行間1  木原一派


今は使われなくなってしまった廃ビルのある一室。

そこでバキィ!! バキィ!! と、何かが激しく殴りつけられるかの様な鈍い音が響きわたる。

「―――――ったくョ、オメー等なんでこんな早くに風紀委員にバレちまったんだ? あぁ!?」

死体の様にピクリともしない二人の男を容赦なく殴り続ける男、木原一善

彼は風輪学園の裏で動く不良達の頭の一人であり、ここは、その“木原一派”の隠れ家であった。

「あ………う、う……」

「だからョ……なんつってんのかわかんねーつってんだよ!!!」

一善は激昂すると、その男の腹部を思い切り蹴り飛ばす。

蹴りをいれられた男は悲鳴もあげずノーバウンドで壁まで吹っ飛ばされていった。

普通の者であればあまりの激痛にもがき苦しむだろうがその男からはそんな様子は一切伺えない

それは一善が手を抜いて蹴った訳でもなければ、その男が痛みを感じない体質という訳でもなく、ただ単に指先一つまともに動かせないくらいに感覚が麻痺していたのである。

(ひえーー、木原さんマジでキレてるな、こりゃ)

そんな光景を恐る恐る眺め見る少年、|中円良朝《なかまるよあさ》。

彼は女とも男ともとれる中性的な顔立ちと体型で、そのような者がこんな血生臭い場所にいるのは違和感しか感じられないが中円は木原一派の幹部の一人であり、ある程度の部下もいる立派な不良の一人だった。

(もし俺がヘマをしたら木原さんにあんな風に粛正されるのか……?)

中円はそう考えるとぞっとした。

今まで風紀委員の目を盗んで“集金”を行って来たというのに、あの二人が今日ばれてしまったせいで一善が考えていた今後の計画は全てパーになってしまったのだ。

自分達の存在が風紀委員に知れた以上、これから先は動き辛くなるのは、目に見えている。

(……けど、俺はあんなヘマは犯さないし、それに―――――)

中円は手に握っているシャー芯ケースのような物に目を移す。

(俺には……これがあるから)

「あーあーあー、これからどうするんだ? どっかのカス共のせいで大幅な計画の変更が必要だぞ、こりゃ」

一善は近くのイスにどっかりと腰を掛けると茶髪コーン・ロウの頭をガシガシと掻いた。

「木原さん、このことは|坂東将生《ばんどうまさみ》の方にも報告しときますか?」

中円がそう言うと、一善はめんどくさそうに言い捨てる。

「あぁ?? そんぐらい自分で考えられねーのか」

「す、すいません……」

一善の前で坂東の名前は禁句だったことを思い出す。

坂東将生、その男は一善と同じで不良グループの頭の一人で、木原一派とは別の坂東一派を形勢している。

この二つの一派は形こそ協力して“集金”を行っているが仲はあまり宜しくはなく、不良グループ全体をまとめている“ある者”がいなかったら今頃敵対し合ってたかもしれないのだ。

中円はボコボコにされた二人の男を指指すと。

「おい、お前等 今から坂東の所へ報告しに行くついでにそいつらも押しつけてきてくれ」

近くにいた三、四人の男達に運ばせるよう合図を送る。

はい、と男達は勇ましい返事と共に二人の男を外へ運び出していった。

「……なんのつもりだョ、中円」

中円の勝手な行動が気に食わなかったのか、ギロリとナイフの様に鋭い目つきで睨む一善。

「いえ、ああいう様に木原さんの計画の足を引っ張る様な奴等は俺達の一派にはいらないと思ってゴミ貯めの所に突っ込んできただけですよ」

あまりに当然の如く答える中円に一善は一瞬キョトンとすると

「ゴミ貯め……ハハ、ハハハハァ、ゴミ貯めかぁ、中円お前面白い事を言うなあ、ギャハハハハハハハハハハ!!!」

汚い笑いをする一善に表情を一ミリも崩さない中円。

「そうだョなぁ!! あんなカス共は俺のとこにはいらねぇ! 坂東のクソ野郎の所で充分だ」

中円が言ったゴミ貯めとは坂東一派の事だった。

しかしそれは中円の本心ではなく、あの二人の男を逃がす為に言った建前。

彼らがヘマをしてしまった以上、この先ここに留まるとしたら一善に何をされるかわかったもんではなく、下手をしたら廃人コース一直線だ。

だから過去にも木原一派から追い出された者を何人か引き取ってくれた坂東に頼るしかなかった。

(坂東さんサーセン……どうか、どうかあいつらを引き取ってやって下さい……)

一善の笑いが止むと室内には嫌な沈黙だけが待っていた。

「―――――ったく、そろそろ“あいつ”に連絡を入れとかねぇと駄目かぁ」

一善はそう呟くと、イスから立ち上る。

周りの部下達を押し退けながら出口の所まで進むと

「いいか、テメェ等は付いてくんじゃねーぞ」

そう吐きすてる様に言うと部屋から出ていった。

一善が部屋から立ち去ると周りの者はようやく解放されたことで安堵の声を上げ始めていた。

そんな中、中円は考える。

(あの木原さんが自分から連絡を入れにいくなんてことは滅多にないよな……)

そこから考えると、一善の言う“あいつ”とはこの不良グループ全てをまとめている者に違いない。

しかし中円程度の地位ではその者と会う事はできないので“あいつ”がどのような人物なのかはまったくわからなかった。

(あの木原さんの上をいく存在か……いったいどんな奴なんだろうか…)

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最終更新:2011年12月19日 00:04