歴史は究極の真実だ。
そして歴史は、至上の虚構だ。
この郷に、歴史書は要らない。
正史などというつまらないものを残してしまっては
郷は、幻想の幻想となってしまう気がした。
「妹紅、里に下りて来るのは珍しいな」
今日の授業を全て終え、自室に戻ろうとすると廊下によく見知った人影が見えた。
腰まではある長い白髪に、印象的な紅いもんぺ。しかもそれを、洋服のサスペンダーで固定しているのだから見間違う筈が無い。
数百年前から全く同じ姿をしている。竹林に住まう蓬莱の人の形だ。
「開口一番それ?もっと、優しい言葉をかけてくれても良いと思うんだけどなぁ」
顔だけは苦笑しつつ、声音は平常通りのそれで妹紅が言った。
妹紅、藤原妹紅とは、こんなやりとりが普通だ。
「お前がこんな――まだ夕方に里に下りて来て、ロクな事があった試しが無い。今日はどんな厄介事を持って来てくれたんだ?」
「失礼だね――と言いたいけど、残念ながらその通り。慧音、至急寺子屋を閉めてもらえるかな?」
予想していた通りだ。
何となく、そろそろ何か起こる気がしていて、最近の授業は全速力で進めていた。
後は長期休暇に入っても問題は無い。
「不可能ではない。詳しく、事情を聞かせてもらえないか?」
最終更新:2009年09月22日 23:02