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賭博黙示録 - (2006/05/04 (木) 16:08:59) のソース

男子A「とりあえず、8・13・14・15のボックスかな?中山の短距離は内枠怖ぇーし。お前はどうするよ?」 
ある日の昼休み、廊下でスポーツ新聞を広げながら談笑する生徒たち。 
どうやら、週末の競馬について話しているようだ。 
指名された生徒は少し考え、こう言った。 
男子B「…3番から、5・8・9・12と流す…!馬連で2000円ずつ!!」 
男子A「…?3番ってなんだっけ?…うげっ!!『テイエムカナリア』!?こねーよ!そんなの!!前のレースで、いきなりコースを逆走した奴だぞ!?」 
男子B「いいや!来る!!こういう大勝負こそ、『テイエム』の冠が…」 
?「こらっ!」 
その声に生徒たちが振り返ると、そこには2人の教師の姿があった。 


水銀燈「全く…そんなのはゲームの中だけにしときなさぁい…。ハマッたら、火傷だけじゃ済まないわよぉ?」 
珍しく正論を述べる水銀燈に、あっけにとられる一同。 
いつもなら、こういう話には積極的に乗り出してきそうなものだが… 
そして、何かを思い出したかのように、もう1人の教師もお説教を開始した。 
蒼星石「あ…うん!そ、そうだよ…!それに、未成年は購入禁止のはずだし…バイトだって、正当な理由さえあれば…」 
男子A「で、でも…ほんのちょっとなら…」 
その一言に水銀燈は目を光らすと、蒼星石の手を引っ張りながらこう言った。 
水銀燈「…蒼星石、この場は私に任せて…。この子達、楽してお金を手に入れたいみたい…。だから、私がちょっと目を覚まさせてあげるわぁ…。一番、そう言うの知ってるしぃ…」 
そして、その言葉に蒼星石がその場にいなくなったことを確認すると、皆に向けて静かにこう言った。 
水銀燈「…で、何に賭けるのぉ?さっさとお金渡しなさぁい…。」 


男子A「…えっ!?」 
水銀燈「何、ボーっとしてるのよ…。ほら、買ってきてほしいの、早く紙に書きなさぁい…。また人が来られちゃ、面倒だわぁ…」 
その言葉に、その場の生徒たちは一斉に動いた。 
つまり、さっきは蒼星石先生がいたから、あんな事を…。 
やがて、水銀燈は資金を回収し終わると、生徒たちの予想と新聞を見比べながらこんなことを言い出した。 
水銀燈「『テイエムカナリア』…もっと賭けなくていいのぉ?」 
男子A「え…!?でも、みんな来ないっていうし…もしもの時を考えて…」 
水銀燈「バカねぇ…。みんなが言ってたからって、それがいつも正しいとは限らないのよぉ?それに、レースが始まる前から、そんな弱気でどうするのよ!?自分が信じた馬なんでしょう?」 
その言葉に、Aの心は揺らいだ。それを見て、水銀燈はダメ押しとなる言葉を囁いた。 
「…あーあ、予想オッズ見たら全部万馬券なのにぃ…」と。 
それを聞き、追加投資をするA。それを見て、他の生徒たちもそれに追従した。 
やがてそれが終わると、水銀燈は意味深な笑みを湛えながら、その場を後にした。 


水銀燈「ふふっ…本当にお馬鹿さん…。ま、このお金は、私が有効に利用してあげるわぁ…」 
誰もいなくなったところで、水銀燈はつい本音を洩らす。 
そう、彼女は馬券を買ってくる気など始めからなかったのだ。 
ギャンブルとは、必ず胴元が儲かるもの…。だからこそ、水銀燈はそのお金を目当てに名乗りを上げたというわけだった。 
生徒に追加投資をせびったのもこのため…万馬券なんか来るはずが無い…彼女はそう考えていた。 
…しかし、そんな予想に反し、『テイエムカナリア』は本当にレースに勝ってしまった。 
ちなみに2着は、これまた人気薄の9番…。なんと、倍率159倍の万馬券だった。 


男子A「おい!昨日は凄かったな!!おめー、いくら儲かったんだよ!?」 
男子B「5000円賭けたから、約80万かな!?うわー!!マジで信じらんねー!!」 
レース翌日の月曜日、生徒たちの興奮は全く冷める気配がなかった。 
そして、その足で急いで水銀燈を探し出すと、早速本題を切り出した。 
男子B「…で、先生…例のお金のほうを…」 
水銀燈「…ん?何の話ぃ?」 
男子A「またまたー!昨日の競馬の話ですよー!!コイツ、万馬券取ったじゃないですかー?」 
水銀燈「ふーん…で?」 
男子B「いや、だから…まさか…!?」 
水銀燈「…言っとくけど、私は『買ってくる』なんて一言も言ってないわよぉ?私は紙に数字書かせて、校則違反の罰金を取っただけ。何、勘違いしてるのぉ…?」 
男子B「え!?嘘でしょ!?そんなの汚いっすよ!!」 
まさに天国から地獄…。もはや、生徒のほうも泣きそうになっている。 
しかし、水銀燈はお構いなしにこう言った。 


水銀燈「汚くて結構…。世の中はそういう風に廻ってるのよぉ?正直者が馬鹿をみるってね…。いい勉強になったでしょう?」 
男子B「そ…そんな…」 
水銀燈「そんな目をしても駄目よぉ…♪この世を生き残るには、汚いことをしなきゃ生きていけないの。だから…」 
?「…だからこそ、僕達が生徒たちを正しい道に導かなきゃいけないんじゃない?そんな間違った世の中を変えるために…。」 
驚いて声のしたほうを見ると、そこには満面の笑みを湛えた蒼星石の姿があった。 
手には、その小さな体に不釣合いな、大きな剪定用の鋏を携えて…。 


蒼星石「水銀燈、待っておくれよ…。ちょっと話したいことがあるんだけど…!」 
水銀燈「やぁよ。怖いもの…!」 
早歩きで廊下を進む2人。そしてその速度はどんどん増し、やがて2人は全速力で廊下を走り出した。 
真紅「廊下は走らない!また何かしたの!?水銀燈!!」 
雛苺「わーい、ヒナもー!!」 
こうして、彼女を追いかける人数は次第に増えていき、気がつけば教師全員が水銀燈1人を追いかけるという異常事態に発展していた。 
当然、授業は一時中断。それを見て、教頭であるラプラスはこう呟いた。 
「ふぅ、この学園名物の『教師対抗追いかけっこ』が、今日も始まってしまいましたか…。」 
と。 
私立有栖学園…ここは、そんなにぎやかな先生が数多くいる学校である。 


完 
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