70 : ◆WBRXcNtpf. [sage] :2007/04/24(火) 01:00:07 ID:rBKOmnMd
第9章
『誠一さんはなぜか逃げてしまった。』
『何故帰ってきてくれないの?なぜ私を抱きしめてくれないの?
なぜ「ただいま」といってくれないの?・・・』
真奈美は考えても考えても解けない疑問に苛まれていた。
もうあの再会からかなりの時間が経っている、
太陽はもう沈みきり外は暗くなっている。
今、真奈美が居るリビングも電灯を灯さなければ真っ暗闇だ。
だが真奈美は電灯をつけることもなく一人暗い部屋でひざを抱えていた。
そんな時、ふと聞きなれた夫の声が聞こえた。
いつも自分と睦みあっていたときの声だ。
初めは幻聴かとも思ったが何故か妙にはっきりと聞こえる。
しかもその音源は何故か隣家から発せられたいた。
・・・
何がおこっているのか、真奈美は頭で理解していた。
だがその壊れた心は何が起きているのか理解することが出来なかった。
『夫が自分以外の人間と情事をしている。』
たったこれだけのこと。
だが真奈美にとっては明日世界が滅びることに等しい現実がそこにあった。
143 :名無しさん@ピンキー [sage] :2007/04/29(日) 23:13:33 ID:TJc4mKAj
いくら耳をふさいでも嬌声は止まなかった。
『ヤメテ!!!!』
と何度願ってもオゾマシイその音は止まなかった。
徐々にその音が真奈美の四肢の感覚を奪っていく。
そのことに気がついたとき真奈美の意識は途切れた。
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掛け時計からオルゴールの音が聞こえる。
その音を聞いているうちに真奈美は自分がリビングにいることに気づいた。
おかしい。自分は夕食の準備のためにキッチンにいたはずなのに。
しかもあれから2時間も経っている。
未だぼんやりとした脳でそんなことを考えていると
隣家から女のコエが聞こえてきた。
そのコエで何が起こったのかすべてを思い出す。
だがその口からは先ほどまでの慟哭と違い静かな笑声と呟きが紡ぎだされる。
「ハハハ・・・そっか・・・2年も離れてたからいろいろ溜まってたんだ。そうだよね。男の人だもんしょうが無いよね。」
まるで、そこに夫がいるような口調で真奈美の独白は続いた。
「それに2年ぶりだからさっき会ったときも照れちゃってたんだ。うん、大丈夫。ちゃんとわかってるよ。
でも、いくら会えなくても動物相手に溜まったモノを吐き出すのはちょっと私嫌だな。」
「あ!だけど、それくらいで誠一さんのこと嫌いになったりなんかしないよ。
ううん、帰ってきたときすぐにしてあげられなかった私が悪いんだよネ。」
「安心してすぐに私があなたの溜まった物をだしてあげるネ。もうそんな動物相手にしなくてすむんだよ。」
「ずっと、ずっと繋がっていようね。もう2年も待ったんだよ。これからは朝も夜もずっと繋がっていようね。」
真奈美の目には誠一と自分が睦みあっている姿しか見えていない。
だが、それが自分の妄想だということを真奈美は理解できていなかった。
第9章終
最終更新:2019年01月15日 10:02