お前頭悪ぃな
むきゅーの日にオアチュリーのSSがないのはおかしい




黴雨の客人 ~ Fuss of rainy day



 その日、何度目かもわからない溜め息が自然と出た。
「――いい加減、節度と言うものを弁えるべき……」
 どすん。
 ぶちっ。
 ぱさっ。
「火日符――『セントエルモフュージョン』」
 幸運な事に、昨日に大成する事に成功した魔法を全力で放った。
 飛来し、私に直撃した本諸共に図書館中が圧倒的な熱量に晒され、後には焦土と化した「図書館であったもの」が残ったのは言うまでもない。





 その館は、梅雨の季節にありながら、雨を知らない。
 何故かと言えば、実は真相は定かではない。
 屋敷の独特な雰囲気に雨脚も避けて行く、とも言われるし。
 居候の魔女が雨避けの呪をかけている、とも言われる。
 もう一人住むと言う「時の魔女」が細工をしている、とも噂され。
 果てには、館主の妹が雨雲を「破壊」している、だなんて馬鹿げた事も語られる。
 この前聞いた話では、館主自身が運命を操作して雨を避けている、とされていた。
 一連の話を聞き、思う事は一つだ。
「門番はあくまでも空気」
 何の妖怪なのか、そんな根本的な事項の認知も広くはされていない。
 これでは、噂の立ち様も無い……のだが、軽く憐れみの情さえ沸いて来てしまう。
 ――さて、雨は嫌いでは無いが、梅雨は正直嫌いだ。
 明けるまでの間、昨日に起こった物語を綴ってみる事にする。
 紅魔館の一角が、大戦の跡の様な惨状となった事件を。





 突如やって来た凶星に、とりあえず私は無視の姿勢を貫き通した。
「ここは雨が来ないから良いよな。暇潰しには最適だ」
 暇なら家で潰せ。
「しかし、どういう原理で雨が凌げてるんだ?そんな魔法があるなら、私も是非使いたい処だが……」
 自分で調べろ。
「そういや、今日は小悪魔(あいつ)は居ないのか?姿を見ないが……」
 司書兼小間使い兼助手の姿が無いのを態とらしく確認して見せた後、やっと口を開いてやる。
「あの娘は、今調べ物をしているわ。奥の方に居る筈よ」
 目で迷路の様に並ぶ本棚の最奥を示す。
 魔理沙のよく通る声を聞き、軽く青筋を立てる小悪魔の姿が見える気がした。
「そうか、なら邪魔はよく無いな。さすがに雨で本を濡らしたくはないし、今日はここで読ませてもらうぜ」
 これには沈黙で返す。
 そして、人知れず溜め息を本に掛ける。



 唐突にやって来た凶星に、とりあえず私は無視の姿勢を貫き通そうとした。
「げっ、何であなたが居るのよ」
 それ以前に、人の屋敷を集会所の様にするな。
「人をお化けか何かみたいに扱うな。私はただ、雨を凌ぎに来ただけだ」
 だからそれは自分の家でしろ。
「ま、良いわ。私はあなたに用があるのよ」
 魔理沙を視線から追放したアリスが、こちらに目を向けて来る。
「何」
 口を開くのも面倒臭い。
「本を貸してもらえるかしら?」
 軽く拍子抜け。
「良いけど、持ち出す時はちゃんと防水の魔法を掛けて」
 魔理沙に比べ、まだこの人形遣いには信頼して本を貸し出し出来る。
「私相手の時と、随分と反応が違うな」
 無視。
「信用の違いよ。――それと、また一段と強くなって来たし、しばらく居座らせてもらって良い?」
 目で空いている椅子を指す。
 いつもなら小悪魔の座っている椅子だ。
 ところで、先ほどのアリスの言い分には矛盾が存在する。
 しかし、私はそれを無視し、読書を続ける事にした。
 最後に勝利するのは私だ。
 そう心中で呟いた後、同じく心中で溜め息を吐いた。



 不意にやって来た凶星に、とりあえず私は無視の姿勢を貫こうとした。
「おお、我が盟友とマーガレットさんが揃い踏みとは」
 思えば珍しい客だ。
「お前も雨を凌ぎに来たのか?河童にしたら、雨なんて避ける対象じゃなさそうだが」
 全く同感。
「いや、野暮用で里に行ったものだから、ついでにこっちも覗いてみたんだよ。面白い奴が居るんじゃないか、と思ってね」
 此処は変人のメッカではない。
「とりあえず、私は正常よ」
 誰も聞いてない。
「私も普通だぜ」
 同じく、誰も聞いていない。
「普通でも、面白いんだから仕方が無い。そんな面白い奴らと、新しい兵器(ウェポン)のアイデアを練らせてもらっても良いかい?」
 無言で適当な椅子を示す。
「しかし、騒がしくなって来たな。読書に集中できないぜ」
 アリスが来た時点で読書を半ば放り出していた人間の弁。
「いやいや、盟友の邪魔はしないさ。安心して読書を続けてくれ」
 自称人間の盟友の河童の弁。
「そうよ。私も勝手に本を読んでいるし」
 同じく、魔理沙と雑談しかしていなかった人形師の弁。
「どうでも良いから、静かにして」
 最後に、この部屋の主の弁。
 本を持つ手を震わせながら、溜め息を吐く。



 それからは、二人が三人に増えての雑談ショー。
 出来る限りの無視を貫くが、いい加減に精神衛生上よろしくなくなって来た……辺りで助け舟が入った。
「ふぁ……あれ、豪く騒がしい様子で」
 寝てやがったか、こいつ。
「おっ、何だよ、寝ていたのか?アンテナが立ってるぞ」
 ワインレッド色の小悪魔の前髪は、猫に引っ掻き回された様に立っていた。
 今にも外宇宙からの電波を受信してしまいそう……な訳が無い。
「……ところで、何でいまいち統一感の無い三人が?」
 統一感はある。
「読書だ」
「読書ね」
「読書だよ」
 ほぼ、異口同音。
「ああ、読書ですか。それでは、いよいよ調べ物がありますので、パチュリー様に迷惑を掛けない程度に」
 救援が遠のいて行く。
 しかし、私はあえてこの運命を享受した。
 これが、試練か。
 遠のく影に、溜め息を吐いた。



 まもなく、物語は冒頭に行き着く。
 三人が十人に増えた。
 突然、館主と妹が面白そうな臭いを嗅いで駆けつけた。
 まもなく、どういう訳か不死鳥と傘が飛んできた。
 直ぐに天狗と厄が介入した。
 気がついたら、闇がすぐ傍で本を開いていた。
「そこで、私はこう言ってやったんだ『今のは本気の十分の一だ』ってな」
「そういえば、あの時も凄かった。突然、大きな鼠の妖怪が飛び掛って来たんだけど、それを一瞬で焼き払って……」
「その後、見知らぬ人影を見た、と」
 十一人目は永遠だった。
「オチを盗らないでもらいたいんだけど」
「のろのろ喋ってるのが悪いのよ」
「で、例の原子炉の件だが、結局私はそのお零れにしかありつけなかったよ」
「それで正解よ。危険過ぎるわ」
「ふむ……ネタには成り難いお話ですねぇ」
「ところで、厄は具体的にはどうやって溜めているの?『厄漬け雛人形』なんて考えていたんだけど」
「企業秘密よ」
「それはもう、えろすい方法ですよ~ただし厄は尻から出るッ!」
「出ないわ!」
「おおっと、雛が怒りました!これはニュースですね!スクープですよ!」
 最早、本を肴にしての宴会状態だ。
「思うに、どうにかしたら不夜城レッドをより上位の不夜城スパークに出来そうなんだけど、どうすれば良いかしら」
「八卦炉は渡せないぜ。なければメイド長辺りに作らせれば良いじゃないか」
「始めからあんたには話を振ってない」
「しかし、雨の音が聞こえないのは残念だね。雨音には精神安定効果があるのに」
「それは、波音だった気がするけどなぁ……」
「あれ、そうだったかな」
「相変わらず、意思が弱い」
「どっかの誰かと一緒ね」
「……ほう?」
「何よ」
 あっちでは軽く火の手が上がり、そっちでは目に見えてどす黒い何かが充満していた。
 その日、何度目かもわからない溜め息が自然と出た。
「――いい加減、節度と言うものを弁えるべき……」
「やった!これが私の捜し求めていた一冊!!」
 空気を全く読む気のない一声が上がり、突然その「捜し求めていた一冊」が私に向かって飛来した。
 魔導書の類は、独りでに動き出したりするものが稀にある。
 どすん。
 ぶちっ。
 ぱさっ。
「火日符――『セントエルモフュージョン』」
 幸運な事に、昨日に大成する事に成功した魔法を全力で放った。
 飛来し、私に直撃した本諸共に図書館中が圧倒的な熱量に晒され、後には焦土と化した「図書館であったもの」が残ったのは言うまでもない。



 ちなみに、犠牲になった本は一冊だけであり、残りは全て結界魔法の保護下にあったので無事だった。
 それでも真紅の絨毯は焼け焦げ、本棚は全焼してしまったが。
「あんたが居なかったら、危うく大損害だったわ」
 態々、苦手な紫の元まで行って来たのだ。
 これで成果が挙げられなければ、自分が馬鹿でしかない。
「ちなみに、哀れな一冊は何だったの?」
「パチュリー様の著書」
 ご愁傷様で。



あとがき

そんな紅魔館大図書館の一日



最終更新:2009年06月10日 20:54