいそうだが。

117 名前:トライデント ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/03/01(木) 22:39:56 ID:UGBbX2QX
では投下致します

118 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 22:41:35 ID:HjI1GnvV
ttp://pikupiku.com/upload/src/pikupiku0570.jpg

うへぇ、これによるとヤンデレは「現状は二次創作のみ」って認識らしいぞ?

119 名前:黒の領域 ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/03/01(木) 22:42:36 ID:UGBbX2QX

僕が拉致されてから数日の月日が経っていた。縄で縛られて監禁状態はすでに卒業している。
英津子さんが導いた僕をこの家から抜け出さずに依存できる方法は常人では到底理解できない方法であった。
そう、足を、骨を、折ってしまえば、逃げることは不可能だ。
まさかと思った提案は発言直後に実行された。鈍い痛みの後に僕は気を失ってしまい、起きたら縄を解かれて、
逆に足にはギプスがはめられていた。右足が骨折して、英津子さんの診断によるとなんとなく全治3ヵ月だよてへ。
だそうだ。
もう、この女は狂っているとしか言いようがない。
僕は肉体的な痛みよりも彼女に生活の全てを依存しなきゃいけないという精神的な苦痛に苦しんでいた。
骨折した後に嘘のような謝罪の言葉と治療が完了する頃には京介君の調教を完了しているよと有り難くもない予言していた。
吐き気がする。
英津子さんと同じ空気を吸っていることが、英津子さんが作ってくれた手料理も、
英津子さんの必死すぎる看病も。全てがうんざりしていた。
孤独を埋めるための手順。そして、僕の全てを奪っていた。
憎いという一言だけでは片付けられない。
僕は英津子さんに同情と憐れみを抱いていた。

120 名前:黒の領域 ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/03/01(木) 22:45:26 ID:UGBbX2QX
フリーターである英津子さんは夜8時頃になると家に帰宅する。
真っすぐに僕の様子を見て、部屋で大人している所を見ると彼女は安堵の息を漏らす。
それはそうだろう。僕が骨折の痛みをやせ我慢して助けを呼ばれることになれば、
英津子さんは間違いなく逮捕されるであろう。英津子さんは震えた体で僕を抱き締めると頭を撫でてくれた。
僕は愛玩動物じゃないんだぞと言いたかったが、頭のおかしい英津子さんに何をされるのかわからない。恐すぎるっっ!!

「京介君は今日も家で大人しくしてくれていたから。お姉ちゃんとっても嬉しいんだよ。
夕食に京介君の大好きな物を作ってあげちゃうよ。何が好きなのかな?」
「もやし炒めでお願いします」
「も、も、もやし炒めねぇ……。もやしはお姉ちゃんは大嫌いだから。そうね。カレーライスにしましょう。うん。決定だよ」
骨折している足をさっさと治療するために栄養のある食材を摂って、ここから抜け出したかったのに。
と、台所に向かって食材を鼻歌混じりで機嫌のいい英津子さんの後ろ姿を凍り付くような殺意に似た視線を僕は送っていた。

「今日も明日も~10年後~るるる~~ずっと~~京介君と~~一緒だよ」

幸せの絶頂にいる英津子さんには全く気が付く様子もなくて僕は思わず嘆息した。
しばらくすると部屋にはカレーの匂いが充満して、朝から何も食べてないせいか食欲が沸いてくる。
カレーが出来上がると笑顔で英津子さんは二つのお皿を持ってやってきた。
テーブルは僕が寝ているために片付けられているが、英津子さんは僕の隣にやってきて、右腕にしっかりと彼女の腕が絡み合うように組む。

「京介君は怪我人なんですから。お姉ちゃんがちゃんと食べさせてあげるね」
「僕は一人でも食べられますよ」
「ダメです。私が食べさせてあげるんだから。京介君。はい。あ~ん」
スプーンにカレーを僕の口に持ってきた。英津子さんを怒らせると
今度は臓器まで摘出される恐れがあるので僕は大人しく従った。
口に入れると普通にカレーな味はするが、女の子から恋人らしいことをしてもらった経験のない
若造である僕は何らか感動を覚えてしまうのは無理はない。
「お姉ちゃんが作ったカレーは美味しい?」
「うんっ」
「じゃあ、いっぱいいっぱい私が食べさせてあげますよぉ。京介君もたくさん食べてね」 
英津子さんは喜んで僕にカレーを食べさせた。自分の手で食べることは全くさせてくれない。
最初はこの状況に文句の一つを言うと、英津子さんは目に涙を蓄めて潤んだ瞳で訴えるように僕を見つめてくる。
その仕草に参らない男性はいないだろう。
特に僕のような子供が大人の女性の魅力と泣き落としに勝ることができずに、忠犬のように従うことしか道は残っていない。
「えへへっ……。お姉ちゃんはねぇ。京介君が来てくれたから。会社のお仕事が終わってから家に帰るのはいつも寂しくして嫌だったけど。
今は誰か待ってくれている人がいると思うと嬉しくてたまらないの」
英津子さんが無理矢理拉致してきたんだろうが!! と僕は笑顔を崩さずに心の中にツッコミを入れてしまう。
言ってしまえば、腕を骨折しそうで扱い難しい。

121 名前:黒の領域2 ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/03/01(木) 22:47:28 ID:UGBbX2QX

僕と英津子さんは食べ終わると食器を片付けると就寝までの時間はぼんやりと二人で部屋を過ごすだけ。
ただ、普通の同居人でない英津子さんは僕の手をしっかりと握り締めていた。指と指を絡め合う恋人握りってものです。
英津子さんの手は震えていた。何かに怯えるように震えていたが、僕はあえて彼女の暗闇に触れようとはしなかった。
所詮は、僕と英津子さんの関係は英津子さんが拉致した事による作られた偽りの関係に過ぎない。
彼女の寂しさや孤独を埋める義務は僕にはないのだから。
これは僕が今までの生活を奪い取られた事に対する精一杯の抵抗であった。

「京介君? 寒くない。お姉ちゃんはとっても寒いから。今日も一緒に寝てあげるね」
「別に寒くはありませんし、年頃の男女が間違いを起こす可能性もありますし。丁重にお断わりします」
だが、僕の拒否の意志をはっきりと示しているのにも関わらず、英津子さんは問答無用に僕の布団に入り込んできた。
まあ、一人暮らしの英津子さんが寝る場所は僕が奪っているから仕方はない。

「じゃあ、もう電気を消すね」

繋がれた手を離さずに電気の明かりを消すと部屋は薄暗くなってきた。
再び入り込んだ英津子さんはさっきよりも僕の体にしがみつくように密着してくる。
女性特有の温もりを感じてしまうが僕はそれを感じる余裕はなかった。

「京介君の足は大丈夫? 痛くない」
「とっても……痛いです。当分、寝られそうにはありません」
「ごめんね。お姉ちゃん。こんなことしか京介君をここに閉じ込める方法を知らなかったから。ごめんなさい。だから、嫌いにならないでっっ!!」

再び震える手が僕を求めるように痛みを感じるぐらいに強く握り締められた。
一人という孤独と寂しさに耐えられる人間はいない。英津子さんは
それらの苦しみを抜け出すために僕を奈落に誘い込んだ。
同じ匂い、同じ空気、同じ境遇。僕と英津子さんを結ぶ接点はただそれだけ。
この関係に愛情はなくて、互いの傷を舐め合うだけの関係なのだ。
だから、僕は英津子さんに愛情は求めない。できることは、ただ同情だけ。

答えが返ってこないことに不安になったのか、英津子さんは僕の顔を覗き込んでくる。

「き、き、京介君は、あ、あ、明日は何が食べたい?」
会話の話題を変えるのに必至になっていた。だから、僕も英津子さんを安心させるように食べたい物を言った。

「もやし炒めで」



122 名前:トライデント ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/03/01(木) 22:51:06 ID:UGBbX2QX
以上 黒の領域2話でした。

短編ですが一度書いてしまうと予定よりもお話の中に入れたいことを
少しだけ詰めたいために予定した短編3話の完結はちょっと難しいと思います。
もう少しだけ延びそうです。






123 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 23:03:35 ID:m8ReScE/
>>122 乙
折っといて謝るところがいいヤンデレ

124 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 23:09:13 ID:jPMoDmc3
>>118
ヤンデレキャラ自体は昔から存在してたんだろうけどな。認識されなかっただけで。
あと、ミ(ry主催のイベントと高野三四と朝倉涼子はねーーよwww逝ってるだけじゃんwww
そしてカテ公が載っているのに、何故園崎詩音が載っていないのか。

>>122
俺は野菜炒め肉抜きで食べたくなってきたぜ……

125 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/01(木) 23:40:13 ID:nZKeo5aH
>>112
GJ!誠人カワイソスw
>>122英津子さんのデレと京介君の醒めっぷりの差がwGJ

126 名前: ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 00:53:01 ID:JAN0JkXr

投下します。
第四話目になります。

127 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 00:54:24 ID:JAN0JkXr

目の前の展開に付いて行けない。

「ちょっと、お茶淹れてくるよ」
「あたし、やりますよ!」
「お客さんにそんな事させられないよ。座ってて」
「じゃあ、お手伝いします!」
「いや、でも…」
「陽太さん、キッチンどこですかぁ?」

兄さんと好乃が、笑顔で話している。

いいえ、兄さんは来客用の笑顔、本気で笑ってない。満面の笑顔なのは好乃だけ。
兄さんが困ってる。
あ、兄さんの腕に、好乃が自分の腕を絡めた! 大きな胸を押し付けてる!
…よかった、兄さん迷惑そうだ。

言いたい事が一杯あるのに、咽喉がひりついて声が出ない。

ぼんやりしていると、好乃が兄さんの腕を引っ張って部屋を出ていってしまった。
しばらくしてお茶の用意をして戻ってきて、訳も解らぬまま三人でお茶を飲んでる。

何だろう、これは? わたしは夢でも、悪夢でも見ているのかな?

兄さんの隣に強引に座った好乃は、じりじり距離を詰めて兄さんにくっつくほど
近付いて、兄さんだけを見て兄さんにだけ話しかけている。

「ええと、伊藤さんが来てくれてるから、ちょっと買い物に行って来ようかな!」
好乃の話しを半ば強引に遮って、兄さんがそう言って立ち上がった。
正直、好乃と二人きりになりたくなかったけど、兄さんの困っている顔を見ていると、
嫌だと言えない。
好乃は兄さんに付いて行くと言うだろうけど、兄さんのためには好乃を引き止めないと。
しかし、

「夏月の事、あたしがちゃーんと見てますから、陽太さんはお買い物行って下さい」

予想外の言葉だった。
笑顔でそう言った好乃の顔を、わたしはぽかんと凝視してしまった。

「伊藤さん、お願いします。じゃあ夏月、ちょっと行ってくるから」
「…う、うん」
「すぐ戻るから」
「陽太さーん、早く戻ってきて下さいね~」
「あ、うん…」
心配げな顔で出て行く兄さんに、何とかぎこちない笑顔を返す事が出来たが、
とても心細くて本当は行って欲しくなかった。

ばたんと玄関のドアが閉まった音が、やけにはっきりと耳に届いて微かに身体が震えた。
眼の端で、好乃が紅茶を飲んでいるのが見える。
カップをソーサーに戻した音が響く。

「ねぇ夏月、協力してくれないかなぁ。
あたしとぉ、陽太さんがぁ、上手くいくように~♪」


128 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 00:55:08 ID:JAN0JkXr

「……っ!」

嫌、嫌、嫌、嫌! 絶対に、嫌っ!
兄さんが誰かと付き合う手助けなんて、わたしには出来ない。絶対無理。

…でも、そんな事、言えない。
協力するって言わなきゃ、協力出来ない理由を聞かれるだろうし、理由なんて
それこそ絶対に言えない。

「ねぇぇ、夏月ぃ?」
にたり、と好乃が笑い掛けてくる。
どうしよう… どうしたら…

「勿論、協力してくれるよねぇ? あたし達、ト・モ・ダ・チ、だもんねぇ?」
友達… 友達だったら、協力しないと、変、だよね?
でも、でも…

「それともぉ… 夏月にぃ、認められた人じゃないとぉ、だめって事ぉ?」
「違う!」
違う、そうじゃない。認めるとか、認めないとか、そんなんじゃない。
わたしは、わたしは、

わたしは、誰が、兄さんと、付き合うのも、嫌…

「じゃあ、協力ぅ、してくれるよねぇぇ」
にたああ、と好乃が笑う。でも、
「ごめん、好乃… やっぱり無理…」
出来ない。それだけは。

「どぉしてぇ? 何で協力してくれないのぉ? 何で無理なのぉ?」
笑顔のまま、好乃はわたしに詰め寄る。
「えぇと… わたし、そういう事に向いてないって言うか…」
「嘘」
「え?」

「嘘、嘘、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘うそうそうそぉ!」
笑顔で吐き捨てる好乃。

「夏月ったら~♪ 嘘ばっかり~♪」

「本当の事~♪ 言ったら~?」

「アンタがぁ、陽太さんの事ぉ、好き、だってぇぇ!」

笑顔のまま、吐き捨てた好乃の言葉に、わたしは凍りついた。


129 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 00:56:00 ID:JAN0JkXr

「あたしが気付いてないとでも思ったのぉ? あんな顔しておきながらぁ」
あんな顔? 何の事だろう?
「陽太さんに向けるアンタの顔ったらぁ、まるで発情中の雌猫そのものよぉ」
「なっ…!」
何言ってるの? わたしそんな顔してない…
「あらぁ~? アンタ自分で気付いてないワケぇ?
あんな顔して陽太さんに擦り寄っていながらぁ、自覚ナシってコトぉ~?」

どんな顔だかわたしには解らないけど、好乃が気付いてしまったのなら、
きっと顔に出してしまっていたんだろう。
わたしが兄さんを好きだという事が。

黙るしかなかった。好乃の言った事は当っていたから。

「反論しないのぉ? じゃぁ、認めるってコトねぇ?」

「アンタがぁ、実の兄をぉ、好きだってコトぉぉ!」

黙るわたし。この場での沈黙は、肯定と同じ意味だとしても、黙るしかない。
わたしが兄さんを好きだという事は、事実なのだから。

「はぁぁぁ… 陽太さんもぉ、可哀相よねぇぇ」
「…可哀相?」
突然、芝居掛かった好乃の台詞に、首を傾げる。

「アンタみたいなぁ! 変態のぉ! 妹がいてぇぇぇ!!」

変態…? 可哀相…? 兄さんが…? わたしが…?

「血の繋がった実の妹が兄の事を好きだなんて、変態じゃなくて何だって言うのよ!?
盛りのついた雌猫なんて例えたけど、猫に失礼よね?
猫もアンタみたいな変態と、一緒にされちゃあねぇぇ!?」

「アハハハハハハハハハハハハッ!!
変態変態変態変態変態! このぉ変態ぃぃ!!!」

狂ったように笑う好乃。
わたしを罵り嘲笑う好乃。

やめてやめてやめて…

耳を塞いでいたらしいわたしの手を、間近に迫っていた好乃が痛いくらい強く掴むと、
引き剥がして、また笑う。

「でもぉ、安心していいわよぉ。そんな事ぉ、どーでもいいからぁ♪」
「陽太さんはぁ、あたしとぉ、付き合うからぁ、
アンタの事なんてぇ、眼中になくなるのよぉぉ♪」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ♪」
塞ぐ事も出来ない私の耳に、好乃の言葉が注がれる。


130 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 00:56:48 ID:JAN0JkXr

「大丈夫ぅ。もしアンタが変態だって陽太さんにバレたりしてもぉ、
あたしが陽太さんの事ぉ、慰めてあげるからぁ!」
「貧相なアンタの身体と違ってぇ、このあたしのぉ、カ・ラ・ダ、でぇぇぇ♪」

もう耳を塞ぐ気も起こらず、いつの間にかへたり込んでいたわたしの前で、
くるくると制服の裾を翻しながら回っている好乃。

「アンタさぁ、陽太さんの事思ってぇ、一人エッチしてるんでしょぉ。
気持ち悪ぅ~い! 本当に変態よねぇぇぇ!」

ぴたりと好乃は回るのを止めると、笑うのも笑顔も止める。
そしてわたしの髪を掴んで、無理矢理顔を上げさせられた。

「ねぇ、アンタ、実の兄に欲情するなんて、汚いと思わない?」

…きた、ない? 汚い? わたし、汚い…

「陽太さんが、汚れるじゃない。穢らわしいッ!!」

汚れる? 兄さんが、汚れる? わたしが、わたしが…


がちゃん…

「あ! 陽太さんがぁ、戻ってきたぁ♪」
途端に笑顔になって立ち上がると、好乃は歌う様に叫びながら玄関に駆けていった。

「ただいま、夏月…… 夏月? どうしたの? 夏月!?」
兄さんの声が、する。近いような遠いような。
近い訳ないよね。だってわたしと兄さんは違うもの。

兄さんは、綺麗。わたしは、汚い。

「夏月!? 夏月!?」

だめだよ、兄さん。わたしに触ると、兄さんが汚れちゃう。

「陽太さぁん、夏月なんかほっといてぇ、あたしと…」
「五月蠅いな、お前、帰れ」

好乃の声と東尉君の声だ。東尉君いつ来たのかな?

「前園君には関係ないでしょ?」
「お前が一番関係ない。いいから帰れ!」
「…伊藤さん、帰ってくれない」

あ、好乃が部屋を出ていく…

兄さんと東尉君の声が、段々遠く遠くなっていく…

でも、笑い声が、好乃の嗤う声が、ずっと耳の奥で、響いてるよ…


-続-


131 名前: ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 00:57:38 ID:JAN0JkXr

以上、続きます。

132 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/02(金) 01:17:54 ID:7BLaByxe

続きが気になります

133 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/02(金) 02:51:40 ID:xvuJcKp1
>>131
さーあ俺が大好物の空気になって来たwwwwwwwww

134 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/02(金) 03:21:22 ID:n1aJazIV
いきなり好乃が壊れてる!

だがそれがイイ!

135 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/02(金) 08:09:19 ID:YrKL7l/U
うおおい! スゲェコレ、キャラ濃すぎるぜ!
兄も妹も親友も友人も皆がスッゲェいいキャラしてるよ、とにもかくにもGJッス!

136 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/02(金) 08:56:14 ID:XhfQbB7T
≫131
GJでした!!
続きを楽しみにして松

137 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/02(金) 15:30:05 ID:kjuaz4yk
置いていきますね。

ツンデレのエロパロ4
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1172665361/

138 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/02(金) 16:34:51 ID:3iFQZylS
皆さん、病んでますか?

しかし、最近のエロパロSSは盛り上がってきたな

139 名前: ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 18:17:51 ID:zDbIUDq8
>>106
百合ものですか、個人的にストライクなんでwktkしていますw
にしても主従関係感じさせない会話に和みました。

>>112
523氏、保管庫掲示板でも書きましたが改めて御礼させて頂きます。
本当にありがとうございます。ネタ絵でだなんてとんでもありませんよ。
>振り回されてる誠人はなんだかんだ言って幸せそうだなー。
まぁ嫌がりながらも甘んじて受けていますからね。
多分軽いMなんだと思いますw

>>122
いきなり足折られるとはヤバイw
監禁の果てに京介がどうなるのか非常に楽しみ、GJ!

>>131
罵られる夏月に何故か悶えましたww
GJです!

次回の投下は前スレでの予定通り今月の11日になりそうです。
かなり間が空きますが、よろしくお願いします。

140 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/02(金) 19:16:56 ID:EWZ75SwM
足ぺっきりぽっきりと聞くといつも思わずマナマナを思い出すぜ

141 名前:トライデント ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 22:58:04 ID:96pJgTHX
では投下致します


142 名前:黒の領域 ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 23:01:14 ID:96pJgTHX

今日は英津子さんが休日だったので僕と彼女はお互いの顔を睨めっこするように一日中飽きずに見ていた。
それしかやることがないのだ。骨折した足の具合はまだ悪くて、外に出掛けることは不可能。

監禁している状態で僕を外出すると問題なく他人に大声で助けを求めるであろう。
それに対して英津子さんは会社に行く事と買物する以外は僕の隣で手を握っていた。
僕の温もりを感じるだけで安心するらしい。微笑ましい英津子さんの照れている顔にいい加減に飽きる。
毎日毎日同じ事の繰り返しだ。そこに退屈を覚えても、新たな新鮮な出来事に遭遇するわけでもないし、
電波女と慰めしかやる事がないのはいろいろと欲求不満になってくるわけだ。

ここで初めて僕はこの監禁されている場所から抜け出して、自分の家に帰りたいという気持ちが胸から溢れだしそうになった。
さっさと僕の居場所に戻って、僕の世界へと回帰する。仲間達とまだまだ遊びたかったし、
引き裂かれる寸前の家族を救うことも諦めていなかった。

そろそろ、20過ぎの独身女性の心の隙間を埋めるボランティア活動は終了させてもらおうか。
機会はある。
英津子さんは今日は休日なので必ず買物に行く。その瞬間を狙って、ドアを叩き開けて周囲に助けを呼ぶ。
その辺を歩いている通行人でもいい。助けを呼べば……僕は帰れるんだ。


昼頃を過ぎると英津子さんは冷蔵庫の中を険しい顔をして覗いていた。
普段は仕事で忙しい彼女は休日にいろいろと買い溜めをしておいて、休日になるまで食材や材料を切らさないように気を遣っていた。

また、休日になると食料を補充するために買物に出掛ける。
これが僕と英津子さんが同居している時に気付いた彼女の生活パターンである。

もちろん、自宅に僕がいるから鍵を閉めるなんてことはしなかった。

「京介君。お姉ちゃんねぇ、ちょっと近所のスーパーまで買物をしてくるから。よい子で待ってくださいね」
「はい。わかりました」
僕はいつものように笑顔で返事を返すと外に出掛ける英津子さんを注意深く観察する。
バックを持って、英津子さんが玄関に行ってドアを開けて出掛けるところを確認すると。
時計で5分ぐらい待ってから、作戦を実行に移す。


寂しさと孤独を紛らわす生活に慣れていた英津子さんは油断していた。
一緒にご飯を食べて、一緒に居る時間が長かったから
英津子さんは僕が立派に調教されて大人しく従う愛玩動物になっていると……。

現実はそう甘くない。帰る場所がある人間は揺るがない。
擬似的に僕の寂しさと孤独が英津子さんによって癒されたとしても、
捨て去ることができない物がある以上は優先順位に従って、人は行動する。

だから、僕は動かせば激痛がする足を引き摺ってまで玄関のドアの方向へゆっくりと動いた。
左足を軸にして、大根によって折られた右足を少しづつ動かす。
1cm単位でも動かせば、感じたこともない痛みに苦渋の表情を浮かべるが。僕は我慢した。
希望の扉まで後もう少し。ノブに手が届くと僕は最後の力を振り絞って。


ドアを開けた。

143 名前:黒の領域 ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 23:03:36 ID:96pJgTHX
ドアを開けた瞬間、僕に待っていた光景は久しぶりに見るはずの外の光景。
のはずだった。
開けた先には英津子さんがいつものように優しく微笑んでいる表情を浮かべて待ち伏せるように立っていた。
「京介君……、一体何をやっているのかな? かな?」
「あっっ……、いやぁぁ……」
僕の顔色がどんどんと青くなっていくのがわかる。英津子さんは外見は笑顔を崩さずにいるが、
目は全然笑っていなかった。女の子が怒っているのは、暴力や汚い罵声など
頼らずにただひたすら冷笑するだけで男を怯えさせることができるのだ。
「お姉ちゃん。言ったよね? 京介君はよい子で待ってくださいね? どうして、私との約束を守れなかったの。
そんな悪い子にはちゃんとしたおしおきが必要だよ」
「い、いやぁ……。や、やめて」
英津子さんは僕を突き放すように押すと尻餅を着く。その間にドアを閉めて英津子さんは僕の方に近寄ってきた。
「京介君はもう私の物なんだよ。勝手に外に出掛けたらどうなるかわからないわけじゃあないでしょ。
私と京介君だけの生活が終わちゃうんだよ。私は絶対にそんなの嫌っ!! もう、一人は嫌なんだよ」

骨折している足の激痛に襲われて蹲っている僕を見下すように冷たい視線で英津子さんは睨んでいた。
視線を合わせるのが恐くて、僕は思わず外した。

「京介君。今度はどこの体を痛め付けて欲しいの? 左足? 右腕と左腕。
どちらが不自由だったら今度はもう私たちの楽園から逃げ出そうとしないはずだよね?」
「もう、やめてぇぇ……。謝るから。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
だから、もうこれ以上は痛い目に遭わせないでください。お願いしますっっ!!」
「そんなに懇願しなくても……。まだまだ、大根はこんな時のためにたくさん買ってきたから大丈夫だよ」
「だ、だ、だ、だ、いこんいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」
冷静な判断できずにあまりの恐怖に僕は精神の限界に耐え切れずに癇癪を起こす。
あちこち身体を激しく動かし、首を左右に揺らす。口から溢れだす唾液は垂れ流していた。
「もう、こんなことはしないよね?」
「う、う、うん」

僕は必至に首を下に振って頷いた。英津子さんの迫力に圧されて、僕の体は硬直していた。
喉の奥深くから懇願するようにようやく声を搾り出して言うと、英津子さんは満足な表情を浮かべた。

「でもね……。ちゃんとおしおきするよ」
「えっ……?」
唖然とした僕の隙を突いて、英津子さんは僕の唇を奪った。
それはキスと呼ばれる行為だったかもしれない。
「んっ……ちゅうちゅ……あっ。京介くぅぅん」
僕の唾液と英津子さんの唾液の交換し、僕の口から侵入してくる英津子さんの暖かい舌が僕の舌と絡み合う。
初めての体験に脳に鋭い電撃が落ちたような感覚に陥る。
英津子さんとの行為に没頭していると骨折した足の痛みもどこかへと飛んで行く。
「え、英津子さんっ……」
「お、お、お姉ちゃんの舌は気持ち良かった?」
唇から離れると僕と英津子さんの間に唾液の糸がいやらしく繋がっていた。
その光景に年頃の男性である僕は興奮を覚える。それは、快楽の表情を浮かべている英津子さんも動揺であった。
「き、気持ちよかった」
「京介君が私の初めてだよ。ファーストキスを貰ったのは……」
「僕も初めてだったよ」
「だったら、ちゃんと責任取ってくださいね。京介君」
「ええっ……!?」
「つ、次はお姉ちゃんのセカンドキスを奪って欲しいな」

僕の返事を待たずに英津子さんはまた僕の唇を奪う。貪るように僕の唾液を飲み込む彼女を拒むことは僕の頭の中にない。

もう、僕はこの監禁生活という現実をしっかりと受け止めてしまったから。


144 名前:トライデント ◆mxSuEoo52c [sage] 投稿日:2007/03/02(金) 23:05:37 ID:96pJgTHX
一応、次で最終回の予定だが・・
最後はちゃんと纏めて終わらせることができるのかと
ちょっと不安が・・www

執筆していたら英津子さんというキャラクターが勝手に動いて暴走するしw
扱いには難しいです

145 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/02(金) 23:24:29 ID:kAznxOhm
>>144
GJ!
最終回をwktkして待ちます

てか京介君大根がトラウマにwww

146 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/03(土) 00:44:31 ID:nSDzYsFw
京介おまえカルシウムとっとけwwwwwww

147 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/03(土) 02:25:26 ID:rdkRfA/B
ヤンデレスレは!

148 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/03(土) 03:10:50 ID:zmLQ0ToO
エロエロよー!

しまったつい思わずw

149 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/03(土) 20:27:05 ID:6+pMsIgz
保管人様更新乙です
ところで「ヤンデレ」でぐぐったら保管庫がかなり上に出て来てビビったw

150 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/03(土) 20:27:57 ID:yiWw5kzz
英津子さんに惚れた俺はどこで監禁されたらいいんですか!!

最終更新:2008年07月11日 09:53