夏休みも終わりに近づく8月20日、今日は稜が非番の日だった。
二人は朝食を取っていた。
「ねぇ、稜」
「ん?」
「どこかに行こうよぉ」
「今日は無理」
「なんで!?わたしたちキス以来カップルらしいことしてないじゃん!」
そう、二人はあれから、カップルと言う関係になっていたが、未だに進展がなかった。
「んじゃ具体的になすんだ?」
「ぷ、プールに行くとか…」
「映倫の?」
「違うよ!!ここ!14学区にあるリゾートプール施設!!」
正美は携帯でリゾートプールのホームページを、稜に見せた。
「ああ、そこか…」
「しかも今ならカップルだと、普段の半額で入場ができるだって!」
正美は目を輝かせて稜に迫った。
「…」
「ねぇ…ダメ?」
正美は目を潤して、上目遣いで、稜を見つめた。
しかし…
「ダメ!」
あっさりと、稜はそんな彼女の戦法を撃沈させた。
「稜って、意外とドライなのね…」
「行かねぇって一言も言ってねぇだろ…まず土台からして、おまえ水着あんのか?」
「…ない…」
正美はしょんぼりと答えた。
「はぁ~…買いに行くぞ?」
「え?いいの?」
「行くんだろ?リゾートプールに…」
「うん!」
正美は満面の笑みで喜んでいた。
「その代わり皿洗い手伝えよ?…ん?待てよ?セブンスミストの開く時間が10時だとして、リゾートプールが開くのは?」
「10時半だよ?」
「分かった…今が8時半で…うん、間に合うな…」
「稜?」
「正美、こん中から欲しい水着を候補に上げて絞っておけ、その間に俺が皿とかを片付けておく」
稜は一瞬にして計画を立て終えていた。
「う、うん…(すごい、もう予定を立てちゃってるよ!)」
こうして二人は、リゾートプールへ向かった。
「うわぁ!!」
「デカッ!?」
二人は、その外装だけで、簡単を上げていた。
そして、開園時間になり、施設の自動ドアが開いた。
「それじゃあ、この合流地点で会おう」
「うん!」
稜と正美は、それぞれの更衣室に向かった。
数分後…
稜は、待ち合わせ場所で正美を待っていた。
稜の水着は、黒の生地にダークブルーのラインが入った大人しめのデザインで膝丈が少し長めの海パンだ。
「あ、稜!お待たせ!」
「おせぇぞ…」
「どうしたの?」
稜は正美の水着姿を見て固まった。
正美の水着は、薄黄色をしたビキニに、上半身はリボンが一つだけ付き、下半身はフリル付きのデザインだった。
しかし、それを着る正美自身も、身体つきのバランスがよく、肌も程よく白く、スタイルも同じ中学生モデル顔負けのスタイルで、道行く人が一瞬だが、振り返えっていた。
「…何でもねぇよ、とにかく泳ごうぜ?せっかくきたんだ、今日は思う存分遊ぶか!」
「うん!」
正美も喜びが抑えられないかのようにうなずいた。
「目標は、全プール制覇!!」
「マジ?…って引っ張るなぁ!」
こうして二人は流れるプールで泳いだり、人工波が出るプールで泳いだり、スライダーに乗ったりと昼になるまで休憩なしで泳いでいた。
「つかれたぁ…休憩の意味も込めて昼にするぞ?」
「う~ん、わたしもおなかペコペコ…」
「そりゃあんだけはしゃいだらな…売店でなんか買ってくるからそこのイスに座ってろ?」
「わかった!」
稜は急いで、売店へ向かった。
その間、イスに座って稜を待っている、正美の周りをガラの悪い4人の男たちが囲んだ。
「君可愛いね!どこの学校?」
「…映倫ですけど?…」
「マジ!?彼氏居んの?」
「今、お昼を買ってきてくれてるから…」
「へぇ~、でもそんなやつよりさぁ…俺らと遊ぼうよぉ…どうせ俺ら見たら逃げるようなやつだろぉ?」
男の一人が正美の方に自分の腕を置きながら正美にそう囁いた。
「!!」
「うわ!?」
正美は、怒りが爆発し、その男の肩を振り払うと、勢いよく立ち上がった。
「わたしの彼氏をバカにしないで!!!稜はあなたたちが思ってるほど!!弱くなんかないんだから!!!!」
「チェ!嘘つけ!!どうせヒョロヒョロのやさ男だろ?」
「なんで俺の女を囲んでんの?」
「「「「!?」」」」
男たちの後ろに、買ったものが入ってるビニール袋を持った稜が立っていた。
「稜!!」
正美は男たちを押しのけて稜の腕にしがみついた。
それを見た男の一人が、リーダー格の男をひじで突付いて耳打ちした。
「おい…こいつストレンジで
ブラックウィザードを、ボコッてた風紀委員のやつだぞ?」
「!?」
「ほい、これ持っとけよ?」
「うん!」
「で?誰が相手になるんだ?」
稜は威圧をかけるような目つきで男たちを睨んだ。
「「「「す、すいませんでした!!!」」」」
四人の男たちは今にも土下座しそうな勢いで謝ってどこかへと逃げていった。
「ったく…おまえなんもされてないよな!?」
「え?う、うん」
「よかったぁ…はぁ~…」
「まったく…見てるこっちもひやひやしたよ…」
「そうか…って、狐月!?なんでお前がここに?」
「待って!狐月ぅ!!って、稜!?」
「麻美!?」
「へぇ~…あんたたちくっついちゃったんだ~?どうりでインターフォン鳴らしても出ないわけねぇ?」
「そうだ、せっかくだから二人はそこで話していてくれ、こちらも神谷君に用があったからちょうどいい…風川さん、いいかい?」
「う、うん…」
「では行こうか、神谷君」
「お、おう…」
狐月は、稜とどこかに消えた。
「それで、あんたは稜のどこが、好きになったの?」
「なんだろ…初めて写真を見たときから、惚れちゃった」
「一目惚れね…まぁ、あいつはいいやつだし、あんたが嫌がることは、絶対にしないと思う」
「え?分かるの?そんなこと」
「うん!だって、あいつバカで、鈍感で、一途だから…一旦決めたことは諦めないし、挫折なんて、あたしが見た感じ、一回もしたことなんてなかったわよ?…だから、あんたはあいつを信じて大丈夫!」
「ありがとう!火川さん」
「麻美でいいわよ?あと!あいつに変なことされたら、すぐに相談しなさい?っと言っても、あいつはそんなことしないと思うけどね」
「うん!ありがとう!」
その頃、稜たちは…
「…そうか、やっぱり『彼女』はブラックウィザードと関係があったのか。」
「でも、あいつは被害者だ、だから、関係はあっても仲間ではなかったってことだ…」
「そうか…フッ、よっぽど彼女のことが好きなんだな?」
「!?」
「貴方はよく顔に出る、焦らなくても、貴方が彼女を大切にすれば、きっと彼女から笑顔が消えることはなく、幸せにすることができるだろう。」
狐月は言い終えると麻美の方をちら見した。
「狐月…お前麻美の事が好きだろ?」
「な!?」
「…(あ、こいつ分かりやすい)」
狐月は顔を真っ赤にしていた。
「じゃ、俺は正美ともう一泳ぎしてくるからその間にうまくやれよ?」
そう言って稜は正美の元へ行き、正美と二人で泳ぎに行った。
そして、そのまま麻美と狐月を置いてリゾートプールを後にした。
二人は夕日で照らされている道をゆっくりと手を繋いで歩いていた。
「今日は楽しかったね!」
「ああ、まぁな…」
「ねぇ」
「ん?」
「あの夕日がきれいな高台に行こう?」
「そうだな、行くか!」
二人は高台に向かった。
高台にて…
「きれいだな…」
「ここが学園都市でわたしが一番好きな場所だよ」
「そうか…正美…」
「ん?なぁに?…ん…」
稜は、正美にキスをした。
それは病室でしたときよりも長い時間だった。
「…病室でのお返しだ」
「ずるいよ…稜だけムードのいい場所でするなんて…」
「どうだかな?」
「もう…プッ、クスクス」
「何笑ってんだよ?ははは」
「そっちだって笑ってるじゃん!」
そんな二人の微笑ましい姿を、夕日が、やさしく見守るように、照らしていた。
END