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 夕暮れの神社は、不思議な静けさに満ちていた。
 今日も、多くの人間がこの神社には訪れ、賑わった。
 そんな日は、母が現役の巫女だった時代から続いているらしい。
 しかし、祖母の代では全くだったとか。
 母の代でこの博麗神社は、大きく変わった。
 そう多くの人妖が囁く。



「よっ、と………よう、霊華。元気してたか?」
 夕空の中、近付いていた影が地上に降り立った。
「お、まだ掃除してたのか。ご苦労さん」
 黒い三角帽子に黒い服、いかにもな魔女の服装に年代物の箒。
 それら全てが、彼女がどんな人物かを物語っている。
「魔理沙さん。こんばんは。もう、切り上げようと思っていたところです。直ぐにお茶を用意しますね」
「気を遣わせて悪いな。今日も森を飛び回っていたんだが、まだまだ森には謎が多いな。よくわからん物が普通に落ちていたりする」
 魔女―魔理沙さんは服を小さく払うと、神社の境内に腰を下ろした。
「よくわからない物って、例えば?」
 箒を物置に戻しながら。
「相当古い魔法のアイテムなんだろうけどな。丁度達磨落としの玩具みたいな道具なんだ。五つ、バウムクーヘンみたいなワッカが繋がっていて、使い方的には八卦炉とそう変わらないらしい。今は香霖に渡して調整してもらっているんだけどな」
「ご主人なのに、まだ香霖って呼ばれているんですね」
 先月、二人は結婚したのだった。
 式を行ったのは当然、この神社であり、間近で綺麗にめかした魔理沙さんを見た。
 普段は男勝りな魔理沙さんも、その時ばかりは乙女に見えた。
「まあ、良いじゃないか。ところで、森近魔理沙って何か語呂悪く無いか?霧雨霖之助の方がマシな気がするんだが」
「そんな事無いと思いますよ?…っと、後ろ失礼しますね」
 扉が開けっ放しにされている神社の中に入り、急須を用意する。
 最近、お茶の淹れ方にも大分拘る様になって来た。
 以前はそんなに家庭的じゃなかった魔理沙さんが、奥さんとなって以来、神社に来ては私にも家事を教えてくれる様になったからだ。
 人間の結婚適齢期は短いんだから、今から花嫁修業をしておかないと間に合わないぜ、との事らしい。
 まだ十五なのだから、相当早いと思うのだが、魔理沙さんに家事を習うのは悪い気がしなかった。
「そういえば、お祖母ちゃんってどんな人だったんですか?」
「どうした?急に、名前を返して欲しいって妖怪が尋ねて来たか?」
「えーと………」
 魔理沙さんはしょっちゅう、こんな軽口を言う。
 しかも、よくわからないネタが多い。
「冗談だ。………そうだな、お前の逆を行く奴だった。ぐうたらだし、努力の欠片もしないし、なんか抜けてるし、時々鬼みたいになるし、普段からそんなに優しくも無いし」
 私の祖母が巫女をしていた時、魔理沙さんはまだ人間をしていたらしい。
 祖母がどう思っていたかは知らないが、魔理沙さんは祖母の親友と自負していて、一番祖母を近くで見ていた人物だ。
「何だか、酷い人物像ですね」
「ああ、あいつは酷い奴だったぜ。神社に平気で妖怪を上げたりもするもんだから、人間なんて全然参拝に来なかった。その癖して私に賽銭入れろなんて言って来るんだから、始末におけない」
「………よく、そんな人と友達になってくれましたね」
 自然と声が淋しげになった。
 親友にここまで言われる祖母を、少し哀れに思ったのかもしれない。
 しかし、魔理沙さんは驚くほど爽やかな顔で返した。
「ああ、だけどあいつ、時々凄い良い顔で笑うんだよな。ずっとその顔してろって、何度言った事か………そう言ったら、決まって睨まれるんだけどな」
 魔理沙さんは、まるで今も祖母が生きていて、その事を他の親しい友人に自慢する様に言った。
 やはりその表情は晴れ晴れとしていて、寂しさなんて感じさせなかった。
 だけど、私はこの人とそう短い付き合いじゃない。
 物心付いた時から親しくしていて、小さな癖なんかも知っている。
「しかし、本当にどうして急に?お前、霊綺の事は聞いても、霊夢の事は聞こうとなかったじゃないか。今までずっと」
 盆に二つ乗せていた湯呑みの一つを、魔理沙さんに差し出す。
 茶葉は神社伝統のものだが、淹れ方は母では無く、魔理沙さんに習った方法だ。
 隣に座り、横目で見ると、魔理沙さんの金の瞳は少し赤色に染まっていた。
「もう、お母さんの事は大分聞いてしまいましたから。それに、魔理沙さんは床に伏せがちなお母さんとはあまり会っていないんでしょう?」
 母は、後天性の免疫不全の病気らしい。
 だから、今となってはほとんど神社の中から出て来る事が出来ない。
 ちょっとした風邪でも、簡単に拗らせて死に至る病にかかってしまう。
 博麗家の家系らしい。祖母は不思議とそんな事も無く健康に長生きしたらしいが、曾祖母も祖母が幼い時に亡くなったと記録が残っていた。
「まあ、霊綺もお前ぐらいの年の時は元気だったから、結構会ってたけどな。ほぼ一生付き合っていた霊夢に比べれば圧倒的に短いわな」
 今の様子を見るに、母が自分と同じ様に巫女をしていたのを想像するのは難しい。
 そう思うと、祖母はかなり特殊な巫女だったとわかる。
「それに、何故だかお祖母ちゃんの事を聞いておかないと駄目な気がしたんです」
 巫女の直感。
 女の前に「巫」の一文字が付く事で、信憑性が鰻上りになるとは魔理沙さんの言葉だ。
「ほう、じゃあ近い内にフラグが回収出来るのかもな。今日、アリスから面白い話を聞いた」
 フラグ…?
 なんて考えるのは後だ。頭を直ぐに切り替える。
「何でも、竹林の月の連中が変な動きを見せているらしい。こりゃあ久し振りに異変が起きるかもしれんな。丁度、蒐集活動ばっかりで、腕が鈍っていたんだ。弾幕ごっこと洒落込みたいところだぜ」
 祖母の代では、異変と呼ばれる事件が頻繁に起こっていたらしい。
 母の代でも何度かあり、その度に巫女や魔法使い………魔理沙さん、この人が解決して来た。
 私の代では未だかつて起こっていない訳で、今度起こるとすればそれは初めて体験する異変となる。
「異変………ですか」
「そう、異変。もし起こったら、私とお前とアリスの三人で解決に乗り出すとするか。霊夢や霊綺は一人で解決に行ってたもんだが、お前は初めてだし、今回は後ろで見ているだけでも良いかもな」
「いえ、私も戦いますよ。若くても、博麗の巫女ですから」
 気が付くと、魔理沙さんは目をしきりに擦っていた。
 目にゴミでも入ったのだろうか。
「今日はちょっと風が強いな。不吉な予感だ」
 風が強い日の翌日は、よく雨が降る。
 そういう意味で、強風の日は不吉の象徴とされている。
「お、もう日も暮れたか。夏だってのに、早いな」
「あら、そういえば………もう少し、夕暮れの空が楽しめると思っていたのに」
 陽はすっかり落ちて、薄暗い夜空が広がっていた。
 一瞬、魔理沙さんの方に注意を向けていた間に、太陽が誰かに隠されてしまった様だった。
「こりゃ、いよいよ異変だな。明日にはもう出発するか」
「うーん、誤差の範囲な気もしますよ?」
「そうやってお前の祖母ちゃんは異変の解決が遅れたんだ。折角お袋さんが良い空気を作ってくれたんだから、お前がまた評判を地に落とすなよ?」
 何となく、もう魔理沙さんは私の前で祖母の話をしてくれない感じがした。
 しかし、そんな事も無いかもしれない。



続く









あとがき ~ 幻想、その後


幽花天、このお話は少し未来のお話となっています
主役は魔理沙と慧音の二人
(メインに)登場するキャラは、大体萃夢想の登場キャラ+永夜抄+αとかなりコンパクトになっています
風神録、地霊殿キャラの登場は皆無となっています
その理由としては、土台を作ったのが地霊殿の体験版も出る前の事で、どんなキャラが居るかも知れる筈が無かったから
風神録キャラが出ない理由は、テーマ的に、です

年表にはもう書いているのですが、この時系列でも早苗さんは存命です
現人神は格が違うのです

フルーツ(笑)

ライスシャワー(笑)



最終更新:2009年03月16日 00:18