苧環はイラついていた。
独力ではどうしようも無く、他人を当てにしなければならない今の状況に。
自身の領域に土足で足を踏み入れた者達への掣肘を独力で行使するだけでは、全てを解決出来ないであろう未来予測に。
それは、かつて自身が味わった、見えない“壁”を思い出させるかのように苧環の前に聳え立つ。

「(形製は言った。『この2人に任せてみれば』と。あいつなら・・・あの男なら解決できるとでも言うの?
私1人ではどうすることもできない今の状況を・・・未来さえも変えることができるとでも?・・・)」

認めなければならないのか?『また』?『あの時のように』?自問自答を繰り返す苧環。



そんな、頭の中で色んなものが渦巻く苧環に、どこからともなく1匹のハエが近寄ってきたのである。





「だ~~る~~ま」
「(と、とにかくこんなゲーム、早く終わらせてしまえば何の問題無いんだ!こうなったら、何が何でも勝ってみせる!!)」

初瀬はここに至って考えを改める。ようは、風紀委員組が颯爽と勝利してしまえば何の問題もないのだ。
勝利してしまえば苧環達を危険な目に合わせることもないし、『シンボル』や荒我達不良組が関わることも無い。

「~~~さ~んが・・・・こ~ろん」
「(何せこっちには今日買ったばかりのスマートフォンがあるんだ!!俺のお守りよ、どうか風紀委員に勝利の栄冠を!!)」

思わず今日買ったばかりのスマートフォンをポケットから取り出す初瀬。
常のように首にぶら下げてはいなかった赤色のそれは夕日に照らされ、さながら初瀬に光の祝福を贈っているようだ。
それを目に留め、押花の号令が終わる瞬間を迎える筈だった。・・・が

「鬱陶しい!!!!!」


ビリビリバチバチ!!!!!


「うわっ!!!」

ハエに気を散らされた苧環が、勢い余って強烈な電撃を放ったのだ。哀れハエは一瞬で消し炭となる。そして、

「お・・お・・俺のスマートフォンが!!!今日買ったばかりの俺のスマートフォンがビリビリにいぃー!!!」
「だ!!!初瀬OUTっす!!」
「俺のお守りがー!!!」

苧環が放った電撃は、初瀬のスマートフォンも巻き添えにしたのである。
初瀬本人は、条件反射的にスマートフォンに電撃が届く寸前に手を離したので事なき終えたのだが、初瀬にとっては一大事に変わりない。
結局は錯乱気味になっている初瀬を、進行の邪魔として寒村が排除する。ご愁傷様、初瀬。

「苧環様・・・。私を助けようとしてくれたあの方のスマートフォン・・・」
「あ~、後で弁償するわ。ちょっとイライラし過ぎてたみたい。彼には謝罪もしないとね」
「イライラって・・・。大丈夫、苧環?何か気になっていることでも?」
「気遣いは無用よ、一厘。・・・まあ、イラつく一端は目の前にあるけどね」
「目の前って・・・あのチャラ男のこと?」
「・・・いえ、違うわ。一厘・・・あなた、ちょっとこの男子校の風紀委員に毒されてはいないかしら?」
「へっ?な、何で私が毒されないといけないの?私は至って正常よ!!」
「なら質問するわ。一厘!あの茶髪で彫りも深い男は、何故号令の度に一々服を脱いでいくの?」
「・・・・・・・・・私にもわかんない」

苧環達の近くでピタリと静止している茶髪で彫りも深い男―勇路はすでに上半身裸状態になっていた。
彼は両腕を天空に向けて、下半身はアキレス腱伸ばしの格好で、その上に微笑を浮かべたキメ顔でポーズを取っていた。
その体に付いている逞しい筋肉には汗の玉が幾つも吹き出ており、夕日を浴びて光ってさえいる。

「ハァハァ。筋肉から滴り落ちる汗の玉が光ってて、まるで真珠みたい。ハァハァ」
「・・・月ノ宮。あなたは少し限度というのを覚えた方がいいのかもしれないわね」

月ノ宮にツッコミを入れる苧環。そんな苧環に視線を送る男が1人。

「(くそっ。何であの女は勇路に意味ありげな視線を送っている!?筋肉か?筋肉がいいのか!?くそっ、くそっ!
勇路の巨体に隠れて押花に近づく作戦だったが、これじゃあ全然目立てねえ!!こうなったらリスクを冒してでも行くしかねえ!!)」

男―椎倉は焦っていた。狙いの少女が、目の前の筋肉男に意味深な視線を送っていたからである。
椎倉の能力『真意解釈』を使えば、すぐにでも苧環の真意はわかる筈だが椎倉は使わない。否、使おうとしない。冷静さを失っているのだ。
それ程までに成瀬台―男子校というのは女に飢えているのか。そこに押花の号令が掛かる。

「いきまーす!!だるまさ~~ん~」
「(行くしかねえ!!ここで華麗に押花にタッチして、俺の魅力をあの女に見せ付けてやる!!負けねえぞ!!勇路!!)」
「(僕の身体能力なら、すぐに押花君に触ってゲームを終了させることができるけど・・・そんなことをしたらつまらない。
こんな機会は中々無いし・・・彼女達には僕の筋肉美を存分に楽しんでもらわないと)」

椎倉が勇路に対抗心を燃やす中、勇路本人は目を瞑って自分の世界に入ってしまっていた。
そんな勇路を尻目に、号令が終わるまでに勇路の後ろから飛び出そうとする椎倉。その時、


ピカー!!!


「な!!?目が!!目があああ!!!」

突如グラウンドを覆った閃光。飛び出した瞬間だった椎倉は閃光によりバランスを崩し、転んでしまった。

「が転んだ!!あ!椎倉先輩OUTっす!!」

この一瞬の閃光が齎した被害を受けなかったのは目を瞑っていた押花、勇路とサングラスを掛けていた餅川の3人。
被害を受けながらも何とか静止したのは荒我、梯、武佐の3人。椎倉・寒村及び女性陣は、まともに閃光を喰らってしまった。

「うおおおおお!!」
「キャッ!!」
「目がー!!苧環様ー!!どこですか!?」
「くっ!!月ノ宮・・・!!」
「(目が・・・!!これは界刺の『光学装飾』?)」

寒村や女性陣が目を瞑る中、形製は一時的に視力を失った状態で考えを巡らせる。
こんな真似ができるのは、この場においては界刺しかいない。少しばかり時が過ぎ、ようやく視力が回復していく者達。すると・・・

「あれ?界刺様がいない?」

月ノ宮が呟いたように、閃光の発信源である界刺の姿が忽然と消失していた。
押花や他の男達も周りを見渡すが、どこにも彼の姿が見当たらない。

「・・・成程。あの男は確か光学系能力者。さっきの閃光もあの男の仕業。ならば・・・」
「・・・不可視状態に身を置いたってこと?」
「その通りよ、一厘。これで界刺は誰の目にも映らない。
人間が外部の情報を得るために使用する感覚の大部分を視力に頼っている以上、これは相当なアドバンテージよ」
「(・・・逃げないよな、バカ界刺?)」

苧環と一厘が状況を分析しているのを他所に、面倒臭がりの界刺がゲームを放棄しないか危惧する形製。
そんな彼女達の耳に突如大音量の叫び声が突き刺さる。

「えええぇぇぇ!!?そ、そんなの嫌だよおおぉぉ!!!界刺様ああぁぁぁー!!!」

絶叫に近い大声に思わず耳を塞ぐ苧環、一厘、形製が目にしたのは涙目になりながら、自分の目に映らない男へ嘆願している月ノ宮の姿だった。

「界刺様のキラキラピカピカが見えないなんて嫌だよおおぉぉぉ!!悲しいよおおぉぉぉ!!泣いちゃうよおおぉぉぉ!!
どうか姿を見せて下さいよおおぉぉぉ!!!界刺様ああぁぁぁー!!!う、う、うええぇぇんー!!!」
「つ、月ノ宮!お、落ち着いて」

遂には泣き出してしまう月ノ宮を何とか宥めようとする苧環だったが、月ノ宮は一向に泣き止まない。その様子に呼応するかのように、

「(あ~あ。泣かした。俺知らね)」
「(女の子を泣かすなんて最低でやんす)」
「(全く・・・。女の子の扱いがなってないね)」
「(ハハハ、泣かしてやんの。いい気味だ!)」
「(男の風上にも置けないっす!界刺先輩!)」
「(ふ~、女心がわかっていないな、界刺君は)」

未だ生き残っている男子からの非難の視線が、今は姿が見えない男に突き刺さる。そして・・・


ス~


「・・・・・・・・・・・・」
「あ、こんな所にいた」

何故か月ノ宮と同じように涙目になっている界刺が、不可視状態を解いて姿を現した。
もちろん、能力でキラキラピカピカ光りながら。

「か、界刺様ああぁぁー!!わ、私、信じていましたよおおぉぉ!!!
界刺様なら、私のお願いを聞いて下さるって!!!キラキラピカピカ光って下さるって!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「「「「「「「「「「(恐るべし!!光マニア!!!)」」」」」」」」」」

そんなこんなで、ゲームは終盤へ突入するのであった。


OUT組:速見、不動、初瀬、椎倉
IN組:勇路、荒我、梯、武佐、界刺、餅川



…うん?OUT組の描写はどうしたって?フン、敗者にはSSで描写される資格なぞ存在しない!!!(注:ゲーム内のお話です)

continue!!

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最終更新:2012年04月18日 20:55