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拍手お礼SS No.2

プレインエイジア

東方夜想天 ~ Night of End Rhapsody

前編


「ああ、今日はそういえばそうだったな」
明日の寺子屋の授業の確認を終え、夜の空気でも吸おうと外に出た上白沢慧音は、空に浮かぶ上弦の月を見上げながら不意に呟いた。
「半分だけの月…懐かしいな…もうどれぐらい前の事だろうか」
梅雨も終わり、これから本格的に夏が到来しようとしている。
そんなこの時期の夜は既に寝苦しい暑さがあり、戌の刻を過ぎた程の今ではまだ寝るのにも早過ぎる。
「折角だし、久し振りにあそこに登ってみるか」
夜となった人間の里には妖怪も多く来訪し、専門の店で買い物をしたりしている。静けさとはまだ程遠い夜道を進み、里を抜ける。
すると、目の前には小高い丘が現れた。
丁度里の裏にあるためよく「裏山」と言われるのだが、実際はそれ程高くも無い丘なので「裏丘」と言う表現が正しい。
もっともその表現を使っている者は誰もおらず、慧音に至っては「あそこ」、「あの場所」と言い、具体的に「裏丘」を表す言葉さえ出て来ない。
その「裏丘」はその言葉が表す通り、少し傾斜がある程度で、山の様に「登山する」という表現は似合わず、単純に「登る」と言うのがしっくりくる。
正しく言うのならばこれも「登丘する」と言うべきなのだろうか。
本当にあっという間に丘の上に到着すると、見慣れない人影がそこにあった。
何度も重ねているが、その丘は非常に低く、地上低い場所からでもその頂上を見る事が出来る。
当然、登る前からその人影を確認する事は出来た。



何故か足音を立てない様に警戒してその影に近付くと、それは少女の姿形をしている。
妖気と言う物も感じられないため、妖怪と言う訳でも無い様だ。
こんなにはっきりしているのだから幽霊の線も考えられない。
まさか八百万の神でも無さそうだし、翼や特徴的な耳も見受けられないため、天狗や妖獣でも無い。
とりあえず人間だと考えて間違いは無いだろう。
今度は態と生えている草を音を立てる様にして踏み歩き、己の存在をそ少女に伝える。
十分に声が届く距離ではあったし、当然ながらその少女もここに登って来る慧音の存在は確認していたはずだから、そんな事をする必要も無かっただろうが、一度は存在を隠す様にしていたため、そのままにして置くのは失礼に中る。
「どうだ?此処から見える月は綺麗だろう?」
少し目線が上になっただけなのだが、小高い丘から見える月はより美しく見える。満月もこの場所から見れれば良いのだが、残念ながらそれは諸々の事情で叶わない事だ。
ほんの少しの間を置き、少女は言葉を返した。
「ええ、気味が悪い程に近く思えるわね」
月に何か良く無い思い出でもあるのだろうか、大凡の人間は素直に美しいと答える質問を少女は嫌味で返した。
「そう言う事は無いだろう?此処は私のお気に入りの場所なんだ」
少女のすぐ近くに腰を下ろしながら慧音はその嫌味に応える。
小さな音と共に座った瞬間、少し少女が身を引いた様に感じたのは気の所為か、はたまたそうでも無いか。
「あなたは月を見ている年数が短いからそう言えるのよ。私はもう、とっくに見飽きてしまっている」
奇妙な少女だ、そう永く生きている類の者には見えないのに、全てを悟ってしまった様な事を言う。
実は慧音はこういう者に出会うのは初めてでは無い、見た目はただの人間なのに実際は千年以上と言う年数を生きている。そんな少女に出会い、今も交流を続けている。
しかし、そうその少女と同じ様な境遇の者が多く居るとは考えられなかった。
「そうか、お前には私がそんなに幼く見えるのか?
ふふっ、これでも里では美人の歴史家で通っているのだがな」
少女は年の頃で十七、八と言った所だろうか、何れにしても慧音の見た目年齢よりも年上には思えない。
「あなた、わかっているのでしょう?私が人間では無いって事ぐらい」
からかわれて気を悪くしたのだろう、目に見えて機嫌を悪くする。
「妖怪とも幽霊とも思えないがな、じゃあ天人様か?」
半ば冗談のつもりでそんな単語を呟いたが、少女は目を丸くして驚いた。
「な、なんでわかるの?」
少女は動揺を隠せない、と言うよりは隠そうともしない目で慧音をじっと見つめた。
「おお、本当にそうなのか。いや、お前に比べれば短い生なのかもしれないが、私は色々な者を見て来てな、そろそろ天人に出会えてもおかしくはないかと思っていたんだ」
出任せ半分、真実半分だ。
蓬莱の禁薬を飲んだ月の都の元姫やら、不老不死の人間に出会えたのだ。考えてもみれば欲を捨て、永遠の命を得た天人に出会えてもそうおかしくは無い。
「…!騙したのね!」
驚愕の目が疑惑の目に変わる。本当に天人なのか疑う程、感情性豊かな娘だ。そういえば天人は宴会を開いたりするのが趣味だと聞く、ならば欲は無くても感情は多分にあるのだろうか。
「いや、天人だとばらしたのはお前だがな」
今度は痛い所を突かれて、去勢を削がれた様に乗り出していた身を引く。
この様子からすると、慧音より自分を年上だと言ったのは嘘で、実際は数百程度の年数しか生きていないのかもしれない。経験豊かな者はそう感情を易々と曝け出したりはしないものである。
そもそも、慧音の事を普通の人間では無いとさえ気付いていなさそうだ。
「あなた、何なの?」
今度は近くに疑問符を飛ばしまくりながら、再度身を乗り出して来る。
「見ての通り、人間だが。別に妖力も霊気も感じられないだろう?」
本当は人間の姿の時でも妖力は潜在的にあるのだが、いつもは隠している。
里の人間は理解しているのだが、妖力を無意味に振り撒くのはそう誉められた行為では無い。
「それより、私はお前の方が気になるな。天人様がなんでたってこんな下界に居るんだ?」
一応疑問には答えたが、それに更に疑問を返す。
「それこそなんでだわ。何の必要性があってあなたにそんな事教えなければならないの?」
相手が人間だとわかり、思い切り高飛車な態度を取ろうとしている。やはり単純で他人の言った事を鵜呑みにしている。
「そうか、それはまた天人様に恐れ多い事を聞いてしまったな、すまない」
微笑と共に吐き出された言葉を受け、少女は明らかに声を荒げる。
「あなた!私は天人なのよ!?一介の地上人がそんな気安く話し掛けて良いとでも思っているの!?」
顔を真っ赤にして喚く姿は、見た目よりも幼い、ほんの子供の様な感じさえ覚える。
「さっきまでは許してくれていたじゃないか、ただの人間だとわかった瞬間に手の平を返す様に態度を一変させる。崇高なる天人も卑しい地上人と幾分変わら無いんじゃないのか?」
態と余計に機嫌を悪くさせる様な言葉を並べる。
当然、この様な分かり易い性格の者に言った時の反応を見越して。
「別に私はあなたが人間だとわかったから態度を変えたんじゃないわよ。ただあんまり此処に来た理由とかを聞かれたくないだけ」
幾分口調が柔らかくなっている。
慧音は心の中で誘導が上手く行った事を満足してうんうんと頷く。
この分だと、理由を聞き出すのにもそう時間は掛からないだろう。




後編


徐々に机の並べられて行く料理を盛られた皿々からは、天界で食べていた料理からはとてもでは無いが匂わない様な香りがしている。
何と言う料理かも知らないそれは、地上の下世話な食べ物。
そう言い切ってしまえばそれまでなのだが、不思議と食欲が沸いてしまう。
そんな魅力に溢れていた。
「なんで私があなたなんかの施しを受けないといけないのよ」
背を向け、煮込み料理を見ている慧音の後ろ姿に声を掛ける。
少女のその言葉は口調こそ高飛車だが、確かな穏やかさがあった。
「お前な、それが今から御馳走になる相手に向ける言葉か?ほら、もう出来上がるぞ」
小さな鍋を持った慧音は少女の方に歩を進める。
とっくの昔に夕食は食べ終えてしまっている。全て少女一人のためだけに作られた料理だ。
「私は何もあなたに料理を作れと言っていないわ。あなた、とんでもないお節介焼きね。見ていて腹立たしいわ」
どう腹立たしいのかは知らないが、思わず輝かせてしまっていた目が慧音と合ってしまった瞬間、慌てて顔を反らす少女の様子からは、そんな言葉が嘘だと直ぐにわかってしまう。
「お前みたいなか細い娘が、朝から何も食べていないって言うんだ、お節介も何も、何か食べさせないのは人道に反するだろう?」
苦笑を見せながら返した慧音は、少し深みのある器に鍋の中の料理をよそう。豚肉と芋や緑の野菜を醤油で煮込んだ物なのだが、天人である少女はこのような田舎臭い料理、見た事も無いだろう。
「さっきからその「お前」って言うの、やめてくれない?いい加減不愉快なんだけど」
案の定、その料理に物珍しげな視線を向けながら、少女。
「そりゃ、名前も聞いていないんだ。お前はお前としか呼び様が無いだろう?お嬢ちゃんとでも呼べば良いか?」
目の前に器を置かれると、何が材料であるか調べるためだろうか、少女はそれを蟻の行列を見る子供の様に凝視する。
「人に名前を聞く前に自分から名乗って。幾ら私が心の広い天人だからって、それだけは譲らないわ」
初めて見る料理に興味津々な様子で言っても、威厳の欠片さえ感じられない。
「ああ、そうだったな。私は上白沢慧音だ」
今度は茶を淹れてやるために踵を返しながら慧音。
「ふーん、随分と大層な名前ね。私は比那名居天子よ」
煮物と同時進行で沸かしていた湯を急須に注ぎながら、慧音は小さく肩を震わせながら一言。
「お前の名前の方が、私より幾分も大層じゃないか。天子」
それを聞き、何となく天子は得意げな顔をする。
だが、慧音が振り向くと、慌ててそれを隠した。
「ほら、それじゃあ粗茶に下手な料理だが、好きなだけ食べてくれ」
外客様の湯呑みに茶を淹れ、ついでに自分のにも出涸らしを注いでから、慧音は天子の真向かいに座った。
「なんであなたに監視されながら食べる必要があるのよ。食欲も失せるわ」
そう言いつつ天子は、もう手に箸を持っている。
「何も毒入りをちゃんと食べるか監視しているんじゃない。作ったからには感想を聞きたいだろう?それも相手は地上の料理なんて食べた事の無い、天人なんだ」
その言葉が聞こえたのか、聞こえなかったのか。
次の瞬間にはもう、天子は料理に手を付けていた。





「で、その後は?」
突然言葉を切った慧音に、妹紅は疑問形で返した。
「その後も何も、それより先は無い」
含みを持たせて返した慧音に妹紅は更に詰め寄る。
「どういう意味?ほら、もっと食べた感想とか、結局その子は天界に帰ったのかとか、他に無いの?」
「ああ、あの日の歴史はそれ以降、無いんだ。
天子の名誉のためにも、な」
それを聞いた妹紅は、やっと納得が行った様子で手を軽く打ち合わせる。
「成る程、大体その後がわかったよ。それで、当然その子からもその歴史は隠してあげてるんだよね?」
当然の事の様に言った妹紅に、慧音は微笑を交えながら答える。
「いや、敢えて次の朝には思い出せる様にしておいてやった。今頃、顔を真っ赤にしているだろうな」

これが慧音の恐ろしい所なのだろう。
妹紅は確信した。














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最終更新:2008年12月21日 15:39