北上麗花「寂しがり屋のLacrima」
執筆開始日時
2017/09/11
概要
「麗花、いつもとは勝手が違うステージだけど、緊張してないか?」 
「いえ、ぜんぜん! おっきなステージだから、お客さんもたくさんですよねっ。楽しみです!」 
「そ、そうか。麗花は流石だな」 
いつもの劇場を離れて、しかもソロステージ。いつもと違った景色を見せてくれる舞台裏で私に気をつかってくれるプロデューサーさんのほうが、むしろ緊張してるみたいだった。なんだかいじらしくて、でもそういう優しさがすごくうれしい。 
ちょっとだけワガママを言っちゃおうか。こうして私を見てくれているから、甘えてしまっても受け入れてもらえる気がした。 
「でもでもー……はいっ、プロデューサーさん!」 
「……? 麗花、えっと……?」 
「はいっ!」 
プロデューサーさんに向けて、ほんの軽くかがみながら頭を差し出す。ちょん、ちょんと強調してみたりなんてして、どうしてほしいかは主張できてると思うけど。 
「えーっと……これでいいのか?」 
プロデューサーさんはくしゃくしゃっと頭をなでてくれる。髪型が崩れないくらいの適度な強さが心地よくて、胸の奥がとくん、って高鳴るのを感じた。 
「ぴんぽんぴんぽーん! 大正解です、プロデューサーさんっ。ナデナデされるとふにゃーってして安心します。お父さんみたいですね、プロデューサー……ううん、パパデューサーさん!」 
「そ、そうか。はは、まあ元気が出てくれたなら何よりだよ」 
麗花はしょうがないな、と言わんばかりの笑み。それでもそういう笑顔をもっと向けてほしいなって思う。ほんとはね、撫でてもらうとほっとする以上に、その何倍も何十倍もドキドキしてるんだよ。……ヒミツだけど。 
だって、おどけて楽しそうにしていればごまかせるってわかっちゃってるから。この気持ちがバレなければ、いつだってこうしてもらえる。やめてほしくなんてないよ。 
ほっぺたがぽかぽかして、幸せいっぱいな気持ちのままお客さんみんなの前に出られることがうれしい。素敵なエールだな、って思ったり。でもちょっとだけザイアク感? 
ゆるやかに笑って、視線だけをプロデューサーさんに向ける。 
「それじゃあ、行ってきますね、プロデューサーさん!」 
歓声は止まず、ステージは大成功だった。プロデューサーさんはすごくうれしそうに私を迎えてくれた。だから、つい欲が出て。 
「プロデューサーさん、私……今日の公演がうまくいったご褒美がほしいなーって」 
「今度のクリスマス、一緒に過ごせませんか?」 
 ……なんてなんて。そう言って冗談にしてしまえれば、よかったのに。 
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最終更新:2020年05月26日 20:54