裁符「閻魔様にお任せ」
「閻魔様に会いに行くって、急にどうしたのよ、ルーミア」
御札を剥がす前に、髪を梳いてくれながらリトルは疑問を投げ掛けた。
「定期的にお会いする事にしているのよ。私はとりあえず、そこそこにやってるってね」
何とも釈然としない言い方だが、とりあえずリトルは納得してくれた様だ。
「はい、それじゃ剥がすわよ」
自分ではどうやっても解けない封印が実に簡単そうに開放される。
それと同時に封じられていた力が体中に満ちる。
小さい体のままだと、そのまま溢れ出してしまいそうな膨大な量の妖力だが、封印の開放と同時に本来の姿に戻る為、そういう事は無い。
「夕刻までには帰ると思うわ。
多少、酒臭いかもしれないけど我慢して」
「会うだけじゃなくて、酒盛りもするんだ」
「それが挨拶よ」
死者のみが訪れるとされる無縁塚、しかし実際は閻魔に謁見しようと思う生者も訪れる。
尤も、そんな考えを持つのは私ぐらいだろうが。
「お久し振りです。閻魔様」
久し振りに会った閻魔は、珍しく退屈そうに書物を読んでいた。
こんな余裕があると言うことは、死者が少ないのだろう。
「ルーミアですか、お久し振りです」
こちらに目を移しながら四季映姫・ヤマザナドゥはかなり古い物だと分かる黄ばんだ巻物を綺麗に巻き直し、筒に収めた。
「裁判記録、でしょうか。
映姫様は過去を振り返らない御仁だと存じていましたが」
「ふふっ、私に皮肉を言うなんて、あなたも自信を付けられたと言う事でしょうか、吸血鬼一人負かして」
「まさか、私は以前から自信たっぷりですわ」
幻想郷を見渡しても、ここまではっきりとこの人物に対してこんな口を聞けるのは間違いなく、私だけだろう。
だが、既に背中には嫌な汗をかいている。
「そうですか。
私だって、たまには過去を見つめ直そうと思う事はあります。
あなたもそうではありませんか?」
「私は刹那主義ですからね、あまりそう言った意識はありません。
そりゃあ、過去に積み上げた物は大きい方が良いとは思いますが」
「以前お会いした時とは意見が食い違っている様ですが?
そんなにあの吸血鬼との一悶着はあなたに大きな影響を与えたのでしょうか」
「ですから、そんな訳ありません。
もう、随分と昔の話です。覚えていませんよ」
「世間一般から見れば、つい最近です。
ならば、それはあなたの時の流れが早いと言う事。
そんなに充実しているのですか?その後の生活は」
やはり、この人物は私も苦手だ。
「ええ、以前よりずっと。
死戦を乗り越えてみれば、ずっと仲は深まるものですよ」
「なるほど、それならこの心配は取り越し苦労だったと言う訳ですね」
「どういう意味でしょうか」
「もし、あなたがあの件を通して悪い方に変わっているのでしたら、ここで裁いてしまおうと思っていたのですよ。丁度今は私も暇ですし」
「裁判記録をご覧になっていたのも、私の様な重罪人にはどんな罰が相応しいのか、調べられていたのですか?」
「その通り、とりあえず百年程磔刑にするのが良いか、と思い付いた所でした」
「聖者は十字架に磔られました。ですか?
映姫様も相変わらず、お戯れがお好きな様で」
「あなたに言われたら、世話がありません」
「はは、そうですね。
所で、お暇なのでしたらどうです?軽く一杯」
「良いですね。お酒なんて滅多に飲めません。
お気遣い、感謝します」
「そう言われると思い、今日は多めに用意しています。
心行くまでご堪能ください」
とりあえず、他人を酔い潰させる事に関して、私は長けている。
何時からこんな事が得意技になったか知らないが、おおよそリトル関連であろう。
しかし、初めて飲ませる相手にこの事を実行するのは、あまりにリスクが大き過ぎた。
「どうです?もう一杯」
口先では同意を求めるが、実際は強引に杯に酒を注ぎ、それを握らせる。
「んっ、ルーミア、もう良いです。あまり飲み過ぎると体によろしくっありませ、ひっく」
「あら、そうですか。私はまだまだ飲み足りないのですが」
「後はっ、ルーミア一人で楽しんでくださいっ、なっ」
「はい。しかし、一人酒は寂しいですねぇ。折角映姫様がいらっしゃると言うのに…」
「うっ、そ、そうですか?それなら、まだもう少し…」
最終更新:2008年08月02日 00:40