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XX年二月十六日:
被験者収容室
『・・・夢を見る。それは朧げな記憶。現実感のない光景。されども確かに現実だった光景。』
???「・・・ごめんね。私じゃ貴方を幸せにはしてあげられない。
だから、悲しいけれどここでお別れ」
『そうだ。これは私が捨てられた時の記憶。目の前の女の人はきっと母親なのだろう。』
???「きっと、これから貴方は人一倍奇特な人生を辿るでしょう。
他でも無い私の娘なのだから。きっと苦しい目にいっぱい合うでしょう。」
『目の前の女の人は、悲しいような、哀れむようなそんな顔をしている。』
???「ああ、視歩。私の可愛い「悪魔」の娘。
いつかまた貴方と会える日を心から願うわ。
私と貴方の「運命の赤い糸」はいつでも繋がっているから・・・」
『夢が覚める感覚。・・・別に惜しむ必要もない。
どうせまた寝るたびに彼女の夢を見ることになるのだ。
例え夢の中でも、母親に会えるだけ私は幸せなのだろうか?
そんな他愛もないことを考えながら私は目覚める。』
ーーーーーとある科学の問題修復(チャイルドデバック)0章 2話ーーーーー
四方「・・・ぅん。あれ?またわたし寝てたのかな・・・。」
いままで何してたんだっけ?『記憶の海を探る・・・。』
・・・そうだ。「ひとおみ」だ。あの子に会って・・・、それから・・・。
四方「ああ、そうだ。遊ぼうと思ったらあの子も吹き飛んじゃったんだ。」
そのまま起き上がらなかったけど、大丈夫かな?
四方「うーん。大丈夫だよね。きっとまた遊びに来るに決まってるよね。」
『根拠は無いけど。そうと決まればいらない心配はやめてしまおう。』
四方「あーあ。またやっちゃったなぁ・・・。」
何をやっちゃったかといえば、ひとおみを吹っ飛ばしちゃった事だ。
つい昨日も周りの子達を吹っ飛ばしてしまったばかりなのに・・・。
『力の制御がうまく出来ていない。早いうちに修正しなければ。』
・・・まぁ、まだ出来るようになったばかりだもの。うまくいかないのも仕方ないよね。
四方「よし!それじゃー、練習しよう!」
そういって腕を振るう。すると、瞬く間に部屋の中は突風の吹き荒れる修羅場となった。
『・・・この部屋くらいの広さなら容易に範囲内に置けるみたい。
強さはそこそこ。子供くらいなら簡単に飛ばせるかな?』
・・・あれ?何か、さっきから知らない言葉を使っているような気がする・・・。
『まるで、意識と知識との間に齟齬があるような・・・。』
四方「あれ?『そご』って何?・・・ぅう、頭痛い・・・。なんか、眠く、なってきた・・・」
『意識が遠くなる・・・』
なんだか眠くてしかたない。寝て起きたら、この頭痛もよくなってるかな・・。
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XX年三月一日:被験者収容室
今日もまた、ボクはこの部屋へと来ていた。
人臣「四方。起きているかい?」
扉を開け声を掛ける。ここのところ、毎日のようにこの部屋を訪ねている。
四方「おきてるよー。いらっしゃい、ひとおみ。」
もはや慣れたことだが、ボクの来訪をこうまで歓迎するのは相変わらず不自然極まりない。
ボクは彼女を現在進行系で苦しめている人間なのだ。恨まれる事はあれど、気に入られる道理は無いのだが。
・・・まぁ、気に入られるのは別に構わない。利用も活用もしやすくなる。
気に入っているのはボクも同じ、ここまでの逸材はこれまでにない最高のおもちゃだ。
どれだけ苦労しようとも、必ず彼女の壊れる様を見届けたい。
人臣「さて、今日も君には実験を受けてもらう。だが、その前にいくつか聞きたいことがある。」
四方「いいよー。でも、じっけんは、うけたくないかなー。痛いし。苦しいし。」
やはり実験の事は苦痛と感じているらしい。
幼いが、彼女は頭がいい。その苦痛の原因がボクであることも理解しているだろう。
・・・やはり彼女のことは理解できない。理解しなければ、満足に壊す事も出来ないというのに。
人臣「では、一つ目だ。その力に目覚めた時の事を教えてほしい。」
質問を始める。これは発現した能力の『起源』を調べるためだ。
だが、ボクが本当に確かめたいのは「ソレ」ではない。
四方「・・・うーん。ここに来たばかりの頃、じっけんが苦しくてどうにかできないか、って想像してたの。
いろいろな想像をしたの。いろいろな想像をした末に『風が吹く』という想像をした。
そしたら、頭の中で起きていたことが現実に起きた。」
彼女は自分で気づいていないのだろうか。自分の喋っていることが幼子の知識を軽く超越していることに。
部屋に入った時は年相応な会話をしていたにも関わらず。
今の彼女と話して彼女が6歳の幼子である事を信じる者がどれだけいるのか。
そして、さらに不可解なこと。それは・・・
四方「うっ!あたま、いたい・・・。わたし、また変なことしゃべってたような・・・。」
そう。彼女は自分の発言の異常どころか、自分が喋っていた事すらもうまく認識出来ていない時がある。
そして、この症状に落ちるときはいつも決まって「頭が痛い」と訴えるのだ。
人臣「大丈夫かい?それにしても、突然いったいどうしたと言うんだ。」
四方「なんだか、わたしの知らないことばが勝手に口から出てきているみたいな・・・」
真っ先に思いついたのは「知識の埋め付け」だ。
知識だけを埋め込めばこのような不可解な発言や頭痛にも納得は行く。
だが、「置き去り」である彼女がこの研究所に来る以前にそんな研究を受けていたとは思えない。
あるとすれば、学園都市に捨てられる前だが・・・。学園都市外でそんな事ができる技術があるとは思えない。
人臣「キミは、この街に捨てられる前の事を覚えているかい?」
四方「おぼえてない。でも、夢をみるわ。」
夢?夢は過去の記憶を脳が整理しているものだ。夢の内容が分かれば、彼女の秘密も暴けるかもしれない。
四方「・・・おかあさん、なのかな?女の人が私に話しかけている夢。
悲しそうな顔で『私では貴方を幸せにできないから』って私に言うの。」
母親か・・・。こんな逸材をボクの前に置いていったその母親には感謝しなければなるまい。
人臣「その女の人は、君に何かをしなかったかい?」
四方「ううん。その夢以外の事は覚えてないし、夢の中では話をしただけだよ。」
謎は深まるばかりか・・・。だが、正直これに関しては確かめる術がない。
この事に関しての理解は不可能か・・・。
人臣「では、次の質問だ。」
・・・・・こうして、質問は続いていく。だが、この定例どうりの質問など、
こんなルーチンワークなど究極的には意味がない。いや、きっと「意味はあるけど、成果はない」
『暴走能力の意図的な発動』。この実験において成果と呼べるものは出ていない。
確かに能力の向上など、二次的な産物としての結果なら生まれた。それを評価する者もいた。
だが、しかし。そんな事は望んでいない。望むことはそんな事ではない。
いままでの被験者はボクの望む結末を齎しはしなかった。
彼女はどうだろう?根拠はないが、彼女ならば何かしらの進展を見せてくれそうな気がする。
科学者のボクが根拠もない直感を当てにするのも妙な話だが。
こうして彼女に対する能力開発とともに、彼女に対する研究は続いていった。
予見したとおり、彼女はすこぶる優秀な能力者であった。
能力そのものの優秀さは元より、なによりも優秀だったのはその頭の良さである。
状況を、物事を、相手の思考を理解する能力は他の追随を許さぬほどまでに天才的だった。
おそらくこれは彼女自身の才能だったのだろう。
そして、もう一つ。自分の能力を理解し活用する能力にも秀でていた。
・・・まるで、自分の能力の特性も出力も範囲も何もかもを最初から理解していたかのように。
彼女の秘密はますます深まるばかりだが、それによって何か問題が起きたわけでもなく、
「そういう子」なのだと無理やり納得することにした。・・・妥協とはボクらしくもないが。
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XX年一二月二四日:被験者収容室
ある話が持ち上がった。
彼女が高位能力者であることを知った「上」は、彼女を学園都市暗部における戦闘員へと動員する、
との意向を示した。それに合わせて、通常の実験に加えて戦闘の訓練がプログラムに加えられた。
・・・これはよろしくない。このままではおもちゃを取り上げられるも当然だ。
特に、今回ばかりはどうにか阻止しなければなるまい。ここまでの逸材、逃がしてたまるものか・・・!
ともかく、何か手を考えておかねばならないだろう。
それと・・・。
いままで実験を受け、ボクや研究員と会話し。能力や戦闘の訓練を受け、
知識を増やすための講習を受け、一人で遊び、寝る。
そんな決まったルーチンワークしか取らなかった彼女がある日こんな事を言いだしたのだ。
四方「・・・服が欲しい。」
人臣「―――は?」
正直絶句した。こんな状況下に置かれた状態でいきなり何を言い出すかと思えば。
服が欲しいと・・・。こんな研究者しかいないような場所でおしゃれをしたところでどうするのかと。
人臣「服。服か・・・。なんでまた、服なんて。いや、そんなことはどうでもいいか。」
そんなお願いを聞く道理は無いのだが・・・。気まぐれという奴だったのかも知れない。
人臣「ちなみに、どんな服が欲しいんだい?」
近くにいた研究員が「!?」みたいなリアクションをしているのが分かる。
自分だってどうかしてるとは思うが。
四方「パーカー。どうやっても破れないような丈夫な奴。・・・あと猫の耳。」
以外と注文が多かった。猫耳やパーカーは趣味として理解できるが、破れない、とはどういうことだろう。
人臣「因みに、なんで急にそんな事を?」
一応聞いておくことにする。なにか重大な理由がある可能性もあるかも・・・いや、ないだろうけども。
四方「だって・・・今日はクリスマスでしょう?」
・・・再び絶句した。予想の斜め上な理由だった。案外彼女は将来大物になるかもしれない。
―――少し後の話。彼女の部屋に猫耳のついた学園都市新素材のパーカーが置いてあったそうだ。
ただし、随分とブカブカなサイズだったが。
しばらく研究員の間では「人臣さんは猫好き」という噂が流れたとかどうとか―――
――――――とある科学の問題修復(チャイルドデバック)0章 2話 終わり―――――
最終更新:2013年06月01日 17:45