270 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:28:49 ID:wHrqCpJg
第十一話『ちょっとした休息と・推測』

「私の処女、千歳君にあげますね」
「……!?」
「驚かなくてもいいじゃないですか。期待していたんでしょう?」
――こんなことされてるんですから、行き着く先はおのずとわかるでしょう。
くすくす笑い。それは聞き飽きた。
「お前……なんで」
「何故か、ですか? まだ分からないんですね。ならそれでいいです。一生迷っていてください」
ミクの小さな手が、それにそぐわない腕力で千歳の性器を掴む。
「やっぱり、普通よりちょっと大きいんですね……。こういうの、ちょっと気分がいいです。じゃあ……」
ミクはハーフパンツを脱ぎ去り、下着を露出した。
昨日より何倍も大人っぽい、黒い下着。ぐちゃぐちゃに濡れて、薄い生地が透けている。
ぴったりと肌にくっつき、『そこ』の形をくっきりと浮き出させている。
「……」
思わず、千歳は唾を飲み込む。
「興味、あるんですよね。……いいですよ、千歳君が脱がせてください」
「……っ!?」
「ほら……こっちも、ちゃんと触ってください」
ミクに両手をつかまれ、右手をミクの胸に、左手を下着に導かれる。
「(柔らかい……)」
経験したことのない感触が千歳の手の中にあった。
さっきまでは乳首しか攻めなかったから分からなかった、その胸の柔らかさ。
そして、どろどろに溶けているのが下着の上からでもわかる秘所。



271 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:29:23 ID:wHrqCpJg
「ほら、早く……もう、我慢できません」
「う……ぁ……」
ミクがせかすため、仕方なく千歳は下着に手をかけた。
「(そうだ――もともと拒否権はない。迷うな、鷹野千歳)」
しかし、処女を奪うというのは……。
「(何遠慮してんだよ! 相手はもう高校生だぞ。最近の馬鹿な女ってのは、年上の男に憧れて遊ばれて処女だけ奪われて捨てられてんだ……!)」
そう、こんなこと、行動だけ見たら普通のことなんだ。自分が極端に嫌がっているだけだ。
割り切るよう、自分に言い聞かせる。
ゆっくりと、手を動かし、下着を下ろしていく。
昨日はできるだけ目を逸らしていたミクの身体が、今はいやというほどに見えた。
白い太股が、赤く染まっていた。汗が流れ落ち、色づいている。
なんとも、本能というものを見事にダイレクトアタックしてくる。
下着を脱がせる。脚から取り去ろうとした、その瞬間。ミクが静止した。
「ストップですよ千歳君。こういうのは、下着は脚に引っ掛けておくのが作法なんです」
「……どういう意味だ」
「いやですね、怖い顔をしないで下さい。本で読んだだけですよ」
――研究熱心なもので。
千歳は、ミクがよく図書室で本を読んでいたのを思い出した。
思えば、以前は真面目なやつなんだなと、好印象だったはずだ。
なぜ、こうなったのだろうか。
「図書室でも、教室でも、いつも官能小説ですよ。好きなんです。ああいう世界が」
あきれる。
この行動も、官能小説の影響なのだろうか。どうにせよ、真面目な印象などもう完全に瓦解している。
「馬鹿にしていますね、でも、えっちでは『シチュエーション』が大切だと思うんです」
見ていてください、と、ミクは千歳の唇に指を当てた。
脚をゆっくりと広げ、千歳に見せつけるように開く。
「……千歳君、目を逸らさないでください。これは、命令です」
「……俺はっ……!」
「?」



272 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:29:53 ID:wHrqCpJg
千歳の震える声が急に強くなる。
冷静さを失っていた。
「お前なんかに――」
「ちーちゃーん! どこー!?」
と――急にイロリの声が近づいてきていた。犬並みの嗅覚で千歳の歩いた跡を追ってきたのだろう。
ミクはちっと舌打ちをし、恐るべき早業で自らの服と、千歳の服の乱れを直す。
「(このまま見せ付けてやってもいいが、まだ早すぎる……。それに、西又イロリの力は今の私には危険か)」
ミクの冷静な打算が、この判断を生んだ。
このときの千歳も、ほぼ似たような理由でその場を取り繕うことを選んだ。
――結果的には、これは正解だった。
「ちーちゃん……?」
がさがさと草を掻き分け、イロリが二人のいる木陰に踏み込んできた。
そこでイロリが見たのは、日射で弱っているミクと、それを介抱する千歳。
「あ、ああ。イロリか。どうした?」
「どうしたって、ちーちゃんが急にいなくなるから。……ミクちゃん、どうしたの?」
「体が弱いもので……。千歳君に介抱してもらって楽になりました」
「そっか。健康は大切だもんね。ダメそうなら、私が保健室に……」
「いえ、私はもう大丈夫です。千歳君、イロリさんの所に戻ってあげてください――お嫁さんを心配させてはいけませんよ」
ミクはそう言って悪戯っぽく笑った。
「……まあ、体育終わるまでそこで休んどけ。委員長」
「優しいんですね。さすがです。いいお婿さんになりますよ」
また、イロリに向かってご機嫌取りのようなことをいう。
しかし、イロリは素直に喜ばずに少し困ったような顔をして返答した。
「まだ、友達だから。もっと未来の話になるかな?」



273 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:30:40 ID:wHrqCpJg
「(いろいろあったけど、やっと日曜日だな)」
イロリが来てからもう一週間が経った。
イロリの行動は、この一週間予想通りというか予想外というか、とにかく奇抜なものばかりで、千歳を困らせた。
ぴょこぴょこと後ろをついてきたかと思ったら、急にツンデレ風味に気を引こうとしてきたり。
昼休みにバレンタインでもないのにチョコを差し出してきて、「勘違いしないでよね! 義理なんだから!」と言って来た時はさすがにそのとき食べていたアンパンを吹き出してしまったものだ。その内容物はイロリの顔に盛大にぶっかかり、大惨事を巻き起こした。
結局はイロリが千歳の口の中のものならと、ぺろりと顔についたアンを食べてしまってその件は大丈夫だった。
その後、千歳がイロリにその行動を吹き込んだ犯人であるナギの弱点である脇を十分間くすぐったことで事態は収拾した。
いや、正確には終息していない。くすぐりでナギが妙になまめかしい声を出したせいで男子生徒がみんな前かがみになるという二次災害を巻き起こした。
そのときの声と言ったら、もともとアニメ声なナギが本気で出すものだから……。
一般の声優がエロゲーに出ているときのような、二乗化された興奮度なものだ。男子にとっては仕方がないのである。
トイレに行って、帰って来ると賢者だったものもいた。さすがに声だけでするのはどうかと千歳は思った。
というより、千歳だけはナギの声ではどうともならなかったのである。
これは千歳の精神装甲がゴッグに匹敵するなんともなさだからではなく、単に慣れから来るものだった。
千歳はナギを起こすとき必ず生まれたままの姿を見るし、下着をはかせるとき無毛の割れ目をばっちり見てしまっている。
それどころか、ナギは寝ぼけているとき大股開きをしていたりするから、実は結構詳細に見ている。
いまさらなのだ。
そんなこんなで、千歳はナギに殴られ、彦馬(賢者)に殴られ、クラスメイト(前かがみの男子)に殴られ、クラスメイト(好きな男子をナギに賢者にされた恨みを持つ女子)に殴られ、クラスメイト(千歳に思いを寄せる女子)に殴られ、そのたんこぶをイロリに撫でられ。
帰ったら帰ったで百歌に「けがしたの!?」と騒がれ、「お風呂入ったらたんこぶいたいでしょう、百歌が洗ってあげるね!」と、妙に過保護にされたりと、ストレスが溜まってしまった。
幸運だったのは、ミクがおとなしかったことだ。



274 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:31:13 ID:wHrqCpJg
ミクは強姦を繰り返すかと思っていたが、案外普通のことにナギの写真を使ってきた。
「図書館で勉強しましょう、千歳君」「この小説面白いから読んで下さい、千歳君」「とってもいい古本屋さんがあるんです、帰りに一緒に行きませんか?」「この本、どう思いますか? 明日までに原稿用紙十枚でレビューしてください」「数学教えてください」などなど。
文面だけ見れば普通だった。しかしこれには殆ど官能小説が絡んでいた。
千歳は、最近になって実はミクは官能小説マニアで、あまりにものめりこみすぎて現実にもやってみたいと思ったのではないか、と思い始めた。
ありそうな話だ。ミクはもともと真面目な性格のむっつりスケベな委員長だったが、勉強や家庭などのストレスと、そして何故か自慰行為をしない性質から、官能小説のシチュエーションをなぞる行動に出た。不自然では全くない。
それに、千歳がその相手に選ばれた理由もなんとなく心当たりがあった。
千歳は文系であり、そこそこ本に慣れ親しんでいるし、読むのは好きだった。図書館も良く利用していた。
ミクにはそこで何度か会って、「本が好きって、良い趣味だよな」みたいなことを千歳が言った。なんとなくそんな記憶がある。
――ミクは、仲間が欲しかったのだろうか。
官能小説のシチュエーションをともに再現する仲間。
官能小説の話をできる異性。
それを求めていたのだろうか。
まだ正確にはわかっていないが、推測できたのはここまでだった。
「(まあ、あいつは極端なだけで、思ったより邪悪なやつじゃないっぽいな。ミクの説得は案外楽か――)」
ここまで考えて、千歳は気付いた。
――最近、頭の中でも普段でも委員長じゃなくて、ミクって呼んでるな。
良い兆候であるのだろうか。
テロリストに譲歩している気分にもなる。
しかし、悪い気分じゃなかった。



275 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:31:43 ID:wHrqCpJg
「(ま、今日は休めるんだ。休めるときにゆっくり休まないとな)」
考えるのをやめ、部屋を出ようと立ち上がった。
ナギの家にでもいってだらだらとゲームでもするかと考えたところで、千歳は部屋からでるのをやめた。
「(いや、もうすぐ『六月』だったな。じゃあ、ナギの家には行っちゃだめだったな)」
ナギの、野々村家の『掟』。ナギとは、母親たる頼さん以外、六月の第一週には会ってはいけない。
何故かは知らないが、ナギは一年に二週間、絶対に家から出ないし誰にも会わない時期がある。
その一回目が、六月第一週、つまり来週の終わり頃以降一週間だった。
まだその時期には一週間ほど早いが、ナギがあまりこの時期に訪れても良い顔をしない。
「……ん?」
ぶるぶると、ベッドのしたで何かが震えているのを感じた。
「携帯か」
拾い上げ、着信履歴を見る。
千歳はあまり携帯を使用しない。だからこうして一週間放置することも少なくない。
着信履歴は……。案の定、ある人物でいっぱいだった。
「あのアホ……何通出すんだ」
しかし、今日の目的地は決まった。



276 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:32:14 ID:wHrqCpJg
「おい百歌ー! ちょっと出かけてくるわー!」
「お兄ちゃん、どうしたの? もしかして、あの女のメール、また溜まってたの?」
「正解。ちょっくら行ってくる」
「別に行かなくてもいいよ。お兄ちゃん忙しいのに、あの女がお兄ちゃんに迷惑ばっかりかけて……」
「あのなぁ」
千歳が百歌の頭の上に手をぽんと乗せて、軽く撫でた。
百歌は猫のように気持ちよさそうに喉をならした。
「あの女あの女って、俺もお前も、あいつに結構昔から世話になってんだぞ。そんなこと言うような恩知らずに育てた覚えは無いぜ」
「お兄ちゃん……うん。ごめんなさい」
しゅんとして縮こまり、百歌はバツの悪そうに下を向いた。
「分かったら良い。お前は偉いな」
わしゃわしゃと乱暴に撫でた。つもりだったが、千歳は百歌に対してはどうしても優しくなるらしく、実際は丁寧だった。
百歌はまた気持ちよさそうにごろごろと喉をならし喜び、千歳の手に頬を擦り付けた。
「(ああ、可愛いなぁ)」
正直、千歳はものすごくシスコンだった。妹萌えだった。百歌より可愛い女はいないとまで思っている。
別にそういう性癖があるわけではないが、百歌はたぶんロリコンシスコンという名の紳士を目覚めさせる魔力を持っていた。



277 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:32:44 ID:wHrqCpJg
人気の無い道路を歩く。季節は五月下旬、ぽかぽか陽気が暖かい。
この街は東京なのにあまり人が多くない。珍しい場所なのではないだろうか。
「ちーちゃん!」
後ろから呼ぶ声に、千歳は振り向いた。
イロリだった。当然のとこながら私服だ。
薄着で、白いワンピースのみ。派手な正確に似合わずシンプルだ。
「ちーちゃん奇遇だね……。あ、この服、どう……かな?」
千歳の、服への視線に気付いたのか、顔を赤らめながらくるっと一回転した。なかなかさまになっている。
「ちょっと地味かなって思うんだけど……」
「いや、むしろ似合ってる。良いんじゃないのか」
「本当!? 嬉しい!」
イロリは勢い良く千歳に抱きついた。
千歳はそのテンションに少したじろぎながら、昔のことを急に思い出した。
イロリは、昔からこういうシンプルなワンピースを好んで着用していた。
そしてその服への意見を一々聞いてきて、千歳は「いいんじゃないかな」と答えていた。
そのたびにイロリは千歳に抱き付き、「うれしい!」と叫んでいた。
「同じだな」
ふっと笑ってしまった。
イロリは顔を上げ、千歳に疑問符の乗った顔を向ける。
イロリの身長はわりと高いのだが、やはり男である千歳とは差が有り、必然的に見上げる形となった。
少したじろぐ。これはさっきとは違う、純粋に心臓が跳ねた。
「いや……昔から、お前は変わらないな、と思って」
「そうかな……。えへへっ、そうだといいな。ちーちゃんは、どっちが好き?」
「ん、なにがだ?」
「昔の私と、今の私」
「どう違うんだよ、今同じって言ったばっかりの俺にはさっぱりわかんねーよ」
イロリは抱きついたまま、ふふんと鼻を鳴らして得意げに解説を始めた。



278 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:33:15 ID:wHrqCpJg
「昔の私はちーちゃんの知ってる通りだよ。ちーちゃんには嘘ついたことないから、本当に全部、その記憶のまま」
「へぇ、じゃあ今は?」
「……聞きたい?」
「まあ、ちょっと興味はある」
もじもじと脚をすり合わせて、イロリはもったいぶった。若干可愛かったが、千歳はあえて無視した。
「今はねー。汚い女になった」
「はぁ? 汚いって、なんだよ」
「ちーちゃんのために、嘘つくようになった」
「……嘘って、お前がそんなんに嘘つきだとは思えないけどな。例えば、どんな嘘をついた?」
「前に、義理チョコあげたでしょ?」
「ああ」
「あれ、実は本命なんだ……」
「……」
吹き出すどころか、今回はあきれ果てて笑いすら出なかった。
くだらない、実にくだらない理由でイロリはちょっとした悩みを抱えていたように見える。
「ちょっとぉ、あきれてるなー! 私は本気でちーちゃんのこと……むぐっ」
「あはっ……あははははははははははは!!!!!」
後からこみ上げてくる感情に、千歳はついに笑ってしまった。なぜかイロリの口を手で押さえて。
「ははははは! ……はぁ、はぁ……いや、スマン、笑っちまった。いや、皆まで言うなよ、イロリ」
「ぷはっ……どうして?」
「恥ずかしいだろ。お前に好き好き言われてたらさ、俺も」
イロリの目の光が暗くなる。しょぼんと頭を下げ、今にも崩れ落ちそうだ。
「私……ちーちゃんに迷惑を……?」
千歳は一瞬焦ったが、イロリに対しては無駄だということを思い知った。
昔もこんな展開があった。あの時と同じにすればいいんだと、もう分かってしまった。
「かけてねぇよ、いっちゃん」



279 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:33:45 ID:wHrqCpJg
「えっ……」
昔の呼び名で呼ばれたことがそんなに珍しいのか、イロリははっと前を向いた。
目に涙がにじんでいた。昔から泣き虫だった。
「好きだって言ってくれた奴をキライになる奴なんていない。……ちょっと最近のお前がなんつーか……可愛いっていうか」
「ちーちゃん……!」
イロリの顔がぱぁっと輝き始める。ひまわりのようだ。
「その……それ以上されると惚れそうだから、マジでヤバイ。うん、そういうこと」
「ちーちゃん!!」
がばっと、再び千歳に抱きつくイロリ。その顔には、さっきためた涙が流れていた。
流したのは、悲しみの心ではない。幸福。イロリの限りない幸せだった。
「ちーちゃん! 私を好きになってくれてるんだね! なら、何度でもいっちゃう! 好き! 好き! 好きーっ!!」
「こっ、こらお前、公衆の面前で……!」
「この愛は、誰をも超えられる……! どんな視線にも耐えられる……! そうだよ、ちーちゃん! やっぱり結婚しよう!」
イロリは興奮でもう千歳以外の何も目に入らないらしい。
近所の人間が大声につられて好奇の目を向けてもどうでもよいらしかった。
「(――やっぱ、変わってねーよ。昔から、そうやって純粋で、ただひたすら……綺麗だった)」
ふっと、諦めたように千歳が笑い、イロリの手をさっと握って駆け出す。
「ちーちゃん!?」
「ま、結婚は大人になってから考える! とりあえず今日は今日のことだ! お前今日ヒマか!?」
「うん! ちーちゃんと会えたらいいなって、この辺りをぐるぐる散歩してたから、ヒマー!」
風を切るこの感触が懐かしい。
昔は、野原をこうやって手を繋いで走った。
「じゃあ、今日はちょっと懐かしい奴に会いに行こうぜ!」
「懐かしいひと……?」
「会えばわかる!」
悪戯をした時のこと。泥んこになって互いの親に怒られたときのこと。
失敗をして、笑いあった時のこと。



280 :ワイヤード 第十一話  ◆.DrVLAlxBI :2008/10/22(水) 00:34:15 ID:wHrqCpJg
――二人なら。
「ちーちゃん……こうして走るの、懐かしいね!」
「……ああ!」
――二人なら、怖くなかった。
この街の地図を書いた時のこと。自転車に乗ろうとしてイロリがすべって脚をすりむいたこと。
その傷口をなぜか千歳が舐めさせられたこと。その代わりイロリが千歳の傷を全て舐めて治そうとしたこと。
――二人なら、痛くなかった。
一緒に風呂に入って、お湯を掛け合って湯船を干上がらせたこと。
ボタンが上手くはめられないイロリのボタンをはめてやったこと。
「(イロリ……やっぱお前はすげーよ……!)」
――二人なら、どこにでもいけた。
手を取り合えば、一人でも上れない高い木に上れたこと。
二人で手を取り合えば、怖い夜道も歩けたこと。
――二人なら、淋しくなかった。
泣いているイロリを慰めた時のこと。
反対に、泣いている千歳を、いつもポジティブなイロリの姿が励ましたこと。
――二人なら……。
「(イロリ、お前なら……!)」

――未来だって、つかめるんだ。
最終更新:2008年10月22日 00:40