平沢唯の朝は早い

平沢唯の朝は早い


1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10 /06(火) 18:38:47.13 ID:lPl2RWsO0

唯「おひゃよーございます!」
ディレクター(以下、D)「いつもこんなに早いんですか」
唯「うーん。うーん。はやい……はやいのかなぁ」

この少女は平沢唯さん、高校二年生。
彼女は知的障害のハンデを抱える、障害者である。

     ドキュメント2009
      ~障害と闘うギター少女~

唯「いってきまぁ~す」
憂「いってらっしゃい、お姉ちゃん」

彼女は唯さんの妹の憂さん。
しっかりもので、留守がちな両親に代わって唯さんを介護する、唯さんの一番の理解者だ。

唯「ちこくちこく~~ちこくしちゃうよぉ~」

唯さんは、よく時間を間違える。
我々は、『充分間に合いますよ』という言葉をグっとこらえた。
彼女にとって、何が正しくて何が間違いなのかを理解するのは難しい。

彼女が通う学校は、擁護学校ではなく一般の高校だ。
健常者と同じ学校に通わせたいという、家族の強い希望によるものだ。

だが、唯さんは健常者の授業内容にはついていけない。

唯「えへへぇえ。12点だって~」

それでもいい、と家族は言う。
唯さんにとって、高校での生活は楽しいものなのだから。

和「唯、そんなんじゃ追試だよ?」

彼女は真鍋和さん、唯さんの幼馴染だ。
唯さんの抱える障害にも理解を示してくれる。

唯「だよねぇ。えへへへぇ」

和さんは、唯さんがニコニコ笑ってるのを見るのが好きだという。
喋るのが得意ではない彼女とのコミニュケーションは、もっぱら和さんの一方通行だ。

唯「おいしーおいしーメロンパぁン。うふふふぅ」

昼食の時間。箸を上手く使えない唯さんの学校での食事は、パンが中心だ。
家では憂さんが食事介護を行ってくれるが、知的障害者の社会進出への理解が遅れている日本では、それも難しい。

和「唯、食べかすこぼれてるわよ」

和さんも、唯さんの世話はすっかり慣れっ子だ。

D「唯さんについてどう思いますか?」
和「ちょっと、いやかなり抜けてるけど……凄く良い子ですよ」
D「知的障害を持つ児童に対して、何を感じます?」
和「知的障害ですか……?
  ううーん、大変だと思いますけど……って、何の話ですか?」

放課後、唯さんは所属している軽音部の部室へ向かう。
知的障害者が、部活動を行う事は珍しい。

唯さんのリハビリをかねた唯一の趣味、それがギターだった。

唯さんの障害が発覚したのは、幼稚園の頃だ。
みんなでカスタネットを叩く、なにげないお遊戯。
その時、頭を振りながら「うんたん♪ うんたん♪」と奇声を発して熱心にカスタネットを叩き続ける唯さんの奇行に、誰もが知的障害の疑いを持った。

我々は、唯さんの主治医である精神科医のA先生にお話を伺った。

A「知的障害を持つ人には、特異才能……絶対音感なんかを持ってる方が沢山いらっしゃいます。
  サヴァン症候群と言いますが、平沢唯さんもその一人です」

※本人の希望により映像と音声を処理しています。

D「じゃあ唯さんは楽器をやらせたら凄いんですか?」
A「一概にそうとは言えませんが、可能性はあります。
  唯さんのご家族も、彼女に楽器を習わせたいと仰ってました」

唯さんは絶対音感を持っている、家族は医師にそう告げられた時、障害を持って生まれてきた唯に与えられた、神からの贈り物だ、と思ったそうだ。

D「ギターやってて、楽しいですか?」
唯「うん! たのしいよぉ~。じょうずにできたら、みんなほめてくれるもぉん。うふふふぅ」

唯さんは、最初はギターを始めるのを嫌がったそうだ。
だが、軽音部の仲間たちは、彼女を熱心に説得した。
その甲斐あって、彼女はギターに興味を示し、軽音部に入部したそうだ。
両親は、涙を流して喜んだ。

それでも唯さんは、ある目的が無いと部活には来ない。
それは、琴吹紬さんが毎日提供してくれるお菓子である。

そもそも唯さんは部活動というものがどういったものか理解できず、この場所にくればお菓子が食べられると思い、足を運んでいるだけなのだ。
障害者は動物じゃない。そう理解しても、本能のままに行動する唯さんを見ていると、考えさせられる。

琴吹紬さんは、知的障害者の社会進出を支援するNPO法人の職員である。

D「いつもお菓子を持ってくるんですか?」
紬「ええ、いただいた物が余りますので。おすそ分けを」
D「日本における知的障害者の社会進出について、どう思われます?」
紬「……突然なんの話ですか? え、ええと……頑張って……いただきたいですね。」

唯「ギー太ぁ、今日も頼んだよぉ~」

唯さんのギターは、ギブソン・レスポール。
市価20万円以上する高級ギターである。

唯さんにかかる医療費や介護費により、貧しい生活を送っている平沢家には、彼女の欲しがるこのギターを購入する余裕はなかった。

お金という物がどういう物か理解できない唯さんは、ギターショップでこのギターが欲しいと駄々をこねたそうだ。
見かねたNPO法人の紬さんが、費用を出して唯さんにプレゼントしたらしい。
それ以来、唯さんの宝物である。

澪「ねえ唯、ちゃんとコード覚えてきた?」
唯「えへへぇ。それがねぇ~全然なのぉ。えへへへへぇ」
律「それでこそ唯だよ!」

唯さんは同時に3つ以上の事が覚えられない。
そんな彼女の障害を最初は理解できず、彼女への指導は苦労したという。
今では、唯さんが楽しんでくれればそれでいい、と仲間達は語る。

そして我々は、ショッキングな光景を目撃した。

梓「すいません、遅れちゃって~……ひっ!」
唯「わぁぁい。あずにゃんは今日もかーわいいねぇ。
  あずにゃん♪ あずにゃん♪ あずにゃんにゃん♪」

後輩の中野梓さんに突然襲い掛かり、セクシャルハラスメントを行う唯さん。
このままでは梓さんが強姦されてしまう。見かねた仲間が慌てて唯さんを止める。

律「ほらほら唯、いつまでもやってないで練習始めるよ」
唯「え~もっともっとぉ。あーずーにゃ~ん」

障害者にだって性欲はある。
そのどうしようもない悲しい現実を我々は知った。

D「唯さんに襲われたりして、辛くないですか?」
梓「う~~ん。もう慣れたっていうか、別に嫌じゃないって言うか……」
D「知的障害者が性欲を持つことについて、どう思います?」
梓「は、はい? 意味が……」

梓さんは体を張って、唯さんの障害と向き合っている。
そんな彼女の優しさに、我々は胸が熱くなった。

部活が終わり、帰宅する唯さん。

憂「おかえりー。今日はどうだった?」
唯「今日もぉ、楽しかったぁ。うふふふぅ」
憂「それはよかったねっ」

唯さんが帰宅すると、憂さんは彼女に今日一日の内容を尋ねる。悪い事はしていないか、イジメを受けていないか、憂さんはいつも障害を持つ姉を心配している。

夜、自室でギターの練習に励む唯さん。

唯「えーとぉ……これがぁ、Gマイナぁで……」

アンプに繋いでいないギターを、一生懸命演奏している。
彼女の頭の中では、どんな音楽が流れているのだろうか。。

唯「ぎゅい~~~ん!」

唯さんは鏡の前に立って、口でギターの音真似をする。
その3歳児のような、彼女の純粋すぎる心ゆえの行動を見て、スタッフの一人が思わず笑ってしまい、我々は彼を叱った。
ハンデを抱え、精一杯頑張る彼女の行動を誰が笑えるというのか。

唯さんが就寝する間際、我々はまたしても衝撃的な場面に遭遇した。

唯「ギー太ぁ、一緒に寝よっかぁ~」

なんと唯さんは、自分のギターを人間と思い込み、しかもそれに欲情していたのだ。
彼女がギターを肌身離さず持ち歩く理由が分かったと同時に、とても悲しい気持ちになった。

唯「うふふふふぅ。おやすみなさぁい……」

唯さんはギター、いや、恋人を抱いてベッドに入る。
この先の映像については、彼女の人権を尊重してお見せできない。

障害者の抱える性についての悩み。それを理解できるものは、少ない。

翌日、軽音部の仲間は、ある大きな決断をした。

澪「新曲のボーカルさ、唯がいいんじゃないか?」
律「そうだね、唯に合ってる感じだし」
紬「私も賛成です」

なんと、唯さんにボーカルを任せるというのだ。貴重な青春の1ページである、生徒の前でのバンド演奏。
それを唯さんのために使おう。そう決めたのである。

唯「ほぇ~。あたしがぼぉかるするのー?」
澪「唯ならできるよ」
梓「頑張ってくださいね!」

知的障害者の唯さんには、歌詞を覚える事は無理だろう。
だが、それでも挑戦する権利は平等にある。
唯さんに挑戦させてあげたい。例え失敗しても。
そして、険しく困難が練習が始まった。

唯「あはぁ。まぁた間違えたぁ~」
律「もー、ちゃんとやりやがれっ」

唯さんへの必死の指導にも熱が入る。もう区別はしない。健常者と同じように教える。
彼らは、そう決めた。

そしていよいよ本番当日。

D「唯さん、いよいよですね。緊張しますか?」
唯「う~ん。ちょっとはねぇ~」

これから何をするかも分かっていないのだろうか。
そんな不安がよぎる。
唯さんの衣装は、養護教諭の山中さわ子先生が作った。

さわ子「がんばってらっしゃい。期待してるわよ」

いよいよ唯さんの晴れ舞台の幕が上がる。唯ならきっとできる、みんな、そう願った。

唯「えとえと、放課後てぃたいむです!
  曲はぁ、Cagayake! GIRLSですっ!」

そして、唯さんは辛かった練習の成果を、思い切り声を振り絞り、歌う。

唯「じゃきながちでかちまひればえびでがんすとおっ!
  しゅーごちゃいむまでってない!
  じこくわしでもおーたいはのののお!
  せーぱいだでぃあーたーくーー」

誰もがこう思った。

何を言ってるのかわからない、と。

だが、唯さんは懸命に歌う。
大勢の観客の中には、誰も彼女を笑う者はいない。
顔をしかめる者も背ける者もいない。
これは意味不明な叫び声では無い。唯さんの魂の叫びなのだ。

彼らは、知的障害者の必死の頑張りを応援した。
それは、尊さすら感じられる光景だった。

律「よかったよ唯!」
澪「ばっちりじゃない!」
紬「素晴らしかったです」
梓「すっごく感動しました!」

唯「えへへへぇ。そーぉ? うふふふぅ」

仲間達が、唯さんに暖かい言葉をかける。
出来なんてどうでも良かった。
唯さんの精一杯歌う姿に、誰もが胸を打たれた。

唯さんはその後も、軽音部に通い続けている。
これ以上軽音部の皆さんに迷惑はかけられないと、唯さんの家族は、退部させる事も考えたという。

だが、仲間達はこう言う。

律「え? 唯が抜けたら? 困るよ! 困る!」

唯さんの扱いには困っている。
それでも、ここにいていいんだよ、と田井中さんは言う。
彼女達の思いやりが、唯さんを今日も支えている。

D「軽音部に居て、楽しい事ってなんですか?」
唯「うんとねぇ、お菓子がいーっぱい食べられる事とぉ、それとみん」

今は食べ物が目的でも、きっと唯さんはみんなの気持ちに気づいてくれる。
障害に理解ある仲間達は、そう思い、唯さんを見守っているのだ。

知的障害を抱えながら、懸命にそれと向き合うギター少女。
平沢唯さんの挑戦は、これから続く。


唯「ねえねえ! そろそろ始まるよぉ!
  『ドキュメント・天才美少女ギタリスト、平沢唯特集』が!」
律「わあってるって。そんなにテレビに取材されたのが嬉しいのか!
  全然羨ましくなんてないぞ!」
澪「私あんまり映ってないよね? ね? ううう……恥ずかしい」
紬「取材の時、なんだか変な質問されたんですが、なんだったんでしょう?」
梓「わ、私も。知的なんとか、とか……」

唯「わっ! 始まったよー!」
律「うっさい! 静かに見ろい!」


        ドキュメント2009
       ~障害と闘うギター少女~

        糸冬

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    (2009.10.06)

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最終更新:2018年02月13日 22:02