でんちゃっちゃ

でんちゃっちゃ


――とある日の昼下がり――

唯「うー、うー?(^q^)」

唯はテレビの前で一人唸っていた。画面には線路を走る電車の姿が映っている。
重度の池沼である唯は、当然ながら一人で電車に乗ることはできない。また、ホームとの間にある溝に落ちることを危惧して、憂は唯を連れて電車に乗ることは一度もなかった。
つまり、唯は今まで電車を見たことがなかったのだ。

唯「う゛ー('q')」

ぴかぴか光る車体が、物凄い速度で走っている。
豆粒より小さい唯の脳内は、『あれはなんだろう』という疑問と、『すごい! かっこいい!』という感想で一杯になった。

唯「うーい! うーい!(^q^)」

憂「はいはい。なあに? お姉ちゃん」

庭で洗濯物を干していた憂は、姉が自分の名を呼ぶのを聞いてすぐ様駆け付けた。日々の介護で心なしかやつれている。

唯「うーい!(^q^)こえ、なんでつか!?(^q^)」

憂「これ? これはね、電車っていうの。乗り物だよ」

唯「でんちゃ、でつか?(゜q゜)」

憂「うん。電気で動く乗り物だよ」

唯「ぶーぶーでつか?('q')」

憂「似たようなものだよ」

唯「うー?(^q^)」

憂の言葉を聞いて、唯は一瞬だけ黙り込んだ。
あ、これは面倒なパターンだ、と憂の感が警鐘を鳴らす。
憂は大きくため息をついて、脇に抱えた空の洗濯籠を床に放り投げた。

唯「ゆい、でんちゃ、あうでつ(^q^)!」

憂「危ないわよ」

唯「う゛―う゛(`q´)」

憂「お姉ちゃん、やめよう?」

唯「ゆいのいうこときかない、ういわるいこでつ(`q´#)」

憂「私はお姉ちゃんの安全のために――」

唯「わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!(`q´#)」

怒り狂った唯はすぐ側に置いてあったテレビに体当たりをした。
台の後ろへ倒れこんだテレビは、上に乗りかかってきた唯――体重100キロを超えるデブ――に耐えられずに大きな穴を空ける。

唯「びえーーんゆいいたいーーーー!(>q<)」

憂「あああああ泣き止んでお姉ちゃん! わかったわかった、連れてくから! でも見るだけよ?」

唯によって破壊されたテレビは、日々の疲れを癒すために買ったもので、細やかながら憂の生きる糧となっていたものだ。
それを破壊されて憂は泣き出したくなったが、持ち前の精神力でなんとか堪える。これ以上物を壊されたらたまらないので唯を宥める必要があり、泣く余裕もなかった、というのもあるが。

唯「あああああああでんちゃたんちじゃたでつ!!(>q<)ひっく……びえええええええん……(TqT)」

テレビの画面から電車が消えたことで『でんちゃたんがいなくなってしまった』と思い込んだ唯が泣き止むまで、憂はしばらく唯の機嫌をうかがわなければならなかった。

憂「ついたよお姉ちゃん。ここが踏切」

唯「ふーきーたんでつか('q')」

壊れたテレビもそのままに憂がやってきたのは、最寄にある駅だ。桜ヶ丘へ向かう通学路とは反対方面の駅である。

唯「でんちゃたん、いないでつ(‘q’)」

憂「あと数分で来るよ」

唯の方を見向きもせず、あらぬ方向に視線を向けたまま憂は答えた。

少女A「もう、お姉ちゃんったら……」

少女B「えー、だってさ、あの時の……」

唯「ほーげー(°q°)」

憂「………………………………」

踏切の前で立ち尽くす平沢姉妹の横を、学生服で身を包んだ、部活帰りと思われる二人の少女が通過していった。

憂(あ、あの人たち、姉妹なのか……)

憂の目に、仲睦まじい様子の姉妹の姿が映る。羨望の眼差しでそれらを見つめた後、隣りでボーっとする唯を見てため息をついた。

もし唯に障害がなかったら、自分もああいう風に楽しく暮らせたかもしれない。
介護に追われて疲れ果てることもなかったかも……。
しかし、そんな想定は無意味だ。憂の姉は相変わらず最重度の池沼だし、憂の肩には介護と家事が子泣き爺の如き重さで伸し掛かっている。
あまりにも惨めな自分に、憂は泣きたい気分に襲われた。

「う?(^q^)」

ガタン、と音が聞こえた。黄色と黒で塗られた遮断機が下りてくる。電車が走ってきたのだ。

唯「わ゛ーわ゛ー!!\(^Q^)/でんちゃたん!でんちゃたん!(^Q^)」

唯のテンションが急激にあがる。だらだらとよだれを垂らして喜ぶ唯は、電車の前に躍り出た。知能が低い池沼故の行動である。
唯「でんちゃでんちゃでんちゃっちゃー!!(^q^)」

憂「あっ! 危ない!」

 普段なら決してこういった行動を許す憂ではないのだが、考え事に浸っていてつい行動が遅れてしまった。慌てて唯の腕を掴んで線路の外へ出そうとするが、憧れの電車を前にした唯はなかなか強く抵抗してくる。

憂「あっ……」

この時――憂の脳裏の、ほんのわずかなところに、とても恐ろしい考えが浮かんだ。
いや、考えというより、ほんの一瞬の気の迷い。悪魔の誘いと言ってもいいかもしれない。
もし憂に正常な判断をする余地が残っていたなら、こういう結果にはならなかっただろう。しかし、身心ともに摩耗しきった憂には、正常な判断能力などあるはずもなかった。
憂はあらゆる分野において発揮する恵まれた才能を生かして、一つの演技をした。
知的障害を持つ姉の暴走を抑えきれずに手を放してしまい、突き飛ばされるという『演技』だ。
憂の手から放たれた唯は、満面の笑みを浮かべて『でんちゃたん』へと向かって行く。
その結果は――言うまでもない。
轟音と、周囲に広がる血と肉の臭い。

憂「あ、――お、お……おね……」

頬に赤い液体を感じた憂が我に返った時には唯の姿は見当たらなくなっていた。その代わりに
転がっている肉塊――。

憂「お姉ちゃん……」

真っ青になった憂が近付こうとする。周囲にいる人――憂の演技に騙された善良な人たちだ――が、肉親を失ったばかりの哀れな少女が傷つかないように引き留めようとする。

見ない方がいい!
俺は救急車に電話するから、お前は鉄道会社に!
そんな……肉親の目の前で……こんな事故が……。

憂「事故じゃないんです……違います……。私が……」

もういい! 君は悪くない。何も言うな!

憂「私が……わ、私が、ころ……した……」

この子をどこか遠くの場所へ!

憂「ごめんね……! お姉ちゃん、ごめんね……! う、うわああああああああんッ!」



おわりでつ(TqT)ゆい、ちじゃいまちた('q')

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最終更新:2023年06月05日 00:13
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