一人ぼっち
トントントントン
ドシンドシンドシン
朝―
この家の家事の一切をこなす次女・憂が軽快なリズムで野菜を刻んでいると、重度の池沼である長女・唯が豚の行進のような音を響かせ、二階から降りてきた。
肥満体系の唯の足音は重い。
「む~ゆい、ねむたいれす…(-q-)」
まだ半分寝ているようで瞼はほとんど閉じている。
脇にはお気に入りの汚い豚のぬいぐるみを抱えていた。
「お姉ちゃん、おはよう」
「あう~ゆい、ぶたさん…むふゅ~(-q-)」
「お姉ちゃん、おはよう」
「あう~あーう?('q')」
「お姉ちゃん―」
「あう!あう!うーい、おはよごじゃます!(^q^)」
憂の剣呑な声が耳に入ると、唯は即座に覚醒して元気に挨拶した。
ちゃんと朝の挨拶ができなければ一日は苛烈なお仕置きから始まることになるのだ。
「はい、おはよう。ご飯食べる前に顔洗ってきてね」
「あーう!ぶーぶーさん、じゃぶじゃぶいくれすよ(^oo^)v」
「いたーきまつ!(^q^)/」
「はいどうぞ」
「まんまおいちーでつ(^q^)」
唯は幼児用のスプーンとフォークでぎこちなく一口目を食べると、毎朝こうして憂に「おいしい」と言っていた。
「はいはい…。あんまりこぼさないでね」
それは重度の池沼である唯にできる最大限の愛情表現だったが、憂の返事はそっけない。
唯の顔を見ることもせず箸を取った。
「あうっ!(゚ q゚)」ツルッ
唯のフォークから卵焼きが落っこちてテーブルを転がった。
「むふー(`q´)」
手づかみでそれを掴み口に運ぼうとするが、憂の鋭い視線が突き刺さる。
「…………」
「あ、あー…ゆい、まちがたれす(^q^;)」
卵焼きを皿に戻し、またフォークで刺して食べた。
「そうだね、お行儀よく食べようね」
「あうー('q')」
「んひっ(>q<)ゆい、ごちそさまでちた!」
「あら、ヨーグルトまだ残ってるけどいいの?」
「ゆい、ぽんぽんいぱい!ぶぶぶーでつ!(>q<)」
唯は慌ただしく席を立つと、尻を押さえてトイレに向かった。
が、しかし…
ブブブブブブー!!
「あう…あう…("q")」
盛大な破裂音とともに唯のオムツが膨らみ、収まりきれなかったウンチが床にぼとりと落ちた。
「お姉ちゃん、またウンチ漏らしちゃったんだ…」
今からわが身に降りかかることを想像して震える唯の肩に、憂がそっと手を置いた。
その小柄な体格に見合わぬ握力で唯の肩を締め付ける。
「お仕置き、だね」
「びぃぃぃぃ!おしおきやー!おしおきだめー!("q")」
「今日は何がいい?鞭?シャワー?」
「あうあうあう…びしーだめー!あちゅいだめー!("q")」
「じゃあ今日は棒叩きにしようか」
「むひぃぃぃっ!!(>q<)ぶつ、だめーーー!!!!」
「決めた。棒叩き20回ね」
憂はそう宣告すると仕置き用の小道具が納められている棚から木製のバットを取り出した。
野球に使ったことなど一度もないそのバットは、赤黒い染みで覆われており元の色がわからない。
「んひぃ…ひっぐ、ひっく…ううぅぅぅぅ」
「さ、お姉ちゃん、いつもみたいに四つんばいになってね」
「うーい!ゆい、そーじする!ぶぶぶーそーじつる!ゆいそーじつる、おしおきない!("q")」
「へぇ…」
ドガッ
それを聞いた憂は唯の三段腹をバットで思い切り突いた。
「ぐう゛ぉ゛ぇ゛」
腹を押さえてのたうち回る唯の髪を掴んでひっくり返し、その背中にバットを振り下ろす。
ゴヂン
「んぎゃああああああああああああああああ("q")」
「この前、掃除するって言ったのにウンチの入ったバケツをひっくり返して廊下をウンチまみれにしたのは誰だったっけ?」
「むひぃ…うーい、やめちぇえええええ」
「ねぇ、誰だったっけ、お姉ちゃん」
ゴヂン
「おぎょ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛("q")」
「誰だったって聞いてるでしょぉっ!!」
ゴヂン
「んぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいい("Q")」
「あと何回だっけ?30回?疲れるけどしょうがないよね、お姉ちゃんのためだもんね」
ゴヂン
「ん゛”ぎ”ぃっ…うーい、ゆい、わるいこ…ごめんなたい(TqT)」
ゴヂン
「うーいごめんなたい うーいごめんなたい うーいごめんなたい」
唯の懺悔とバットが肉にぶつかる鈍い音がループする。
憂は腕の間隔が薄れるまでバットを振り続けた。回数など途中から忘れていた。
ふと気が付くと唯の背中とバットは血まみれになっており、床にも血が飛び散っている。
「はぁ…はぁ…お姉ちゃんのせいで汚れちゃったじゃないの!掃除しないと…」
憂は血のついたバットを放り投げると、雑巾を取りに洗面所へ向かった。
唯は、冷たい水をかけられて飛び起きるまで、蚊の鳴くような声で「うーいごめんなさい」と呪文のようにつぶやき続けていた。
「うぐっひっぐ、いじゃい~~~(TqT)」
「お姉ちゃん、いってきますは?」
「むーひっく、ひっぐ(TqT)」
バヂン
唯の頬を張り、髪を引っ張って滝のように涙が零れる目を睨みつけて言う。
「お姉ちゃん、いってきますは?」
「んひぃぃぃぃ……いってきまつ!(TqT)」
「はい、いってらっしゃい」
憂はなかよし学校の制服である水色のスモックを着た唯を送り出してから、唯専用の巨大なお弁当箱がテーブルに載ったままであることに気付いた。
「あ、いけない。お姉ちゃん、まだバス亭にいるかな…」
「むーひっく、ひっく(TqT)」
「お姉ちゃん!」
「あう?(TqT)」
「お姉ちゃん、お弁当忘れてたよ。ごめんね」
「あー!ぶたさん!ぶたさん、おはよごじゃます!(^oo^)」
唯はにわかに活気づいて大好きなお友達である豚さんのお弁当箱に挨拶した。
「これでよし、と。じゃあお姉ちゃん、いってらっしゃい」
「あーう!ゆい、いてきまつ!(^oo^)」
今度は笑顔で手を振り合って別れた。
唯は、池沼であることによってかろうじて笑顔を保っているのだった。
体育の時間に転んだ唯が尋常ではない痛がり方をするので、なかよし学校すみれ組の担任であるSは唯を保健室に連れてきた。
「唯ちゃん、ケガをしているかどうか見るから服脱ごうね」
「ん゛、ひぃ…("q")」
体操着代わりの『てんごく』と書かれた池沼Tシャツをめくると、惨たらしい暴行の傷跡がSの目の前に現れた。
「うっ…ひどい…」
背中は痣だらけで肌色の部分がほとんどなくなっている。
「唯ちゃん、憂ちゃんに何かされたの?」
「うーゆい、おもらししちゃったれす('q')ゆいわるいこ、うーいおしおきちたれす('q')」
「そう…」
唯はたびたびこうした傷を作って登校してくる。どう考えてもお仕置きとか躾けといったレベルを超えた虐待だ。
唯を迎えに来た憂にそれとなく仄めかしたこともあるが、にべなく撥ね付けられてしまった。
食事を与えないといった急を要する事態になれば第三者に間に入ってもらわざるを得ないが、
幸い身の回りの世話はちゃんとしているようで、唯は毎日大量のご飯とおかずが入った巨大な弁当箱を持って学校にやってくる。
何より唯はたとえお仕置きされても憂によく懐いている。今、二人の間に余計な手出しをしたところで良い結果は生まれないだろう。
池沼は成長してからも保護者の庇護が必要不可欠なのだから。
幸い唯の体には人並み外れた治癒力があるようなのでこの傷も明日になれば元通りになっているだろう。
「唯ちゃん、背中の傷にガーゼ貼っておいたからね。痛かったら先生に言うのよ」
「ゆい、もーいちゃくないれす(^q^)」
「唯ちゃんはお利口さんね」
「あうー!ゆいおりこー、おりこー!(^q^)」
「それじゃあみんな、さようなら!また明日ね」
「せんせーさようならー」
なかよし学校の授業が終わり生徒たちが教室を出ていく。
だが4、5名の生徒は変わらず席に残っていた。
保護者の迎えを待つ生徒たちである。唯もその内の一人だ。
「今日の自由時間はお絵かきをしましょう。画用紙を配るわね」
「あーあーゆい、おえかきやるー(^q^)」
Sから画用紙を受け取ると唯はさっそく鞄から愛用のクレヨンを取り出して描きはじめた。
しばらくしてSが様子をのぞくと、青や緑や黄色の背景にごぼうのようなものを描きこんでいるところだった。
答えはわかってはいたがあえて尋ねてみる。
「唯ちゃんは何の絵を描いてるのかな」
「あーう!うーい!ゆい、うーいかいてるれす(^q^)」
「へ~これはなあに?豚さん?」
Sはごぼうの脇にあるピンク色の丸い物体を指さして聞いた。足のようなものが4本生えている。
「あう!そえ、ゆいれす!(^q^)」
「えっ!?」
「そえぶたさん!ゆいもぶたさん!ゆいは、ぶたさんでつ!(^oo^)」
「へぇ~唯ちゃん、お絵かき上手ね~♪」
「あーう!あーう!ブ゛ヒー!ブ”ヒ-!(^oo^)」
褒められた唯は本物そっくりの豚の鳴き真似を披露するのだった。
「失礼します」
時計の針が5時を回ったころ、名門女子高・桜ヶ丘女子の制服を着た少女が教室に入ってきた。
顔立ちは整っているのだがその顔に張り付いたしかめっ面が美貌を台無しにしている。
Sは表情の緩んだ憂を見たことが無い。
唯は憂に気が付くとクレヨンを放り出して駆け寄った。
「あー!うーい、うーい!(^q^)」ドスドスドス
憂は手を繋ごうとする唯を邪険に払いのけてSに尋ねる。
「今日、お姉ちゃんは何かしませんでしたか?」
「いいえ、お利口にしていましたよ。ただ…」
「ただ?」
「体育の授業で転んで背中を打った時にものすごく痛がって…」
「ああ、そうですか」
その理由にはすぐ気付いたであろうにだから何?とでも言わんばかりだ。
「そうだ唯ちゃん、さっきの絵を憂ちゃんに見せてあげたら?」
「あう!(^Q^)うーい!ゆい、うーいかいたれす(^q^)」
「へ~」
憂は気のない返事をすると、受け取った絵をろくに見ることもせず乱暴に折りたたんで鞄に突っ込んだ。
「せんせー、じょーずいったれつよ(^q^)キャッキャ」
「そう、よかったわね」
池沼の唯には憂の態度の意味を読み取ることができない。それはある意味幸福なのだろうか。
「じゃあお姉ちゃん、帰るわよ」
「あーい!せんせーさよーならー!(^Q^)/」
「はいさようなら、唯ちゃん」
「それと先生、明日は両親の3回忌なので休みますから」
「そうですか。わかりました」
教室を出る際に振り返りもう一度大きく手を振る唯と一人でスタスタと歩いていく憂を見送ってから、Sは大きくため息をついた。
「たらいまー!(^Q^)/」
「ただいま…」
「ゆい、とんちゃおせわつる!(^q^)」
とんちゃとは先月の誕生日に買ってもらった亀の名前である。
豚そっくりのスッポンモドキの鼻が豚好きの唯の心を捕らえたのだ。
それ以来、唯は学校から帰って亀に餌を与える時間を何よりも楽しみにしていた。
「だめよ。手を洗ってからね」
「あう…('q')」
「んひひ(^q^)とんちゃ、まんまでつよ~」
水槽に餌を入れると、亀が浮き上がってパクっと食べた。
唯はこの瞬間が何よりも好きなのだ。
「あうーあうーとんちゃ、いいこれすね~(^q^)」
水槽の水は唯一人では替えることができず、憂がめんどくさがって替えたがらないのであまり綺麗ではない。
餌を多くやればその分糞が増え水槽が汚れるので、餌は一日一回だけと憂に厳命されていた。
池沼にとって楽しいことを一回だけしかやらないというのは非常に難しいことだが、唯はこれに関してはちゃんと言いつけを守っていた。
「ゆいもまんまたべるれすよ(^q^)ゆいととんちゃ、いしょ!(^Q^)」ボリボリ
亀の代わりに自分が餌を食べることで満足しているのだった。
「お姉ちゃん、明日はお墓参りに行くからね」
「あう(゚q゚)おーかまーり…」
四苦八苦しながら中華スープの春雨を食べていた唯は呆けた顔になった。
「お父さんとお母さんのお墓、去年も行ったでしょ」
「あうー('q')」
「もう忘れたの?まぁいいけど。明日は電車に乗って出掛けるからね」
「あーう!うーいとおでかけ!ゆい、うれちー!(^q^)」
「そう…。どうでもいいけどウンチとか漏らさないでね、お願いだから」
「ゆい、ぶぶぶーない!おちおきない!(^q^)」
大好きな憂とのお出かけと聞いて喜びのあまりスープをあたりにまき散らす唯とは対照的に、憂はいつも以上に気分が沈んでいた。
2年前の冬、警察から電話がかかってきた。両親の乗った車が崖から転落して二人とも車中で亡くなったという。
両親はそれ以前から憂たちを置いて失踪しており、両親とは1年ぶりの再会だった。
またいつか家族揃って暮らす日が来ると信じていた憂の願いは無残に壊されたのだ。
唯に度の過ぎた虐待を加えるようになったのもそれからだ。
憂の両親に対しての想いは憎悪の一言に尽きたが、四十九日と命日には墓参りをして墓を磨き、花を供えていた。
憎んでいるのにどうして学校を休んでまで墓参りなどするのか。憂自身、説明をつけることができなかった。
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最終更新:2011年12月29日 02:51