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8/16深夜に布団で考え付いたのがこれだよ!!!



 居心地が悪い。
 いや、今は屋外であり、決して僕の周囲に溢れる空気は悪いものではない。
 しかし、僕から少し離れたところの空気は尋常でないレベルに悪かった。
 まず、状況説明だ。
 今日は、否、今週は仕事が無い。
 正しく表すならば、支部に出勤する必要が無い。
 何でも、今週一週間は「街を警戒するという体での休み」との事だ。
 という訳だから、僕は天華とリリーの「本来出勤する筈だったメンバー」で街に繰り出し、水都観光と洒落込んでいたのである。
 ――と、ここまでは素晴らしい話にも聞こえるだろう。
 実際、僕は幸せな時間を現在進行形で過ごしている。
 だが、問題があったのだ。
 二人の歩き方だ。
 リリーは、三年前までそうしていた通りに、僕の右手を何の戸惑いも無く握り、それをぶんぶん振り回して歩いている。
 一方で天華は、これもまたいつもの様に、僕のジャケットの裾を掴んで左翼に就いてトテトテ、ついて来ている。
 これを、男性ヴィジョンで見てみよう。
 わかって頂けたであろう、僕は所謂「タラシ」という人種に見える。いや、否定は出来ないかもしれないのだが。
 でも、僕はあえて弁解させてもらおう。これは、合意の上だ。
 リリーも、天華はもう自分の「恋のライバル」と言うよりは、僕の「保護している娘」と言った認識をしている。
 天華は天華で、元からアレではあったが、リリーの事は僕の「知り合いその一」程度の認識である筈だ。
 だが、他人は事情を知らない。僕に向けられる視線、口にはしないが心の声は酷いものだ。
 そんな中、昼食を終えた辺りで前方から見知った二人が歩いて来た。
 一人は、赤髪を二の腕付近の長さまで伸ばした、十七程度に見える女性。フルーレティ・ストラス大佐。
 もう一人は、黒髪が肩に付くか付かないか程の長さの、十四から十六ぐらいに見える少女。ミネア・レプス少尉。
 当然ながら軍服を着ていない二人は、大分印象が変わって見える。
 大佐は学士服の様な黒を基調としたブレザーと灰色のチェックミニスカートのシックな出で立ち、夏には少し暑そうだが、以外と通気性は良さそうだ。大佐の性格を考えれば、中のブラウスは恐らく半袖だな。
 奔放、活発と言った言葉が似合う大佐らしくないと言えばらしくないが、違和感を感じないのは元が良いからだろうか。
 ミネアちゃんは、まるで絵に描いたお嬢様が着る様な真っ白いワンピースで、こちらはかなり夏らしい。
 白い服に黒髪のコントラスト、ついでに映える赤い瞳は秀逸とも言えるコーディネートだろう。
「あっ、ヴァンさん、天華さん、それからえーと…………フラバス……さん?」
 相変わらず、リリーの名前を覚える気の無いミネアちゃんは笑顔でリリーを挑発してしまった。
 リリアとミネアでそれとなく名前が似ているのが気に入らないのか、はたまた同じ銃器の専門家としてのプライドがそうさせるのか。
 兎も角、この二人が一触即発の関係なのは音速が遅い天華にも、知れ渡っている周知の事実である。
「どうして僕の名前を覚えられないんだ?ミネなんとか」
「はいっ!?ミ、ミネア、ミネなんとかなんて呼ばれたのは初めてです。えと、リリなんとかさん」
 …………何処までが本気なのか。
 全部素とも思えるし、全て嫌味にも聞こえる。
 ……この娘、苦手だなぁ。僕も。
「そこまで出掛かっているのなら、わかるだろう?ミネア。そろそろ本気で怒るぞ?」
「す、すみません。リリアさん…………」
 やけに素直だ。やはり、今まで全部素?
 ……あ、軽く舌を出して「あっかんべ」の構えだ。こりゃ確信犯か。
「はいはいはい、美少女諸君。あんた等はあたしも羨む程に十分魅力的だよ。だから、あたしの為に争わないでくれ給え。ミネア、リリア」
 お、ここで大佐の横槍……助け舟が。
 やっぱり、大佐は大佐なだけあり、人を纏めるのが得意だ。
 上に立つ者の貫禄と言うか、人徳と言うか、兎も角カリスマ性が凄まじい。
「す、すみませんっ!大佐っ、ミネアとした事が、公衆の目の前でこんな…………」
「…………すまない」
 素直に頭を下げる二人。
 大丈夫、少なくとも男は今の喧嘩っぽいものは「微笑ましいもの」として処理している事だろう。
 ――しかし、大佐の諌め方は独特だ。しかも、何故かそれに皆大人しく従ってしまう。
「――こほん」
 あ、口で言った。
 この辺り、大佐が年相応の見た目をしていない事を感じさせる。容姿としての威厳は無いのが大佐だ。
「兎も角、お三方は楽しんでる?知っての通り、ウチは夏と冬に一週間ずつこういう日がある訳だけど、思いっ切り楽しんでもらえればオールOK。別にこの街から出て行っても良いし、目一杯楽しんでね」
「でも、一応お外には出ていないといけないって事になっているんです。前に上の人が家で引き篭もっていないか検査に来てしまって、面倒な事になった事がミネアには一度だけあります」
 ミネアちゃん、そんなにインドア派だったっけかな、図書館をほとんど利用した事も無いぐらい、アウトドアな娘だと思っていたけど……
「実はミネア、家に兎を沢山飼っているんです。ですから、休日はしっかり遊び相手をしてあげたくて……皆保健所送りになりそうになった時には、泣きそうになってしまいました」
 鳴兎の妖怪が兎…………同族飼い?
「あの時はあたしが何とか止めたけど、二度目があったら止めれる自信無いから、気を付けてね」
 そして、部下のその辺りの問題を何とか出来てしまう大佐。
 多分、この人的に始末書一枚書いてないんだろうなぁ、相当のやり手だし。
「えへへ、ごめんなさい」
 ……駄目だ、この少尉。危険過ぎる。
 本人としては、何気なくウィンクして見せているのだろうが、凄まじいレベルだ。
 ――この娘が敵視するのに一番相応しい相手は恐らく、天華だろうが…………どうしてリリーなのだろうか。
「さて、そんな事だけどこうして出会った訳だし、一緒に後半日遊んで……と言いたいけど、これからあたし、楓と行く所があるんだよね。だからミネア、三人の案内みたいな事してくれない?協力してもらう手筈になってからこっち、ロクにあたしの方からは何も出来てないけど、その代わりって事で」
 やはり、大佐は人間がよく出来ていた。
 半分は悪魔だが……なんて揚げ足は取らないで欲しい、この際。
 ――そう言えば、大佐の手には白い花束がある。
 僕はあまり花には詳しくないので、何の花かはわからないが、淡いピンクのものと白いものがある。
 大佐が休日を利用して行く場所、そして落ち着いた色の満開の花。自ずと墓参りだとわかった。
「木槿」
「え?」
 突然、今まで空気の様に隠行していた天華が僕にだけ聞こえる様な声を出した。
 僕は思わずぎょっとして、後ろを振り向く。
「大佐の持ってる花の名前。ムクゲは大韓民国の国花で、一般的には生け花にされるの。普通はお墓参りのお花にはしないけど、亡くなった人が好きとかなのかな」
 すっかり忘れていたが、そういえば天華は歩く百科事典だった。
 僕より数十倍長く生きている天華は、当然ながら僕の数十倍の知識を持っている。
 それとなく疑問の目を向ける僕に気付いて、教えてくれたのか。
「ありがとう、天華」
 微笑みながらお礼を言うと、小さく頷いて恥ずかしそうにまたすっこんでしまった。
 ……昔はもっと恥が無いと言うか、およそ人間らしい(妖怪というツッコミはやはり無粋だ)態度を見せなかったのだが、天華も変わったのだろうか。
「そういう事、次の月命日には、あんた達も紹介しようかな。まぁ、急に大所帯で行くとびっくりしちゃうだろうからね。チキンな男だったし。んじゃ、そんな訳で」
 言うや刹那、大佐は風の様に消えてしまった。相変わらず速い。天華クラスに。
 男、何故かその言葉が不思議に思えてしまった。
 何となく、大佐は女友達と死別している、そんな気がしていたのだ。
 それが今の病的とも言える女性愛に繋がっている……と思っていたが、そっちはただの性癖だったか。
「大佐の、初恋の方です。そして、同時に大佐を今の大佐にした方、ともお聞きしました」
 大佐が走り去った方を見ながら、ミネアちゃんが呟いていた。
「大佐を今の大佐に?」
 リリーが口にした質問だが、僕も全く同じ疑問を持った。恐らく、天華も。
 その言い方ではまるで、大佐は今とは全く違う性格をしていた、という風に感じる。
「ミネアも、伝聞でしか無いのですが……昔の大佐、と言っても十代前半、つまり子供の頃ですね。その頃の大佐は、とても無口で、暗くて、社交性は皆無の人、だったそうです」
 まるで想像の出来ない姿だ。
 社交性の塊とでも言える大佐に、それが無い。
 しかも、明る過ぎて眩しいのが今なのに、それが暗い。
 想像出来ないし、しない方が良い過去だ。
「そこで、お相手の男性……便宜上、Aさんとしましょうか。その方と出会ったそうです。と言っても、Aさんは男性でしたが、花を愛でる方が好きという、変わり者でした。口数も少なかったし、とても物静かな方だったと聞きます。ですから、友達になるとかではなく、ただ何となく傍に居る、とした方が正しいのかもしれません。そうして、そうしている間に大佐の方から、『自分がこの男を引っ張ってやって行かないと』と思う様になり、途端に回心したそうです。当時、村から街に出て来た直後でしたので、それが転機であったと言えるかもしれませんが、、大佐が大佐たる人物になるきっかけとなった人物であるのは間違いないでしょう。…………死因は、自殺だそうです。遺書もありませんでしたし、大佐と同じく身寄りもありませんでした。友達も大佐以外には居ませんでしたし、大佐の言葉を信じるならば、遺言も託されていません。ただ、ひっそりと自分の家で首を吊っていたそうです」
 ほとんど考える仕草もしないで、ミネアちゃんは一度に言い切ると、それきり口を噤んでしまった。
 その態度から、この事は支部内でもタブーになっているらしかった事がわかった。



最終更新:2009年09月06日 20:33