卒業式が間近に迫るある日の176支部にて…
「あー!!もう!!!ぜんっぜん!片付かない!!」
「仕方ないですよ。どこかの誰かさんが片付を怠っていたんですから。」
「なによ!もう…ん?あれ?これなんだったかしら?」
雅たち、176支部のメンバーは、支部の大掃除をしている。
そんな中、雅は一本のUSBを手に取った。
「…このUSBって確か…」
「中身見れば分るだろ?」
いらない始末書の整理をし終えた稜が、会話に入ってきた。
「葉原」
「分りました」
ゆかりは、データの処理を終わらせ、USBの中身をチェックした。
それは、レポートだった。
「これは…」
「あ~…『あのとき』の…」
「夏休みのときだったよな?『あれ』は」
稜と狐月は『あの時』のことを、しみじみと思い出していた。
日時は少々遡り、夏休み中のことだった…
その日の夏休みは、乱雑開放(ポルターガイスト)が多発していたときの事だった。
大規模な対策ブリーフィングの後の帰り道にて…
「う~ん…妙よねぇ…」
「何がですか?」
「RSPK症候群による能力の暴走が干渉しあって乱雑開放を引き起こすって…ほとんど例を見ない話よね?」
「!!…言われてみれば、確かにそうですね。」
「…となると、AIM拡散力場が関わってるんじゃねぇのか?」
「え?なんですか?稜先輩」
「幻想御手事件、覚えてるか?」
「覚えていますよ!!あんな最悪な事件忘れることなんてできませんよ!」
「それも結局、AIM拡散力場の干渉で能力を補ってたわけだろ?」
「!?…まさか、RSPK症候群とAIM拡散力場に関係が?」
「…仮説だけどな?」
「ん!?だったら、なんでそのことをテレスティーナ教授は俺らに黙ってたんすか?」
「さぁな?ただ単に、『くだらない都市伝説の処理をしろ』ってことだろ?」
「うぅ!歯痒い!!」
こうして数日がたったある日のことだった。
176支部にて…
「だめだ!!さっぱり見当がつかなねぇ!」
稜たちは、あれから、RSPK症候群とAIM拡散力場の関係性を調査していたのだった。
「ネットに転がっている情報はこれくらいですし…落ち着いてください!」
「手詰まりって感じね?」
「直接本人に聞きに行けば良いかと…」
「そうすっか…狐月」
「なぜ真っ先に私を?」
「…なんとなく」
「狐月が行くなら、安心して稜にも任せられるわね?」
「う…わかりました…(はぁ~…)」
そして二人はMARの拠点に向かった。
「ここか…」
「では行くか。」
しかし…
「「!?」」
二人が見た光景は、目の前に駆動鎧と白衣の男性が倒れているという壮絶な現場だった。
「これは…」
「シャレになってねぇぞ…?」
すると稜は、常盤台の制服を身に着けた、二人の女子生徒を見かけた。
二人のうちセミロングで黒髪の方の常盤台生が、ショートヘアーの常盤台生に膝枕をしていた。
「?…あなた方は、どちらの狼藉ですの?」
黒髪の常盤台生は、稜たちに気付き、声を掛けてきた。
「あ~、えぇっと…176支部の者だ、ちょっと分け合ってここに来たんだが…」
稜は、ボロボロで気絶をして、膝枕をされている、ショートヘアーの常盤台生をちらりと見た。
「よっぽどのことがあったんだろ?」
「ええ」
「腕の良い医者を紹介するから、狐月」
「タクシーを手配すれば良いのだろう?」
「ああ、頼む」
数10分後…
「ありがとうございます」
「いいから、ほら行った行った」
タクシーは、とある病院に向かって出発した。
「さ・て・と…じゃあ、行きますか。」
「ああ」
二人は施設内に入ると、その中は、ガランとなっていた。
「なんだ?…蛻の殻じゃねぇか…」
「とにかくこうなったら、テレスティーナさんの仕事部屋に向かえば。」
「なんか分るかもな?付属研究室の所長だろ?」
「ええ!」
二人は、研究室へと向かった。
「…ここまで進んできたけど…ここ、電気は流れてる…けど…」
「ええ、監視カメラもセキュリティも機能していない。不自然すぎるな。」
「だろ?まるでここはもう用なしって感じだな?」
そして二人は、所長室に入ると、物色し始めた。
「あったか?」
「関連性の資料は見つからない。」
「そっか…ん?なんだ?このUSBは…」
「そこにパソコンがある。調べてはどうだ?」
「だな」
稜は、近くにあったパソコンを起動させ、USBを差し込んだ。
「レポート?なんのだ?」
そのレポートにはこう書いてあった。
『能力体結晶レポート
筆者:テレスティーナ=木原=ライフライン』
「木原?ミドルネームか?」
「続けるぞ」
『 私(わたくし)テレスティーナ=木原=ライフラインは、祖父、木原幻生の意思を継ぎ、能力体結晶を完成させることに成功した。
これを使用すれば、学園都市念願のLevel6=神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くものを確立できるであろう。』
「…木原」
「えげつねぇな…」
『 木原幻生は面白いものを残してくれていた。それは、すでに試作品を実験投与してあり、昏睡状態で能力暴走を引き起こすことができる、数人のチャイルドエラーの子供たちだ。子供たちの能力が暴走そうすれば、個々の能力が、同じ系統の能力者と共鳴しあい、レベル6を生み出す。だがそれは学園都市の崩壊も意味するが気には留めない。
しかし、その子供たちの消息がつかめないでいた。ありとあらゆる病院に散らばっていたのだったからだ。
だが状況は変わった。風紀委員第177支部の少女たちと、木山春生の活躍で
被験者となったチャイルドエラーの子供たちを全員見つけることができた。
レポートの続きは、実験成功後に書くであろう。そのときは、良い結果であることを期待している。』
レポートはそこで終わっている。
「マジかよ…」
「しかし、このことにも、177支部が関わっていたとは、抜け目がない。」
「これって簡単に言えば、無許可での人体実験って事だよな?」
「犯罪、ということになりますね。」
「なんでこんなものをここに置きっぱなしで出て行くんだ?」
「失敗はない又は、侵入者など来ないと踏んでいたのだろう。だからこそ警戒が手薄になっていたんだ。」
「ま、MARに進入する物好きなんているなんて、向こうも考えないだろうがな」
「ところで神谷君。」
「あ?」
「外が騒がしくなっているが。」
「嘘だろ?」
『常盤台の生徒2名がいないぞ!』
『監視を怠るなと言ったろ!!』
「やべぇぞこれ捕まっちまうぞ」
「裏口かなんか…!?」
しばらく部屋を見回すと、避難経路と見られる、裏口が存在していた。
「なんだ、この安っぽいRPGみたいな展開は」
「贅沢も言ってられない!とにかく出るぞ。」
「ああ!」
二人は裏口から外へ経抜け出した。
「はぁ~…あぶなかったぁ」
「神谷君…」
「ん?」
「その手にあるのは?」
狐月は、恐る恐る、稜に聞いた。
「え?あ!?」
稜の手にあったのは、テレスティーナのUSBだった。
「おわったぁ…」
二人は恐る恐る支部へと戻って行った。
現在にて…
「…確かにあったわねぇ…」
「結局あの後、ゆかりちゃんが別のUSBにコピーして、『たまたま手に入った』風を装ったんですよね?」
「…だったな…」
こうして、思い出に浸りながら、全員は176支部の大掃除をし終えた。
END