えっ!そっち!?
唯は肝心の学園際のライブの日にギターを家に忘れてしまった。
前日まで風邪を引いていたせいで、いつものボケに拍車が掛かってしまったようだ。
普段から「ギー太」と名前をつけて大切にしているのは、あくまでギー太を着せ替え人形としてであって、本来のギターとして大切にすることは無かった。
実際、ギターへ汚れが酷く、唯のよだれや落書き、食べ粕でベトベトであり、一部にカビが生えており、匂いもカビ臭かった。
唯にとってギターとはその程度の認識ゆえ、軽音部の活動でギターが無くても、
「ああ、忘れた!」
で済んでしまった。
メンバーも、唯には何を言っても無駄だと悟っていたので、敢えて忠告はせず、唯抜きでも立派に演奏ができるような体制をとっていた。
そう、唯の代役はきちんとおり、むしろ、代役の方が腕は上だし、人気があった。
しかし、唯には
「自分が目立ちたい!」
ということだけで、メンバーの言うことなど聞かずに、メイン・ボーカルとギターの座に、一応なっていた。
でも、メンバーの本心は、
「唯は邪魔!要らない子」
「演奏時間をわざと間違えた時間に教えようか?」
など、とにかく目ざとい存在であった。
そんなメンバーの想いが通じたのか、唯は勝手に風邪になった!
メンバーは大喜び!
しかし、いよいよ演奏30分前を切ったという時になって、唯が部室に現れたのである!
メンバーは、突如現れた邪魔者にびっくり!
「なんで、くるんだよー!!」
メンバーはがっくり来た。
しかし、唯は持ち前の「目立ちたがり屋」の意志で何とか部室に来たものの、肝心のギターを家に忘れてしまった!!
それには、メンバーも
「神は見捨てていなかった」
と大喜び!
このまま唯行きで演奏できる!と思ったが、なんと唯が
「走ってとりに帰る」
と抜かしやがった!
メンバーは長く演奏すると、唯が戻ってきてしまうし、かと言って、短かく済ませるのは、自分達の年に一度の晴れ舞台を縮めてしまう物であり、受け入れられなかった。
そう思っているうちに、学園際の演奏は始まった!
メインボーカルは澪、ギターは梓と、見栄えも腕前も唯より遥かに良く、会場も大いに盛り上がる。
「秋山澪ファンクラブ」の会員はもう大喜び!
一方、唯は急いで家に忘れたギターを取りに帰り、ライブの後半でもいいから参加しようと思った。
どこをどう辿ったかは記憶に無いが、とにかく走って家に帰る。
家の自分の部屋に着せ替え人形ことギー太があった。
慌てて取って自分の家をでた。
「とにかく皆が待っているし、私も戻りたい!」
その思いで息が切れそうになっても必死に走る。
こんなに必死で走ったのは人生で初めてかもしれない。
これなら後半は間に合うなぁ…と思っていたら、途中にある踏み切りに引っ掛かってしまった。
「まったく!使えない踏み切りだよー!
ここの踏み切りはやたら長いんだよねー」
と、踏み切りに八つ当たり。
ギターを忘れた自分が悪いのに…
ちゃんとギターを持って行けば、今はもうステージの上に居るのに…
焦りだけが募る。
ふと左側を見ると電車は既に駅に止まっている。
この電車が通過しないことには踏み切りは開かない。
逆に言うと、この電車が発車しない限りは電車は踏み切りに来ない!
「電車が走りだす前に踏み切りを渡ってしまえばOKじゃん!」
唯は行くなら今だ!と言うばかりに、遮断機をくぐって踏み切り内に進入した。
回りの人から「おい、危ないぞ!止めろ!」とか「危険だ!」という声が飛んだが、唯は大丈夫だもんねー!という感じで耳を貸さない。
それより急げ急げ!!という感じで目の前の線路を跨いだ瞬間、唯の顔が青ざめた!
「えっ!そっち!?」
「しまったー!反対側だー!」
そう、ここの踏み切りは複線、すなわち反対方向からも電車が自由に来るだ。
そして、今実際に唯の目の前に反対方向から電車が近づいていて、大きな汽笛を何度も鳴らす。
プアーン!プアーン!
唯は足がすくんでしまい逃げることが出来なかった
電車は急ブレーキを掛けたが、間に合わなかった…
バーーーン!!
鈍い音を立てて反対方向から来た電車が踏み切りを横切った。
唯は電車に正面から跳ね飛ばされた。
地面に落ちた時にはもう息が無かった。
即死だった。
唯はあっけなく死んだ。
その時、軽音部のライブは澪がメインボーカルとして、大好評だった。
まさか、その晩が唯の通夜になろうとは…
==おわり==
平沢唯逝去(1992--2009)
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(2010.03.07)
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最終更新:2019年01月13日 17:01