池沼唯の消失

池沼唯の消失



358 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2013/07/19(金) 21:45:48.21 ID:mYTDQgwZ0

「うーい、あいすー!あいすー!」
「アイスはさっき食べたでしょ!?お姉ちゃん」
「やー!あいすよこすー!びええええええええ!」
まったく、いくら暑いからって唯のこの我儘には憂もほとほと困り果てる。いや、困るを通り越し、憂の神経は荒みきっていた。
「うーいのばか!しーね!しーね!」
唯の罵詈雑言が、すり切れた憂の神経をこれでもかと刺激した。とうとう憂はバンとテーブルを叩く。唯が静かになった。
「何で、なんでお姉ちゃんはいつも私の邪魔するのよ!どうしてわがままばかり言うの!もう嫌!いやよお!」
憂はテーブルに突っ伏し、泣き出した。憂は今まで唯のために青春の何もかもを犠牲にしてきた。友達、遊び、恋愛、勉強…。だが池沼の唯はよくなるどころか日に日に悪くなり、勉強もせずわがままばかり。なかよし学校も退学寸前だ。
そんな生活に憂はもう疲れ果てていた。せめて唯がここに来て、一度でもいい、ありがとう、迷惑かけてごめんなさい、そう言ってくれたら…!
「うーい、だいじょぶ?」
ポンポンと頭に手のひらの感触を感じ、憂は顔をあげた。唯が心配そうに憂を見ている。
「うーい、ごめなたい。ゆいあいすいらない。なかないで、ごめなたい」
「お姉ちゃん…!」
憂は唯をぎゅっと抱きしめた。不快な池沼臭も全く気にならない。
「お姉ちゃん、もういいよ、もう…」
「うーい、ありがとう」
それこそが憂の一番聞きたかった言葉だ。憂はもう一度号泣した。

それからの唯は目を見張るスピードで「よくなった」。
勉強を頑張るようになり、そのかいあってどんどん読み書き計算を覚え、遂に高校レベルの問題を解けるようになった。言葉も健常者レベルにしっかりしたものとなった。なかよし学校の先生にも、もうここに来なくていいと言われるほど。
オムツもとれた。また、ダイエットするようになったため、もともと食べても太らない体質の家系なのですぐに憂と区別の付かなくなるほどやせた。それに伴い、顔も憂そっくりな可愛らしいものとなった。
相変わらず根は怠惰で身の回りの世話が必要だが、前ほどわがままを言って憂を困らせることはない(つまり、アニメの平沢唯をイメージしてもらえればいい)。
憂は嬉しかった。かつては苦痛なだけだった姉の世話が全く苦ではなくなった。今や、姉のすべてが大好きだった。

「憂、これどうかな?」
「うん、可愛いよお姉ちゃん」
ある日、憂と唯はショッピングに来ていた。いつも「おやつ」「ロマンス」とだけ書かれた変なTシャツで満足していた唯と、こんな日が来るなんて。憂は嬉しくて仕方がなかった。
たくさん買って重い袋をぶら下げながら、二人は帰りに憂の友人、梓と純と出会う。
「あずにゃーん!」
「きゃあ、唯先輩!」
唯は梓に抱き着いた。以前なら迷惑でしかなかっただろうが、今となっては微笑ましい図だ。憂は得意げに話す。
「びっくりしたでしょ。話してた通り、お姉ちゃん凄い変わったんだよ。池沼が治って綺麗になって、今じゃ一緒にショッピングにも行けちゃうんだから」
「憂のおかげだよ!」フンス

「へ、へえ・・・」
二人はまだ半信半疑のようだ。
「あの、具体的にどこg」
「そうだ!梓ちゃん、軽音部だよね」
「う、うん」
「お姉ちゃん、軽音部に入ってみない?」
二人は本格的に驚きを隠せない顔になった。
「ええ~?わたしにできるかなあ」
「お姉ちゃんなら大丈夫だよ。ねえ、梓ちゃん、純ちゃん。お姉ちゃんって絶対音感あると思うんだ。こないだギターショップでギター触らせてもらった時、初めてなのに上手にひけたんだよ!」
「いや~それほどじゃないよ憂(フンス)。だけどあずにゃんといっしょに部活できたらうれしいな」
「せ、先輩に相談してみます」
梓はまだひきつった顔をしていた。純も言う。
「ごめん憂。私たちこれから用事があるんだ。また学校でね」
「うん、バイバイ二人とも」
「ばいばいあずにゃん、純ちゃん」
二人が去っていった後、憂はため息をついた。
「いきなりでまだわかってもらえないかな…でも、あの二人だもん。きっとわかってくれるよね」
「うん!憂、帰ったらアイスがほしい」
「はは、そうだね」
二人は寄り道をせずに帰った。

それから憂は何度も梓の属する軽音部に唯を連れてきた。唯はどの楽器にも興味津々だった。しかし軽音部のメンバーや顧問は唯を入れてほしいという憂の欲求を渋った。桜ヶ丘に入れてほしい、という欲求にも先生は困った顔をした。
元池沼なのだから仕方ない、いつか分かってくれる。憂はそう自分を納得させた。たとえ唯が学校や部活に入れなくても、きれいな唯が帰ったら自分を待っていてくれる。憂はそれで満足だった。憂は次第に池沼だったころの唯を忘れた。

「憂ちゃんもお茶飲んで行って」
ある日、いつものように唯を連れて軽音部に遊びに来ていた時のこと、紬がそう切り出した。
「いいんですか?私も」
「遠慮しないで」
「ムギちゃんのお茶はおいしーよー」
唯もすすめる。お茶をごちそうになることは憂も初めてではなかったので、憂はそれに甘えた。
「ありがとうございます」
紬は唯やほかの軽音部メンバーにもお茶を入れ、それに砂糖を混ぜた。「はいどうぞ」と憂に真っ先に渡したお茶にだけ、砂糖と違う何かが混ぜられたのに憂は気づかなかった。
憂は疑いもせずそれを飲み、軽音部との会話を楽しんだ。
異変が起こったのは、憂と唯が家に帰ってしばらくしてからだった。

「いやああああああああああああああっ!」
憂は悲鳴を上げる。乱雑に散らかるリビング、ダイニング。強烈な悪臭と、ところどころに散在するるウンチとおしっこ。封を切られテーブルに置かれた、なかよし学校退学の手紙。
そして何より。
「うーい!あいす!あーいーすー!」
冷蔵庫の前でわめき続ける巨体の化け物!全身醜く太り、汚れている。あれはなんだろう。怖い、助けて、お姉ちゃん。唯を頼ろうとして憂は唯がいないことに気がついた。そんな、さっきまでここにいたのに。
「うーい!はやくあいすよこすー!」
ああ、あいつだ。あの化け物がお姉ちゃんを食べたんだ。恐怖が怒りへと変わる。憂は傍にあったナイフをつかみ、化け物へと切りかかった。今助けるからね、お姉ちゃん。

「ムギ先輩が盛ったのは、幻覚を覚ます薬だったの。遅効性の。みんなで計画したことで、誰一人止めなかった」
数日後、梓は純にそう話していた。純もうなずく。以前から二人は唯が良くなったと聞かされ、憂の笑顔を喜んでいた。
しかしあのとき梓に抱き着いた、何ら変わっていない唯を、いつもと違って止めようとしない憂を見て、二人は何かがおかしいと思わずにいられなかった。
まともに言葉を発しない唯となんでもないかのようにかみ合わない会話をする様子を見て、疑問は確信へと変わった。
「この頃の憂、唯先輩の池沼が直ったっていう幻覚を見てたもんね。よくなるどころか、憂が面倒見ないからますます汚くなってたのに。でも、憂は本当に幸せそうだった」
「憂は唯先輩にずっと苦しめられてたもんね。ああなっちゃっても仕方ないかも」
「でも・・・軽音部に唯先輩を入れるわけにはいかなかった」
「今でも思うの。憂はあのままのほうが良かったんじゃないかって。我慢して唯先輩を軽音部に入れてればよかったんじゃないかって…」
梓は泣き出した。純はそんな梓を優しく支える。
二人が向かう先は精神病院。唯を殺害した憂が入れられたのだった。

個室に入れられた憂は梓や純を笑顔で迎えた。以前の憂と何ら変わらないその様子はとても精神病の患者とは思えない。
憂は幸せそうだった。
それはそうだろう。憂は最愛の姉をやっと見つけたのだから。
憂は手鏡を取り出し語り掛ける。
「ねえお姉ちゃん、梓ちゃんと純ちゃんが遊びに来てくれたよ」
「あずにゃ~ん。来てくれてうれしいよ」
「ごめんね、今お茶入れるから」
「う、憂それ・・・」
「ん?お姉ちゃんがどうかした?」
鏡には憂の、憂の中の唯そっくりの顔が写っている。
純と梓が帰った後も、憂は鏡に語り掛け続けた。交互に声を変え、口調を変え。部屋の外で聞き耳を立てれば「この部屋には二人の人がいる」と思わずにいられないほど。
「お姉ちゃん、退院したら今度こそ軽音部に入れてもらおうね」
「憂は優しいね。早くギー太ひきたいなー」
「ふふ、そうだね」
「でもまたあの化け物が襲ってきたら怖いよ。憂が助けてくれなきゃどうなってたか…」
「大丈夫。今度はきっと、あの化け物は襲ってこないよ。私が守ってあげるから。ずっと一緒だよ、お姉ちゃん」


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最終更新:2016年12月23日 13:20
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