重徳の指示を受け、廃墟の外側にて監視している者達と連絡交換のために走っている部下達・・・走っているその筈だったのだが、

「くそっ、ここはどこだ!?」
「もしかしなくても・・・迷っちまってんのか?ここは俺達のアジトだぞ!?くそっ!」

どうやら彼等は自身の焦りや暗闇の覆われた時間帯ということもあって、道に迷ってしまっているようだ。

「とりあえず、どっか高い所に行こう!!そこからなら」
「そうだな!」

高所からなら自分達の位置や仲間の位置も確認できると判断した彼等は、付近の廃墟に入る。

「お、おい!しっかりしろ!チッ、駄目だ!全員気を失っていやがる・・・」
「こりゃ酷ぇ・・・」

その廃墟には、彼等スキルアウトの仲間達が幾人も倒れていた。目立った外傷は無いものの、意識が無い。これは、敵の襲撃を受けた何よりの証拠である。

「と、とりあえず、まだ近くに敵が潜んでいるかもしれねぇから気を付けろよ!」
「あ、ああ!」

敵が近くにいないか気を配りながら階段を駆け上がる部下達。とそこに・・・

「あ~、はいはい。わかってるって。後で仮屋様にはたんまりご馳走しないといけないってことだろ?・・・金が無くなるなあ」
「「!!」」

聞き慣れない声が部下達の耳に聞こえてくる。どうやら、この声の主は誰かと携帯電話で何事かを話し合っているようだ。

「・・・涙簾ちゃんは今回の件についてはこれ以上関わらせるつもりはねぇよ。あくまで俺等の不始末なんだし」
「(おい・・・)」
「(わかってる。音を立てずに近付いて・・・一気にぶち殺す!)」

声の主は自分達の接近には気付いていない。そう判断した彼等は慎重且つ迅速に声の在り処に近付いて行く。

「はぁ~。筋肉痛で体のあちこちが痛ぇ。こんなのさっさと終わらして帰りてぇよ」

いよいよ声の在り処―廃墟内の一室―付近に到着した部下達。息を整える。タイミングを見計らう。そして・・・

「うおおおおおおお!!!」
「テメェが終わりだよ!!!」

開けっ放しの入り口から一気に突入、銃口を室内にいる声の主に向けて発砲しようとする部下達。しかし、

「へっ!?」
「なっ!?・・・誰もいない?」

室内には誰の姿も見当たらなかったのである。確かにこの部屋から声が聞こえたのに。まさか、感付かれて逃げられたか?
部下達は警戒しながらも、もぬけの殻状態の部屋に敵の正体に繋がる手掛かりがないかと思い、物色し始めた・・・その時、


ドス!!


「ぐあっ!」
「!?お、おい!?」


2人いる内の1人が奇声をあげて気絶したのである。すぐに駆け付けるもう1人の部下。そこに声が掛けられる。

「大丈夫。気絶してるだけだよ」
「なっ!?テメェ・・・何時の間に!?」

突如姿を現したのは携帯電話を片手に持った、無駄にキラキラした碧髪の男だった。
その光から、部下は今までこの男の存在に気付けなかった理由を推測する。

「・・・能力で俺達の目に映らないようにしていやがったな!ってことはテメェが『シンボル』の変人か!?」
「ガクッ!!変人って・・・。失礼な奴だな、君」
「うるせぇ!!テメェはここで死・・・うおわっ!!?」

仲間に危害を加えた男―界刺―に向けて銃を向ける部下。しかし、引き鉄を引く前に彼の鼻先に光が向けられる。正確には、“光の剣”が。

「『閃光剣<エクスカリバー>』」
「へっ?エク・・・」
「『閃光剣<エクスカリバー>』。ようは光の速度を持った剣ってこと。名前は適当に付けただけだけど。
で、どうするよ?君が引き鉄を引く速さと光速・・・どっちが速いと思う?」
「・・・!!」

部下は混乱の極みにあった。光速に勝る速度なんて無い。もし、自分が引き鉄を引こうとすれば、こいつは・・・

「お、俺を殺すってのか!?風紀委員でも無い奴が!」
「風紀委員が人を殺すかどうかは知らないけど・・・人は何時かは死ぬもんさ」
「なっ!?」
「君達はオイタが過ぎたんだよ。暴力に身を委ね過ぎた。だから、世界に淘汰される。
世界の一部・・・人間の手によって。死なんてのは、その『結果』の1つでしか無い」
「・・・!!」
「んふっ。だから・・・潰すよ?」
「く・・・くそったれ!!」

胡散臭い笑みを浮かべる界刺の死の宣告に自暴自棄になる部下。もはや理性なんてものは存在しない。
己に死神の鎌を向ける敵を消すために、銃の引き金を引こうとする。


ピカー!!


「ぐわっ!?グハッ!!」


次の瞬間、『閃光剣』から閃光が煌き、思わず身を竦める部下。その隙に『閃光剣』の中身―警棒―を首にぶち込み、意識を奪う界刺。

「・・・普通の光にさ、人をぶった斬るような破壊力があるわけ無いだろ?な、真刺?」
「・・・相変わらず人を騙すのがうまいな。詐欺師の才能でもあるんじゃないか、お前?」

携帯電話の相手は界刺の仲間である不動。彼は己が親友の清々しい程の嘘吐きっぷりに呆れているようだ。

「詐欺師って・・・ちょっと酷くねぇ?敵を思考停止にするのは戦闘の常套手段だろ?」
「・・・確かに」

『閃光剣』などと大層な名前を付けたのも、殊更死という『結果』を強調したのも、全ては敵を思考の迷路に陥れる策略の1つ。

「そもそもさ、俺の持つ光の能力ってのは相手を騙してナンボの代物だ。戦場で生き残るためには何でもしねえと」
「正論だが、タチが悪いな。・・・お前と形製、どこか気が合うのもわかる気がするな」
「はぁ?気が合う?冗談だろ!?俺をあんな奴と一緒にすんじゃ無ぇよ!」

憤慨する界刺。それを軽く受け流す不動は、今後について界刺と打ち合わせを始める。

「まあ、そんなことはどうでもいい。他の状況も気になる頃合いだ。お前もサボっている暇があるなら、さっさと己の役割を遂行しろ」
「サボってなんかいねぇよ。つーか、俺ってばすんごく働いてるんですけどー」

不動の容赦無いツッコミに抗議する界刺。彼は、この戦場において全てを把握する立ち位置にあった。つまり、

  • 廃墟に降り立った時点でサーモグラフィによる感知範囲内にいる全ての人間の位置や動向を把握する。
  • 同時に、外部に張っているスキルアウトと内部との意思疎通を阻害するために可視光線を操作し“風景の迷宮”を構築、
暗闇をも利用することで、自分達のアジト故に連絡経路を熟知しているスキルアウト達を迷いに迷わせる(但し、仲間達がいる付近には構築していない)。
  • 加えて、上空で監視している“2人”の姿も映らなくさせる。界刺の能力範囲外の動きは“2人”が監視する手筈になっている。
  • 自身は不可視状態に身を置き、遭遇するスキルアウトを無力化する。

これらのことを、界刺は同時・並列的に行っているのだ。

「スキルアウトの連中が連絡手段に携帯電話を使うことは、盗聴も警戒して自粛する筈。そうなれば“迷宮”に迷い込みやすい。
仮に盗聴の危険性を度外視して使ったとしても、風景自体が偽装されている以上、正確な情報は伝わらないという2段構えの作戦だったが・・・。
どうやらうまく嵌ったようだ。・・・さすが形製の策は隙が無いな」
「あの筋肉コンビの位置や俺達が降り立ったビル・・・大通りはこの廃墟の中心部分だからなあ。
大人数で包囲して袋叩きっていう敵さんの出方や、俺の能力範囲も見越した上で講じたんだろうな・・・。あ~恐っ」

今更ながら自分達の参謀の策略に戦慄の念を禁じ得ない2人。そこに、自分達の参謀を怒らせた敵への些細な同情も加える。
とそんな時、不動が内心気になっていたある疑問を口にする。

「得世。形製から話は聞いたが・・・やはりあの女を同行させたくは無かったのか?」
「あの?・・・あ~、あのお嬢さんの保護者?え~と、苧環って言ったっけ?」
「ああ、その女だ」
「う~ん。本音を言えば、俺は同行してもしなくてもどっちでも良かったかな?」
「ほう?何故だ?」
「同行するもしないも、結局は苧環の判断だし。彼女が『同行する』と本気で決断していれば、そこに俺が口を挟むつもりは無かったよ。
ただ・・・もし同行していれば、彼女は現実に押し潰されていたかもしれないけどね」
「現実?」
「うん、現実。自分1人だけの力じゃどうしようも無い現実に。
例えば、俺の能力だって結局は騙し騙しの能力に過ぎないんだし。俺1人じゃ戦場を収めるなんてことは不可能に決まってるじゃん。
まあ俺の場合、そういう時は真刺や涙簾ちゃん、仮屋様にバカ形製の力を借りるし、任せるし、頼る。今回なら風紀委員や不良連中の力も。
でも、彼女・・・苧環はそんなことを決断することもままならない。なまじ高い戦闘力を持っているからだろうね。
だから、自分で何でも解決しようとするし、他人に任せたく無い。・・・矜持(プライド)だろうな、ありゃ。派閥の長ってのも関係してそうだけど」
「・・・ふむ」

界刺の的確であろう推測に納得する不動。

「だから、彼女を止めたんだよ。もし『今の』苧環を戦場に出したら・・・死ぬ可能性は高い。ま、もしそうなっても自業自得だけどね」
「冷たいな。女にモテたいんじゃなかったのか?」
「それとこれとは別でしょ?人間死ぬ時はあっけなく死ぬモンさ。俺やお前も例外じゃ無いぜ?それが戦場なら尚更な」

自分の命さえ軽視していると取られかねない発言を平然と口にする界刺にため息をつく不動。
この男のこういう考え方は最初に出会った頃と何ら変わらない。時々その特異な思考に“恐怖”を感じることもあるが。

「まあいい。とりあえず私達は雑魚掃除に専念するぞ。風紀委員達が動きやすいよう彼等の支援に努める。
椎倉先輩が警備員を引き連れてやって来る想定時間までにはまだ結構あるぞ、得世!」
「はいはい。それじゃあ筋肉痛に苦しむ俺達を裏方に回してくれた風紀委員様やアホ形製に感謝しながらコソコソ励みますかね。お嬢様の仕返し分も乗っけて」

界刺の軽口を耳にしながら携帯電話を切る不動。丁度そこに、

「テ、テメェ!!聞いてんのかよ!?この化け物がぁ!!」
「うおおお!!って、うわっ!!な、何だこりゃ!?」

スキルアウト達―不動の言う所の雑魚―がいた、あるいは突っ込んで来た・・・が、彼等はその手にある銃を不動に向けようとしない。何故なら・・・

「ああ、すまん。先程まで電話中だったのでな。貴様等の存在に気付いてはいたのだが、電話中に余計な雑音を耳に入れたくは無かったのだ」

それは、スキルアウト達の視線の先にある光景。
血塗れになっている仲間達が幾重にも積み重なったその頂に平然と座っている眼鏡男―不動―から発している威圧感に呑まれてしまったからである。

「筋肉痛が酷くてな。思ったように体が動かんし、制御もうまくできなくてな。・・・加減が少々効かん。もっと精進せねば」

スキルアウト達に目を向けずに独り言のようにブツブツと言葉を漏らす不動。
その態度に腹を立てたスキルアウトの1人が、体の震えを無視して銃弾を不動にぶち込もうとする。しかし、

「テメェ!!舐めてんじゃ・・・」


ドゴーン!!!


「ヒィッ!!」
「こんな風に・・・な。どうだ?血塗れになって伏しているこいつ等のようになりたいか?
それとも、このビルそのものを破壊して建物の下敷きにでもなってみるか?」


今まさに発砲しようとしたスキルアウトの顔の横を、不動が繰り出した衝撃波が貫通する。コンクリートで出来た壁すらも一撃で破壊するその威力。
不動の能力『拳闘空力』によるものである一撃と言葉に思わず腰を抜かすスキルアウト。他の者達も恐怖で歯をガタガタ言わせている。

「(ふむ。確かに得世の言う通り、敵を思考停止にする手段として脅しは有効だな。・・・私も奴にならって脅しのテクニックでも磨くか?)」

そんなスキルアウト達の惨状を他所に1人自分の世界に入ろうとする不動だが、途中で思考を中断する。

「(っと。今はそれどころでは無いな)。よし!目の前のことに集中する!!」

その「集中」という言葉が、その場にいるスキルアウト全員に死の宣告にも似た発言に受け取られたのは無理からぬことである。
人間の“山”から降りた不動が、ここに至って初めてスキルアウト達に視線を向けて宣言を行う。

「さて・・・これより制圧行動を再開する!!先程も言ったように、今の私は加減がうまくできん!!・・・五体満足で終われると思うなよ!!」


改めての宣告をスキルアウト達が脳で理解した瞬間、次々に吹っ飛ぶ彼等が意識を手放す前に目にしたのは、猛獣の如き男の暴虐であった。

continue!!

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最終更新:2012年04月16日 19:56