一人ぼっち

一人ぼっち



トントントントン

ドシンドシンドシン

朝―
この家の家事の一切をこなす次女・憂が軽快なリズムで野菜を刻んでいると、重度の池沼である長女・唯が豚の行進のような音を響かせ、二階から降りてきた。
肥満体系の唯の足音は重い。

「む~ゆい、ねむたいれす…(-q-)」

まだ半分寝ているようで瞼はほとんど閉じている。
脇にはお気に入りの汚い豚のぬいぐるみを抱えていた。

「お姉ちゃん、おはよう」

「あう~ゆい、ぶたさん…むふゅ~(-q-)」

「お姉ちゃん、おはよう」

「あう~あーう?('q')」

「お姉ちゃん―」

「あう!あう!うーい、おはよごじゃます!(^q^)」

憂の剣呑な声が耳に入ると、唯は即座に覚醒して元気に挨拶した。
ちゃんと朝の挨拶ができなければ一日は苛烈なお仕置きから始まることになるのだ。

「はい、おはよう。ご飯食べる前に顔洗ってきてね」

「あーう!ぶーぶーさん、じゃぶじゃぶいくれすよ(^oo^)v」

「いたーきまつ!(^q^)/」

「はいどうぞ」

「まんまおいちーでつ(^q^)」

唯は幼児用のスプーンとフォークでぎこちなく一口目を食べると、毎朝こうして憂に「おいしい」と言っていた。

「はいはい…。あんまりこぼさないでね」

それは重度の池沼である唯にできる最大限の愛情表現だったが、憂の返事はそっけない。
唯の顔を見ることもせず箸を取った。

「あうっ!(゚ q゚)」ツルッ

唯のフォークから卵焼きが落っこちてテーブルを転がった。

「むふー(`q´)」

手づかみでそれを掴み口に運ぼうとするが、憂の鋭い視線が突き刺さる。

「…………」

「あ、あー…ゆい、まちがたれす(^q^;)」

卵焼きを皿に戻し、またフォークで刺して食べた。

「そうだね、お行儀よく食べようね」

「あうー('q')」


「んひっ(>q<)ゆい、ごちそさまでちた!」

「あら、ヨーグルトまだ残ってるけどいいの?」

「ゆい、ぽんぽんいぱい!ぶぶぶーでつ!(>q<)」

唯は慌ただしく席を立つと、尻を押さえてトイレに向かった。
が、しかし…

ブブブブブブー!!

「あう…あう…("q")」

盛大な破裂音とともに唯のオムツが膨らみ、収まりきれなかったウンチが床にぼとりと落ちた。

「お姉ちゃん、またウンチ漏らしちゃったんだ…」

今からわが身に降りかかることを想像して震える唯の肩に、憂がそっと手を置いた。
その小柄な体格に見合わぬ握力で唯の肩を締め付ける。

「お仕置き、だね」

「びぃぃぃぃ!おしおきやー!おしおきだめー!("q")」

「今日は何がいい?鞭?シャワー?」

「あうあうあう…びしーだめー!あちゅいだめー!("q")」

「じゃあ今日は棒叩きにしようか」

「むひぃぃぃっ!!(>q<)ぶつ、だめーーー!!!!」

「決めた。棒叩き20回ね」

憂はそう宣告すると仕置き用の小道具が納められている棚から木製のバットを取り出した。
野球に使ったことなど一度もないそのバットは、赤黒い染みで覆われており元の色がわからない。

「んひぃ…ひっぐ、ひっく…ううぅぅぅぅ」

「さ、お姉ちゃん、いつもみたいに四つんばいになってね」

「うーい!ゆい、そーじする!ぶぶぶーそーじつる!ゆいそーじつる、おしおきない!("q")」

「へぇ…」

ドガッ

それを聞いた憂は唯の三段腹をバットで思い切り突いた。

「ぐう゛ぉ゛ぇ゛」

腹を押さえてのたうち回る唯の髪を掴んでひっくり返し、その背中にバットを振り下ろす。

ゴヂン

「んぎゃああああああああああああああああ("q")」

「この前、掃除するって言ったのにウンチの入ったバケツをひっくり返して廊下をウンチまみれにしたのは誰だったっけ?」

「むひぃ…うーい、やめちぇえええええ」

「ねぇ、誰だったっけ、お姉ちゃん」

ゴヂン

「おぎょ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛("q")」

「誰だったって聞いてるでしょぉっ!!」

ゴヂン

「んぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいい("Q")」

「あと何回だっけ?30回?疲れるけどしょうがないよね、お姉ちゃんのためだもんね」

ゴヂン

「ん゛”ぎ”ぃっ…うーい、ゆい、わるいこ…ごめんなたい(TqT)」

ゴヂン

「うーいごめんなたい うーいごめんなたい うーいごめんなたい」

唯の懺悔とバットが肉にぶつかる鈍い音がループする。
憂は腕の間隔が薄れるまでバットを振り続けた。回数など途中から忘れていた。
ふと気が付くと唯の背中とバットは血まみれになっており、床にも血が飛び散っている。

「はぁ…はぁ…お姉ちゃんのせいで汚れちゃったじゃないの!掃除しないと…」

憂は血のついたバットを放り投げると、雑巾を取りに洗面所へ向かった。

唯は、冷たい水をかけられて飛び起きるまで、蚊の鳴くような声で「うーいごめんなさい」と呪文のようにつぶやき続けていた。

―――

「うぐっひっぐ、いじゃい~~~(TqT)」

「お姉ちゃん、いってきますは?」

「むーひっく、ひっぐ(TqT)」

バヂン

唯の頬を張り、髪を引っ張って滝のように涙が零れる目を睨みつけて言う。

「お姉ちゃん、いってきますは?」

「んひぃぃぃぃ……いってきまつ!(TqT)」

「はい、いってらっしゃい」

憂はなかよし学校の制服である水色のスモックを着た唯を送り出してから、唯専用の巨大なお弁当箱がテーブルに載ったままであることに気付いた。

「あ、いけない。お姉ちゃん、まだバス亭にいるかな…」


「むーひっく、ひっく(TqT)」

「お姉ちゃん!」

「あう?(TqT)」

「お姉ちゃん、お弁当忘れてたよ。ごめんね」

「あー!ぶたさん!ぶたさん、おはよごじゃます!(^oo^)」

唯はにわかに活気づいて大好きなお友達である豚さんのお弁当箱に挨拶した。

「これでよし、と。じゃあお姉ちゃん、いってらっしゃい」

「あーう!ゆい、いてきまつ!(^oo^)」

今度は笑顔で手を振り合って別れた。
唯は、池沼であることによってかろうじて笑顔を保っているのだった。

―――

体育の時間に転んだ唯が尋常ではない痛がり方をするので、なかよし学校すみれ組の担任であるSは唯を保健室に連れてきた。

「唯ちゃん、ケガをしているかどうか見るから服脱ごうね」

「ん゛、ひぃ…("q")」

体操着代わりの『てんごく』と書かれた池沼Tシャツをめくると、惨たらしい暴行の傷跡がSの目の前に現れた。

「うっ…ひどい…」

背中は痣だらけで肌色の部分がほとんどなくなっている。

「唯ちゃん、憂ちゃんに何かされたの?」

「うーゆい、おもらししちゃったれす('q')ゆいわるいこ、うーいおしおきちたれす('q')」

「そう…」

唯はたびたびこうした傷を作って登校してくる。どう考えてもお仕置きとか躾けといったレベルを超えた虐待だ。
唯を迎えに来た憂にそれとなく仄めかしたこともあるが、にべなく撥ね付けられてしまった。
食事を与えないといった急を要する事態になれば第三者に間に入ってもらわざるを得ないが、
幸い身の回りの世話はちゃんとしているようで、唯は毎日大量のご飯とおかずが入った巨大な弁当箱を持って学校にやってくる。
何より唯はたとえお仕置きされても憂によく懐いている。今、二人の間に余計な手出しをしたところで良い結果は生まれないだろう。
池沼は成長してからも保護者の庇護が必要不可欠なのだから。
幸い唯の体には人並み外れた治癒力があるようなのでこの傷も明日になれば元通りになっているだろう。

「唯ちゃん、背中の傷にガーゼ貼っておいたからね。痛かったら先生に言うのよ」

「ゆい、もーいちゃくないれす(^q^)」

「唯ちゃんはお利口さんね」

「あうー!ゆいおりこー、おりこー!(^q^)」

―――

「それじゃあみんな、さようなら!また明日ね」

「せんせーさようならー」

なかよし学校の授業が終わり生徒たちが教室を出ていく。
だが4、5名の生徒は変わらず席に残っていた。
保護者の迎えを待つ生徒たちである。唯もその内の一人だ。

「今日の自由時間はお絵かきをしましょう。画用紙を配るわね」

「あーあーゆい、おえかきやるー(^q^)」

Sから画用紙を受け取ると唯はさっそく鞄から愛用のクレヨンを取り出して描きはじめた。

しばらくしてSが様子をのぞくと、青や緑や黄色の背景にごぼうのようなものを描きこんでいるところだった。
答えはわかってはいたがあえて尋ねてみる。

「唯ちゃんは何の絵を描いてるのかな」

「あーう!うーい!ゆい、うーいかいてるれす(^q^)」

「へ~これはなあに?豚さん?」

Sはごぼうの脇にあるピンク色の丸い物体を指さして聞いた。足のようなものが4本生えている。

「あう!そえ、ゆいれす!(^q^)」

「えっ!?」

「そえぶたさん!ゆいもぶたさん!ゆいは、ぶたさんでつ!(^oo^)」

「へぇ~唯ちゃん、お絵かき上手ね~♪」

「あーう!あーう!ブ゛ヒー!ブ”ヒ-!(^oo^)」

褒められた唯は本物そっくりの豚の鳴き真似を披露するのだった。


「失礼します」

時計の針が5時を回ったころ、名門女子高・桜ヶ丘女子の制服を着た少女が教室に入ってきた。
顔立ちは整っているのだがその顔に張り付いたしかめっ面が美貌を台無しにしている。
Sは表情の緩んだ憂を見たことが無い。
唯は憂に気が付くとクレヨンを放り出して駆け寄った。

「あー!うーい、うーい!(^q^)」ドスドスドス

憂は手を繋ごうとする唯を邪険に払いのけてSに尋ねる。

「今日、お姉ちゃんは何かしませんでしたか?」

「いいえ、お利口にしていましたよ。ただ…」

「ただ?」

「体育の授業で転んで背中を打った時にものすごく痛がって…」

「ああ、そうですか」

その理由にはすぐ気付いたであろうにだから何?とでも言わんばかりだ。

「そうだ唯ちゃん、さっきの絵を憂ちゃんに見せてあげたら?」

「あう!(^Q^)うーい!ゆい、うーいかいたれす(^q^)」

「へ~」

憂は気のない返事をすると、受け取った絵をろくに見ることもせず乱暴に折りたたんで鞄に突っ込んだ。

「せんせー、じょーずいったれつよ(^q^)キャッキャ」

「そう、よかったわね」

池沼の唯には憂の態度の意味を読み取ることができない。それはある意味幸福なのだろうか。

「じゃあお姉ちゃん、帰るわよ」

「あーい!せんせーさよーならー!(^Q^)/」

「はいさようなら、唯ちゃん」

「それと先生、明日は両親の3回忌なので休みますから」

「そうですか。わかりました」

教室を出る際に振り返りもう一度大きく手を振る唯と一人でスタスタと歩いていく憂を見送ってから、Sは大きくため息をついた。

―――

「たらいまー!(^Q^)/」

「ただいま…」

「ゆい、とんちゃおせわつる!(^q^)」

とんちゃとは先月の誕生日に買ってもらった亀の名前である。
豚そっくりのスッポンモドキの鼻が豚好きの唯の心を捕らえたのだ。
それ以来、唯は学校から帰って亀に餌を与える時間を何よりも楽しみにしていた。

「だめよ。手を洗ってからね」

「あう…('q')」


「んひひ(^q^)とんちゃ、まんまでつよ~」

水槽に餌を入れると、亀が浮き上がってパクっと食べた。
唯はこの瞬間が何よりも好きなのだ。

「あうーあうーとんちゃ、いいこれすね~(^q^)」

水槽の水は唯一人では替えることができず、憂がめんどくさがって替えたがらないのであまり綺麗ではない。
餌を多くやればその分糞が増え水槽が汚れるので、餌は一日一回だけと憂に厳命されていた。
池沼にとって楽しいことを一回だけしかやらないというのは非常に難しいことだが、唯はこれに関してはちゃんと言いつけを守っていた。

「ゆいもまんまたべるれすよ(^q^)ゆいととんちゃ、いしょ!(^Q^)」ボリボリ

亀の代わりに自分が餌を食べることで満足しているのだった。

―――

「お姉ちゃん、明日はお墓参りに行くからね」

「あう(゚q゚)おーかまーり…」

四苦八苦しながら中華スープの春雨を食べていた唯は呆けた顔になった。

「お父さんとお母さんのお墓、去年も行ったでしょ」

「あうー('q')」

「もう忘れたの?まぁいいけど。明日は電車に乗って出掛けるからね」

「あーう!うーいとおでかけ!ゆい、うれちー!(^q^)」

「そう…。どうでもいいけどウンチとか漏らさないでね、お願いだから」

「ゆい、ぶぶぶーない!おちおきない!(^q^)」

大好きな憂とのお出かけと聞いて喜びのあまりスープをあたりにまき散らす唯とは対照的に、憂はいつも以上に気分が沈んでいた。

2年前の冬、警察から電話がかかってきた。両親の乗った車が崖から転落して二人とも車中で亡くなったという。
両親はそれ以前から憂たちを置いて失踪しており、両親とは1年ぶりの再会だった。
またいつか家族揃って暮らす日が来ると信じていた憂の願いは無残に壊されたのだ。
唯に度の過ぎた虐待を加えるようになったのもそれからだ。
憂の両親に対しての想いは憎悪の一言に尽きたが、四十九日と命日には墓参りをして墓を磨き、花を供えていた。
憎んでいるのにどうして学校を休んでまで墓参りなどするのか。憂自身、説明をつけることができなかった。

―――

「あうーあうー(^q^)」

翌日は灰色の雲が垂れ込め冷たい風が枯葉を揺らす陰鬱な空模様だった。
楽しそうに墓をスポンジで擦る唯の後ろで憂は憎々しげに両親の墓を見つめている。

「お姉ちゃん、もういいよ」

「あうーゆいもっときれいきれいつるれす(^q^)ゆい、えらい!(^Q^)」

「お姉ちゃん!!!」

「んひぃぃぃっ!("q")」

耳をつんざく金切り声に腰を抜かして唯は尻もちをついた。

「お姉ちゃん、言うこと聞かないとお仕置きだからね」

「んびぃぃぃぃぃ("Q")おしおきやー!おしおきだめーーーーー!!!!」

「じゃあさっさと退いてね」

「あう!ゆい、もーきれいきれいおわたれす(^q^;)」

実はお仕置きと聞いてオムツの中で失禁してしまったのだが、幸いウンチは出なかったので憂にはバレなかったようだ。
憂は花入れに菊を突っ込み、線香に火をつけて香炉に立てた。

「あーうー(-人-)」

唯は殊勝に手を合わせ唸っている。
その姿を見ていた憂の内に自分でもよくわからない黒い怒りが沸々とわきあがってきた。

「お姉ちゃん、何してるの?」

「あう?おー…おーのりでつ!おばあちゃ、いてたれす(^q^)」

お婆ちゃんとは隣に住んでいた一文字のお婆ちゃんのことだろう。
両親の葬式のときには何かと世話を焼いてくれた。
それからすぐに亡くなってしまったが。

「ふーん…。大体さ、お姉ちゃんはお父さんとお母さんのことまだ覚えてるわけ?」

「あう(゚q゚)あー…あ~('q')あう!おとうさ、あいすくれたれす(^q^)」

そういえば父は唯によく物を与えていた。
今思うと甘やかすというよりは厄介払いのようなものだったのだろうが。

「あのさぁお姉ちゃん、この人たちはね、私たちを捨てたんだよ」

「あう?('q')」

苛立ちを抑えきれなくなった憂は香炉を蹴飛ばし、まだ火のついた線香を踏みつぶして砕いた。

「だからさぁ、手を合わせる必要なんかないんだよ」

「あ~、うーい?(^q^;)」

「子どもに憂鬱なんて名前つけて。何考えてるのかしらね」

冒涜はエスカレートし、靴の裏で墓石を何度も何度も蹴り飛ばす。

「うーい!ゆい、ぽんぽんすいたれす(^q^)」

「えっ?」

唯が憂の袖を引っ張って言う。
我を忘れて墓を蹴り続けていた憂は虚を突かれきょとんとした顔になった。

「ゆいぽんぽんすいたれす!まんまたべる!(^q^)」

「ははっ。そうだね、お姉ちゃんにはご飯のが大事か。お姉ちゃん、何が食べたい?」

「あうーあいすたべる!(^q^)/」

「もうアイスはデザートじゃない。お腹減ったんでしょ?」

「あうー…('q')あう!はんばぐ!」

「ハンバーグかぁ。いいね。じゃあ駅の近くでお店探そうか」

「あーあー!はんばぐ!はんばぐ!(^Q^)/」

二人は手を繋いで墓地を後にした。
風が、少し和らいだ気がした。

―――

「お姉ちゃん、アイスおいしかったね」

「あうー!あうー!あいすおいちーだた(^Q^)」

最寄り駅に着き、駅前の店でアイスを食べた二人は仲良く自宅への道を歩いていた。
唯は憂と繋いだ手をぶんぶんと振り回している。
憂も珍しく穏やかな表情で唯の好きにさせていた。

「お姉ちゃん、今日はお漏らししなくて偉いじゃない」

「あーう!ゆい、ぶぶぶーできる!えらい!(^Q^)」

「もう。今日だけじゃなく明日からもちゃんと続かないと―」

「あう?うーい、どちたれすか('q')」

憂が急に立ち止まり、唯はつんのめって転んでしまった。

「あれ?平沢さん?」

長い黒髪をツインテールにした小柄な少女が憂たちに目を止め駆け寄ってきた。
中野梓という憂のクラスメイトである。
壁を作り周囲と打ち解けようとしない憂にもめげずに話しかける心の優しい少女だ。
憂は返事をせず、唯の手を離し俯いている。

「今日学校休んでたけど、具合悪いの?」

「今日は、お墓参りに行ってて…」

「お墓参り…まぁ病気じゃないならよかった」

「うん…」

「あーうー(°q°)」

「あ、ごめんなさい一人で喋っちゃって。こちらの方は?妹さん?」

梓にそう聞かれると、憂は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「私の…お姉ちゃん…」

「そうなんだ。こんにちは。中野梓っていいます。憂さんと同じクラスなんです」

唯の姿を見て重度の池沼であることはすぐにわかったが、梓は内心の動揺を表情には出さず、笑顔で自己紹介した。

「あーう!あずなん!あずなん!(^Q^)ゆいはゆいでつ!なかよしがっこーでつ!(^q^)/」

唯は梓が気に入ったようで飛び跳ねて喜んでいる。それでは飽き足らず梓に抱きつこうとしたが、憂に『つかのま』と書かれた池沼トレーナーの襟を掴まれた。

「お姉ちゃん、お願いだからやめて」

「あう!ゆいとあずなんおともらち!なかよしつるれす!(`q´)」

「お姉ちゃん言うこと聞かないと―」

「いいよいいよ。大丈夫。唯さんとはもうお友達ですね」

梓はベタベタした不快な感触にも構わず唯と手を繋いでやった。

「あうーあずなんいいこいいこ(^q^)ゆいとあずなんおともらち!」

唯は先ほど憂としたように手を滅茶苦茶に振り回して大喜びだ。

「ごめんなさい…。お姉ちゃん、池沼なの…。気持ち悪いよね」

「ううん。そんなことないよ。いいじゃない無邪気で」

「ほんとに?」

「うん。ね、唯さん?」

「あーうーゆいとあずなんなかよし!うーいもなかよし!(^q^)」

「お姉ちゃん…」

憂にとって唯の醜い姿と池沼行動を見て態度が変わらない知人は梓が初めてだった。
信じては裏切られ傷つくことを繰り返し貝のように閉じた憂の心を梓の飾らない優しさがほぐしていった。

「平沢さんは部活やらないの?」

「その、お姉ちゃんの世話があるから…」

「そっか…。二人で暮らしてるの?」

「うん…」

「あう(゚q゚)」

「大変だね…。でも、たまには自分のために時間を使うことも大事だと思うよ」

「そう、かな」

「うーい、うーい(^q^;)」

唯が尻をもぞもぞさせて憂のコートを引くが、慣れない砕けた会話に気を取られた憂は気づかない。

「そうだよ!私、軽音部なんだけど楽しいよ。たまには唯さんにお留守番してもらって、一緒に演奏しようよ」

「でも、楽器とかできないし」

「大丈夫大丈夫。うちの先輩優しいしすぐ覚えるって」

「う、うーい!(^q^;) あう(゚Q゚)」

ブブブブブブボッブバチュウブバチュウブバチュウ!!

昼に食べた2人前のハンバーグ定食が入ったお腹をアイスが壊してしまったのだろうか。
いつもよりさらに大きな破裂音とともに唯の尻が茶色に染まり、オムツから零れたウンチがズボンの中を通って地面にべちょりと落ちた。

「あう…うーい…ごめんなたい(TqT)」

「えっえっ!?まさか……うっ臭い!!」

池沼行動にも動じず笑顔で唯に接していた梓も、この強烈なウンチ臭を前にしては冷静でいられない。
嫌悪に顔を歪めて唯の手を振りほどき、鼻を手で覆って後ずさる。
それは、憂が今まで何度も何度も見てきた『友だち』の表情だった。

「ごめんね…ごめんね…ごめんね…。お姉ちゃん、帰るよ…」

「えっぐひっく…ごめんなたい~(TqT)」

憂は唯の腕を掴んで梓と目を合わせることなく去って行った。

「あっ…」

我に返った梓が自分のしたことの意味に気付いたときには、茶色いウンチが足跡のように点々と残っているだけだった。

―――

ドカッ

「んひぃぃっ("q")」

憂は玄関の扉を閉めるなり唯を突き飛ばして転ばせ、唯の腹を思い切り蹴り飛ばした。

ドゴッ

「んぎょぉッう゛ーい゛”!やるぢで("q")」

「なんなの?私に何か恨みでもあるの?ねぇお姉ちゃん、私のこと嫌いなの?」

ドゴッ

「ん゛ぎいいいいぃぃぃぃ("q")ゆい、う゛ーい゛つきでつ!うーいごめんなたい!」

ドゴッ

「もういいよ。お姉ちゃんが私のことどう思ってるかわかったから。私は今までずっとお姉ちゃんのことを大切に思ってきたのに。絶対に許さないから」

ドゴッ

「むひぃ…("q")ンオエ」ゲロゲロゲロ

吐瀉物が三和土に広がり憂の靴を汚した。

「汚いなぁ…。掃除してよ、お姉ちゃん」

唯の顔を踏みつけゲロの海に溺れさせる。

「ん…ぎ…うーい…ごめんなた…ひっく」

「…そうだ。お姉ちゃんは私の友だちを奪ったんだから、同じことされても文句言えないよね…。そうだ…そうしよう…」

「うーい…ひっくひっぐ…ごめんなた…」

憂はゲロの中に顔をうずめて泣きじゃくる唯を放って靴を脱ぎ、二階に向かった。
「お姉ちゃーん!見て見て~お友達の豚さんだよ~」

「あう!(゚oo゚)ぶたさん!」

憂の左手には唯の大切なお友達である豚のぬいぐるみが、右手にはカッターが握られていた。

「これをね、こうして…ほらっ!」

ジィィィィ

豚の腹に刃を当て、切り裂いた。
さらに切れ目に手を入れ生地を破ると、白い綿が臓物のように飛び出した。

「あーう?ぶたさん?('oo')」

「ほーらお姉ちゃん、豚さん痛い痛いって。死んじゃうかもよ。ハハッ」

呆然とした唯に綿の出たぬいぐるみを放り投げた。
唯はゲロで汚れた三段腹でそれを受け止めると、ようやく事態を理解しわなわなと身を震わせて泣き出した。

「あ、ああああああぶーぶー!('oo')ぶーぶーだいじょぶでつか!?ぶーぶー!んぶぎい゛い゛い゛い”い゛い゛い゛い゛い゛い゛("oo")」

腹の痛みにも構わずぬいぐるみを強く強く抱きしめて号泣する唯を、憂はニヤニヤと笑いながら見下ろしていた。
姉妹の情など、もはやどこにもなかった。

「う゛ーい゛!う゛ーい゛!ぶーぶーさんいちゃいいちゃいれす!なおちて!!("oo")」

顔を涙とゲロでぐしゃぐしゃにした唯は傷ついたお友達を憂に差し出した。
そこには救いを求める心と憂への無条件の信頼があるだけで、憂が加害者であることなど微塵も考えてはいなかった。

「…………」

憂は予想外の唯の反応に一瞬戸惑ったが、すぐに元の下卑た笑みに戻り、今度は豚の眉間にカッターを押し当てた。

「わかった。お姉ちゃん、よく見ててね」

「あう…ぶーぶー…('oo')」

ジィィィィィィィィィィ

「あーう?(゚oo゚)」

豚の顔は滅茶苦茶に裂け、トーレードマークの不細工な鼻にもVの字の切れ込みができた。

「ほらほらお姉ちゃん。ぷぷぷっいっくよ~」

ビリビリビリビリッ

憂が裂けた生地を両手で引っ張ると、腹の切れ目と繋がり、中の綿が宙を舞った。

「あ~あ~お姉ちゃん、豚さん死んじゃったよ」

破裂した風船のようになった豚の皮をこれみよがしに唯の目の前でチラつかせ、震える手のひらに落とした。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

いつもの豚さんのような柔らかさが少しもなく、憧れだった巨大な鼻も引き裂かれ、手に持ったら形が崩れてしまう豚さんの残骸は、
重度の池沼である唯が死の概念を理解するのに十分な説得力を持っていた。

「あああああああああぶたさんんんんんん!!!!!!ああああああああああぐびゅううううううううううぶたさあああああああああああんん!!!!」

唯は大好きなお友達だった豚さんを抱きしめ、あらん限りの声と涙でいつまでも泣き続けた。
憂は、唯の慟哭がすすり泣きに変わってのそりと立ち上がるまで、その様を飽くことなく眺めていた。

―――

「む~ひっく(TqT)とんちゃ、ぶーぶーちんじゃったれす(TqT)ひっく」

雑巾で乱暴に顔を拭われ、ズボンとオムツを脱がされて下半身裸になった唯は、亀の水槽の前でめそめそと泣き続けていた。
すっかり薄くなってしまった豚さんは、唯の部屋の引出しに大切にしまってある。

「お姉ちゃーん、ご飯できたわよ~」

「あう…まんま…(TqT)」

立ち上がった唯はとぼとぼと食卓に向かった。


「あう?(゚q゚)」

食卓の唯の席には大きな皿が置かれ、何やら茶色い物体が載っていた。

「あ~う~い?こえ、なんれすか?(^q^;)」

「何って…お姉ちゃんのご飯よ?」

「あーう…こえ、ゆいのまんま?(^q^;)」

フライパンで炒め物をしている憂の背中に問う。

「そうよ」

「うーい、こえ、ちょこれとでつか?(^q^;)」

「ううん、お姉ちゃんが漏らしたウンチよ」

「ウンチ、まんま?(^q^;)」

「そうよ」

「うーい、ごめんなたい!(^q^)うーい、ごめんなたい!」

「どうしたの?急に謝ったりして。早く食べちゃいなさいよ」

憂はフライパンからペペロンチーノを皿によそい、自分の席に置いて食べ始めた。

「あーうー('q')」

「お行儀悪いわよお姉ちゃん。早く座って食べなさいよ」

「あ~、ゆい、ぽんぽんいぱいれす!まんまいらない!(^q^)」

「あら、ウンチいっぱいして吐いちゃったのにお腹いっぱいなの?」

「ゆい、とんちゃのまんまたべるれす。ウンチ、いらないれす(^q^)」

「へ~」

「んぎゃ(>q<)」

憂はペペロンチーノの載った皿をフリスビーのように唯に投げつけた。
皿が額に直撃してうずくまった唯の顔をスリッパで蹴り上げる。

「呆れた。とうとう私のご飯を食べなくなったのね。お仕置きに鞭打ちするから」

憂の手にはいつのまにか仕置き用の鞭が握られている。
鞭、といっても本来は単なるビニールの縄跳びで、持ち手の片方を切り離し鞭として使っているのだ。
5cmおきに作った結び目に針金を通したその縄跳びは、中世の拷問道具の趣を呈していた。

「おしおきだめー!びしーだめー!うーいごめんなたい!うーいごめんなたい!("q")んひぃぃっ(>q<)」

震えながら懇願する唯を蹴り飛ばして仰向けにさせると、剥き出しの尻に鞭を振り下ろした。

ビシィィィィ!!

「ん゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛("Q")」

ビシィィィィ!!

「お゛ん゛ぎょお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛("Q")」

ビシィィィィ!!

「ん゛”ぎ”い゛”い゛”い゛”い゛”い゛”い゛”い゛”い゛”い゛”い゛”("Q")」

唯の巨大な尻は見る見るうちに真っ赤に熟れたトマトのようになった。

「どう?ちょっとは反省した?」

「ん…ひぃ…("q")」

「お姉ちゃんは私のこと嫌いなんでしょ?私を怒らせたくてウンチを漏らしたりして迷惑かけるんだよね?」

「うぇぇっひっぐ…うーい、ゆい、ちがうれす(TqT)ひっく」

「何が違うのよ。私が一生懸命作ったご飯を食べようともしないじゃない。やっぱりお姉ちゃんは私のことが嫌いなんだね」

それを聞いた唯は泣きながら床に散らばったペペロンチーノを拾い集め、もそもそと食べ始めた。

「うーい、うーいのうどん、おいちーおいちー、ひっぐ(TqT)」

「お姉ちゃん、何してるの?」

「ひっく、うーい…まんま…おいちーでつ…」

唯は自分が憂を嫌ってなどいないということを重度の池沼なりに懸命に訴えているのだが、
その汚らしい惨めで下品な所作が憂をさらに苛立たせた。

「何してるのって聞いてるのよッ!」

「ん゛”っぎぃ」

唯の頭を思い切り踏みつけて言う。

「ねぇ、あんたさ、何なの?何であんたなんかが私のお姉ちゃんなの?」

「む゛ひぃぃ…うーい、いちゃいいちゃい…ゆるちて…」

憂はますます力を強めて踏みつける。

「んぎ、ぎ…とんちゃ、たちけて…」

唯は救いを求めて大切な大切なお友達の名を呼んだ。
お仕置きは憂のために受け入れるものと耐え忍んできた唯にとって、初めてのことだった。

「…………」

それを聞いた憂は足をどけて、憎悪に満ちた目で唯を見下ろした。

「そうか、そういえばまだそんなのがいたわね」

「あう?(TqT)」

「お姉ちゃんはお友達がいっぱいいて羨ましいなぁ。私なんて一人もいないのに」

亀の水槽に手をかけて言う。

「ああああああーーーー!!!とんちゃ、だめええええええええええええええ!!!!!!("Q")」

憂が何をしようとしているのか気付いた唯は、痛む体を引きずって憂の足に縋り付いた。

「うーい、とんちゃ、やめちぇええええ!!わるいこ、ゆいれす…とんちゃ、おりこーれす…」

「へぇ~。じゃあトンちゃんの代わりにお姉ちゃんにお仕置きしてもいいのかな?」

「あう!あう!わるいこ、ゆいれす!うーい、ゆい、おちおき!とんちゃ、おちおきない!」

唯は必死に首肯して大切なお友達を庇おうとするが、その様が憂の怒りに油を注いだ。

「友だちってそうまでして庇いたくなるものなんだね。本当に羨ましいなぁ。退いて、お姉ちゃん」

「んぎゃっ(>q<)」

憂は唯をふりほどくと、水槽を台から突き落とした。

ガチャン!!ザァァァァ

「あああああああああああああああああああ!!!だめええええええええええええええええええええええええ!!!!!!("Q")」

水槽の汚れた水がフローリングの床に広がる。
亀はひっくり返ってせわしなく足を動かしていた。

「あああああああああああっ!!とんちゃ!とんちゃああああああああああああああ!!!!!」

憂は亀に駆け寄ろうとする唯の鼻頭を蹴り上げて転ばせると、贅肉のたっぷりついた腹に鞭を振り下ろした。

ビシィィィィ!!

「んひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!("q")」

ビシィィィィ!!

「んひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!("q")」

ビシィィィィ!!

「んひいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!("q")」

「あ~あ~お姉ちゃん血まみれになっちゃったじゃない。いたそ~」

「むひぃむひぃ…うーい、とんちゃ、やめちぇえ…」

唯は全身から血を噴き出しながらも、お友達を守るため憂の足首を掴んで必死に懇願した。

「うるさいなぁ」

「んひぃぃぃ……」

憂は唯の背中に鞭を振り下ろすと、ひっくり返った亀の甲羅を蹴飛ばした。
亀はぐるぐると回転しながら転がっていく。

「とんちゃ、とんちゃああああああああああああああ!!!!」

無我夢中で亀に手を伸ばす唯の手を鞭で叩き落とすと、亀を足で小突きながら言った。

「私調べてみたんだけど。この亀、成長したら60cmにもなるらしいじゃない。
当然水槽も大きくしなくちゃいけないだろうし、そんな水槽、どうやって水を替えるの?
 この家には私と役立たずな池沼のお姉ちゃんの二人しかいないのに」

「ひっぐひっく、うーいやめちぇえええええ」

「しかも寿命も長くて20年も生きるとか。何の役にも立たないのにご飯だけはいっぱい食べて。
 ウンチをたくさんして部屋を臭くして。あれ、なんかこれってお姉ちゃんのことみたいだね。ハハハッ」

「うーいぃぃぃぃやめちぇぇぇええええええええええええええええ」

「こういう邪魔でしかない生き物はさ、小さいうちに殺しちゃったほうがいいんだよ。よく見ててね、お姉ちゃん」

憂は亀の上で足を持ち上げた。
大切な大切なお友達が踏みつぶされそうになった、その時―

「むふううううううううううううううううううううううううううううううううううう(`q´)」

「えっ!?」

ドンッ!!

お友達を助けるため立ち上がった唯は、痛みも忘れて憂に全力で体当たりした。
憂は咄嗟のことに受け身も取れず、テーブルに頭をぶつけてぐにゃりと倒れた。

「むあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(`oo′)」

唯は傍らに落ちていた水槽用の岩を拾い上げると、憂に馬乗りになり、その顔へあらん限りの力で叩きつけた。

ゴッ

「とんちゃ、だめ!!!」

ゴッ

「とんちゃ、だめ!!!」

ゴッ

「とんちゃ、だめ!!!」

憂は抗おうとしなかった。頭のうちどころが悪かったのか、四肢に力が入らず脳裏には濃い靄がかかっている。
唯の声と自分の顔に岩がぶつかる鈍い音をどこか他人のことのように聞きながら、
お姉ちゃんは、私がいなくなったらどうするのかな、と思い、憂の意識は沈んでいった。

「とんちゃ、むううううううううううううううう!!アウアウアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!(`oo′)」

―――

「あうっ(゚q゚)」

唯が気付いたときには、憂の頭部は血まみれになり顔の突起もすべて潰れ元の形が分からなくなっていた。
唯の体にも返り血がべっとりとついている。

「うーい、うーい!(゚q゚)」

呼びかけても揺すっても、憂が起き上がることはない。

「うーい!(゚q゚)…あう、うーい、ねんねでつ(^q^)」

唯は手に握った岩を放り投げて立ち上がった。

「あう!(°q°)とんちゃ、とんちゃ、だめでつ!まいご、だめ!(>q<)」

いつの間にか地に足をつけた亀は惨事から逃げようとするかのように足をぎこちなく動かし遠ざかっていた。
血だらけの唯の手が大事そうに亀を抱え上げた。

「あうーおみず、おみずキョロ (゚ρ゚≡゚ρ゚) キョロあう!」

台所にあるアヒルの絵が描かれたビールジョッキに目を止めた。
唯が朝食のときに使ったものだ。洗わずに放っておかれたのだろう。
水も半分ほど入っていたのでその中に亀を放り込む。

「とんちゃ、あいるたん、いしょ!(^q^)」

「んひぃんひぃ("q")」

ドデン

「あうっ!(>q<)」

唯は茶色や黄色の染みだらけのタオルケットを持って階段を下りてきた。
唯が寝るときに使っているものだ。
悪戦苦闘しながら引きずり、憂の体にかけてやった。

「うーい、ぽんぽんいちゃいなるれつよ(^q^)」

「うーい?('q')」

ユサユサ

「あう…('q')」




「ぐがぁぁぁぶるすぴいいいいい(-q-)あう(~q~)」

グキュルルルル

「あう…ゆい、ぽんぽんちゅいたれす('q')」

ユサユサ

「うーい、うーい、ゆい、ぽんぽん('q')」

ユサユサ

「うーい?(゚q゚)」

ユサユサ

「うーい!!うーい!!!(゚q゚)」

………………………………

「うーい……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

―――

梓はケータイの地図と格闘しながら憂の家を探していた。
どんよりとした雲は昨日から変わらず、天気予報では日が暮れてから雪になるだろうと言っていた。
吹きすさぶ風に縮こまりながら、昨日のことを思い返していた。

憂たちが逃げるように去ったあと、梓の胸に凄まじい後悔が襲ってきた。
憂の人を寄り付かせない雰囲気、あれはきっと、先ほどの自分が見せたような態度を恐れてのことだったのだ。
物憂げに窓の外を見つめるあの横顔に惹かれて仲良くなりたいと思っていたのに、まるで正反対のことをしてしまった。
悔やんでも悔やみきれなかった。
正直重度の池沼である唯にはまだどう接していいかわからないが、たとえ姉妹でも唯と憂は別の人間だ。
唯と本当の意味で親しくなるには時間がかかるかも知れないが、憂とはきっと仲良くなれるはずだ。

次の日朝一番で謝ろうと思っていたのに、憂は学校に来なかった。
担任に聞いても連絡は来ていないという。
こんな状態では部活に身が入らないと思った梓は、軽音部の先輩に事情を話し、学校を飛び出した。

ルート案内の指し示す目的地の近くに来ると、主婦と思しき中年の女性たちが井戸端会議に花を咲かせていた。
梓は目的の家の場所を聞こうと彼女たちに近づいた。

「あの!」

「あら、なあに?」

「この辺りに平沢さんという方は住んでいらっしゃいますか?」

「ええ、平沢さんのお宅はこちらですけど…」

と背後の家を指し示す。裕福な家庭なのかかなり大きな一軒家だ。

「そうですか。ありがとうございました」

「あなた、平沢さんに何か用事?」

「はい、そうですけど…」

そう言うと彼女たちは顔を見合わせた。

「何か?」

「いえね、何か今日の朝から変な泣き声がするんですよ、この家から」

「泣き声…?」

言われて耳を澄ませてみると、たしかに動物の悲鳴のような唸り声がする。

「それで、警察とか救急車とかに連絡したんですか?」

「いえいえ、そんな、ねぇ」

女性がとんでもないというように首を振ると、他の人もうんうんとしきりにうなずいた。

「ここの家は…ほら…」

と口ごもる。恐らくは池沼の唯のことだろう。

「そうですか。わかりました。ありがとうございました」

梓がお辞儀をして玄関に上がると、背中から声がかかった。

「あなた、やめといたほうがいいわよ!」

ムッとした梓はそれには答えずインターホンを押した。
1分ほど経っても反応がないのでもう一度押してみたが、やはり何の物音もしなかった。
試しにドアを押してみると、鍵がかかっていないようで何なく開いた。

「ごめんください…」

逡巡の末、そのままドアを開けて滑り込んだ。

「うっ…何?これ」

中に入ると、凄まじい悪臭に襲われた。
三和土には未消化の食べ物や得体の知れない黄色い染みが大量に飛び散っている。
どう考えても片づけずに放っておくものではない。

「が”ぁあ゛あ゛ー!が”ぁあ゛あ゛ー!」

家の奥からは、さきほど外で聞いた奇怪な声がする。
ただ事ではないと感じた梓は、靴を脱ぐことも忘れリビングに駆け込んだ。



「ん゛ぐ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!ん゛ぐ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」

滅茶苦茶に散らかった部屋の中には、顔の部分が一面赤黒い人間のようなものと、それに縋り付いて泣き叫んでいる唯がいた。

「ひっ」

梓の脚から力が抜け、思わずその場にへたり込んだ。
倒れている人の顔は判別できないが、髪に纏わりついたトレードマークの黄色いリボンから憂だとわかる。
確かめるまでもなく、明らかに死んでいる。今さら救急車など呼んでも意味がないだろう。

「ん゛が゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!ん゛があ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」

唯は梓が入ってきたことにも気づかず泣き続けていた。
目は真っ赤に充血し、絞り出すような掠れた声だった。恐らく朝からずっとこうなのだろう。

「ん゛あ゛ぁぁああぁぁぁぁ……ぅーぃー」

憂の顔と同じ赤黒い色に染まった唯の手から事の顛末は朧げに察せられたが、不思議と怒りはわいてこなかった。

ただ、
ああ、この人は一人ぼっちになってしまったんだな
と、ぼんやりした頭でそう思った。




だが、次の瞬間…!!
「うーぃ……ああああああっ……グググ…グギ…グルォォォン!!!!!!!!」

唯が咆哮を上げた。
そして、憂の体に噛み付いた。

唯は長い間皮膚を噛んでいたが、とうとう憂の腕の肉を噛みちぎった。
「ガツガツ…むしゃむしゃ…」

そう、カニバリズムである。
その光景は梓も戦慄するものであった。

なおも唯は憂の小腸や肝臓、肺を貪り食う。
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最終更新:2023年09月25日 20:29
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