朝が来る度、思う事がある。
昨晩、里の人間達は無事だったのか。
今ではすっかり少なくなったが、元来妖怪は人間を襲うものだ。
昨日、参拝してくれた人は、同じ様に朝日を浴びてくれているのか。
ただ、それが気懸かり。
「よう、霊華。今日も来たぜ」
「ああ、魔理沙さん。おはよう御座います」
翌朝、早くから魔理沙さんが箒に乗ってやって来た。
いつもは「私は人間じゃないからな」と言って昼間には神社に来てくれない。
朝日を浴びながら見る魔理沙さんは、新鮮に感じられた。
実際は、私が幼い頃から、母に代わって一日中世話をしてくれたので、何度も朝に出会いはしているのだが。
「さて、今日早くから来たのは当然、訳があるぜ」
「行くんですね?竹林に」
「ああ、行くぜ。アリスにも準備をする様に言って来た。後はお前の準備が整い次第行けるぜ」
アリスさん。魔法の森には多くの魔法使いや妖怪が居るが、その中でも魔理沙さんと二大看板を背負うのがアリスさんだ。
魔理沙さんよりも昔から魔法使いをしていて、人形魔法を扱う人形魔道師。
魔理沙さんとの接点は多いらしく、同じく蒐集活動をしている。
「アリスさんは、結構気難しい人って記憶してますが、説得は出来たんですか?」
「アリスが気難しい?いやいや、そんな事は無いぜ。あいつはすごく単純だ」
魔理沙さんは笑い飛ばし、後から注釈を添える。
「あいつは昔から、異変解決には乗り気なんだよ。私が誘わなくても、近日中には家を出るつもりだったらしい」
何だか意外だ。
自分の知るアリスさんは、終始冷徹で、仲間内で騒ぐよりは一人で居る事が好きな一匹狼の様な人だ。
それなのに異変の解決に肯定的だとは、一気にイメージが変わった気がした。
「じゃあ、早く支度をしないと。待たせては悪いですね」
「ああ、結構せっかちな奴だからな。………まあ、私ほどじゃない気がするが」
「では、魔理沙さんの為にも急がないと」
「頼むぜ」
いたずらな笑みを浮かべてウィンクをする魔理沙さん。
魔理沙さんの容姿は、何十年生きているのに少女時代のものと同じで、その姿は近所の悪戯好きな魔法少女☆と言ったところだ。
魔法使いは、捨食の法、捨虫の法という術で、人間から種族魔法使いへとなれる、と聞いている。
種族魔法使いと言うのは、所謂妖怪の仲間で、人間の様な食事を必要とせず、容姿も年老いて見えたりはしない。
となれば、魔理沙さんはかなり若い時に人間を「やめた」事になる。
その経緯に深入りした事は無いが、いずれ、聞いてみても良いだろうかと思っている。
その話の中に、祖母も出て来るかもしれない。
―何だか最近、いたずらに祖母の事を知りたがっている。
自分でもそうはっきりとわかる。
巫女の勘、そんなものが本当に当たるのだとすれば、これは祖母の知識が必要な局面が出て来る事を予感させているのだろうか。
異変解決の準備。
兎に角、持てるだけの符と針を用意する。
異変解決は基本、スペルカードルールで行う。
所謂「弾幕ごっこ」と呼ばれるもので、弾薬の多さが物を言うと言う戦いだ。
魔理沙さんやアリスさんの様な魔法使いは、自分で魔法弾を打ち出せば良いのだが、残念ながら巫女はそこまで万能な職業では無い。
数に限りのある法具で戦う必要があるのだ。
また、もう少しスペルカードルールについて説明するならば、戦いにはスペルカードを用いる事だ。
そのままだが。
スペルカードとは、その人の得意技を符にしたものである。
弾幕ごっこでは、これから使うスペルカードの名前を宣言し、相手にそれを完全に見切られるか、その間に相手の攻撃を一定数受けるかするまでその攻撃をし続ける。途中変更は許されないし、不意打ちも禁止だ。
正々堂々としているし、あくまでゲーム的に行う為、本気の殺し合いになったりはせず、本来の戦闘能力差が圧倒的にある人間対妖怪という戦いでも、人間が勝利し得る、美しい弾幕を行使する為、見ていても華やか、と良い事尽くめな為、祖母の代からずっと続いている決闘法らしい。
そして、このスペルカードルールを考案したのも祖母。
このルールの中に祖母の考えが生きていると思うと、何処かくすぐったい感じがする。
母も同じ風に感じながら、異変解決をして来たのだろうか。
スペルカードは普段から数枚持ち歩いているが、どれも基本的な物ばかりだ。
今回は、少し特別なスペルカードも持って行く。
「おー、霊符『夢想封印』か。懐かしいな、そのスペルカードを見るのも」
何時の間に神社に入って来ていたのか。後ろから魔理沙さんの声が聞こえた。
「あっ、魔理沙さん、何時の間に…」
後ろを振り返ると、魔理沙さんが私の手にした二枚の札を覗き込んでいた。
「ああ、すまん。一応そっと入ってきたから霊綺は起こしていない筈だぜ…お、そっちは夢符『封魔陣』か。霊綺はどっちも使ってなかったんだよなぁ、自分のスペルを使いたいって…お前は使ってやるんだな。霊夢のカード」
神社の外で話していた時よりも、やはり魔理沙さんの声音は少し淋しげだ。
「私は、まだ得意技と言えるものをほとんど持っていませんから。お祖母ちゃんの助けを借りようと思って。………しかし、お母さんはもう私ぐらいの年の時に自分のスペルを確立させていたんですか?」
何度もカードは作り直されているので、数十年も前のものがそのままある訳では無い。しかし、確かに祖母の手で作られたカードだ。
手にしていると、何処か懐かしい感じがする。
魔理沙さんもこのカードを見て、昔を思い出したのだろうか。
「ああ、あいつは私やらアリスやらにひたすら弾幕ごっこを習っていたからな。巫女としてもっと別な腕も磨けって何度も言ったんだが、まともに聞かなかった。あいつは本当、戦巫女だよ。今寝込んでるのが信じられないぐらいのお転婆だ」
単純な戦闘素質は祖母以上、しかし巫女としての勘は見事に冴えず、ただひたすらに力だけで異変を解決した巫女。
異変の予兆を感じたら、即座に飛び出して怪しい相手を片っ端から潰してしまうのだから、確かに解決は早かった。
母がそんな人だと教えてくれたのも、魔理沙さんだ。
しかし母は、それらの情報から想像できる以上に破天荒な娘だったらしい。
「それじゃ、仕方ありませんね。今回の異変で、私も魔理沙さん達から色々と学ばないと」
苦笑がちに答えると、魔理沙さんは手を突き出して制止した。
「いや、お前はもっと乙女らしい面で私達から学べ。もうこの幻想郷もおおよそ平和だ。いや、前から平和だったが、最近は更に落ち着いた。お前の異変解決も、これが最初で最後になるかもしれん。もうそんなに戦いの事は勉強する必要無いよ」
先日から繰り返し言っている事だ。
もっと乙女らしくなれ、花嫁修業だ。
やたらと魔理沙さんは私にそう勧めて来る。魔理沙さんが破天荒と称した母もちゃんと父を見つけた訳だし、祖母も何だかんだで結婚はした。
そこまで危惧しなくても、なる様になると思うのだが………
「なる様になるさ、とか甘い事考えるなよ?良い男なんてそうそう見つからないんだ。だからこそ、折角見つけた男はしっかり射止めないとならない、ならば、女らしさが必要となる訳だ………まあ、お前は十分女らしいと言えば女らしいが」
ずばり考えを当てられてしまった。
もしかしてこの考えは、博麗の巫女共通の考え方なのだろうか?
実際にそうかもしれないから、少し恐ろしい。
「さて、もう準備は終わりました。アリスさんを待たせてはいけませんし、行きましょうか」
「あ、おい、上手い事逃げやがったな………霊夢そっくりだ」
後から、霊綺もそうだったなと聴こえて来た。
やはりこれは、博麗家の宿命か。
血は争えない。その言葉の意味を痛感した。
続く
あとがき ~ 黒い魔法使い
霊夢の時代では、魅力的な脇役だった魔理沙
霊華の時代であるこのお話では、主人公となってもらう事になっています
そんな魔理沙は、実は新婚さん
早速、霖之助さんを尻に敷いているみたいです
次話は、予定ではもう一人の主人公の登場…と見せかけて、また違うキャラが出てきます
ほんま、焦らしプレイは残酷やでぇ…
最終更新:2009年05月22日 14:01