「お~、知らなかったぜ。まさか、緋花に妹がいたなんてよぉ」
「え、え~と、私は朱花って言うんだけど。この愚妹(アホ)の妹なんかじゃあ・・・」
「ホムラっちの妹さんでやんすか。確かに、言われてみれば顔とかが似てるでやんすね。・・・」
「・・・何処見てんのよ?フン、どうせ愚妹に比べたら胸も背も小さいですよーだ。それと、私はいもう・・・」
「失礼だよ、梯君。ヒバンナの妹さんなら将来有望じゃないか。それに、こういうタイプも結構需要が・・・」
「だ・か・ら!!!私は緋花の妹じゃ無ぇっつーの!!姉だっつーの!!これでも、2歳年上の16歳だっつーの!!」
「「「ハハハ、ご冗談を」」」
「く、く、くそぉ!!!緋花!!」
「は、はい!!」
「お前の口から説明してやれ!!」
「わ、わかった・・・。あ、荒我、梯君、武佐君。わ、私は妹なんだよ。朱花お姉ちゃんの」
「「「嘘だあああぁぁぁっっ!!!」」」
「テメェ等!!少しは現実を見ろおおおおぉぉぉっっ!!!」
「相変わらず、“しゅかん”は緋花の妹に思われちゃうんだね。何か、不憫・・・」
「ま、まぁ、緋花ちゃんって背も高いですしね。初めて会う人にはわからないのも仕方無いですよ」

時刻は午前10時前。ここ『マリンウォール』の玄関前に居るのは、荒我、梯、武佐、焔火姉妹、加賀美、葉原の7名。
彼等彼女等の手には、水着の入った袋や鞄等が握られていた。

「つーか、何で緋花の姉貴までここに居るんだ?確か、昨日の返信には3人だって・・・」
「え、え~と・・・」
「だって、緋花が日頃から親しく付き合ってる男性とプールに行くって聞いたからさ、姉である私が付いて行かないわけにはいかないでしょ?」
「「ブッ!!」」

朱花のトンデモ発言に揃って吹き出す荒我と焔火。

「・・・こりゃ、本気で気が合うのかもしれないわね。お姉ちゃん、何だか嬉しいのやら寂しいのやら・・・」
「お、おい!!お前、んなことを姉貴に言ったのかよ!!?」
「い、言うわけ無いでしょ!!お、お姉ちゃんもからかうのは止めてよ!!」
「からかいねぇ・・・でも、後ろに居る奴等は満更でも無い顔をしてるけど?」
「「なっ!?(クルッ!!)」」

朱花の言葉を受けて、これまたタイミングも一緒に後方へ視線を振り向ける荒我と焔火。

「荒我君・・・ガンバでやんす」
「荒我兄貴・・・素直じゃ無いんだから。昨日も、電話で直接言ったらってあれ程言ったのに、結局メールで伝えたからねぇ・・・」
「ゆかり・・・。あのリーゼント君が、緋花の・・・“コレ”?」
「・・・になるかもな人ですね。緋花ちゃん、最近は服装にも気を配るようになって来てましたし。それに、荒我君の話もよくするように・・・」
「ほらね?はぁ・・・最近の男女交際もスピード化してんのかもね・・・。何か、複雑・・・」
「「・・・・・・」」

開いた口が塞がらないとはこのことか。舎弟や親友、果ては先輩や姉までもが荒我と焔火の交際(恋愛的な意味)を嬉しそうに語っている。

「・・・緋花」
「・・・何よ」
「・・・何で、俺達がこんな羞恥プレイを受けなきゃなんねぇんだ?」
「・・・知らないわよ」

ガクッっと項垂れる荒我と焔火。だが、2人共にここで交際を否定しないのだから、心の底では自覚しつつあるのかもしれない。
荒我は焔火に、焔火は荒我に恋心を抱いているという事実を。

「まぁ、細かいことは気にせずにさっさとプールに突入しようよ、雅!!」
「そうだね。ここに何時までも居るってのはキツイものがあるし」
「そうですね・・・。それじゃあ、緋花ちゃん達も一緒に・・・ハッ!!!」
「どうしたでやんすか、ゆかりちゃん!?そんな大声を・・・ハッ!!!」
「梯君!?何を面食らったような反応を・・・ハッ!!!」
「利壱!?紫郎!?」
「ゆかりっち!?」

朱花と加賀美が『マリンウォール』の中へ入ろうと話し合っている中、突如として奇声を挙げた葉原・梯・武佐。
荒我と焔火は、三度同時に奇声を発した彼等彼女等が視線を向けている先に居る、ある“者達”へ瞳を向ける。それは・・・






「界刺よ!!俺達十二人委員会が再び結集する時が来たのだな!!!志道!!ゲコ太!!この瞬間に抱いた感情を、深く胸に刻み付けるのだ!!」
「了解!!何せ、美少女達とプールで戯れる機会を作ってくれたからな!!こころの奴は里帰りしてるし!!感謝の気持ちが溢れてくるぜ!!」
「拙者!!涙で前が見せませぬ!!界刺が十二人委員会へ入ったあの時を、一生忘れませぬ!!」
「そんじゃあ、久し振りにやるか!?『閃天動地』改め『閃劇』によるイルミネーションダンスを!!」
「「「おう!!!」」」
「「「「(絶賛ダンス中・・・)」」」」

まず、先頭に居るのは“変人集団”である界刺・啄・仲場・ゲコ太の4名。1人だけまともな格好をしているが、他は奇妙奇天烈としか言いようが無い。
ある1人は、カキ氷にわさびとからしがドレッシングされたような絵柄がデカく載っているピンク色のシャツを着用した、無駄にキラキラした男。
ある1人は、このクソ暑い真夏日であるにも関わらず黒いコートを見に纏い、腰に黒剣(模造品バージョン)を差した場違い感溢れる男。
ある1人は、何故かゲコ太マスクを顔に装着している言葉遣いが古臭い男。
そんな“変人集団”―啄言う所の十二人委員会―の面々が、妙に様になっているへんてこりんなダンスをしながら歩いていた。

「全く、人様の好奇な視線を集めてどうするんだ?しかも、提案者が最後に現れるとは・・・。
おかげで、啄達が何故現れたのかがサッパリわからなかったぞ。どう思う、水楯?形製?」
「・・・ノーコメントで」
「・・・水楯さんに同じく」
「ここには、色んな出店があるって聞くなぁ・・・。あぁ、楽しみ」
「界刺様!!他の方々も!!何と言うキラキラピカピカ・・・。ハァ・・・ハァ・・・」
「サニー!?涎がすごいことになってるよ!?」

中間に居るのは、界刺を除く『シンボル』組の不動・水楯・形製・仮屋・月ノ宮・春咲等6名。
不動・水楯・形製は、“変人集団”の行動に呆れて物が言えない状態である。
一方、月ノ宮はイルミネーションダンスに付随する多種多様の光にハァハァし、春咲がそれにツッコミを入れる。

「イルミネーションダンス・・・。初めて聞きましたわ。世の中には、まだまだ私の知らないことが一杯ありますね~」
「し、真珠院さん!!遠藤も同じです!!何だか、すっごく楽しそうですよね」
「界刺様には、色んなご友人が居られるんですね。・・・私も負けていられません!」
「へ~、この人が一厘の先輩?確かに、昨日一厘の横に居たけど・・・」
「そう。この人が、159支部のリーダーの破輩先輩。破輩先輩、彼女は同じ常盤台に通う苧環華憐って娘です。私の同級生です」
「そうなのか。私は破輩妃里嶺だ。よろしく」
「こちらこそ。苧環華憐です。よろしくお願いします」

後方に居るのは常盤台お嬢様集団+1。真珠院・遠藤・鬼ヶ原の3人が“変人”集団に対して感想を述べている傍らで、一厘が自身の先輩である破輩を苧環に紹介していた。
破輩が何故ここに居るかというと、昨日の時点で一厘に対して(男としての界刺について)根掘り葉掘り聞いていた折にプールの件を知ったからである。
以上、総勢16名にも及ぶ集団が『マリンウォール』へと足を運んでいたのである。そして、程なくして玄関前に到着した。

「おっ?誰かと思えばあらぎゃぎゃ君にヒバンナじゃないか?奇遇だね?」
「「んなわけあるかー!!!」」

未だに踊り続けている界刺の嘘っぱち発言に、揃ってツッコミを入れる荒我と焔火。

「テメェ!!昨日はあんなこと言っときながら、何でテメェまでここに来てんだよ!!」
「暑いから」
「ブッ!!あ、荒我から聞いたわよ!!あなたが私を遊びに誘うように荒我へ忠告したことを!!」
「うん。それが?」
「『それが?』って・・・」
「俺が、何で君達に遠慮しなきゃいけないんだい?というか、昨日は君達のせいで散々な目に合ったからね。
ここに来て、冷たいプールに入って涼みたいと考えるのはいけないことなの?」
「そ、それは・・・」
「それに、『マリンウォール』には一度行ってみたいと思っていたからね。そっちの舎弟君の口から名前が出たからさ、丁度いい機会だと思っただけさ。んふっ!」
「(ああ言えばこう言う・・・!!この人に言葉で勝つなんてこと自体が無理筋だわ!!)」

荒我と焔火は、口の減らない界刺に辟易する。おそらく、幾ら文句を付けてもこの“変人”は何度でも言い返して来るだろう。
昨日のことでそれを思い知ったが故に、これ以上の文句は時間の無駄だと判断する。

「まぁ、いいか。ここで出会ったのも何かの縁だし、一緒に行こうぜ」
「「へっ?」」
「鴉!!仲場!!ゲコ太!!行くぜ!!」
「「「おう!!!」」」
「「なっ!!?」」

荒我を仲場とゲコ太が、焔火を界刺と啄が担ぎ上げ、超特急で『マリンウォール』へと入って行く。
その後に、『シンボル』組や常盤台お嬢様集団も駆け足で入って行った。

「・・・よぅ、加賀美。葉原も。今日は、パーっと楽しもうな」

最後に、破輩が加賀美と葉原に声を掛けて、自身も『マリンウォール』へと足を踏み入れる。
そんな騒がし過ぎる状況に身を委ねていた彼等彼女等は・・・

「・・・騒がしい1日になりそうでやんすね」
「・・・だね」
「・・・あれが、噂の“変人”?」
「・・・そう」
「・・・後で確かめてみよっと(ボソッ)」

各々一言だけ呟いた後に、『マリンウォール』へと入って行った。






第7学区に去年新設されたばかりの大型プール施設である『マリンウォール』は、夏の暑さに苦しむ人間にとってのオアシス的憩いの場である。
午前9時から開業しているここには、朝早くだというのに既に大賑わいであった。そこに、まず突入したのは荒我・焔火・界刺・啄・仲場・ゲコ太の6名。
特に目立つのは、言わずとも知れた焔火のデカ過ぎる胸である。ちなみに、焔火は白色のビキニを着用している。

「(な、何ていうデカさ・・・!!やっぱ、緋花の胸ってスゲェ・・・!!)」
「前も思ったけど、君の胸って大きいね。サニーが、今でも君のことを羨ましがってるよ?『何を食べたらそんなに大きな胸に成長できるのか』ってさ?」
「(ブッ!!コイツ・・・何でそんなざっくばらんに言えるんだ!?)」
「そ、そうですか?べ、別に特別なものを食べているわけじゃ無いですよ?家では、いつもお姉ちゃんが作る料理を食べてますし」
「おぉ!!やはり、決め手は家族の手料理か!!俺も、何だか恋しくなって来たぞ!!ちなみに、家族が作る手料理の中で一番好きなのはモヤシ炒めだ!!」
「拙者は、肉じゃがでござる!!」
「俺は、オムレツ!!」
「俺は・・・カレーライスかな?ヒバンナは?」
「私は、お姉ちゃんが作るクリームシチューですね。
というか、あなたが“ヒバンナ”って連呼するから、色んな人に私の渾名が広まってるんですけど。サニーが付けた“ホムラっち”っていう渾名も一緒に」
「うん。いいことだ」
「何が、いいことよー!!」
「俺は“ホムラっち”がいいと思うぞ!!発音のリズム感がいい!!」
「拙者は“ヒバンナ”が好ましいと考えているでござる!!」
「俺は、どっちかって言うと“ホムラっち”がいいかな?」
「・・・荒我ぁ。どんどん広まっちゃってるよぉ・・・」
「し、心配すんな!!俺はどっちの渾名でも呼ばねぇからよ!!なっ!!」

瞬く間に広まっていく不名誉な渾名に、焔火は萎れる。そんな彼女を励ます荒我。やはり、良いコンビである。
とそこに、遅れていた他のメンバーも到着した。まずは、女性陣から着目しよう。否、女性陣にしか着目はしない。男の水着の説明なんて、読者も望んではいないだろう。

「・・・全員同じだね」
「し、仕方無いでしょ、バカ界刺!!常盤台は、そういうモンなの!!」
「違うのは胸の大きさくらいか・・・。(チラッチラッ)」
「な、何ですか、得世様!?」
「大きさ順で言うと・・・嬌看→バカ形製→遠藤ちゃん→リンリン→華憐→珊瑚ちゃん→サニーって感じかな?」
「・・・私よりサニー先輩の方が小さい・・・(グッ!)」
「うううぅぅ。うううううぅぅぅっっ!!!」
「・・・私が一厘より小さい?(ジ~)」
「苧環!?な、何ジロジロ見てんのよ!?」
「遠藤が、一厘様より胸が大きい?・・・何でしょう?この心に溢れてくる優越感みたいなものは・・・」
「遠藤さん・・・。女性は、やっぱり胸の大きさには気を向けるものなんですね。私なんか、肩が凝って何時も大変なのに・・・」
「「「「「「(ギロッ!!!)」」」」」」
「ビクッ!!?み、皆さんの視線が恐いです・・・」

常盤台に通う生徒は、こういう時でも校則で縛られているのか全員同じスクール水着である。
なので、個人差が出るとすれば、それはやはり体型である。胸とか。胸とか。特に胸とか。

「ここに涙簾ちゃんと桜、それに破輩を含めると・・・嬌看=破輩→バカ形製→遠藤ちゃん→リンリン→華憐=涙簾ちゃん=桜→珊瑚ちゃん→サニーって感じだね」
「・・・確かに、春咲さんと同じくらい。・・・えいっ(ムニュ)」
「ビクッ!?み、水楯さん!?こ、こんな所で胸を揉まないでよ!!」
「確かに、その悩みはわかるぞ。私も、事務仕事をしていると肩が凝ってな」

水楯と春咲は、何故かスクール水着であった。両者共、機会が無いのか自前の水着なんてものが無かったからである。
『マリンウォール』で水着を買うこともできるのだが、水楯は興味が無く、春咲は金を節約するために買わなかった。
一方、破輩は黒色のビキニを見に付けていた。そのセクシー感溢れる姿は、すれ違う男共の視線を一様に集める程であった。

「相変わらず、破輩先輩の胸はすごいね~。緋花と同じくらいあるもんねぇ」
「くそっ!くそっ!何で、私の胸は妹より小さいのよ!!しかも、雅やゆかりにも負けてるし!!くそっ!」
「お、落ち着いて下さい、朱花さん!」

加賀美は青色のワンピース型を、朱花はタンキニ型を、葉原は緑色のワンピース型をそれぞれ着用していた。

「やっぱり、緋花ちゃんの胸はすごいでやんす!」
「俺達の目に狂いは無かったね!」

梯と武佐が、焔火の水着姿を拝めたこの運命に心の底から感謝する。

「昼ご飯♪昼ご飯♪」
「仮屋・・・まだ、『マリンウォール』に入って15分程度だぞ?今から、昼飯のことを呟いてどうするんだ?」

泳ぎに来たのか食べに来たのか早速わからなくなっている仮屋に、不動が毎度のツッコミを入れる。

「よし!!では、今度俺達の手で家庭の味を再現し、食べ比べてみるというのはどうだ!?」
「師匠!拙者も賛成でござる!!」
「俺もだ!!絶対に負けないからな!!」

啄・ゲコ太・仲場が、今後の予定をさっさと決める。

「・・・何で浮き輪持参なんだよ?もしかして、泳げねぇのか?」
「いや。泳げるけど、これがあった方がのんびり浮いていられるから。君こそ、何でビート板持参なんだい?」
「これは、いざという時のお守りだ。昔俺が溺れそうになった時に、こいつが俺を助けてくれたんだ。それ以来、こういう場に来る時は何時も持ち歩いてんだよ!」

荒我と界刺が泳ぐ・泳げないの議論をぶつけ合う。そして、いよいよ・・・

「まぁ、いいや。そんじゃあ、皆!!せ~ので行くぜ?せ~の!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉっっ!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


界刺の号令の下、皆揃って勢い良くプールへ飛び込んだのである。

continue…?

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最終更新:2012年07月30日 22:22