唯「天使が狂れたよ(^q^)」

唯「天使が狂れたよ(^q^)」


律「ついに今日、か」
紬「3年目の学園祭……ライブ」
澪「今日のこのライブが終わったら、私たちは軽音部から引退、解散だ」
律「やっと解放されるんだな……」
紬「長かったわね、2年半」
澪「振り返ってみると、色々あったなぁ」
律「そうだな」
紬「まず最初に思い出すのが、私たちが1年の頃の4月よね」
澪「ああ……あいつとの出会いだな」
律「思えばあれから私たちのすべてが狂ったんだ……」
澪「4人目の部員が見つからない私たちのもとに、さわ子先生が……」
紬「……」


  回想・その1 ~ 新入部員! ~

音楽室。

律「はー、早くこないかな、4人目の部員……」
紬「このまま入部してくれる人が見つからなかったら、廃部になっちゃうんでしょう?」
澪「ああ、期限はあと1週間。それまでに誰か来てくれないと……」
紬「……」
律「なー、もう出来ることは全部やったよな。ビラも配ったし、ポスターも作ったし、声かけもやったし」
紬「お昼の放送で宣伝もしてもらったわね」
澪「知り合いに片っ端から入部してくれるよう頭を下げたりもした……
  引かれただけだったけど」
律「あーもう、なんでこれだけやって誰も来てくれないんだよー!!」

こんこん

澪「!? 誰か来た!」

ガチャ
さわ子「みんな、元気でやってる?」
律「なんだ、先生かよ……」
さわ「何だとは何よ」
澪「いえ、新入部員が来てくれたのかと思って」
さ「あら、まだ誰も入ってくれてなかったの。ならちょうどいいわ」
紬「ちょうどいい?」
さ「ええ、この子を入れてあげてくれないかしら」
澪「この子……って」
さ「平沢唯さん、っていうの。貴方達と同じ1年生よ」
唯「あうあー(^q^)」

律「……」
澪「……」
紬「……」
さ「ご家族からのたっての希望で、部活をやらせてあげたいって。
  本人に聞いたら音楽に興味があるみたいだから、軽音部がピッタリじゃないかって思ったの。どうかしら」

律「ど、どう……って」
さ「ほーら唯ちゃん、みんなに挨拶してー」
唯「ひらちゃわwwwwwゆいwwwwwwwでぅwwwwwwww
  じゅうごwwwwちゃいwwwwwwでぅwwwwwwwwww」

澪「あ、秋山です」
律「おい澪」
紬「あの、先生……言いにくいんですけど、その……」
さ「ん、なあに?」
紬「その子、障害者……ですよね」
さ「まあ、そういう言い方は良くないわ、琴吹さん。
  確かにこの子は人とはちょっと違うかも知れないけど、そんなふうに呼ぶのは差別的よ」
紬「はあ、じゃあなんて呼べば」
ち「最近では『チャレンジド』と呼ぶのよ」
紬「へぇ……」
律「で、その平沢さんを、うちの部活に……?」
さ「ええ、部員が足りないんだし、ちょうどいいでしょ」
紬「いやでも、その」
さ「なあに?」
紬「こう言っちゃアレですけど、その……
  お世話、とか……あの」
さ「なに、はっきりしないわね。
  言いたいことがあるならちゃんと言いなさい」
紬「えっと、平沢さん、障g……チャレンジドですから、
一人で部活やっても大丈夫なのかなって思って」
さ「あら、一人じゃないじゃない。みんながいるでしょ」
澪「えっ」
さ「確かに平沢さんは、重度の知的障害を抱えていて、一人で過ごすことは困難を極めるわ。
  だから、みんなで平沢さんを支えてあげてほしいの」
律「……」
さ「あら、嫌なの?」
澪「あ、イヤとか、そーゆーんじゃないんですけど」
紬「何かあっても、私たちじゃ責任負えないかなーって……」
さ「もう、そんなことじゃ困るわ。私はあなたを信頼して、平沢さんを任せるんだから。平沢さんだって、あなたたちと音楽やりたいって言ってるわ」
唯「うじょばりwwwwwwwwwwぶごwwww」
さ「見て、この天使のような笑顔…… こんな子と部活ができて、あなたたち幸せよ」
律「……」
さ「じゃあ、あとはよろしくね。部活が終わったら、職員室に声かけに来て。 平沢さん、みんなと仲良くねー」
唯「すぴwwwwすぱwwwwwwwww」
さ「じゃあ、私まだ仕事があるから」
ガチャバタン

律「あ、ちょっ……」
澪「……」
律「……」
澪「……」
紬「……」
律「…………どうすんだよ」
澪「私に聞くなよ……」
紬「ま、まあ、これで部活が続けられると思えば……」
律「それ、本気で言ってる?」
紬「ごめんなさい……」
唯「あじゅーwwwwwちんちちんwwwww(^q^)」
澪「ま、まあ、こうなった以上は仕方ないよ…… なんとかやっていこう」
紬「そ、そうね……」
律「……」
澪「えーっと、平沢さん……だっけ?」
唯「ひらちゃわwwwwwwwゆいwwwwwwwwww」
澪「ああ、そう、唯」
澪「私は秋山澪……よろしくな」
唯「みwwおwwwwwwwww」
紬「私は琴吹紬よ」
唯「ちゅむぎwwwwちゅむぎちゃんwwwwwwww」
律「私は……」
唯「でこwwwwwwwでこwwwwwwおでこwwwwwww
  でこしねwwwwwwwwしねwwwwwwwwwwww」
律「こ、こいつ……!!」
澪「おおお、落ち着け。相手は障害者だから、な」
紬「そ、そうよ……唯ちゃん、この子はりっちゃんよ」
唯「でこしねwwwwwwしねwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
律「~っ!!」
澪「り、律……」
律「ったく……これだから知的障害者は……」
紬「……」
唯「うんこ(^q^)」
澪「え?」
唯「うんこwwwwwうんこうんこwwwwwwwwwwww」
紬「おトイレ行きたいの?」
唯「トイレ違うwwwwwwうんこwwwwwwwwww」

澪「えぇ?」
律「おい、なんかくさくねえか?」
紬「そういえば……」
澪「ま、まさか」
唯「うんこwwwwwうんこふいてwwwwwwwww」
律「うわぁっ、こいつ漏らしてんじゃねえか!」
澪「ひいいいい!!」
紬「どどど、どうすれば……」
律「ば、バケツ持って来い! バケツ!」
澪「ふああああ!!」

  回想 おわり


紬「……」
澪「いきなりうんこはキツかったな……」
律「ああ……」
紬「障害者が一緒でも大丈夫だと思ったのは束の間……」
律「あの時、なんとしても追い出すべきだったんだよ」
澪「確かに……そうしてれば私たちももっとまともな高校生活を送れただろうな」
紬「今更言っても遅いわ……」
律「そうだな……」
澪「まあとにかく、こうやって私たちの軽音部の活動が始まったんだったな」
紬「次は唯ちゃんの楽器を買いに行ったんだっけ」
律「あ、それ私行ってないや。どんな感じだったの?」
澪「どんな感じ、って……」
紬「そうねえ……」


  回想・その2 ~ はじめてのおつかい ~

待ち合わせ場所。

澪「おう、ムギに唯。もう来てたのか」
紬「おはよう澪ちゃん」
唯「あうよおぉーwwwwwwwwwww」
憂「おはようございます」
澪「あれ、この子は……?」
紬「唯ちゃんの妹さんよ」

憂「平沢憂といいます、いつも姉がお世話になってます」
澪「ああ、どうも……」
 (妹さんが付いてきてくれたのか、唯と外出で不安だったけど、これなら……)
憂「じゃあ私、これで。姉のことよろしくお願いします」
澪「えっ!? 帰っちゃうのっ!?」
唯「ういういwwwwwwばいばいwwwwwwwwww」

紬「そーいえば、りっちゃんは?」
澪「あいつは今日欠席だよ」
紬「風邪でも引いたのかしら」
澪「いや、元気だよ。でもあいつ……知的障害者嫌いでな」
紬「……好きな人なんて、いないと思うけど」
澪「そうじゃなくて……中学のとき、学校にいた障害者に襲われちゃってな」
紬「そ、そうだったの? ひどい……りっちゃん可哀想に」
澪「いや、その障害者は律がボコボコにしたから律は別になにもされずに済んだんだけど」
紬「なんだ、そうだったの」
澪「でもそのあと、律が先生や親に怒られてな……
  障害者に手を挙げるとは何事だ、って…… 襲われかけたって言っても聞き入れてもらえなくて。  一方的に律が責められるだけだったんだ」
紬「そんなこと……」
澪「そのことがちょっと尾を引いてるみたいで」

唯「ぱしへろんだすwwwwwwwwwwwwwww」
紬「あっ、ごめんなさい唯ちゃん……ギター買いに行くんだったわね」
澪「あ、ムギ、だから律のことさ、今日はちょっとサボったの見逃してやって欲しいんだよ」
紬「ええ、いいけど、でも今日だけね……嫌なのは私たちも一緒なんだから」
澪「ああ……」
唯「ぶじゅばぁーwwwwwwあばれっぽーwwwww」

通行人「キモ……」
通行人「うわっこっち見た……」
通行人「あいつらが保護者か?ちゃんと見とけよな……」

澪「……」
紬「ゆ、唯ちゃん、ほらこっちよー……おてて繋ぎましょうねー」
唯「あびょーんwwwwwwww」
澪「……よく手繋げるな」
紬「帰りは澪ちゃんね」
澪「はい……」

楽器屋。

唯「おぎゃwwwwwおおうわぁあああおおおwwwww」
紬「お、落ち着いて、唯ちゃん」
澪「楽器見てテンション上がっちゃってるな」
唯「おわうわぁぁぉおおうwwwwおうあおうwwwww」

「……」シ゛ロシ゛ロ
「なにあれ……」ヒソヒソ
「いやーねぇ……」ヒソヒソ
「うぜ……」

紬「ほ、ほら唯ちゃん、ギターはこっちよー」
澪「一緒にギターえらぼうなー……」
唯「ぎちゃwwwwwぎっちゃwwwwwwwww」

「うわっこっち来んぞ……」
「逃げろ逃げろ」
「きめえなー……」

紬「……」
唯「ぎちゃwwwぎちゃいっぱいwwwwwww」
澪「ところで唯、今日の予算は?」
唯「あうえー?」
澪「……お金、いくらもってきた?」
唯「おかねwwwwwwwおかねこれwwwww」
 つ財布

澪「お、5万も入ってる……」
唯「ままがくれたwwwwwwwwwwwwwwwww」
澪「そ、そっか、よかったな」
紬「……子供用の安い奴でいいかと思ったけど、これは5万円のを買わせろってことかしら」
澪「だろうな……こんな子に……」
紬「勿体無いわね……」
澪「はあ……で、唯、どのギターにする?」
唯「これwwwwwこれwwwwwwwww
  このぎちゃほちぃwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

紬「唯ちゃん、それ25万もするじゃない」
澪「こっちのにしないか? これは5千円だし予算内に収まるぞー」
唯「やwwwwwwこれがいいwwwwwこれwwww」 ガタガタ

紬「ちょ、ちょっと唯ちゃん!そんな乱暴に扱っちゃ……」
唯「これがいいーwwwwwwwwwwwwww」べろべろ

澪「こら、舐めるな!」
紬「ああ、25万のギターが鼻水とヨダレに……」

店員「あのお客様……」
澪「す、すみません! すぐ引っペがしますんで」
店員「いえ、もう売り物になりませんので、買い取っていただけますか」

澪「ええっ? そ、そんな……」
唯「ぶればーwwwwwwwwwwwwww」ねとねと
紬「ちょっと」
店員「はい……はっ、あなたは社長の!」
紬「私の顔に免じて、見逃してくれないかしら」
店員「いくらお嬢様のお願いでも……
    他のお客様も見ていらっしゃいますし」

「うっわ、あのギター池沼がなめてたよ」
「きめー、まさかあのまま並べとくつもりじゃねーよな」
「俺もうこの店で買うのやめるわー」

店員「この店の評判というのも…… お考えいただきたく……」
紬「……」
唯「てぃがーwwwwwwwwwwww」
澪「でも25万も持ってないです……」
店員「わかりました、じゃあ5万でいいですから。
    早く買ってさっさと帰ってください」
紬「ごめんなさい……  迷惑をかけてしまって」
店員「いえ、たまにあることですから、お気になさらず」
唯「がりばーwwwwwwwwww」

店の外。

唯「ぎーちゃwwwwwぎちゃwwwww」
紬「良かったわねー唯ちゃん、いいギター買えて……」
澪「これから頑張って練習しなきゃな……」
唯「ぎちゃwwwwwwwwwww」

澪「はあ、もうあの店行けないな」
紬「私も顔覚えられちゃったし」
唯「あーwwwwwだぶるぜーたwwwwwwwwwww」

紬「こら唯ちゃん、そっち行っちゃダメよ」
澪「ああ、帰りは私が手を繋ぐんだったな……」
唯「てつなぐwwwwwwちゅなぎゅwwwwwwwwwww」
澪「互いに手をつなぐ時にも間をあけよう……か」
紬「なにそれ?」
澪「いや、なんでもない……」

  回想 おわり


律「そんなことがあったのか……」
紬「いろいろ大変だったわ……  唯ちゃんの扱いにもまだ慣れてない頃だったし」
澪「手つないだらなんかネチャネチャしたしな」
律(行かなくて良かった☆)

澪「それで、ギターを買った唯を交えて本格的に部活動が始まったんだったな」
紬「ほとんど練習にならなかったけどね……」
律「唯はまともにギター弾けるようにならなかったし」
澪「唯と一緒じゃ練習にならないから
  結局ずーっとお茶するばっかりだったな」
紬「最終的にさわ子先生に怒られたわね」
律「そうだったな、『唯ちゃんにもちゃんと教えてあげなさい』って」
澪「教えても聞かないんだからどうしようもないわな……」
律「あとそれから合宿だ」
澪「合宿なぁ、行きたかったんだけど」
紬「唯ちゃんも連れてけーってうるさいから……」
律「さすがに合宿先でまで面倒見られないよな……」
澪「唯に会うのが嫌だったから
  結局夏休みは部活まったくやらなかったよな」
紬「それもさわ子先生に怒られたわね」
澪「唯が冷房に弱いからーってごまかしたけど……」

律「勘弁してほしーよな、休暇中も池沼の面倒みなきゃいけないなんて」
紬「ほんとにね……」
澪「夏休み開けたら学園祭だったな」
律「散々だったな、私たちの初ライブ」
紬「ライブ自体よりも、それまでが大変だったわよ」
澪「ああ、そういえばそうだったな……」
律「あの時は……」


  回想・その3 ~ Transgression ~

学園祭2週間前の音楽室。

さ「あなた達、学園祭ライブはどうするの?」
澪「え、ああ……」
律「……」
紬「一応やるつもりではいますけど……  オリジナルの曲もありますし」
唯「ひだりむねかwwwwwwおwwwwwwww」

さ「あらそうなの、良かったわね唯ちゃん。ライブで演奏できるわよー」
唯「しねwwwwでこしねwwwwww」

さわ「良かった、唯ちゃんも喜んでるわ」
紬「……あの」
さわ子「何?」
紬「唯ちゃんもライブ出るんですか?」
さわ「? 当たり前じゃない。唯ちゃんもこの部活のメンバーでしょう?
   この日のために練習をしてきたんでしょう」
澪「練習はしましたけど……  唯、ギター弾けませんよ」
さ「弾けないのは仕方が無いことだわ、唯ちゃんはチャレンジドですもの」
唯「すっぱらぱらおあらwwwwwwwwww」

紬「いえその、ギター弾けないのに舞台に上げるのは、どうかなって」
さ「まあ! ムギちゃん、あなた唯ちゃんを除け者にする気!?」
紬「そ、そこまでは言ってませんけど……」
さ「いえ、言ったも同じよ。あなたは唯ちゃんがギターを弾けないから、障害者だから除け者にしようとしているのよ」
紬「そ、そんな……」
さ「ムギちゃん、言いたくないけどそれは立派な差別なのよ。どうして障害者だからって除け者にするの? 唯ちゃんも同じ人間なのに」
澪「差別というか、ただちゃんとしたライブが出来ないなって……」
さ「そもそもちゃんとしたライブって何? みんなで楽譜通りに弾けていたら、それでいいのかしら? 頑張るってことが大事なんじゃない?」
紬「……」
さ「そうよ、学園祭というのは日頃の頑張りを披露する場なの。そこに出来不出来は関係ないわ。 唯ちゃんは唯ちゃんなりにギターを弾けばいい。 それでもう立派なライブなのよ」
澪「……」
さ「みんな違って、みんないい。それはお客さんも分かってくれるわ。完璧な演奏なんて擦る必要なんてない。 自分なりに精一杯の演奏をすればいいのよ」
律「じゃあ」
さ「? どうしたの、りっちゃん」
律「じゃあ唯一人で演奏して、私たちとは別々でやってください。私たちはちゃんと演奏したいんだよ」
さ「まあ、ムギちゃんもりっちゃんも…… どうしてそう唯ちゃんを邪険にするの!?
先生悲しいわ、みんながそんな差別主義者だったなんて」
澪「差別主義者って……」
律「唯がいるとまともに演奏できないんだよ。みんな違ってみんないいってのは結構だけど、それに私たちを巻き込まないでくれ」
さ「唯ちゃんが一人でなんて、意味が無いわ。みんなが唯ちゃんを支えてくれたから、唯ちゃんは部活を続けていられたのよ?  みんながいたから唯ちゃんがここまで来られた、それをお客さんたちに示さなきゃ」
紬「……」
さ「人はひとりで生きているわけじゃない、みんな支えあって生きている。 ライブを通じて、それをみんなに伝えましょう。唯ちゃんの頑張りを見れば分かってもらえるわ」
澪「……」
さ「唯ちゃんも、みんなと演奏したいわよね?」
唯「でこはしねwwwwwwww(^q^)」

さ「ほら、唯ちゃんもみんなと一緒がいいって」
律「言ってねえだろ」
さ「とにかく、全員でライブやるのよ、唯ちゃんのために」
澪「唯のため……」
さ「そうだわ、みんなの演奏を見せてもらえる?  私、顧問なのに全然見たことないから」
律「はァ」
紬「じゃあ、準備します」
唯「えんそwwwぎちゃwwwwぎーちゃwwwww」

さ「まあ唯ちゃん、ギター似合ってるわ。かっこいいわよ」
唯「ぎえwwwwwwww」

澪「えー、じゃあ始めますよ先生。曲は、ふわふわ時間です」
さ「ところで、誰がボーカルなの?」
澪「私ですけど……」
さ「唯ちゃんに歌わせてあげない?」
澪「えっ!?」
律「な……なんで?」
さ「だって、そのほうが唯ちゃんが頑張ってるって感じじゃない?  唯ちゃんのための舞台だもの」
紬「いやでも、唯ちゃん歌えませんよ。歌えないわよね、唯ちゃん」
唯「おうたwwwwwwうたうwwwwうたうーwwwwwwwww」

さ「そう、唯ちゃんも歌いたいのねー。じゃあみんな、唯ちゃんをボーカルにして演奏してちょうだい」
律「……」
紬「……」
さ「どうしたの? ほら早く」
澪「はい……じゃあやります、改めて……ふわふわ時間」

ちゃっちゃかちゃかちゃか

唯「きみおみちぇるおwwwwあーwwwwwおきどきwwwwwwww」
澪「……」

じゃーん

唯「あうーwwwwww」
澪「どうでしたか先生、私たちの演奏……」
さ「素晴らしいわ! よく頑張って歌えたわねー、唯ちゃん!」
唯「あうーwwwwwおうたwwwwwちゅきwwwwwwww」
さ「とっても上手だったわよー、唯ちゃん。ほら、みんなも上手だったって言ってくれてるわ」
澪「えっ!?」
紬「じょ、上手だったわね、唯ちゃん……」
律「……」
唯「あいあいwwwwwおうたじょうじゅwwwwww」
さ「ライブ成功まちがいなしだわ! 本番もこの調子でがんばりましょうね、唯ちゃん!」
唯「うあうwwwwww」

  回想 おわり


澪「そうだったな……  あの時から何やっても唯が褒められるばかりで」
紬「私たちは完全に唯ちゃんを持ち上げるための存在になってしまったわね」
律「結局ライブもそんな感じだったな」
澪「ああ、お客さんはみんな唯をホメるばっかりで」
紬「よく頑張った、感動した、って唯ちゃんの演奏に涙して……」
律「なんでだろうなー、なんで唯ばっかりで私たちは褒めてもらえなかったんだろ」
澪「そりゃ……私たちは出来るのが当たり前だからな」
律「そうか、特別できない奴の横では私たちは当たり前の存在になっちゃうわけか」
紬「だから誰も私たちを見てはくれない。みんなが興味あるのは、初めから唯ちゃんだけなのよ」
律「私たちも頑張ったのに……」
澪「それ以上に唯が頑張ったように見えるんだろ……」
律「くそぅ」

律「あれからやる気なくなっちゃったな…… まあ最初から無かったけど」
澪「1年生、残りの半年はだらだらしてたな」
紬「そうね、毎日部室に集まって、唯ちゃんの世話するだけ」
律「……」
澪「……」
律「私たちも真面目だな。さっさと部活辞めればよかったのに」
澪「思えば、1年生の時が部活やめる最大のチャンスだったな」
紬「そうね、2年になると……」
律「あいつが来たからなぁ」
澪「ああ……」
紬「……」



  回想・その4 ~ 軽音部最大の危機!? 唯の妹がやって来た! ~

ガチャ
唯「ろーらwwwwwwww」
憂「こんにちは」

律「ああ、唯来たか……って、あんたは?」
澪「確か、唯の妹の……」
憂「お久しぶりです、憂です。いつも姉がお世話になってます」
律「ああいえ、どうも……」
紬「久しぶりね。憂ちゃんも、この学校に入ったのね」
憂「はい、お姉ちゃんに付いていたいですから」
律「そーかそーか、姉思いの良い妹さんだな」
憂「いやあ、そんな」

律(この子がいれば、唯の世話に煩わされずに済むかな)

紬「みんな、お茶にしましょう」
律「おう」
唯「あーwwwwwおぢゃwwwwwwww」

憂「へえ、高校の部活ってお茶が出るんですか」
紬「憂ちゃんもどうぞ。ケーキもあるわよ」
憂「あっ、良いんですか? ありがとうございます」
澪「今日はショートケーキかー」
律「うめー!」もぐもぐ

憂「お姉ちゃん、おいしい?」
唯「おいちwwwwwwおいちwwwww」ぺちゃぺちゃ
憂「そう、良かったね*^^*」
唯「おかわりwwwwwおwwwwかwwwwわwwwwwりwwww」

紬「ごめんね唯ちゃん、おかわりはないのよ」
唯「あうーwwwwほちいwwwwりつのwwwwほちいwwwww」

律「え? 私の? だめだめ、これは私のなんだから」
唯「いやwwwほちいwwwほちいーwwwww」
律「駄目だってば、憂ちゃんもなんか言ってやってくれ」
憂「何やってるんですか?」
律「え?」
憂「何やってるんですか、って聞いてるんです」
律「え、何が?」
憂「お姉ちゃんがほしいって言ってるんですよ?
 ケーキくらいあげてください!」
律「……は?」
澪「う、憂ちゃん……?」
唯「ほちいーwwwwりつのけーきほちぃーwwwww」
憂「ほら、お姉ちゃんこんなに欲しがってるじゃないですか!」
律「いやいやいやいやいやいやいやいや……」
憂「……もしかして、アレですか?
  お姉ちゃんが、障害者だから…… 障害者だからそんなふうに冷たくするんですか?」
律「誰もそんなこと言ってないだろ!
  なんなんだお前は、欲しがるままに与えるだけじゃ甘やかしてるだけだろ!」
憂「甘やかしてるんじゃありません、あなたが冷たくしてるだけです!
  お姉ちゃんは障害者なんです、可哀想な子なんですっ。優しくしてあげるのは、当たり前じゃないんですか!?」
律「はぁ!?」
唯「ういーwwwwはやくwwwwwけーぇきーwwwww」
憂「早くケーキをよこしてください!」バッ
律「あっ!」

憂「ほーらお姉ちゃん、先輩がケーキくれたよー」
唯「あーいwwwwりつのけーきwwwwwww」くちゃくちゃ
憂「えへへ、良かったねお姉ちゃん!」
律「ていうかこういうときだけ普通に名前呼ぶなよ」
憂「見てください、お姉ちゃんのこの笑顔……
  ケーキ食べただけでこんなに嬉しそうにしてるんですよ……  お姉ちゃんにはこれくらいしか喜びがないんです」
律「……障害者だから?」
憂「そうです!」
律「えぇ……」
憂「ちょっと思ったんですけど、みなさん障害者にとって理解が足りないみたいですね……
  こんな人達に1年間もお姉ちゃんを任せていたと思うと、めまいがしてきます……」
律「それは悪かったな……」
憂「これからはこの部活でみなさんがお姉ちゃんに変な真似をしないか、ちゃんと見させてもらいます」
澪「えっ!?」
紬「これからって……ずっと……?」
憂「はい、毎日お姉ちゃんと一緒にここで部活に参加させてもらいます」
律「……」
憂「そーいえばさっきからみなさんお茶してばっかりですけど、練習はしないんですか?」
澪「え、ああ……じゃあ練習するか」

唯「あうーwwwwwれんちゅwwwwwれんちゅううwwww」
憂「お姉ちゃん、そんなに練習したかったの?」
唯「あいwwwれんちゅうすきwwwwwwwww」

憂「……みなさん、お姉ちゃんがこんなに練習したがってたのにそれを無視してお茶してるなんて……」
律「あー、悪かったな! だからこれから練習するだろ、クソっ」
憂「クソとは何ですか!? 私はお姉ちゃんの為を思って言ってるんですよ!」
律「私たちのことはどうでもいいってか?」
憂「そうは言ってません! お姉ちゃんのことをもっと考えてあげるべきだって言ってるんです、お姉ちゃんは障害者なんですから!」
律「……」
唯「れんちゅーwwwwwww」

澪「じゃーまずふわふわ時間からやるか」
紬「そーね」
唯「ふわうわwwwwwふわわwwww」
律「じゃあいくぞー、ワンツースリフォー」

じゃんじゃかじゃかじゃかでけでけでんでん

憂「……」
澪「キミを見てると、いつもハートドキドキ……」
憂「……」
澪「揺れる想いはマシュマロみたいにふわふわ……」
憂「……」
澪「いつも頑張るキミの横顔……」
憂「……」
紬(憂ちゃんの顔が怖くてまともに弾けないわ……)
じゃーん♪

律「ふう……」
澪「どうだった、憂ちゃん?」
憂「何やってるんですか、全然弾けてないじゃないですか」
澪「え、ごめん」
憂「先輩たちのことじゃありません、お姉ちゃんのことです!」
澪「あん?」
唯「あうえー?wwwww」

憂「入部してから1年も経つのにまともに演奏できてませんよ!  ただ音を出してるだけじゃないですか」
律「なんで私たちが怒られてるんだよ……」
憂「当たり前です、みなさんはお姉ちゃんにギターを教えてあげるという義務を怠ったんです。
  お姉ちゃんは障害者なんですから、一人で練習できるわけないじゃないですか」
律「……」
澪「……なんかさわ子先生と逆のこと言うな」
憂「さわ子先生? 誰ですかそれ」
澪「うちの顧問なんだけど、唯は楽しくやれてればそれでいいって……」
憂「いえ、楽しくやるのは第一です。でもお姉ちゃんももっとギターがうまくなりたいと思ってるはずです。
  そうだよね、お姉ちゃん?」
唯「あいーwwwwwww」

憂「ほら」
澪「ほら、って言われても……」
憂「お姉ちゃんがギター上手くなりたいって言ってるんです。
  なら教えてあげるのがあなたたちの義務じゃないんですか?  障害者を支えてあげるのがみなさん健常者でしょう」
律「……じゃあ憂ちゃんが教えてやれよ」
憂「私は楽器できませんから!」
律「……」
唯「ぎたーwwwwwうまくwwwwなりまちゅwwwwwwwwwww」

澪「あー……じゃあ練習しようか、唯」
唯「あいーwwwwww」
澪「まずコードを覚えようなー。中指と人差し指を……」
唯「うじゅwwwwwwww」
澪「いや違う、そうじゃなくて…… 中指はこっち……」
唯「あぐえんwwwwwwwwwww」
澪「いやだからそうじゃないってば!」
唯「らぱぱーwwww」

憂「ちょっと、なんですかその教え方!
  お姉ちゃんは障害者なんですから、もっと分かるように教えてあげてください!!」
澪「……」
唯「あうあーwwwwwww」

  回想 おわり


澪「思い出したらムカついてきた……」
律「2年以降はずっとこんな感じだったな……」
紬「唯ちゃんの世話に加えて、憂ちゃんのご機嫌取り……」
澪「……」
律「怖かったなぁ、憂ちゃん」
澪「でももうそんな日々ともおさらばだし」
紬「おさらばできるまで果てしなく長く感じたわ」
律「2年生のことはもうあんまり思い出したくないな」
澪「ライブも1年の時と同じような感じだったしな」
紬「そうだ、合宿は? 憂ちゃんがついてきてくれたから
  唯ちゃんも連れて念願の合宿が……」
澪「……」
律「……」
紬「ごめんなさい」

律「でもまあいっつも一緒にいたよな、憂ちゃん」
澪「そうだったな」
律「普段の部活もそうだけど、合宿もだし、体育祭とか球技大会とかも」
紬「修学旅行にまで付いてきたときは、さすがに驚いたわね」
澪「どんだけお姉ちゃん大好きなんだよって話だな」
律「でもまあ、そのおかげで楽っちゃ楽だったけどな……  憂ちゃんがいなかったら、私たちだけで唯の面倒みなきゃいけなかっただろうし……」
澪「それはそうだけど、別の意味で心労が酷かったぞ」
律「まあな……  それと、なぜか本当にいて欲しい時に限っていてくれないんだよな」
紬「ああ、この前のマラソン大会の時ね」
澪「あの時はきつかったな……」
律「……」


  回想・その5 ~ 電光石火作戦 ~

澪「今日はマラソン大会か」
律「このクソ暑いのにマラソンやるって頭おかしいよな」
紬「普通冬よね」
律「しかもゴールのご褒美がおしるこだし……」
紬「ますます冬よね」
澪「まー、学校側にも色々都合があるんだろ」

さ「あ、ちょっとあなたたち」
紬「なんですか?」
さ「唯ちゃんと一緒に走ってくれない?」
澪「はい!?」
唯「あ~(^q^)」
律「な、なんで……憂ちゃんは?」

さ「風邪ひいて欠席ですって。憂ちゃんからも言伝を預かってるわ、『軽音部の皆さんお姉ちゃんをよろしくお願いします』って」
澪「なん……だと」
紬「よりによってこんな日に……」
さ「じゃ、任せたわよー。もうすぐ始まるから、早くスタート地点に集まるのよ」
澪「はい……」
紬「……」
律「どうすんだよ…… こいつつれてマラソンしろってのか」
澪「仕方ないだろ……」
唯「まっらちょーんwwwwww」

教師「よーい、スタート!」パァン

澪「えっほ、えっほ」
律「ふうふう」
紬「えっさほいさ」
唯「あうーwwwwwwまってえwwwwwwwww」
澪「あ、唯が」
律「もー、はやくしろよ唯!」
紬「予想はしてたけど、やっぱり遅いわねー」

さ「ちょっとみんな!」
澪「ひっ」
さ「ちゃんと唯ちゃんのペースに合わせて走らなきゃ駄目でしょ!?  あなたたちが支えてあげなきゃ唯ちゃんは完走できないのよ」
律「はいはい……」
澪「みんなだいぶ先行っちゃったな」
律「私らが間違いなくドンケツだな」
紬「前の人、見えなくなっちゃったわよ」
唯「あじゅびーwwwwwまらちゃおんwww」
澪「こら、唯! そっちじゃない、こっちだっ」
唯「あーwwwwwwあーうーwwww」
澪「もー、言うコトきいてくれよぉー」
律「はあ……歩くより遅いぞこれ」
紬「日が暮れるまでにゴール出来るかしら……」
澪「何キロあるんだっけ」
律「9キロ」
澪「……」
唯「きゅーうーwwwwきーろぉーwwwwwwwww」

1時間後

澪「今どのへんだ? 折り返し地点くらい?」
律「まだ2キロ位だと思うけど」
紬「もうゴールしてる人もいるんでしょうね」
律「だろーな……」
唯「ちゅかれたーwwwww」
律「うるせえよ……」
唯「ちゅーかーれーたーwwwwwwwww」
律「頼むから黙っててくれ」

唯「うんこーwwwwww」
律「いいかげんにしろよ、もう」
唯「うんこしたいwwwwwwwww」
澪「え、うんこしたいのか?」
唯「したいwwwwwwwwwwww」
紬「このへんにトイレなんて無いわよ」
律「コンビニとかもないな」
澪「仕方ない。そのへんの家で借りよう…… 律、頼む」
律「え、なんで私が」
澪「私知らない人と話すの苦手だし……」
律「まったく、仕方ないなー。 この家でいいよな」
 ピンポーン

オバハン「はーい?」ガチャ
律「あっ、すいませーん。
  私たち学校のマラソン大会の最中なんですけど、友達が催しちゃって……ちょっとトイレ貸してくれません?」
オバハ「ええ、いいわよ。あがってちょうだい」
律「ああ、ありがとうございます」
澪「良かったな、唯」

唯「あうあー(^q^)」
オバ「え……」
オ「ちょっと……トイレするのって、もしかしてその子なの?」
紬「はい、そうですけど……」

オ「あ、ごめんなさい…… よそをあたってくれるかしら」ガチャバタン
紬「え!? えええええええええ!?」
澪「この展開は予想外だ……」
律「まあ気持ちはわからなくもないけど。同じシチュなら私もためらうわ」
澪「そんなノンキなこと言ってる場合じゃないだろ。このままじゃ……」
唯「うんこwwwwうんこもれりゅwwwwwwwwwwww」

律「と、とりあえず隣の家に……」ピンポーン
オ「はいー」ガチャ
律「すみません、ちょっとトイレを」
唯「あうあー(^q^)」
オ「ごめんなさい」バタン

8軒目。

律「はあ……すみません」
オ「はい、なんでしょう」
律「ちょっとこの子にトイレを貸してあげてもらえませんか……」
唯「あうあー(^q^)」
オ「……」
澪(お、いけるか……?)
紬(今度こそ……)

オ「あ! 今うちのトイレ壊れてるんだったわー、ごめんなさい、他所に行ってくれるかしら」バタン
律「また、断られた……」
澪「唯、うんこ大丈夫か?」
唯「だいじょぶwwwwwwwww」
澪「そうか、まだガマンできるか」
唯「がまんないwwwwwwwwwwwww」
紬「え?」
澪「我慢できないか?」
唯「がまんwwwwちてないwwwwww」
紬「どーゆうこと?」
律「おい、なんかくさくないか」
澪「え……ま、まさか」
紬「ゆ、ゆ、ゆ、唯ちゃんのジャージが……ちゃ、ちゃ、茶色に……」
唯「おしりふいてー(^q^)」

澪「おしりふいてどうにかなるもんでもない!
  どーすりゃいいんだ、これ!」
律「はあー……」
紬「と、とりあえず急いで公衆トイレを探しましょう!
  そこでうんこを処理して、そのへんの店で下着やジャージを買ってくればいいわ」
澪「そ、そうだな……行くぞ唯」
唯「ちゅかれてうごけないーwwwwwwwwww」
澪「なにぃ!?」
律「わざとやってんじゃないのかこいつ……」
澪「仕方ない、おぶってくぞ」
紬「え……」
律「マジかよ」
澪「仕方ないだろ、だってそうでもしないと……」チラッ

通行人「くさっ……あいつらか?」
通行人「きたねーな、これだから障害者は」
通行人「障害者はちゃんと管理しときなさいよ、まったく」

澪「……」
紬「や、やむを得ないわね…… それで、誰がおぶるの……?」
律「私は嫌だぞ」
澪「……私がおぶるよ…… さっきは律に役目押し付けちゃったしな」
律「お、おう」
澪「ほーら唯、おんぶだおんぶ」
唯「おんぶーwwwwwwwww」だきっ
澪「う……掌と背中に湿った感触……」

うんこ漏らした唯を背負って走る3人。

澪「あー、どこだ公衆トイレ!」
唯「あーwwwwみおおんぶwwwwwww」
澪「こら暴れるな!」
紬「全然見つからないわね……」
律「つーか馬鹿正直に唯を走らせるよりこうやっておんぶしていったほうが 普通に早くゴールできたよな、絶対」
澪「今そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
唯「くちゃいーwwwwwうんこくちゃいwwwwww」
澪「臭いのはお前だー!」
紬「大変ね澪ちゃん……」
澪「そう思うなら変わってくれー!」
紬「あ、あとでね……」

  回想 おわり


律「あの時は結局、1時間くらい公衆便所探して彷徨ったな」
澪「あれほど死にたいと思ったことはなかった…… ムギも一回も変わってくれなかったし」
紬「あー、あれは唯ちゃんが澪ちゃんから離れたがらなかったから……」
澪「……」
律「私たちがゴールしたのも、全員完走した3時間後だった」
紬「私たちが帰らないから、みんなも解散できずに学校に残らされてたのよねー」
澪「周りからの殺意のこもった視線が痛かったな」
律「私たちに殺意のこもった視線を向けておきながら唯には笑顔で『頑張ったね』『完走おめでとう』とか声かけてるのが怖かったよ、私は」
澪「仕方ないよ、唯は障害者なんだし」
紬「そうね……私たちは完走して当たり前だものね」
律「……」

ガチャ
さ「みんな、集まってる?」
澪「ああ、先生」
唯「あーうーwwwwww」
律「唯も来たのか……」
さ「もうすぐあなたたち最後のライブが始まるからね!
  ちゃんと気合い入れてかなきゃダメよ」
澪「分かってます、大丈夫です」
さ「それにしても静かだったけど、練習してなかったの?」
紬「練習はもう十分したので、私たちの思い出を語り合っていたところです」
さ「そう。このライブが終われば引退だし、積もる話も色々あるでしょうねー。じゃ、私はもう行くから、頑張ってね」ガチャバタン
澪「……」
律「最後のライブ、か……」
紬「本当にやるの? あれ」
律「やるにきまってるだろ」
唯「べんべらぼーんwwwwwwwww」
澪「なあ、やっぱりやめといたほうがいいんじゃないか? 下手すりゃ私たち、退学だぞ……」
律「バカ、それくらいのリスクは覚悟の上だ。このままおとなしく体制に屈していられるか」
紬「そうね…… このままおとなしく引退なんてしたら、それこそ負けだわ」
澪「みんな……」
律「澪だってやりたいんだろ? 本音ではさ」
澪「それは……そうだけど」
律「じゃあ、やらない理由なんて無い。私たちがこう思ってるんだってことを、みんなに見せつける最後で最大のチャンスなんだぞ」
紬「そうよ、澪ちゃん。覚悟を決めて」
澪「……ああ、分かったよ、やろう。やってやろう」
律「よし、それでこそ放課後ティータイムだ」
紬「さあ、そろそろ時間だわ。講堂に移動しましょう」
律「おう」
唯「らいぶーwwwwwあwwwwwwらいぶwww」

講堂は熱気で満たされていた。
朝から演劇部や合唱部などの素晴らしい出し物が催され、
観客はみなテンションが上がりきっており、次は何が来るのかと期待に胸を膨らましている。
舞台袖からちらりと覗くだけでも律にはそれが分かった。

「次は軽音部による演奏です……」

生徒会長によるアナウンスと共に幕が上がる。
客席からの視線が律たちに集まる……と言いたいところだが実際にみなが注目していたのは唯のみであった。
バンドメンバーの中に一人の障害者、ギターを弾いて歌をうたう、とくれば興味を持たないほうがおかしいというものだ。

唯「あうあー(^q^)」

いつもの調子で幼児のような発言をする唯を何かやらかさないかと横目に見ながら、澪はマイクを手にとって自分たちの紹介を始める。

澪「あー……私たち放課後ティータイムは、今日が最後のライブです。これが終われば、受験勉強のために引退となります」

澪の心配とは裏腹に、唯はギターを抱えておとなしく立っていた。そういえば今までのライブでもそうだったな、と澪は思い出しMCに集中することにした。

澪「……ギターボーカルの唯は、知的障害を抱えています」

澪がそう言うと、講堂は水を打ったように静まり返った。
まるで障害者という言葉が出たら静かにしろ、と事前に言われていたかのような、予定調和らしさを澪は感じた。

澪「えー……でも私たちは、唯と一緒に3年間活動してきました。障害者と言っても、音楽を楽しむ心はかわりません。今日はそれを皆さんに、お伝え出来ればと思います」

ちなみに澪がしゃべっている台詞は憂が考えたものである。本番を間近に控えてもMCの内容を考えようとしない澪たちを見かねて憂がこれを書いてむりやり押し付けたのだ。

澪「ほら、唯もなにか一言」

唯にマイクを向ける。

唯「あwwwwwがんばりまちゅwwwwwwww」

なぜか客席からの拍手。それを聞きながら澪はマイクをスタンドに戻し、楽器の最終調整を行う。
それが終わると律に目配せをして、律はそれを受けてカウントを出し、4人の演奏が始まる。

一曲目は「ごはんはおかず」。
あまり練習していなかった割に それなりに揃った演奏をしている澪、律、紬だったが、唯のむちゃくちゃなギターと歌が全部台無しにしていた。

唯「たんちゅいwwwwかぶちゅとwwwwwwwwwwwww
  たんちゅいwwwwかぶちゅのwwwwwwwwwwwww」

澪たちは極力唯に気を取られないようにして自分の演奏に集中する。 唯がバンドの和を乱すことによって逆に演奏の精度が高まっていた。
ただ3人の演奏を聴いている観客はいない。観客たちにとって唯以外の演奏は唯を引き立てるための舞台装置でしかないのだ。
澪たちはそれさえも意に介さない。
もはやどうでもよかった。このライブを無事に遂行する。
ライブが終わればすべて終わる、と言いたいところだが
終わらせてしまう前に密かに計画していたアレをやる。
そこで軽音部の2年半の活動は実を結ぶのだ。

ごはんはおかずを終え、澪たちは淡々と2曲目、3曲目へと移っていく。

唯「ふあふあたーいむwwwwwふあふあたーいむwwwww」

最後の曲、ふわふわ時間が終わり、客席から盛大な拍手が巻き起こる。知的障害者がライブをやり遂げたことに対する賞賛と感動で、観客のボルテージは最高潮に達し、拍手は鳴り止むどころかさらに音が大きくなっていく。
澪たちはそれを冷ややかな顔で見下ろしていた。

舞台袖にいる生徒会役員が講堂幕を下ろすスイッチを押そうとしたが、澪はそれを遮った。

澪「ちょっと待ってください」
生徒会「え?」

スイッチに指を伸ばした状態で固まって、キョトンとする生徒会役員。
観客たちも何があるのかと期待半分戸惑い半分で舞台を見守る。

澪「実は……まだちょっとやりたいことがあって」
生徒会「やりたいこと?」

澪は唯の方に向き直る。

澪「唯のために、歌を作ってきたんだ。それをここで披露させて欲しい」

唯のためだけに作った歌。小粋なサプライズに客席はにわかに沸き立つ。割れんばかりの拍手は収まって、代わりに期待のこもった熱い視線が再び舞台上に向けられた。

もう既にお気づきであろうが、3人の計画とはこの歌を歌うことであった。澪はこれを歌うことにまだ抵抗があった。リスクが大きすぎる。
下手をすれば、社会的に抹殺されることになる。しかしもう後には引けない。
今まで部活を頑張ってきた、仲間たちの想いも、この歌には詰まっている。
それを無下にはできない。自分にできるのは、これを歌うこと。歌って、自分たちの胸の内を、一人でも多くの人に伝えること。
そのためだけに今日のライブがあると言っても過言ではない。

澪は後ろを向く。律がいつになく真面目な顔で、澪にむかってただ一度、うなずく。
今度は左を向く。 紬が穏やかさの中に熱を隠した表情で、澪に視線を返す。

二人の決意を再確認した澪は、自身も覚悟を決めて、言う。

澪「聞いてください。天使が狂れたよ」

◆天使が狂れたよ!
 作曲:琴吹紬 作詞:秋山澪、田井中律、琴吹紬

ねぇ 思い出の欠片に
名前をつけて保存するなら
“嫌悪感”がぴったりだね

そう 堪忍袋の緒が
キレそうになるくらいに
過ごしたね 白痴相手の毎日

よだれを拭かされたハンカチ
鼻クソ付けられたシャーペン
もう全部ゴミ箱の
奥底に捨ててしまったから

これで、さよなら 気違い天使と
いけぬまは仲間じゃない
お世話なんてもうしたくない
みんなに白い目で
見られた記憶が
いつまでも胸に刺さる
ずっとその笑顔 イヤだった

(2番以降省略)

澪「……」
律「……」
紬「……」
唯「あー(^q^)」

観客「な……何なのその歌は!」
観客「ふざけてるのか?」
観客「いったいなんのつもりなんだ!」
観客「なんでこんな歌を!?」

和「ちょ、ちょっと貴方達、何考えてるの!?」
律「何って、私たちが唯に言いたいことを歌にしたんだよ!」
紬「そ、そうよ! 私たちが唯ちゃんの世話を押し付けられて、どんなに嫌だったか、どれだけ耐えてきたかをね」
和「はあ? 何言ってるの、あなたたちは唯をずっと支えてきたんでしょう?」
澪「だからそういうのを押し付けられるのが嫌だったんだよっ。私たちの高校生活は、この障害者のせいで、台無しにされたんだっ!!」

観客「天使に向かってなんてことを言うんだー!」
観客「ひとでなし! 差別主義者!」
観客「障害者のために尽くすのがお前らの役割だろ!」
梓(軽音部入らなくて良かったァー!)

律「じゃあお前らが障害者の世話しろって言われたらどうすんだよ! ちゃんとやんのか? うんこ漏らしたらちゃんと拭くのか? 街中で奇声出して周りから蔑んだ目で見られても平気だってのかよー!」
和「早く幕を閉めなさい!」
生徒会「は、はい! ポチッとな」

観客「ゴミバンドー! 死ねー!」
観客「唯ちゃんが可哀想だと思わないのー?」
観客「お前ら今一番蔑んだ目で見られとるわ!」
観客「知的障害者も同じ人間だろー!」
観客「そうよ、みんなで助けあって生きるのが当然だわ!」

紬「じゃあなんで私たちのことは助けてくれなかったのよーっ!!」
澪「なんとでも言えばいい、とにかくこれが今の私たちの気持ちなんだよ!
  障害者とまともに接したこともない、綺麗事しか聞いたことのないみんなには分からないだろうけどなっ!!」
和「いいかげん黙りなさい、早く退場して!! 力づくで追い出すわよ!!」
律「障害者は障害者学校に入れろー!」
紬「一般の生徒に押し付けるなー!」
和「ちょっと、黙りなさいって言ってるでしょ!」

色々と言い合っているうちに幕が降りきった。

舞台袖。

和「……あなたたち、こんなコトしてどうなるか分かってるの?」
律「リスクは覚悟してるよ」
和「覚悟してれば何をしてもいいってもんじゃないでしょう!」
澪「ひぃ!」
紬「ごめんなさい和ちゃん、でもどうしても…… このままなにもしないで終わるのは嫌だったから」
和「謝るのは私にじゃないでしょ」
紬「え?」
和「まず唯に」
唯「しゃばーwwwwwwwwwwww」
律「……」
紬「ご、ごめんなさい唯ちゃん……」
唯「いいよ別に」
憂「あっ、ちょっとみなさん!」
律「うわっ出た」
憂「なんですかさっきのアレは! お姉ちゃんを馬鹿にしてるんですか!?」
律「うるせー、私たちはもう障害者の世話なんてこりごりなんだよ! お前が全部やればいいだろ!」
憂「なっ……あなたたちは軽音部の人間として お姉ちゃんに尽くして生きるという自覚が足りなすぎますよっ」
紬「私たちには私たちの人生があるの! 障害者に付き合わされたくないわ」
律「そーだそーだ、この池沼のせいで……」
憂「池沼っていうな!」ボカッ
律「ぶべっ!」
憂「この人非人、お姉ちゃんを侮辱するな!」ボカバキドカ

澪「いたいいたいいたい!」
律「ひぃー!」
紬「た、助けて和ちゃん!」
和「リスクは受け入れるって言ってたでしょ…… それに罪もない可愛い唯をけなしたんだから、殴られるくらい当然よ」
律「和もそっち側の人間かよっ」

その後、律たち3人は無期限の自宅謹慎処分となった。
和は軽音部が学園祭をめちゃくちゃにした責任を取らされて辞任、ちなみに憂は一切おとがめなし。

3人は「謹慎中に見ておくように」と障害者福祉に関するDVDや本を山ほど渡されていた。

律「けっ、誰が見てやるかよこんなもん」
母「ちょっと律、なにやってるの。蹴ったりしないで、ちゃんと見なさい」
律「死んでもイヤだね。もう障害者なんて見るのもウンザリだ」
母「うう、どうしてこんな子に育ってしまったの…… 昔は聡の面倒も見てくれてたのに」
聡「あ~(^q^)」
律「うぜーな聡、こっちくんじゃねーよ」
母「なぜこんな人の気持を考えられない子に…… 障害者は純粋で無垢な人の心を知るために 神が遣わしてくれた天使だというのに」
律「天使はウンコ漏らしたりしねーよ」
母「ううう……」

謹慎三週間目、

さわ子から「一度来い」と連絡があったので律は学校へと向かった。
職員室でさわ子に会うと、そのまま軽音部の部室まで連れて行かれた。

律「なんの用?」
さ「澪ちゃんとムギちゃんはまだね……まあいいわ。実はあなたたちの謹慎を解こうと思ってるの」
律「えっ、マジで?」
さ「ええ」
律「でも、なんでいきなり」
さ「それはね……」
憂「私から説明します!」ズババーン

律「憂ちゃん!?」
憂「実はお姉ちゃんがみなさんと会えないのを寂しがっていて。みなさんが学校でお姉ちゃんの面倒を見てくれる、というのを条件に謹慎を解いてもらうことにしたんです」
唯「あーwwwwwwww」
律「なんだと?」
律「つーか嫌だよ、そんなの。こいつの面倒みるくらいならずっと謹慎でいいね」
さ「あなた、まだそんなことを……!」
憂「大丈夫です、さわ子先生。この人達はお姉ちゃんの面倒を見てくれますから」
律「この人達……? まさか」

ガチャ
澪「よう、律」
紬「りっちゃんも呼ばれてたのねー」
律「お、おう」
唯「あーwwwwみおwwwwwwwむぎwwwwwwwwwwww」

澪「あ~唯、久しぶりだなー! ごめんな、ずっと会えなくって……寂しかったか?」
紬「おはよう唯ちゃん! 今日はとびきり美味しいケーキ持ってきたから、あとで一緒に食べましょうねー!」
唯「けーきwwwwでこはしねwwwwwwwwwwwwwwww」

律「あのー……澪さん? ムギさん?」
澪「ああ律……やっぱり私たち間違ってたんだよ」
律「は?」
紬「謹慎中に障害者福祉のビデオと本見たら感動しちゃって」
律「ひ?」
澪「人は支えあって生きて行くものなんだよな」
律「ふ?」
紬「私たちにできることを、誰かのために役立てたいの」
律「へ?」
澪「私にはこんなに可愛い唯を見捨てるなんてできないよ」
律「ほ?」
紬「ほら、りっちゃんも唯ちゃんと遊びましょう?」

澪「唯、高校卒業するまで……いや、した後も、
  私たち3人がずっと一緒にいてやるからな!」

唯「あうあー(^q^)」

律「ええええええええええええええええ!?」

 == おわり ==

  池沼唯のSS へ戻る

   (2011.02.10)

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最終更新:2019年01月08日 20:05