池沼唯の海水浴(その16)
マスコミもこの事件を大々的に取り上げ、今は離れ離れになっている梓や純、元軽音部のメンバーにもすぐに伝わった。
憂の部屋に飾ってあった高校時代の写真に梓と純が写っていたので二人は警察から事情聴取をされたが、10年近く連絡を取っていない事を伝えるだけしか出来なかった。
憂の行方は全くわからず、手掛かりも何一つ掴めない。
そして、憂がいなくなってから全国の池沼が狙われる事件が多発しだした。
1月に1件、多い時で2件起こる月もある。
全ての事件で共通しているのは、被害者の脳味噌が取り除かれている点だ。
この事件の犯人も未だに捕まらず、手掛かりも無い。
ある地域だけに特定されていればいいが、被害の範囲が広すぎるのだ。
日本中がこの狂気に満たされた事件に怯え、1年があっという間に過ぎた。
翌年の真夏の熱帯夜。
太陽が高々と登っており、ジリジリとコンクリートを照らしている。
とあるコンビニから一人の男がフラフラになりながら出てきた。
男「昼間から酒飲もうが俺の勝手だろうが!」
髪はボサボサ、無精髭を生やし、ヨレヨレのTシャツを着た男の手には缶ビールが握られている。
男は缶ビールを飲みながら車のドアを開け勢い良く道路へ出ていった。
男「まーくん・・・なんで死んでしまったんだよおーーー!」
そう、この男性は10年近く前に唯が殺し頭を食べられた男の子の父親だった。
あの事件から男の子の両親は離婚し、父親は酒浸りの毎日を送っているのだ。
あの日の自分を恨み恨み続け、押しつぶされそうなプレッシャーを酒で誤魔化し寝る・・・そんな日をずっと過ごしてきた。
10年近く経っても、あの日のことを忘れることはなく今でも鮮明に思い出せる。
我が子の亡骸、あの殺したいほど憎い池沼。
男「うっうっ・・・くそっ!酒が足りない!」
男は持っている缶ビールを一気に飲み干し、別のコンビニに入って行く。
3本の缶ビールが入ったビニール袋を持ちコンビニから出た瞬間、人とぶつかった。
男「いってえな、この野郎!」
体を大きく揺らし、ぶつかった相手を睨みつける。
男「っ!!」
ぶつかった相手は何も言わずにコンビニの中に入っていったが、男はその場に立ち呆然としている。
男「あいつ・・・あいつだ!」
男は確信した。
ぶつかった相手が我が子を殺したあの池沼だと。
コンビニの外から店内を見ると、あの池沼はトイレに入っていった。
一瞬しか見えなかったが間違いない。
あの風貌を忘れるはずはない。
男の中にある考えが浮かんだ。
この考えを実行すれば、俺もあいつの仲間入りだ。
しかし、このチャンスを逃せば二度と出会うことはない。
男「・・・よしっ!」
男は車に乗り、池沼が出てくるのを待った。
数分後、トイレから出てくると何も買わず外へ出てきた。
大きな体を左右に揺らしながら、ゆっくりと歩道を歩いている。
男は車の中から見失わないようにじっと見つめていた。
すると、池沼が人通りの少ない路地に入っていった。
男は待ってましたと言わんばかりに、エンジンをかけ路地に入っていく。
池沼を通り過ぎ、少し先の曲がり角を曲がってすぐの所に車を停めた。
車の中に積んでいたバットを取り出し角に隠れ静かに池沼が来るのを待つ。
男「すぅーはぁーすぅーはぁー」
バットを構えながら、深呼吸をしていると足音が近づいてきた。
人影が見え踏み出した足が見えた瞬間、男はバットを思い切り振った。
ゴキャ!
確かな手応えを感じ、男は角から顔を出し相手の様子を確認する。
そこには首を両手で押さえながら苦しんでいる池沼がいた。
「ごほっごほっ!・・・あっ!・・・・あががっ!!」
もがき苦しんでいるのは唯ではなく妹の憂だった。
憂が唯を食してから憂の中でのリミッターが壊れ、それからは唯と同じように本能の赴くまま生きるようになった。
ただ唯のように色々な欲求を我慢出来ない訳ではなく、ある一つの欲望以外は以前と変わらず耐えることが出来る。
カニバリズム以外は。
池沼を狙った事件は全て憂によるもので、頭が良かった憂は証拠を一つも残さずに実行していたのだ。
今の憂はカニバリズムが何よりも重大なことであり、抑えることは出来ない。
身だしなみにも気を遣わなくなり、体重もどんどん増え今では唯に負けず劣らずな体型だ。
10年前に一度だけ見た唯の姿と今の憂の姿を男は見間違えたのだ。
しかし、唯と憂には大きな違いがある。
コミュニケーション力だ。
会話も成立せず、字の読み書きも出来ない唯とは違う。
憂は会話も字の読み書きも出来る。
だが、運命の神様は憂ではなく、この男に微笑んだ。
先程、男が振ったバットが憂の喉にあたり憂の喉は完全に潰れてしまった。
ペンも紙もない状況で唯一のコミュニケーション方法である会話が出来ないのだ。
1年も警察の目を欺き逃げてきた憂だったが、たった一人の男には敵わなかった。
男「こいつ!よくも息子を!」
男がっている憂の体を何回も蹴っていると、遠くから人が歩いてきた。
男「ここじゃマズイな。」
憂「おごっ!がはっがっ!!」
憂は声を出そうとするが、声らしい声が出ず出るのは咳だけだ。
男は巨体の憂を引きずりながら車のトランクに押し込む。
憂と男を乗せた車は走り去り、現場に残っていたのは憂の財布だけだった。
翌日の夜。
山奥の細道を走る車が一台。
街灯は一つも無く、ガードレールも無いこんな道を走る車は少なく夜になると、ほとんど通らない。
近くに民家も無く、わざわざ使われていた道を使う者はいなかった。
車は更に森の奥へ入り、車を大きく揺らしながら獣道を進む。
道が無くなった時、車が停まり中から男が降りてきた。
着ている服は血で真っ赤に染まり、顔や手も赤くテカテカしている。
男「おら、降りろ。」
トランクから引きずり降ろされたのは憂だった。
憂ではあったが、その姿は1日前の憂からは想像出来ない。
鼻は削ぎ落され、歯は全部抜かれている。
何度も殴られた顔はへこみ、腫れ、ジャガイモのようにボコボコだ。
両足は車で轢かれたのだろう、タイヤの跡がいくつもあり踏まれた所からは骨が飛び出し右足は肉が切れ皮だけで繋がっている。
左手は肩から先が潰れたように千切れていた。
ハンマーのような物で肩の関節を何度も叩かれたのだ。
右手は赤い小さな点が数え切れない程ついている。
穴の大きさからすると恐らく釘を何度も打ち付けられたのだろう。
乾いた血の筋が出来ている。
憂「・・・・・う~・・・・あっあぁーーー・・・」
憂はもう唸り声しか上げることが出来ず、目の焦点も合っていない。
男は憂の髪の毛を掴み、木と木の間を歩き奥へ奥へと進んでいく。
30分程進み、男は憂の頭から手を離した。
男「じゃあな。ここで死ぬまでずっと苦しむんだな。」
憂「あ”あ”――!!う”あ”っ!!」
何かを伝えるように必死に唸るが男は振り向かずに歩いてきた道を戻っていった。
リーリーリー。
ジージージー。
男の足音も聞こえなくなり、聞こえるのは虫の鳴き声だけだ。
1年前、唯が家に帰ってきた時も同じように虫の鳴き声だけが聞こえたのを憂は思い出した。
どこから間違っていたのだろうか。
どうすれば唯と憂は幸せに暮らせたのだろう。
海水浴に行かなければよかったのか。
それとも、もっと前から歯車は狂っていた?
いくら考えても答えは出てこない。
ガサガサ
心地よい虫の鳴き声の中に草が擦れ合う音が聞こえた。
憂は首だけを動かすと、そこには野犬が数匹こちらを見ていた。
バサッバサッ
上空からは鳥が羽ばたく音も聞こえる。
そして、憂はわかってしまった。
自分が今からどうなるか。
この動物達がなぜ、ここに集まっているのか。
憂「む”わ”―!ん”ん”――!!」
憂は声を絞り動物たちを追い払おうとするが、すぐに声も出なくなり出るのはヒューヒューという音だけだ。
憂「(お姉ちゃん、なんでこんな風になったのかな。・・・もういいや。寝ちゃおう。すぐにそっちに行くね、お姉ちゃん。)」
その夜から数日間は動物達の咀嚼音が森の中で響き、憂の元に動物達が寄らなくなった頃、森の中に聞こえるのは虫の鳴き声だけだった。
(補足説明)
憂:憂が海で男の子の頭を見てカニバリズムが少しずつ芽生えていく。
唯をカニバリズムから解放してあげたい、だが自分の欲求(カニバリズム)を抑えることが出来ない。
それならば唯を殺し脳味噌を食べようという偏屈な考えが浮かぶ。
そう考えた憂は大学→医者になり数年かけ計画をたてる。
実行するまでは憂の中にまだ唯への愛情があり葛藤があったが欲望には勝てず計画を実行。
拷問していく間でサディスティックな部分も出て拷問にも力が入る。
唯の脳味噌を食べ憂の常識が壊れ、ただ脳味噌だけを追いかけるサイコキラーになる。
衣食住は最低限のものをキープし続けた結果、体重は増え外見も池沼の唯と変わらなくなった。
それが仇になり父親に唯と勘違いされ拷問された。
池沼にはなっていない。
唯:病院で生活するもカニバリズムは治らず、むしろ悪化していく。
ぬいぐるみの頭などを千切りカニバリズムの悪化が憂に伝わる。
憂の寝込みを襲うが憂の罠にかかり拷問→憂の餌食に。
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最終更新:2011年11月13日 02:06