正直、再び彼女に出会えた事には驚いた。
リリー――リリア・フラバス。
僕の傭兵仲間であり、初めての女友達と言っても過言では無い。
あまり、女性という感じがしないのも事実だが。
「しかし、僕もヴァンに逢えるとは思っていなかった。全く、面白い偶然もあるものだね」
宿に以津真姉妹を残し、僕とリリーは街を適当にぶらついていた。
天理が気を遣ってくれ、天華も「眠い」と一言残し、次の瞬間には寝息を立ててしまっていた。
僕とリリーは、別に恋仲だったという訳でもない。
本当にただの仕事仲間だった。
ただ、僕とほぼ同期であったし、ギルド唯一の女性という事もあり、気にしていなかった。と言えば嘘になる。
その性格のお陰で、女性相手であると気を遣わなくても良かったし、かなり話しやすかったのもあるだろう。
僕とリリーは、傍目で見てわかる程、仲が良かったのも事実だ。
そして、次第に一歩歩み寄りたくなるのも人間らしい感情だろう。
結局、僕は天華に付きっ切りになってしまったが。
「本当に。会えて嬉しいよ。リリー」
僕とリリーが手を握り合うと言うのは、極当たり前の事だった。
初対面の時も平気に握手をしたのは勿論、久し振りの再会をした今でも、自然に手を握り合って街を歩いてしまっている。
――予め言っておくが、リリーは見た目まで中性的という訳ではない。
そればかりか、正直、天理と同じかそれ以上の美人だ。
つまり、一般的には恋人同士とでも思われそうな構図であるだろう。
「ふふ、僕を捨てて行った男が、今更何を言うんだい?」
リリーは意外と皮肉屋だ。
いや、それが自然なのかもしれない。
ただ、もう僕はリリーを客観的には見れそうに無い。
「僕も、健全な男という訳さ。男女(おとこおんな)よりは、少女らしい少女の方が好きだ」
リリーは僕の返答に満足そうに頷き、「酷い男だ」と呟いた。
当然、その口調は本気に受け取った上でのそれではない。
「で、ヴァン。天華ちゃんとは、どこまで進んだんだ?流石に僕レベルで止まっているとは思えないが……」
リリーは一時、緩めていた手を再び強く握り直した。
柔らかい手の平が僕の手を包み込む。
「いや、君以下だ。僕は天華とまともに手を握った事が無いよ」
そう、僕は実の所、天華とは手を握った経験がほとんど無い。
小さな体を抱き締めた事は多いが、リリーもまた、抱き付き癖があるので、抱擁回数も多い。
ただ一点においては、リリー以上の進展があるとも言えるが……
「彼女の小さな手は、壊れ物みたいで怖いのかい?それを言うなら、僕の手も華奢だとは思うが」
そう言い、今度は細い指を僕のに絡めてくるリリー。
何時もは撃鉄に掛けられているとは思えない、とても優しい感触だ。
「それもあるけど……まず、身長の問題かな」
僕もリリーの指を、しっかりと握り締める。
すると、少しリリーの顔が赤らんだ気がした。
「へ、へぇ、僕とヴァンも、頭一つ分は違う気がするが?」
ああ、これは確実に動揺している。
相変わらず、受け身に回ると弱いな。リリー。
「僕と天華は、下手をすれば三つだ。それで手を握って歩いていると、僕が自分の娘の手を引いている様な構図になる。それでも、僕はした事があったけど、天華が恥ずかしいと言い出してね。どうやら、アレで大人に見られたいらしい」
で、その後はまともに握った事がない。そう付け加えると、リリーは吹き出して笑った。
「そうか、やっぱり天華ちゃんは可愛くて面白い子だな。成る程、そうか……ヴァン、君は幼女嗜好があるのか」
「は?」
電光石火の返答。このレスポンスの速さには自信がある。
僕は今、風……否、光になっている。
「だって、そうだろう?傍から見てみろ。君は、幼い少女を連れ回している不審者だ」
リリーは尚も笑い、続ける。
くそっ、これは仕返しなのか?
さっきの捨てた云々の……
「リリー、もしかして嫉妬か?」
ならば、それ相応の対処法がある。
そう、これがリリーの弱点だ。
「なっ、何を言っているんだ!?」
リリーの顔がいよいよ真っ赤に染まり、慌てて手を離して逃げようとする。
が、させない。
「くっ!ヴァン、これは強姦も良いところだぞ!」
「大丈夫。合意の上と言えば」
「誰が合意した!」
逃げ出そうとするリリーの左手を一度開放してやり、その直後腋の下から右腕を通し、背中に回す。
左腕は腰に回し、そのまま正面から抱き締めてやった。
「お、おい!ヴァン!?」
リリーは必死に手足をばたつかせ、脱出を試みるが、元より力は僕の方が上だ。
「安心しろ。僕の中で君は、永遠に親友だ」
正直、安い言葉だな、とも思う。
でも、素直な気持ちはリリーにしっかり届いたらしい。
まるで生気を奪われたかの様に脱力し、僕に体を預けて来る。
えーと、一応人の目とかもあるんだけどな。
……いきなり抱き締めた奴の言えた事ではないが。
「君は、ずるいな。普段の君が演技に思える程、こういう時の君は魅力的だ」
「リリー、その言葉は君に返させてもらって良いか?」
「ふっ……ははは、僕の完敗、だろうか。正直、君と離れるのはとても惜しい事に思える」
果たして、嬉涙か悲し涙か。
リリーの目から、一筋の雫が流れた。
僕は夕暮れに光るそれを見ながら、リリーの大喰らいを思い出した。
そして、これからの旅費の心配をした。
最終更新:2009年07月08日 22:12